叩けば増える、夢のビスケット   作:トリリリリリ

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技名を一つ変えました
トリプルストック・ハードビスケット → トロワ・レペテ


1枚目 入試試験

 雄英高校ヒーロー科。

 

 そこはプロヒーローに必須の資格所得を目的とする養成校。

 全国同科中最も人気で最も難しく、受験倍率は例年300倍を超える。

 

 オールマイトをはじめ、エンデヴァー、ベストジーニストなどが元卒業生として名をあげられ、偉大なヒーローになるためには雄英卒業が絶対条件とまで言われている。

 

「おぉー……校門でっか」

 

 苦笑いしながら巨大な雄英高校の校門を見上げる一人の少年が小さくつぶやく。

 顔の右側に大きな傷跡を残し、それを隠すように少し長めにかつ若干右に寄せた紫色の髪をした、小柄な自称160㎝(実測159.6㎝)の体格に一見小学生とも思える幼い顔立ちの少年は、その体躯には見合わない大きなリュックサックを背負い校門の前に立っている。

 

 2月26日AM7:40

 今日この日こそが雄英高校の一般入試試験当日であり、少年もまた受験のためにこの場に立っていた。

 

「……さて、行くかな」

 

 そろそろ同じ受験生であろう人々が横を通り過ぎていくときの目が気になってきたため、彼は大きなリュックサックを背負いなおして受付へと足を進めていく。

 そこでふと、目の前にいる緑色のもさもさとした髪の受験生が躓くのが見えた。

 さすがに2~30mほど距離があったために手を貸す等の行動はとれなかったが、近くにいた女子の個性により転ぶことを避けたところまで眺めていた。

 その後、虚空に向けて少しばかり「おぉおおお」と声を漏らす少年の姿に少しだけ笑いをこぼす。

 

「ふっくく……ははっ、思いがけず緊張がゆるんだな」

 

 肩の力が抜けるのを感じ、受付の男性に声をかける。

 

「はい、では次の受験生。受験番号と氏名を」

「受験番号894番。栗焼菓(くりやきこのみ)です」

 

 紫髪の少年……栗焼菓(くりやきこのみ)はヒーローとなるための第一歩を今日、歩き出した。

 

 ◆

 

「今日は俺のライブにようこそ──!!! ヘヴィヴァディセイヘイ!!」

 

 一般入試、実技試験の概要説明のために講堂に集まった受験生たちに向け、説明を行う雄英高校教員兼プロヒーローのプレゼントマイクは、掛け声とともに耳に手を当てこちらに傾けている。

 

 おそらくは彼が毎週行っているラジオおなじみのやり取りをこの場で行おうと思っているのだろうが実技試験に向けて緊張がピークへと近づきつつある受験生たちにそんな余裕はないようで一切の返答が返ってこない。

 

「こいつはシヴィー!! 受験生のリスナー! 実技試験の概要をさくっとプレゼンするぜ! アーユーレディ!?」

「YEAHH!!!」

 

 同じように受験生たちに問いかけるが、まったく反応はなく結局は自分一人だけで叫んでしまうだけであった。

 そこからはいたって普通に入試試験について説明を行うプレゼントマイク。

 

 持ち込み自由の各々ポイントを割り振られたロボット破壊を行いながらポイントをためる得点方式の試験のようだ。妨害に関しては明らかにアンチヒーローのためNG。

 しかし気になるところが一点。

 

「なんか一つ多くないか?」

 

 説明にあった三種とさらにもう一つ、要項に記されているヴィランの情報があった。

 そこで、すぐ隣に座っていた長身の眼鏡をかけた少年がプリントを持ちながら口を開く。

 

「君も気が付いたのか? 俺も気になっていたんだ……質問よろしいでしょうか!?」

「おぉ、躊躇なく行くなあ」

 

