出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2   作:SS_TAKERU

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お楽しみいただければ幸いです。


第37話:雉も鳴かずば撃たれまい

出久side

 

 深夜まで及んだ話し合いで、クラス全員の役割も無事決定。僕達は翌日の放課後から文化祭当日(ほんばん)に向け、練習や準備に取り掛かった。

 

「ライブで演奏する曲は、全5曲! 1ヶ月でモノにする為、練習あるのみ!」

「心操君はまず、正しいフォームと適度な力加減で楽譜通りに叩けるようになろう。アレンジを加えるのはそれからだね」

「わかった。フォームが乱れたら遠慮なく言ってくれ」

 

 バンド隊…改めAバンドは、本番で演奏する曲を繰り返し弾き続け―

 

「飯田硬ーい! 全部ガチガチじゃなくて、しなやかなところはしなやかに! メリハリつけていこー!」

「メリハリか! 善処しよう!」

 

 ダンス隊は芦戸さんをリーダーに、振り付けの習得に励む。

 

「なるほど! そりゃ良いアイディア! ダンス隊に打診してみようぜ」

「待てよ、でもそうなると人手が足りねぇぞ」

 

 轟君達演出隊も活発な議論を行っているみたいだ。

 

 

 夕食の後も、僕達はそれぞれに練習へ励んでいた訳だけど…

 

「それじゃあ皆、今日の練習はここまでにしよう!」

 

 22時を少し過ぎたあたりで、今日の練習は終了となった。漂っていた緊張感が一気に緩み―

 

「皆、お疲れー!」

「振り付け良い感じだよー!」

 

 雑談に興じながら、後片付けを進めていく。

 

「窓の外では秋の虫。窓の内では腹の虫……皆、小腹が空いたんで夜食作ろうと思うんだが…喰うか?」

 

 雷鳥兄ちゃんが皆にそう問いかけたのは、その時だ。

 

「「「「「喰う!」」」」」

「夜食か…良いね」

「夜食食べたーい!」

「食べたーい!」

 

 問いかけに男子は全員、女子は耳郎さんと芦戸さん、葉隠さんが即答。

 

「ケロケロ、私も頂こうかしら」

「私も私も!」

 

 僕達の練習を楽しそうに見学し続け、そのままソファーで眠ってしまった壊理ちゃんを部屋のベッドへと連れて行っていた梅雨ちゃんと麗日さんも夜食を希望。

 

「夜食…21時以降の食事は控えているのですが…」

 

 そう言って迷っていた八百万さんも―

 

「ヤオモモ、たまにはイイじゃん。吸阪が何作るか知らないけど、間違いなく美味しいんだよ。深夜に食べる美食。それは正に罪の味!」

「明日日曜だし、いつもより少し多めに動けば辻褄合わせられるって!」

「…そう、ですね。では、私もお付き合いさせていただきますわ」

 

 芦戸さんと葉隠さんの説得(ゆうわく)によって、覚悟を決めたみたいだ。

 

「よし、じゃあちゃちゃと作ってくるから、少し待ってな」

 

 そう言ってキッチンへ入っていく雷鳥兄ちゃん。僕や麗日さん達も手伝おうとしたけど―

 

「簡単な物だから、俺1人で十分だよ」

 

 そう言われてしまった。仕方ない、大人しく待つ事にしよう。 

 

 

雷鳥side

 

「さて、まずは湯を沸かして…と」

 

 手伝いを名乗り出てくれた出久達を制し、1人キッチンに入った俺は、まず寸胴で湯を沸かし始めた。いつもだったら水から沸かすが、今回は時短の為に湯沸かし器のお湯を使う。

 

「なめ茸、ツナ缶、海苔にネギ」

 

 湯を沸かしている間に、常備菜として定期的に作っているなめ茸、ツナ缶、焼き海苔、小ネギを用意。

 ボウルになめ茸とツナ缶をオイルごと入れてよく混ぜ合わせ、焼き海苔は刻み海苔に、小ネギは小口切りにしておく。

 

「おっ、沸いたか」

 

 寸胴の湯が沸いたところで、夏に使いきれず余っていた素麺を投入して茹で上げていく。本来なら1人前2束が適量だが、夜食なので2人で3束くらいにしておこう。

 

「………今!」

 

 茹で始めて2分。最適な茹で加減になった素麺を笊にあげ、お湯で洗ってから水気を切り、ボウルへと投入。

 なめ茸とツナが素麺全体に行き渡るよう混ぜ合わせた後皿に盛り、刻み海苔とネギを散らせば、『なめ茸とツナの和え麺』の完成だ。

 

 

「美味い!」

「美味しーい!」

 

 完成した夜食は好評。皆喜んで食べてくれたのだが…

 

「うん、重すぎず軽すぎず、夜食としては最適だわ。強いて不満をあげるなら、大盛りで食べたかったわね」

 

 何故、ミッドナイト先生も夜食を食べているのでしょうか?

