『7日で』神通が死ぬっていうのなら、俺が救ってやるよ!   作:阿斗 らん太

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1日目

 

 

 クレヨンで塗りたくったような昏く、どこまでも吸い込まれるような黒を前にする。

 分かってる、これは夢だ。

 確かな意識を持ちながらも非現実の中、という不安の海で、ぼんやりと光をみた。

 光の中に、誰か、いる。誰かの影が光の中にある。それを見るや否や猛烈な息苦しさを覚える。目が掠れるほどの苦しさの中、光は赤く大きくなっていく。

 ああ、そうか。あの影も自分も、業火の中なんだ。

 気付けば影に手を伸ばしていた。必死で、がむしゃらに掴もうとするも、影は遠く、薄く──────

 

     ○●○

 

 ジリジリジリとけたたましい音で目が覚める。つい数秒前とは打って変わった鬱陶しいくらい真っ白な朝。

 全く、なんだったんだあの夢は。

 圧倒的な不快感の中、やけに袖が引っ張られる。

 見れば、真剣な顔の妖精さんではないか。なんだ、また新たないたずらでも思いついたのか?

 よっこいせと体を起こすと、部屋は沢山の妖精さん達で埋め尽くされていた。・・・・・・今日はやけに多いな。

 なにか異常を感じ、ボサボサの髪もそのままに執務室に向かう。

 妖精さん達もぞろぞろと後を付いてくるが、なにか言いたいことがあるのだろう。なにかある時は執務室のホワイトボードでコミュニケーションを取るのが俺と妖精さんの暗黙のルールなのだ。

 

『おはようございます。よくねむれましたか?』

「いいえ? まったく」

『でしょうね』

 

 でしょうねって。

 やり取りの内容とは裏腹に真剣な顔でマーカーペンを走らせているのに少し面白さを感じながらも、会話を続ける。

 

「夢を見たんだが、酷い内容だった」

『くわしくおしえてください』

「いや、詳しくって言っても、こう、暗くて苦しいなーみたいな」

『だめみたいです』

「・・・・・・・・・・・・」

 

 俺の一言に妖精さん達は各々この世の終わりみたいな反応をしている。

 え、何その反応? 俺が何をしたって言うんだよ・・・

 謎の罪悪感にとらわれていると、唐突に我に返った妖精さんが真剣にペンを走らせる。

 

『いいですか、おどろかずきいてください』

「お、おう・・・・・・」

『あなたとじんつうさんはしにます』

「・・・・・・いつ?」

『7日ごです』

「どこで?」

『ここでです』

「・・・・・・・・・・・・まっさかぁー!」

『ほんとうなんです!』

 

 俺の反応に妖精さん達は各々抗議の反応をみせる。忙しい奴らだな・・・・・・

 

「そもそもなんでそんなこと分かるんだよ」

『ようせいさんぱわーです』

「信じられるかよそんなもん!!」

『このわからずや! あんぽんたん、ばか』

 

 酷い言われように唖然不可避。そんな間違ったこと言ってないと思うんだが。

 

「いやなぁ、急にそんなこと言われてもなー」

『いいんですか、じんつうさんもしんでしまうのですよ』

「うーん・・・・・・」

 

 その点についてはどう言っていいか分からない。神通とは上手くいっていないのだ。正直かなり苦手意識まであるんだが・・・・・・

 

   コンコン

 

 返答に悩んでいると、ドアのノック音が鳴る。

 噂をすればってやつだ、入る前から分かる。

 何故分かるかって? だって、ここの鎮守府、神通しかいないんだもん。

 

     ○●○

 

「失礼します」

「ど、どうぞ」

 

 緊張と共に神通を迎える。

 あ、やべ寝起きの姿のまんまじゃん俺。

 入ってきた神通は俺とは対照的にいつもの制服をきっちり整えて着ていて、髪もさらさらでつやつやだ。

 

「随分とギリギリまで寝ていらっしゃったみたいですね」

「う、うん。ちょっとね・・・・・・」

 