 眼鏡の少年は残り一つのヴィランについて問いかけ、ついでと言わんばかりに後ろのほうに座る受験生を厳しい口調で弾圧する。

 プレゼントマイクは少年を落ち着かせながら残り一つのヴィラン……彼の説明によるとお邪魔ギミックとなる存在を説明する。

 

「なるほど……ありがとうございます! 失礼しました!!」

 

 少年はプレゼントマイクの説明に納得し、勢いよく頭を下げ、着席をする。

 

「うーん……」

 

 質問の内容や彼の言葉遣いはともかく、後ろの少年に注意する必要はなかったんじゃないかなと(このみ)は思いながらちらりと後ろを確認する。

 注意されたであろう少年は口を両手で抑えて縮こまっており、周りの生徒もくすくすと笑っている。

 プレゼントマイクが締めに入り、校訓を話しているさまを聞き流しつつ、後ろの様子に少し不快に思った(このみ)は極力音を抑え、()()()()()()

 

 すると(このみ)の持つプリントのそばに小さなビスケットが現れ、そのビスケットを指でつまみ、隣の少年に渡す。

 

「ほら。あげる」

「む? ありがたいが、なぜ今なのだ?」

「少し気張りすぎじゃないか? さっきの子を注意するにも早計な気もするし。まあ君が正しいと思う行動なら止めはしないけれども少しだけ肩の力抜いてもいいんじゃない? こういうときは甘いもんがいい」

 

 (このみ)はそう言いながら自分の分のビスケットを手をたたいて出し、口にくわえる。

 

「ふむ……そうだな。君の言うことも一理ある。……ありがとう、いただこうか」

「いいってことよ」

「良ければ、君の名前を教えていただけないか? ボ……俺は聡明中学の飯田天哉だ」

栗焼菓(くりやきこのみ)。 互いに受かればいいな」

「あぁ! では、俺は会場へと向かうので、また」

「次に会うのは入学式であることを祈ってるよ。またな」

 

 互いに別れを告げて、(このみ)は指定された受験会場へと向かった。

 

 ◆

 

 (このみ)は自分の会場に到着し、荷物の確認をしていた。

 ドデカいリュックサックを地面に置いてごそごそと奥に手を入れながら探っている。そして、中からいくつかの袋を取り出した。

 周りの受験生は彼の行動に、実技の対策か? と思いながらこれからの入試試験でのライバルとなる存在について少しでも情報を得ようと注視する。

 そんな視線にお構いなしに(このみ)はその袋の中から、赤い小さな袋に個包装されたチョコレートと透明なビニールに包まれたパンケーキを取り出して……

 

(((食った!?)))

 

 試験間近にもかかわらず彼は一切の躊躇もなく菓子を口に入れていく。

 

「うめぇーやっぱ試験前は甘味だな」

 

(((そうかなぁ……?)))

 

 彼の行動を注視していた受験生たちはその行動を単に試験前の栄養補給だなと結論付け、各々の準備に取り掛かる。

 

 しかし、その準備や各々の思考は次の瞬間には打ち切られる。

 

「はいスタート!」

『……え?』

 

 急に響いた声に全員の思考が一瞬停止し、声の聞こえたほうを見上げる。

 

「どうしたぁ!? 実践じゃカウントなんざねえんだよ!! 走れ走れ!!」

 

 その言葉により少しずつ受験生の間に動揺が広がっていく。

 

「賽は投げられてんぞ!!」

 

 しかし、全員が偏差値70を超え、さらに全国最高峰の雄英高校を志望する優秀な人間。

 動揺したのは最初の一瞬。

 すぐに落ち着きを取り戻し一斉に駆け出していく。

 

 ……一人を除いて。

 

「ふう……うまかった、ごっそさん。 ……さて、始めるか!」

 

 一人のんびりとガレット(新たに袋から取り出した)を食べていた(このみ)は最後の一口を食べ終えると、誰もいなくなったことを確認し、おもむろに()()()()()()()()

 

 ◆

 

「よし! 7pt! 次は……」

 

