薄汚れたオフィス、そこに座っている彼女はテレビの内容に釘付けになっていた。
「アルカディア政府は、指定撲滅組織ジョーカーが大阪で出没、進撃を始めたとしました。ジョーカー復活を受けて政府は軍を名古屋に派遣して防衛すると宣言しました。」
彼女は、ジョーカーが指定撲滅組織と呼ばれている事に憤りを感じたが、それを抑え席から立ち上がった。
「お疲れ様です。」彼女はそう言ってオフィスを後にした。
行き先は自宅ではなかった。彼女の住む名古屋の一角にある集落に来ていた。そこは、旧国集落だ。普通の人なら入りたいだなんて思わないだろうし、相手も入ってくる事に不信感を持つだろう。彼女は、それを気にせず集落へと入っていく。途中何人かとすれ違うが、誰も彼女と目を合わせようとしなかった。彼らからしたら彼女はアルカディアに命を売ったと、
彼女は、公園と思われる場所のベンチに座った。広場の中にポツンと一つだけあるそのベンチに、近づく足音が聞こえてきた。
「…今日も時間通りね。」
「…いつも本当にすまない、香」男は彼女の名前を呼んだ。不知火香、それが彼女の名前だ。
「別に、もう慣れたって。貴方は『私達の英雄』なんだから。」
男は、彼女の隣に座った。
「で、アルカディア政府の動向は?」
「それが、ここ数日で大きく動いたわ。どうやら、ジョーカーを名乗る者達が動き始めているわ。」
「ジョーカーを?一体誰が…」男は、その吉報とも取れる話に身体を前のめりにした。
「多分、風香さん達じゃないかな。その対抗策として、アルカディアはこの近辺に防衛拠点を作ると宣言したわ。」不知火は説明を終えた。
「…そうか、もし俺達が合流できれば、勝ちにかなり近づくな。」
「…よろしくね。仮面ライダーウォーズ、山田康介。」
康介は、彼女のその言葉に頷いた。
「とりあえず、そのジョーカーに俺達が生存している事を伝えなければな…」しかし、通信機器が使えない今、誰か遠くの人物に物事を伝えるのは簡単な話ではない。
「それなら、手紙はどう?私が届けてくるよ。」彼女は聞く。確かに手紙であれば時間はかかるが確実だ。康介は、その手段を選ぶ事にした。
それからすぐ手紙を書き終えた。
[君達が本当にジョーカーの戦士であるならば、助けて欲しい。今、我々の住む名古屋の旧国集落にアルカディアが防衛拠点設置の為やってくる。我々だけで追い返すのは難しい。君達の力を是非借りたい。頼むぞ、風香、春輝。]
という内容を書いた。更に追伸として、ウォーズ、蘭舞、アーサー、火縄全員生存と書き彼女に渡した。
「それじゃ、今なら岐阜と愛知の境の辺りにいると思うから届けてくるよ。」
「頼んだ。」康介は、彼女を見送った。
「彼女に何を渡したんですか?」その時、後ろから声を掛けた。
「…俺達の生存報告だ。どうやらジョーカーを名乗る集団が動き始めたらしい。」後ろにいた彼女、逢坂有希にそう言った。彼女は、黒と赤の鎧に、背中には真紅のマントを着込んでいた。しかし、彼女の右眼は眼帯で覆われていた。
「春輝も…みんなも生きていたんですね。」
「相手からしてもそれは同じだろうな。あの時、もう1人の俺が居てくれたから助かった。」
それはネメシスの必殺技が迫った時だった。絶対絶命のピンチに駆けつけたのはバトルド、もう1人の康介だった。彼は4人とその他一部の兵士を戦場から少し離れた場所に逃した。
「しばらくの事は俺に任せてくれ。」そう言い残し彼はどこかへ消えていった。
「…とりあえず、この事を2人にも報告しましょう。」
「そうだな。」2人にも…そう康介が言うと彼女と共に集落の最深部にある小さな壁の隙間へと入っていく。
そこをくぐり抜けると、そこにはPCや精密機器がいくつか置かれていた。そして、一台のPCの前に座っている彼女に声をかけた。
「一沙さん、来ていたんですね。」
そこに居たのは、多少老けては居たが紛れもなくかつてジョーカーの研究者だった谷川一沙だった。
