俺達は寮へ向かわずに、学校の道場で向かい合っている。
「じゃ、取り敢えず術式見てあげるから、一発ぶつけてみてよ」
構えを取ることなくポケットに手を突っ込み、余裕綽々と佇む五条さん。
舐め腐ってるよな、あの人。
「入れる前に一つだけ聞きたいんですけど、五条さんの態度って、挑発して呪力のコントロールを乱すのを狙ってやってるとかですか?」
「え、何の話?」
素なのかよ。タチ悪いな。
ポケットに入っているケースを開き、カマキリを取り出す。呪力を込めて手で印を結び、
「
と唱える。すると、人間の身の丈程もある巨大なカマキリが出現する。
「やれ」
緑蟷螂は地面を蹴り、一気に五条さんに近づく。
そして、両手の鎌を振り下ろす……が。
五条さんに当たるギリギリで止まる。
……いや、止まるというより遅くなってる?
近付けば近付く程遅くなっているのか?
「うん、悪くないよ。大振りで無駄が多いから、コントロールはまだまだだけど、並みの術師ならそもそも捉えられない速さだし、この威力なら二級の呪霊で二発は耐えられない」
返答せずに更に呪力で虫を創る。
「
四匹で攻撃を繰り出すが、やはり届かない。
体感時間で五分程叩き込んだ。
が、全て無駄に終わった。
どうなってんだよあの人。
アレをやるしかないか。
「もう少し付き合って貰えませんか?」
「うん、いいよ」
「俺の術式は『呪蟲操術』と言って、虫を媒体として呪力を込め、擬似的な式神である呪蟲を作り出し、それを使役するというものです」
「へえ。術式の開示か」
術式を相手にバラすという『縛り』を課す事で自らの呪力を底上げする。それを術式の開示と言う。
「話を続けますね。呪蟲は一度に七種まで呼び出すことが可能です。普通の式神より弱いですが、破壊されても同じ種の虫に呪力を込める事で作り出せます。つまり、俺の手元の蟲が尽きない限り破壊は意味を成しません。そして、今俺が創れる蟲は蠍、蝶、蜂、蟷螂、甲虫、鍬形、蜘蛛の七種類です」
言い終えると同時に、俺の呪力が跳ね上がる。
よし、これでアレをやれる。
ケースの中身をぶちまけ、今作れる蟲全てを作る。
「そして、呪蟲は異なる種の呪蟲を融合させる事で、強化することができます」
「成程、だいたい分かった」
「今から、俺の奥の手をお見せします」
連続で印を結ぶ。
「
そう唱えると、七種類の虫を継ぎ接ぎした様なグロテスクな呪蟲が出現する。
「うわ、凄いねコレ」
少しフラつく。マズイ、呪力が尽きかけてる。
術式の開示で呪力を底上げしても、虹獣を使うのはマズかったか。呪力消費が段違いだ。
「行けッ!!」
虹獣が駆ける。
「流石にコレは攻撃した方がいいかな」
五条さんは構えを取る。瞬間、虹獣は右手の鎌を勢いよく振り下ろす。
が。
一発。
五条さんのパンチ一発で虹獣は破壊された。
「嘘だろ……ッ」
呪力が尽きたのかふらついてバランスを崩し、そのまま仰向けに倒れる。
「君の術式、良かったよ」
五条さんに褒められる。
別に褒められても嬉しくないが……。
「そのまま寝てていいから話を続けるね。君の術式は『虫を媒体として擬似的な式神を作り出し、操る』というものだけど、力は普通の式神の半分ぐらいしかないし、操るにしても君の呪力コントロールが下手で無駄が多くなってる。しかも作るのと操るの両方に呪力を使う。しかも手元に虫が居ないと発動すら出来ない」
やっぱりな。コントロールが下手なのは分かってるし直せると思うが……両方に呪力が使われるのはどうしようもない。
虫切れとか呪力が尽きた時の為に呪具でも持っておくかな。
要するに、俺の術式は不便すぎるってことだ。
「そのコントロールが良くなれば、五条さんに一発入れられます?」
「うーん、無理だね。そもそも攻撃が入ってないじゃん。頑張ればやれるかもね」
言ってる事は本当だな。
あの近付いているのに遠くなる感覚。
あれが無下限呪術……俺に攻略は無理だと悟った。
取り敢えず立ち上がり、五条さんに頭を下げる。
「ありがとうございました。あと、舐めててすいません」
一発入れてやろうか、という考えをした自分が愚かだ。
というか、五条さんと俺では月とスッポンどころではなく天と地……いや、それ以上の差がある。
「別にいいよ。それより、術式を見て確信したよ。君は将来、俺に並ぶ位の術師になる」
…は?
「マジですか」
「マジマジ!術式見て悪いとこだけ改善させようと思ってたけど気が変わったよ。ワンツーマンで教えてあげる」
嘘だろ?日本に4人しか存在しない特級呪術師の1人である五条悟にワンツーマンで教えて貰える。
つまり、俺の成長の幅が広がる。
「取り敢えず、今の棗の課題は二つある。一つは呪力コントロール。虫の動きの無駄をなくす。もう一つは使う呪力の量を調節する。君の術式は君の思っている以上に呪力を使うからね」
あれ、めっちゃ優しい。
それに凄く教師っぽい。
もしかしてこの人、性格“以外”は凄く優秀な教師なのか……?
「それじゃあ、教室行こうか」
教室……あ、そうか。他にもココに来る人はいるのか。
「そうですね、じゃあ行きましょう」
ということで次回はあの3人が出てきます。