 超絶鋭い眼光で睨みつけられている。

 ビクビクしながらなんとか返事をしたが、完全にコミュ障と化していた。

 しかし、この光景は今に限った話ではない。上官の命令違反で誰もいないこの島に神通と二人左遷された時から、ずっとそうだった。

 俺と話す時はいつも、この殺意に満ちた狂気的な目で睨まれている。

 左遷されたのも俺のせいみたいなもんだし相当嫌われてるんだろうなぁ。

 

「それでは朝の報告に入ります」

 

 大して中身のない報告が始まった。

 まあ、こんな辺鄙な鎮守府にまともな任務など入るはずもなく、毎日島周辺の見回りの結果を聞かされるだけだ。

 

「これで報告を終わります」

 

 そんなこんなで大して真剣に聞かないまま、事務的な報告が終了した。

 

「あ、おうお疲れ様。もう戻っていいぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・???」

 

 報告が終了したにも関わらず、神通はじっと立ったままである。

 というか無言でその狂気的な目を向けないで欲しい・・・

 

「ま、まだなにかあったか?」

「・・・・・・いえ、何もありません。それでは、失礼しました」

 

 ガチャリと神通が扉を閉める音で、ようやく安心する。

 なんだったんだろう。

 たまにああいった感じで変な間が生まれるんだよな・・・・・・

 

「で、他にいうことは?」

 

 再び妖精さんとの時間となるが、服を引っ張ったりムスッとしているだけで、終ぞ白いホワイトボードにまた何か書かれることはなかった。

 

     ○●○

 

 昼になった。

 妖精さんの言葉を信じるわけではないが、流石に神通との関係は見直さなければならない。

 島に来てから数ヶ月は経つのに、あまりにも神通のことを知らなすぎるので、怖いけれどもまずは食事にでも誘おうと思う。怖いけれども。

 そう意を決したものの、普段神通がどこにいるかも知らないので、鎮守府を探し回ることからはじめる。

 神通の部屋はノックしてもいなかった。それから空き部屋、1階と探したが、見つからない。

 鎮守府と言っても二階建てのコテージみたいなもので、狭いからすぐ見つかると思ったんだが。

 結果的には、外に出たらすぐに見つかった。鎮守府横のスペースに訓練所のようなものが作られていて、そこで敵に見立てた木の板相手に俊敏に動き回っていたのだ。・・・・・・艦娘と言えどあんなに早く動けるもんなのか?

 とにかく、島に来た当初はそんなものはなかったので、神通本人がいつの間にか作っのだろう。

 

「や、やあ」

「・・・提督?」

「ああ、すまんな訓練中に・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 なんとか声をかけてみる。神通は初めかなり驚いたように目を見開いていたが、次第にいつもの殺気マシマシの目になっていく。それに、心なしかガクガクガクと全身が震えてないか・・・?

 そ、そんなに俺と話すのが嫌なのか・・・

 

「あの、なにか?」

「ちょ、ちょっとな! 昼飯がまだならこれからどうかな!?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「たまには一緒に、ってのも悪くないんじゃないか、って・・・・・・」

「・・・・・・りません」

「え?」

「要りません、と言ったんです。そもそも私たち艦娘は補給さえしてくだされば食事は必要ないと何度か言ったはずですが」

「そ、そうか・・・・・・」

「言いたいことはこれで全部ですか? 他に用がないのであれば離れてください、訓練中ですので」

「いや、それだけだ。邪魔して悪かったな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 うう、本格的に嫌われてるな・・・・・・。これじゃあ昼飯を一緒に、どころではない。

 でもなぁ、強い言葉の割には一瞬迷いがあったような・・・・・・

 まあ気のせいか。

 

──────いいんですか、じんつうさんもしんでしまうのですよ

 

 ・・・・・・そんなこと言われてもなぁ。

 鎮守府に戻る前に、ちらりと訓練を再開した神通を見ると、溜まった鬱憤を晴らすかのように木の板をバキバキにしていた。

 そんなこと言われても、やっぱ無理だわ。

 

 

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