町田春輝がいるそこは、今までに見た事ない様な白い空間だった。角が見えず自分が立っている場所すら分からない。彼はそれが夢である事がすぐに分かった。そして、この空間にいると言う事は、また彼が来ると思った。
町田の予想通り、その彼はジワジワと現れた。その人物が誰かは分からない。顔がボヤけていて分からない。会った覚えもない。唯一分かるのは男であるという事だけだ。いつもなら、町田を見つめてから去っているのだが、今日は違った。初めて口を開いた。
「早く、会いたい…」
そこで、目が覚めた。
彼の目には、ジョーカーの屋上からの景色と残暑が和らいだ10月の空が映った。
「寝てたのか…」腕時計の時刻を見ると丁度昼休みが半分を切ろうととしていた。
「ここに居たのか…春輝。」
その時、起きたばかりの彼に声を掛けたのは黒羽風香だった。
「風香さん…」町田はベンチから立ち上がり外を見ている彼女の隣に立った。
「残暑もだいぶなくなったな。それでもまだ昼間は暑いけど。」黒羽が言う。
「そうですね…そろそろ一年が終わるって感じが段々と感じて来ます。」
黒羽は、タイミングを見計らって口を開いた。
「春輝は、だいぶ前にこう言っていたよね。ここにいるのは『復讐』の為だって。それって、どう言う意味?」
その言葉を聞いた町田は、そういえば彼女に話していた事を思い出した。
「…今は言えません。ただ、僕が復讐したい人物は貴方の案外すぐ側にいる人物ですよ。」
「…そうか。」
「勘違いしないで貰いたいのは、復讐が1番の目的ではないんです。もちろん、風香さんに憧れてここにいるというのも嘘ではありません。」
「じゃあ、何故ここに?」黒羽は町田の方を向いた。
「…僕には、会わなければならない人が居るんです。」
「へぇ…それは誰?」
「…分かりません。ただ、夢で時々見るんです。顔は見えないんですけど。だからこうして戦っていくうちに会えるんじゃないかと思って。」
町田は遠くを見つめていた。その先に居るのではと錯覚して。
「そっか、会えるといいね。」黒羽は笑顔で答えた。
「そういえば、さっきちらっと私に憧れてって言ったけど、そもそもどこで私を…フォースを知ったの?」彼女は疑問に思ったことをそのまま口にした。
「実は、5年くらい前に貴女に助けられたんです。DCに襲われそうになっていたところを、フォースが倒して…」
そうだ、思い出した。彼女は、そう心の中で言った。
まだフォースになってから2、3ヶ月くらいの頃、彼らしき人物を助けた覚えがあった。言われてみれば町田だったと思った。
「そうか…あの時の少年は春輝だったのか…」
「その時は、ただ単純にカッコいいって思っていたんです。それから、ジョーカーに入りたいって思って…」
その時、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。本当はもっと話したい事があった。黒羽風香なら自分のことを理解してくれると…そう思っていた。が、それも途中で終わってしまった。
その日の帰り、いつものように駅に向かって歩いていた。
彼の脳内には、ふと父親の事が思い浮かんだ。彼は町の小さな工場を経営していた。町田はいつも一生懸命に働いている姿を見て自分もそういう大人になりたいと考えていた。
そんな町工場に、変わった人物がやって来ていることに気がついたのは6年前だった。
最初は、新しく起業した人か誰かからの紹介で来たのだと思った。しかし、話を聞いている感じそのようなものではなかった。どちらかと言えば友人というのが相応しかった。
「今日も来たのか…」その日も父はその人を招き入れていた。茶を出し、その人は飲んだ。町田は、いつもその人とどんな会話をしているのだろうかと聞き耳を立てた。
「今日も相談があって来たんだ。『例』の件で。」
「…白夜、俺にそんな重大な物を見せていいのか?」
白夜…町田はこの時、父が誰と話しているのかが分かってしまった…分かりたくなかった。白夜と言えば、あの惨劇を引き起こした白夜総三ではないかと…
「頼む、私には町田の力が必要なんだ。」
「…分かった。」
「そんな…」憧れだった父は、そんな人物の頼みを簡単に受け入れてしまった。そんな…いいのか?母を奪ったあの人物の頼みを簡単に…
やはり、蛙の子は蛙とは言い当て妙というやつだ。
あの男からはそれだけの子しか生まれないと。
僕が復讐したいのは、あの家族だと。
母を奪い、目の前で父の命まで奪ったアイツらを…
僕は、あの男を社長の座から突き落とし、相応しい人物を社長に…リーダーに添える。それが誰かは分からない。だが、その為には復讐する必要があると言うだけはわかった。
「春輝…僕はそれを応援している。」
「…えっ?」
その時、あの夢で見た人物と同じ声がした。そして、辺りを見回すと、彼の方を見て立っている男が居るのが分かった。
顔もはっきりと見えた。
その顔は紛れもなく、自分自身が一番よく知っている人物の顔だった。
「…同じ、顔?」
その人物は、優しく笑うと人混みの中へと幻のように消えてしまった。
やはりこうして立ってみると、改めて自分の目の前の出来事に驚いている。
自分の頬から何か生暖かいものか流れていく、それが涙である事はすぐに分かった。