その日の昼間に差し掛かった頃、黒羽の携帯に電話がかかってきた。
『悪いが、今日のことはお前に任せる。』
病院に運び、ひと段落ついた康介は、黒羽風香に託すと連絡した。
「分かりました。お大事にして下さいと伝えてください。」労いの言葉をかけ、彼女は電話を切った。
「どうしたんですか?」そこはへ丁度通りかかった燕堂大誓と逢坂有希が心配そうに見た。
「…一美さんが、倒れたそうだ。」彼女の言葉に2人は驚愕した。
「そうなんですか!」逢坂が言う。
「…これは一部の人間しか知らない話だから口外無用で頼むが…」黒羽は、2人に顔を近づけた。
「実は、ドゥムズディの戦いの後遺症で、もう長くは持たないと聞いた。」小声で話し始めた。
「えっ…」逢坂は、ドゥムズディ戦について思い出した。ドゥムズディの攻撃を受け倒れている彼女の姿は、今でも脳裏から離れない。
そうか…その時の傷が…彼女は、あの時の無力さを思い出した。
その頃、アルカディアのアジトには、多摩路秋夜のほか、町田春輝と2人の男女がいた。
「紹介しよう。彼が
「初めまして。」紅輝が若々しい声で言う。
「…ネメシス様に認められている程の実力を見せて貰おうかしら。」萌葱は、棘のある言い方で返した。
「善処はする。」町田はそれだけ答えた。
「…それで2人を集めたのは、春輝を援護してもらうためだ。」3人を横目に、多摩路は話し始めた。
「援護…ですか?」萌葱が聞く。
「そうだ。場所はジョーカーから比較的近い、若者の集まるショッピングモールだ。そこを襲撃する。」町田は襲撃という言葉に一瞬正気かという目を向けた。
「へぇ、そんな所へ襲撃してどうするんですか?」紅輝が聞く。
「政治が変わらない原因の一つ、遊び呆けている馬鹿を始末する。」多摩路は淡々と答える。
「早速始める。それと、2人には新型のマシンを用意してある。有効に使ってくれ。」
「ありがとうございます。」多摩路の計らいに萌葱は礼を述べた。
「じゃ、ちょっくら行ってきますよ。吉報、期待していて下さい。」紅輝は、まるでピクニックに行くかのような声で返した。
3人は、部屋を後にした。
雨の日であっても、室内であるショッピングモールは人が多かった。その殆どが若者で、今流行りのファッションをしてみたり、気になるスイーツを食べたり、ゲーセンで一日中ずっと居座っていたり…遊ぶことにしか余念がない彼らは、自分達の平和が脅かされているという事実に目も向けていなかった。
あるカフェのテラス席に座る少女達は、ふと雨の降る外を眺めた。
「ねえ、今度……」友達が何かを話し始めたが、外から聞こえるヘリコプターの様な轟音で何を言っているのか聞こえなかった。
「何?聞こえない!」そう返したが、友人も聞いている気がしなかった。
すると、その友人が窓の外を指さした。
窓の外には、空想の世界にしか出てこないようなホバーバイクがこちらを向いてホバリングしていた。
それに搭乗していたのは、萌葱が変身した緑の戦士ホルコスだった。新型のマシン『Pegasus』を完璧に乗りこなしていた。
「ミッション・スタート」
ホルコスは、掃射開始ボタンを押した。そして、カフェの中にいる人々に乱射を始めた。
当然目の前にいた少女達はもちろん、店内にいた人間の殆どが鮮血共に倒れていく。
窓ガラスが粉々に砕け散り散乱していた店内にホルコスは潜入する。
「ホルコス、店内に侵入した。」
「了解、こちらも入るとしますか。」
一方、外で待っていたのは紅輝が変身した赤い戦士ディスノミアと彼が乗るバイク『Unicorn』、そして町田が変身したフューチャだ。その後ろには、バイクに乗っている配下達がいた。
「フューチャ、見張りを頼むぞ。」
ディスノミアは配下を連れ、バイクを走らせ始めた。
その頃、店内ではカフェの襲撃で混乱に陥っていた。その様子を見ていた人、何も知らない人。それらが合わさりパニックに陥っていた。そして、襲撃から逃げようと出入り口に殺到したその時、正面からバイクの集団が店内に一斉に侵入してきた。
バイクは人を何人も轢いたにも関わらず、進み続ける。
先導するディスノミアは、三叉の槍を構え、バイクから降りた。
「社会に対して無益な諸君、これより掃除を始める。逃げるなよ。」
