初夏。
呪術師にとっては、最も大変な時期だ。
冬から春までの人間の陰気が、初夏にドカッと呪いとなって現れる。いわゆる繁忙期。
その真っ只中、“そのこと”は唐突に告げられた。
「北海道で一級呪霊を退治してもらいまーす!」
乙骨が転校してきて1ヶ月が経った頃。
俺は出張で昇格任務を受けるという名目で北海道に連れていかれた。
そういや昇格任務なんてあったな。普通に忘れてた。
恐らくこの為だけに呼び出された伊地知さんを気の毒だと思いつつ、車で空港に向かい、飛行機で札幌空港へと旅立った。
今はロビーにて五条さんと迎えを待っている。
「あの、そろそろ概要位話してくれません?」
「まあまあ、そう急がずにさ。取り敢えず迎えを待とう。今日は少しハードな授業だしね」
ハードな授業ね…どの位ハードなのだろうか。それより、何時もより少しだけ真面目な五条さんに気味悪さを覚えた。絶対ロクな事にならないでしょ。
暫く迎えを待っていると、2人組のスーツを着た男が此方に歩いてきた。
「失礼、呪術高専の方でしょうか。私、北海道警察の佐々木と申します。此方は同僚の高木です」
「どうも。呪術高専から来ました、特級呪術師の五条悟です。こっちは僕の助手の露魅棗。よろしく」
「では、早速ですが移動しましょう。着いてきてください」
先生の言う迎えとは警察だった。いかにも真面目な刑事と言った感じの2人組は移動を促してくる。
何か素っ気ないな。五条さんだけならまだしも、一緒にいた俺にも目もくれない辺り、単純に関わりたく無いといった感じだ。
まあ、一般人からしたら理解不能な存在だろうからな。仕方ないだろう。呪霊も見えない一般人が下手に関わる方が危険だ。
警察の車で移動し、裏口から警察署に通された。人目につかないように案内され、ある扉の前に到着する。
扉には「死体安置所」と書かれていた。
「では、我々はこれで」
刑事二人は入り口への案内までが仕事の様だったらしく、立ち去っていった。
「さて、棗。今から見てもらうのは呪霊の被害を受けた人の遺体だ。まぁ厳密には被害を受けたと“される”人だけど。覚悟はいい?」
恐らく、呪霊によるものの可能性が高い死体が発見されたからその調査が任務……ということだろうがそれも建前だろう。
五条さんは鑑定するまでもなく一級呪霊の仕業と考えているらしい。直接発見現場に赴き、残穢を辿る。
それが今回の任務だろうな。
俺への授業と死体を見る覚悟を確認したかったのだろう、と勝手に推測する。
「俺が今まで何の為に生きてきたと思ってるんですか。死体なら“あの時”に目の前で腐る程見ました。今更何にも無いですよ。ついでにこれ以上罪の無い人々を死なせたくないですしね。後、俺の成長の糧になるなら何でもします」
何があろうと、俺が呪術師である目的は変わらない。
奴らに復讐する。それだけだ
それとは別にこれ以上の被害は防ぎたいし、仇討ちもしてやりたい。
俺にとってこの二つは全く別の話。混線することは無い。
「そっか、しっかりイカれてて良かったよ。よし、早速確認しようか!」
覚悟の確認も終わり、中へと進む。
解剖台には袋が四つ並んでおり、二人で合掌する。
袋を開き、遺体を確認していく。
確認が終わった。
取り敢えず分かる事は死体は全てどこかを欠損し、大きな傷を負っているということ。見た感じ、獣害の様だ。
「死体は全て山で狩りを行っていた猟師で、全員一週間前に発見された。ここ見て」
「…撃たれた跡……みたいなのが有りますね」
五条さんが遺体の胸を指差すので確認すると、確かに銃で撃った跡らしきものがある。
「鑑識の結果を見たけど、これは生前のモノで死後にこの状態になったみたい。だから発見当時は殺された後、熊に食い荒らされたかと思われた」
「猟師を狙って殺すなら有り得なくも無いですけど現実的じゃないですね。しかも、4回とも殺した後に熊が……というのも非現実的でしょう」
明らかにおかしい。殺した後に熊が…なんて事がそう何回も続く訳はないだろう。
「だから僕らに呪霊の仕業か確認の依頼が来たんだ。さて、棗。何の仕業だと思う?」
「…やっぱ、呪霊ですかね。熊に対する恐れから生まれた呪霊とか。現に、三毛別羆事件なんてものもありますし」
「多分正解。獣害に対する恐れから生まれた呪霊だろうね」
この被害は呪霊によるものだ、というのは合っているらしい。しかし、銃で撃った跡があるというのが引っかかる。
「もし俺の言う通りだとして、撃った跡があるのは何ででしょうね。熊が猟銃に抱いた恐れ……とかですかね」
「そこまでは分からないけど、そうなんじゃない?」
適当さは相変わらずだなこの人。
今回の場合、主に熊が起こす獣害に対する畏れから来る負の感情による呪力によって一級呪霊が生まれている、と五条先生は推測している。
昇格任務ってこんなハードなのか?
「今は猟師を襲った程度だけど、この事件をきっかけにして、新しい恐怖が生まれるから下手したら特級になるかもね」
「それを俺にやれと?」
「そ。できる?」
できる?じゃねえよ。無茶振り過ぎない?もっとマシなのあったでしょ。
「じゃ、取り敢えず被害者が見つかった山に行こうか。かなり山奥らしいけど移動は手伝うから。」
移動は手伝う、という言葉に違和感を覚えたのも束の間。
「はい、到着。」
いつの間にか山の麓にいた。
驚きを言葉にする前に、とんでもない威圧感に気圧される。
「……」
ここの呪霊、相当危険なのでは……?
「ん?どしたの?」
俺の心情を知ってか知らずか、五条さんはいつもの調子で話しかけてくる。
「…呪力のレベルが桁違いですね、この山全体から感じるんですけど」
活動範囲が相当広いのだろうか。
「多分、それ程恐れが積み重なってるんだろうね。しかもそういった恐れは今も残ってるからずっと呪力を得てるって感じかな。さて、帳降ろすから頑張ってね」
やれやれ、と思いながら、俺は山に入った。
呪霊のアイデアは読者様に頂きました。ありがとうございます。