 

「文化祭前は、皆夜遅くまで練習や準備をするでしょう? 教師勢(わたしたち)も万が一に備えて、独自にシフトを組んで見回りをしているの。それで、今日の担当が私だったという訳」

「いやぁ、()()()()この時間にA組の様子を見に来たら、()()()()夜食を食べるところだったから、ご馳走になったわ」

 

 ………左様ですか。

 

 

梅雨side

 

 翌日の日曜日。練習が午後からという事もあって、私と吸阪ちゃんは朝ごはんの後、壊理ちゃんをお散歩に連れ出したわ。

 1-A(私達)と一緒に暮らす事で、大分外の世界にも慣れてきた壊理ちゃんだけど、これまで長い間()()()()()()()()()()()()だけに、人が大勢いるような環境にはまだまだ不慣れ。

 だからこそ、文化祭までに少しでも慣らしておこうというのが、私達や先生方の共通認識ね。

 

「そこの釘取って」

「あーちょっと、そこビラ貼んないで」

 

 校内のあちこちで、色々な作業が行われている中をゆっくりと進んでいると―

 

「はい、ここでストップ」

 

 物陰から大きなドラゴンの頭が飛び出してきたわ。吸阪ちゃんが察知して、止めてくれなかったらぶつかっていたかもしれないわね。

 それにしても良く出来ているわね。何かの舞台に使う大道具かしら?

 

「すいません! って、吸阪と蛙吹か!」

 

 ぶつかりそうになったのを謝ってきたのは、B組の泡瀬ちゃん。そして…

 

「アレアレアレー!? こんなところで油売ってるなんて、余裕ですかあァァ!?」

 

 物間ちゃんは、私達を煽ってくる…いつもの光景ね。

 

「壊理ちゃん、大丈夫かしら? 平気?」

「びっくりした」

「オヤオヤ無視かい!? いいのかい!?」

「ライブ的なことをするんだってね!? いいのかなァ!? 今回ハッキリ言って君達より僕らB組の方がすごいんだが!?」

「『ロミオとジュリエットとアズカバンの囚人~王の帰還~』B組(ボクら)の完全オリジナル脚本、超スペクタクルファンタジー演劇!!」

「準備しといた方がいいよ! B組(ボクら)に喰われて涙する、その時の為のハンカチをね!!」

「あれは何?」

「あれは出店だね。何かゲームをするみたいだね」

「ゲーム」

「多分、輪投げゲームか射的あたりだと思うわ」

 

 壊理ちゃんの質問に答えている間も、何かを喚いていたけれど…ごめんなさい、聞いていなかったわ。

 

「クッ、最初から眼中に無しって態度だね。本当に、腹立たしいなぁ……ところで、その女の子は誰なのかなぁ? 今年の文化祭は、生徒以外だとごく一部の関係者しか参加出来ないんだけど!」

「この子は壊理ちゃんだ。話は聞いているだろう?」

「………あぁ! 君と緑谷君が保護したっていう女の子か! まったく! 君達A組は、いつでもどこでも厄か―」

 

 吸阪ちゃんの右手が物間ちゃんの顔面を鷲掴みにするのと同時に、私は壊理ちゃんの耳を塞ぎながら、素早く距離を取ったわ。吸阪ちゃん、()()()()()()()()()

 

 

雷鳥side

 

「おい、物間……」

 

 物間の顔面にアイアンクローを決め、全力で締め上げながら、俺は努めて冷静に言葉を紡いでいく。

 

「お前らが、先生達からどんな説明を受けているかは知らん。だがな、壊理ちゃんは凶悪(ヴィラン)に囚われて、長い間心身共に酷い虐待を受けていた犯罪被害者だ」

「そんな壊理ちゃんを泣かせたり、心の傷を抉るような真似をしてみろ…()()()()()()()()()()()()()()()