「ええ、あのアイテムの最終調整をしに。」彼女のPCの近くには、線に繋がれた黄金色のバックルがあった。
彼女は、5年前から隠れて生活する康介達の戦力強化に努めていた。今開発しているバックルに加え、右眼を失った逢坂へ視力を補助する機能を搭載した新たなロードメットを開発した。
「お疲れ様です。大誓と昌巳は?」
「2人なら奥の訓練場にいると思うわ。」一沙はPCを見ながらそう答えた。
その2人は、訓練場で組み手を終え休憩していた。
「…私、ずっと考えてきたことがあるんだけど。」真田昌巳は、水分を摂りながら言う。
「なんだ?言ってみろ?」燕堂大誓はタオルで汗を拭き取る。
「あの時、劔橋さんを行かせた事、私のせいだと思う…」
「…またそれか、あれは俺が…」彼は彼女の出した話題に顔を曇らせた。
「…それと同時に思ったんだ。あの時、行かせて良かったかもしれないって。劔橋さんは最期までジョーカーに尽くそうとした。戦えなくなっても、自分に居場所を作ってくれたジョーカーに。だから、後悔はしない。」その言葉に、燕堂はしばらく黙った。
「…それが今の私の答え。そして、劔橋さんが臣従したジョーカーに、今度は私達が尽くす番だと感じてる。」
「…確かに、そうかもな。俺も、昌巳も自分の気持ちしか考えてなかった。でも、よくよく考えてみたらあの人が望んだ事だ。だから、それを尊重する事が大切なんだな。」
2人は過去のしがらみが少し解けた気がしたところで、康介達がやってきた。
「2人とも、準備はできてるか?」康介は聞く。
「もしかして、出陣ですか?」待ちに待った出陣で2人の顔に喜びが浮かんだ。
「いや、防衛戦だ。だが、運が良ければ離れ離れになってるジョーカーの戦士達と合流できるかもしれない。」
『その頃、浜松の防衛関所』
そこには、名古屋に防衛線を張るために出撃する帝国兵の姿がある。
先導するのは防衛関所に居たホルコス…伊達萌葱と本拠地から送られてきたネメシスの腹心ヨークだった。
それを防衛関所から見送る人影があった。1人は萌葱の兄ディスノミア…伊達紅輝とヨークと同じく本拠地から送られてきたナンバー2エリス…嵐山青樹だった。嵐山は第二陣として来ていた。
「それにしても、ネメシス様はかなり焦っているようですね。」伊達は嵐山に話しかけた。その言葉に彼は疑問を浮かべた。
「だって、腹心のヨークとナンバー2のアンタをこうして送り出したんだ。壊滅したと思っていた組織が現れたんだから当然ちゃ当然だけどさ。」
「…そうだな。」伊達の話を嵐山は真剣に聞いてはいなかった。そのかわり、ふと疑問に思った事を聞いてみることにした。
「お前は、妹を送り出して心配じゃないのか?」
「…萌葱は、昔から身体がかなり丈夫なんで心配入りませんよ。木の上から落ちてもちょっと擦りむいた程度で済みましたし。」伊達はサラッと自身の妹の超人じみた話をしたが、嵐山は冗談だとは思わずそのまま話を続ける。
「確かに、ホルコスは戦闘において頼もしい仲間の1人だからな。」
「…そもそも、ロゴスが負けなきゃ良かったんですよ。聞きました?無策で兵を差し向けた挙句、煽られたことに逆上してそのまま討たれたって、間抜けにも程がありますよ。」
「ロゴスは、そもそも将に向いてなかったと言うだけだろう。」嵐山は伊達の文句を軽く流した。
「有希、少し付き合ってくれないか?」
拠点を出た康介は、突然そう言った。逢坂は何かさっぱり分からなかったが、まずはついていくことにした。
歩いて数分、拠点近くだった。なんとそこは病院だった。まさか医者が怖い?と本気で思ってしまったが、それはすぐに違うと分かった。
康介は真っ直ぐある病室に向かった。2階の一番奥の部屋、名前には『清宮一美』だ。
彼女はその表札を5回くらいみた。一美は死んだはずだと…
「一美、今日も来たぞ。」今日も、と言うことは殆ど毎日来ているのか?