その背後には、薙刀を持ったホルコスの姿もあった。どちらの武器もこれまた赤黒く輝いていた。
その情報は既にジョーカーに届いており、フォース達ライダーもまた出動していた。
『全隊員は現場に到着後、直ちに一般市民を保護し敵を倒せ。』
フォースに変身した黒羽は、そう指示を出した。数台の移送車とバイクがショッピングモールへ到着したのは発生から10分後の事である。
「行け!」フォースの声で移送者からトルーパーとライダー達が一斉に飛び出す。
その正面に立ち塞がったのはフューチャに変身した町田だった。
隊員達は意外な相手に足を止める。その先頭に立つフォースと蘭舞もそれは同じだった。
「春輝、そこで何をしている!」フォースが問う。
「…僕はあなた達とは戦わない。」
「今、あの中で何が起こっているのか分かっているのか!」
「…僕は、兄の真意を知りたいんです。」フューチャは、剣を握りしめた。
「私達はいく。総員出撃!」フォース達は、戦う意思のないフューチャを横目に中へと走っていった。
しかし、蘭舞だけはフューチャを見つめたまま動かない。
「あなたは、自分が何をしようとしているのか分かってるの?」
落ち着いた口調で蘭舞は聞いた。
「…今言ったことが全てだ。」兄について知りたい、ただそれだけだ。
「…それなら、人が死んでも構わないの?」痛いところを疲れたフューチャは動揺を見せた。
「私には、あなたがそこまで私の家族を憎む理由が分からない。総三さんは、あなたが思うような人じゃなかった。」彼女は、自分の考えを彼に伝えた。
「…だとしても、僕は自分の家族を奪った奴らは許せない。」彼は考えを変える気はなかった。
「…これ以上、あなたを野放しにすることはできない。私が倒す。」
蘭舞は槍を構え交戦の態勢を取った。
「…やるからには本気でやる。」
フューチャも剣を構えた。
2人は、雄叫びと共に武器を振りかざす。同じ時代に生まれた戦士の戦いが始まった。
「ジョーカーだ、武器を捨て投降しろ!」フォース達は内部に潜入した。
そこでは、ディスノミアとホルコスが配下とともに待っていた。周りには、倒れ生き絶えた人達が転がっていた。
「ここまでやっておいて、省みないのか?」アーサーが聞く。
「これも全て、あの人が望む理想の為だ。省みる必要などない。」ディスノミアが答える。
「お前達はネメシス様の理想に必要ない。ここで倒す!」ホルコスが薙刀を構えた。
「これ以上話し合えそうにもないな。」火縄は言った。
「全員、倒せ!」フォースの声と共にジョーカーは攻撃を開始する。
ディスノミアはフォース、ホルコスはアーサーと火縄に攻撃を仕掛ける。
ホープは、まだ息のある人たちに対して回復を始めた。
フォースは、ディスノミアの三叉の槍をクローバークロッサーで薙ぎ払った。そして、左拳で攻撃を仕掛ける。ディスノミアはこれを後方に回避することで防ぎ、態勢を立て直す。
ホルコスは、火縄に対して薙刀を突き出す。火縄は薙刀を持った。攻撃を逆手に利用して敵の動きを止めたのだ。そこへアーサーが剣を振り下ろす。意図に気づいたホルコスは薙刀を離しアーサーの装甲のない部分に拳を打ち付ける。そして、再び薙刀を持ち火縄を振り払った。
雨が忙しなく降る外では、フューチャと蘭舞が互いの正義を振りかざしていた。
フューチャは、剣を突き出し蘭舞に攻撃を仕掛ける。彼女は、剣の持ち手を槍で弾き、その勢いで崩れたフューチャに膝蹴りを見舞う。
今度は、蘭舞が槍をフューチャ向け突き出した。彼は、ジャンプすると槍の上に着地。蘭舞の胸部に蹴りを見舞った。
その勢いで距離が離れた2人。その間も攻撃の手を休めることなく、武器を銃と弓に変えて攻撃を仕掛ける。
フューチャの連続的に出る球は、蘭舞の装甲に傷をつける。逆に蘭舞の一撃の重みが違う矢もフューチャの装甲を貫く。
2人はしばらく連射し合った。そしてついに蘭舞が攻撃の手を緩めた。しかし、それはフューチャも同じだった。互いに地面に膝をつき、地面に打ち付けられる雨粒を眺めた。
「次で…終わりにしよう。」フューチャがそう言う。
「ええ、それも本気の一撃を。」蘭舞はそれに答えた。
[ゲネシスライダーキック!][蹴撃乱舞!]