「ゆっくり時間をかけて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、言動には十分に気を付けるんだな…」

Do I make myself clear(いい加減理解出来たよな)? 返事はハイかYESしか受け付けんから、よく考えろ…わかったな?」

「ハ、ハイ……」

 

 蚊の鳴くような声で返事をした物間から手を離し、ゆっくりと息を吐いていく。

 

「す、吸阪…ホ、ホントに悪かった。俺が止めなくちゃいけなかったのに!」

「気にするな。いつまで経っても学習しないこの馬鹿が悪い」

 

 慌てて頭を下げてくる泡瀬にそう返し、その場を去ろうとすると―

 

「最近、()()()()()()()()()()()()()()()…歯止めが効かなくなりつつあるんだよ」

 

 泡瀬のそんな呟きが聞こえてきた。

 

「……あぁ、鉄哲と拳藤は()()()()()()()()()()な」

 

 1-A(おれたち)が仮免試験を受けたあの日、B組も別会場で仮免許取得試験を受験。()()()()()()()()()()し、鉄哲と拳藤だけが不合格となった。

 2人とも林間合宿におけるあの一件で、大きく崩した調子を立て直しきれないまま試験に臨み、一次試験は突破出来たものの、二次試験では『初動の遅さ』や『主体性の無さ』『判断の遅さ』などで大きく点数を下げたのが災いしたらしいが…

 

「でも、仮免補講が受けられるって事は、まだ希望はあるんだろう? だったら、諦めずに頑張れ…そう伝えておいてくれ」

 

 こうなった以上、俺がどうこう出来る事じゃない。泡瀬にそう言い残し、俺は梅雨ちゃん、壊理ちゃんと合流。お散歩を再開した。

 

 

 その後俺達はサポート科へ顔を出し、メリッサさんと…ついでに発目へ壊理ちゃんを紹介。

 発目の発明が爆発を起こすというトラブルに遭遇しつつも、壊理ちゃんに新しい友達を作る事が出来た。

 

「壊理ちゃん、あちこち見てきたけど…どうだった?」

 

 その後休憩の為立ち寄った大食堂で、リンゴジュースを美味しそうに飲む壊理ちゃんに感想を聞いてみると…

 

「うん…たくさん、いろんな人ががんばってて、どんなふうになるのかな…って、思った」

 

 期待以上の感想を聞く事が出来た。うむ。

 

「人はそれをワクワクさんと呼ぶのさ」

 

 そこへ聞こえてくる聞き覚えのある声。視線を走らせてみると、そこには―

 

「根津校長!! ミッドナイト先生!!」

 

 ブランチ中の根津校長とミッドナイト先生の姿があった。というか、根津校長…凄い勢いでチーズ食ってるな…。

 

「文化祭、私もワクワクするのさ!」

「多くの生徒が、最高の催しになるよう励み、楽しみ…楽しませようとしている!」

「警察からも色々ありましたからねぇ」

「ちょっと香山くん」

「じゃ! 私は先に行ってるよ。君達! 文化祭存分に楽しんでくれたまえ」

 

 食事を終えると、そう言い残して去っていく根津校長。あの口ぶり、何か含みを感じるな。

 

「……まぁ詳しくは言わないけど、校長頑張ったみたいよ。上と揉めてその結果、セキュリティの更なる強化。そして、万が一警報が鳴った場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が開催条件になったの」

「厳しいわね…」

「もちろん、そうならない為にこちらも警備はしっかりするわ! 学校近辺にハウンドドッグを放つし」

「放つのね…」

 

 ミッドナイト先生と梅雨ちゃんの会話を聞きながら、俺は何とも言えない感覚を味わっていた。何かを思い出せそうで思い出せない…文化祭絡みで何か事件が起きていたような…

 

「それじゃあ、A組も出し物頑張って! 期待しているわよ!」

 

 そう言って去っていくミッドナイト先生に一礼した直後―

 

「………あ」

 

 俺は文化祭当日に何が起きるかを思い出した。

 

「吸阪ちゃん、どうしたの?」

「あぁ、ちょっと野暮用を思い出したんだ」

 

 さて、これはどう動くべきか…じっくり考えないといけないな。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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