「いらっしゃい。」2人が病室に入ると、ベッドで身体を起こしている清宮一美と主治医らしき男の姿があった。
「康介、今日も来たのか?」
「妻だから当然だ。そう思わないか?昭彦。」主治医…神谷昭彦に彼はそう言った。
神谷昭彦もまた、康介達と共に戦った戦友の1人だ。彼は順当に医者への道へ進み、今では一人前だ。彼と不知火香は実質的に結婚しているようなものだった。だが、住んでいる場所が違うせいで離れ離れだが。
「…まぁ、そこは否定しないでおこう。丁度いい、お前に話がある。着いてこい。」相変わらず冷たいのか不器用なのか分からない接し方で康介と共に病室を後にした。
残された逢坂は、一美をみた。
「驚いた?私は伝えた方がいいんじゃないって言ったんだけど、結局教えてなかったのね。とりあえずそこ座って。」彼女は自分の近くにあるパイプ椅子に座るよう言った。
「まさか、生きていたなんて…」清宮一美は彼女達にとっては死んだとばかり思っていた。
「あの時、ライダーや関係者全員に命の危険があったでしょ。だから康介が少しでも信頼できる人間に託したいって私を敢えて死んだことにしてここに送ってくれたの。ほら、私の主治医は同級生だし。」
夜、木曽川付近で駐留しているFJ軍の元に忍び寄る影があった。
丁度焚き木の近くで見守りをしていた黒羽風香はそれに気がつくと武器を構えた。
眠い身体を強制的に起こし、その影に警戒した。
「誰だ?」彼女が聞いた。
「私です!不知火香です!」
その影が姿を見せた。不知火香だった。その姿に黒羽は驚きのあまり言葉を失った。その騒ぎに交代の時間だった為に起きた町田もやってきた。
「香さん!久しぶりです!」
「風香さん…この方は?」町田は全く面識のない彼女に疑問を向けた。
「彼女は不知火香さん、昔ジョーカーに取材に来た事がある記者。」
「今は色々あって旧国と帝国を行き来しているけど。それで、時間がないから…これを見て。」不知火はそう言うと康介から預かった手紙を渡した。
「これは!!」黒羽は、彼女に眼を向けた。
「全て事実よ。山田康介は生きてる。他のライダーも。」
「逢坂さんも…良かった…」町田はふと胸を撫で下ろした。
「そして、もしこの事態が本当なら私達は一気に不利になるわね。」それは防衛線についてだ。少数精鋭とはいえ、大軍似突撃すれば生きては帰れないだろう。
「旧国集落にはまだ沢山の人がいる。康介達だけじゃ対処できないの…お願い、助けて。」不知火は、彼女達にそう訴えた。その問いに黒羽はすぐ答えた。
「助けてと言われて、私達は見過ごさない。すぐに出発の用意をする。今なら夜明けまでに着くはず。」
「そうですね、今すぐ行きましょう!」
FJ軍は、そう言うと急いで出発の支度を始めた。
ジョーカーを引き継ぎ、立ち上がったFJ軍。それを脅威と感じたネメシスは臣下であるヨークと、俊敏の将ホルコスに名古屋で迎撃を指示、2人は行動を始める。
一方、その名古屋では人知れず生きていたウォーズを始めとした戦士達が帝国軍にFJ軍より先に攻撃を開始したのだった…
早朝、康介は一美の病室で一夜を共にし、丁度眼を覚ました。そして、彼女が起きていない事を確認して話しかけた。
「俺は
「寝てるし、聞いても答えてくれないか…。」康介は寝ている事を気にせず話を続けた。
「俺は最期の戦いに行く。待っていてくれとは言わない…ただ…」最後の言葉に詰まらせた。
昨日、神谷から言われた話だ。
『お前はもう長くは生きられない。このまま変身をすれば自分の父親と同じ運命を辿るぞ。』
「…俺は必ずお前と一緒にいる…絶対に。」
康介は立ち上がると、病室を後にした。
そして、一美は眼を覚ました。彼女は最初から起きていたのだ。
「…充分、愛してくれたよ。」
その頃、旧国集落の中心部の公園ではホルコスが防衛拠点を立てる為に柵や固定砲台の準備をしていた。
それを逢坂、燕堂、真田及び少数の兵は見ていた。
「行こう!」逢坂の号令下、ジョーカーの兵は一斉に防衛拠点に向かった。
「敵襲!!」帝国兵の1人が声を出した。
「想像以上に早い進軍…いや、数的に紛い物か、追い払え!」ホルコスは指示を出す。
「悪いな、俺達は紛い物でもなく正真正銘のジョーカーさ!!」
燕堂と真田はそれぞれアーサーと火縄に変身した。
「何!!」ホルコスは、死んだはずの者たちが生きていることに驚きを隠せなかった。
「ホルコス、私が相手だ!」ホルコスの目の前には、ベルトを装着した逢坂の姿があった。彼女の右手には、白銀のロードメットがあった。
「…だとしても少数…ジョーカーの走狗、ここで討ち取る!」
「…私達は何度でも立ち上がる…この世を支配する悪を滅ぼすべく!身体がどれだけ傷ついても…変身!!」
彼女の身体は、今まで赤が主体だったのに対して、白銀がメインとなっていた。武将のような鎧に、蘭の花のような頭部飾り、背中からは真紅のマントが下がっている。
[白銀の世界に舞う蘭!紅く輝き悪を討つ!スペリオルロード!]
ホルコスと蘭舞スペリオルロードの戦いが始まった一方、康介の元に現れたのはヨークだった。2人の仮面の戦士は今ここで激突する。そして、FJ軍は彼らの元に辿り着くのか…
次回、第34話 仮面戦士の最期