雨の降る方向に逆らい2人は空へ飛んだ。そして、赤と青の閃光が現れた。それら互いに近づき、そして凄まじい衝撃と共にぶつかり合う。
窓ガラスが割れるほどのその衝撃は、一瞬だったが、何十秒もかかったかのように感じた。
地面に降り立った2人は、互いにそのまま倒れ、変身が解けた。
2人は、痛む体を起き上がらせ、互いを見た。
「春輝、戻ってきてくれ…」逢坂は、そう言った。町田は、意外な言葉に耳を疑った。そして、それに応えようと彼女に近づこうという素振りを見せた。しかし…
「…今はできない。」そう告げると、身体を無理矢理動かしてその場を後にした。彼女は、それを必死に追いかけようとしたが、意識が朦朧とし、そのまま倒れた。
「…ここは?」町田は気がつくと、暗い空間にいた。どうやらその後、意識が途切れ、倒れたようだ。それをヨークが回収して治療したのだろう。
彼が見ていたパソコンには、ウォーズとワードを除くジョーカーのライダーの図と、アルゴスをはじめとしたアルカディアの戦士が交互に並んでいた。
「アルカディアの戦士は皆、ジョーカーのライダーを元に作られている。例えば、先程君と行動していたディスノミアはローディ、ホルコスはエレクス。フューチャと対応しているのはエリスだね。」
そう話し始めたのはヨークだった。
「何故、ジョーカーのライダーを盗んだ?」町田は素直に疑問をぶつけた。
「ジョーカーに対する
ヨークは、出会った頃のような軽率な雰囲気で話した。
「…兄さんはどこに?」町田は起き上がりヨークに聞いた。
「…我が主人は、いつもの場所にいる。」
いつもの場所、それは一種の儀式の間のようなところだ。陽の光が入ってこない。白熱電球の灯り一つで照らしている部屋だ。そこで作戦会議が行われる。
彼は、その部屋にノックし、入っていった。
「目が覚めたのか、1週間も寝ていたのだから心配したんだぞ。」入って早々、多摩路が喜びの声で言った。
1週間、もうそんなに立っていたのか…そう町田は驚いた。
「兄さん、話がある。」
2人は、それぞれ椅子を用意して対面で座った。
「僕は、この1ヶ月近く、どうするべきか考えていた。」
「何を?」
「僕の居場所はどこなのだろうかって…」町田は自分の胸の内を話し始めたの。
「確かに、母さんの命を奪う原因を作り、父さんの命を見捨てたジョーカーは憎い、復讐をしたい。」
その言葉に笑顔を見せた。
「でも、その為に罪のない人を犠牲にする事なんてできない。」
「それは何故だい?」多摩路は険しい顔で聞く。
「…僕の理想は、誰もが笑顔で暮らせる世界を創りたい。国境も、文化も越えてあらゆる人が楽しく過ごせる…そんな世界にしたいんだ。その為に、誰かを犠牲にすることは間違ってる…だから、僕はアルカディアにはもう居られない。」
多摩路は、そうかと言った後、しばらく考え込んだ。そして、何か考えついたのか口を開いた。
「俺は、春輝が思うがままに生きて欲しいと思っている、唯一の肉親として。だからこそ、追ったり、裏切り者として始末しようとしたりはしない。だが、裏切り者のレッテルが貼られているお前はジョーカーに戻れるのか?」
「…怖いよ。何を言われるか分からない。だけど、今の僕はジョーカーに居場所を作りたい。」
「分かった。春輝、君の門出を祝おう、そして、次に会う時は戦場で、敵として…」町田も分かっている辛い事実を多摩路は落ち着いた口調で告げた。
「さようなら。」町田はそう言って席を外した。
「ううっ…ここは?」同じ頃、逢坂も1週間の眠りから覚めた。
彼女は、ジョーカーの医務室で寝ていた。
「目を覚ましたか。」そこには、康介の姿があった。
彼女は起き上がって彼を見た。
「起きて早々悪いが、少し話を聞いてくれないか?」
「なんの話ですか?」康介の意外な頼みに、逢坂は気になってしまった。
「俺と一美についてだ。」
「一美は、あれ以降目を覚ましていない。今も病室で寝ている。それは、ドゥムズディとの戦いが原因の一つではある。だが、それよりも大きな要因があるんだ。」
俺の話を、彼女は黙って聞いていた。
「それはバックルだ。俺と一美が使っているサバイブバックルは、『試作品』であると同時に『欠陥品』でもあったんだ。変身者の身体を徐々に蝕んでいく。簡単に言えば、変身している状態は薬物を摂取しているようなものだ。それにより強力な力を得ていた。しかし、それが俺と一美…そして4年前に死んだ
父さんと言う言葉を口に出した時、彼女は初めて表情を変えた。
「でも…と言うことは…」気づいたようだ。
「ああ、俺の身体も長くは持たないだろう。だからこそ頼みたい。」
「何を…?」
「父さんと、俺の意志を継いで欲しい…ジョーカーの…条件付きだが。」それは、父さんに言われたことだった。
父さんの遺言状にはこう書かれていた。
「ジョーカー社長職の後任を〇〇〇〇とする。ただし、〇が就任するまでの代理人として息子の山田康介を社長とする」と。
これは秘密裏に出されたもので、俺含めたごくわずかの人間しか知らないことだ。
その事を今彼女に話した。
「もし、アイツが帰ってこなかったら、お前がジョーカーの社長になってくれ。そして、もしアイツが帰ってきたら、その時は彼を支えてくれ。」
あまりの事実に逢坂有希は硬直した。
その頃、関西支部の黒夜道永は社長室で一美の写真を見ていた。倒れたと言う報告を聞いた時、昔だったら暴れていたのだろうなと思いながら…
一美の命が短いことは既に聞いていた。だからこそ、こうして落ち着いて居られるのだろう…
「…一美…」
その時、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。
そこには、今日わざわざ呼んだ彼が居た。
「お疲れ様、早速悪いが、君のことは全て調べさせてもらった。アルカディアに加担していること、情報を漏らしたこと。」
道永は、ロードライバーを既に巻いて居た。
相手は、特に何も言わなかった。しかし、戦いを始める気があると感じ既にベルトを出現させて居た。
「あくまで黙秘し続けるのか…なら、ここで倒す。」
道永はローディに変身し、ナイフを構えた。
相手もまた、変身し武器を構えた。
「…ジョーカーが全てを支配する世界は終わる。」
「…そんなことはさせない。」ローディは彼に対して攻撃を仕掛ける。
しかし、その攻撃は盾によって防がれ、逆に矛が彼の腹部を貫いて居た。
「なっ…」
矛を彼は引き抜いた。脱力した道永は地面に倒れた。
「待、て!」道永は手を伸ばし彼を追おうとした。
しかし、その手が彼に届く事はなかった。
医務室から出た俺は、想像していなかった人物がそこにはいた。
「春輝…」
そこには、服がボロボロになっている町田がいた。
「社長、話が…」
「…分かった。社長室で話そう。」俺は彼を社長室に招いた。
社長室に入った直後、俺たちは互いに沈黙した。
しかし、話さないまま終わるのはなし、そう意を決した俺は口を開いた。
「君に話さなければならないことがある。父親の件について、真実を…君にとってこの話はただの言い訳かもしれないが。」
彼は、俺の方向を向いた。
「あの日、工場に火が『放たれた』時、俺は君の父親と一緒にいた。そして、火事が起きた事はすぐに分かった。俺は、炎に包まれた事務所から他の社員含め一緒に脱出しようと試みたんだ。だが、君の父親はこう言ったんだ。「俺は自分で逃げる。先に社員を逃してくれ!」と。俺は迷ったさ、あの人は、ジョーカーにとってまだ必要であった。そして、ジョーカーに必要な君を悲しませなくないと。しかし、あの人の熱意に折れた俺は、先に社員を助けた。
そのおかげで、社員は皆助けることができた。だが、君の父親を死なせてしまった。」
その話を彼は淡々と聞いた。そして、話し終えたのを察すると、口を開いた。
「僕は、だとしてもあなたを許せない。助けれるなら、無理矢理にでも助けて欲しかった。だけど、それが真実なら…」
町田はそう言って黙ってしまった。言葉が詰まったかのように感じた。
「俺は、謝罪をしてそれで終わりになんてできないと思っている。だからこそ、その償いとして、頼みたいことがある。」
「なんですか?」
「俺の次の社長になってくれ。それが、君の父親の願いであり、俺の父さんの願いであり、俺の願いだ。」
突然の言葉に彼は驚きを見せた。
「俺の父さんは、昔に決めて居たんだ。次の社長をお前にするって。」
なんでそんなことに…町田はそう感じた時、ある事を思い出した。それは一度だけ総三と話した時のことだ。
『君の理想の世界ってなんだ?』
『…みんなが仲良くなれる世界、国境も文化も越えて全ての人が、一緒に暮らせる…そんな世界…です』
白夜総三を恐れる事しか考えて居なかったからか、忘れていた出来事だった。まさかその事を覚えていて…
「…だから俺は、フューチャの装着員として君を選んだ。それが俺が隠してきた事実だ。」
町田は、今度は自分が話す番だと感じた。自分の考え、そして兄について…
町田春輝から山田康介に語られるアルカディアの目的、そんな中、ネメシスが大軍と共に迫っている事が明かされる。今、最後の戦いが始まろうとしていた…
次回 第30話 そして終わる