 一人の受験生が会場の中央の通りから少し外れた場所でロボットを自慢の個性で破壊する。

 大通りは人が多く、ほかの自分よりも優秀な受験生にポイントを取られることを危惧した彼は路地裏でちまちまとポイントを稼いでいたが……。

 

『残り6分~』

『28ptぉ! 次ぃ!!』

「くっそ……やっぱすげえ奴はすげえなぁ……」

 

 彼もまた地元の中学校では実力も学力も向かうところ敵無しだったが、この試験に集まる人間はそのさらに上を行く。

 

『うぉぉぉぉぉなんだなんだ!!!??? 多!? てかこわっ!!』

「……? ___は?」

 

 大通りの方向で聞こえた声に違和感を感じ、路地裏から抜けて通りに出る。

 そこに広がっている異様な光景に思わず声を漏らした。

 

 身長2mを優に超え、下手すれば目測3m近くありそうな巨体を持ち、ビスケットをジグソーパズルのように隙間なくつなぎ合わせたかのような意匠の鎧と棒を持った紫色の髪をした青年が()()()()()()()()()()()()

 パッと見た限りは100人近くいそうな彼らはその物量で大量のロボットを手に持っている棒状の武器で破壊している。

 

「……なにこれ」

『ヒョウテキハッケン。ブッコロス!!』

「ッ!!」

 

 目の前の異様な光景にあっけにとられて後ろに迫るロボの存在に気が付けなかった彼は、機械の腕を振り上げるロボットを目の前に、せめて衝撃を和らげるために顔の前で腕をクロスさせて防御の姿勢をとる。……目をつむっているためにあまり意味はないが。

 

 しかし、いつまでたっても衝撃がこないことに気が付いた彼はそっと目を開けると今にも攻撃をしてきそうだったロボはすでに破壊されていた。

 そしてそのロボの後ろから出てきたのは、先ほど大通りを進撃していた紫色の髪をした青年だった。

 しかし、目の前にいる青年は大通りを爆走している青年たちとは違い、さらに一回り大きい4m近い巨体をしており、体躯に釣り合っていないがかなり大きなリュックサックを背負っている。

 

「怪我はないか?」

「あ……あぁ。ありがとう」

「ならよかった。休憩はさむのはいいが、周りには気を配っておけよ」

 

 休憩ではなくあっけにとられていただけでしかもその元凶が青年自身なのだが、そんなことはお構いなしにと大通りにと出て行った。

 

「ああいうのが、合格すんのかな……?」

 

 腰が抜け、その場に座り込んだ少年は小さくつぶやいた。

 

 ◆

 

「ふう……これで32ptか。最初に大分出遅れたせいでちょいと取り逃していたが、まぁ順調だろ」

 

 残り5分を告げる音声を聞きながら、目の前の1ptロボットを破壊した(このみ)は小さく息を吐く。

 彼の姿は試験開始前の小柄な姿ではなく、4m近い巨体を持つ青年の姿になっていた。

 それは彼の個性により変化……というよりも作られた姿だ。

 

「あ、そこの人! 危ない!」

「ん? ブホッ!!」

 

 声が聞こえたほうに振り向くと、手を巨大化させた女子が吹き飛ばしたであろう2ptロボの破片が勢いよく(このみ)の方向に飛んでくる。

 認識した時にはすでに遅く、巨大な掌の通りすさまじい力がうかがえる速度で飛んできた破片は(このみ)の肩に直撃し……

 

 上半身を吹き飛ばした。

 

「うわぁぁぁぁ!!!???」

「あっぶね!! 何てことするんだあんた!!」

 

 砕け散った半身を見て女子は顔を青ざめるが、それにお構いなく(このみ)は腹から上の無くなった体のまま女子のほうを向いてどこから出ているのかわからないが声を上げる。

 

「口がないのにしゃべってる!! てか上ないのに動いてる!!」

「あぁ、それは大丈夫だけども」

 

 そう言う(このみ)の体にヒビが入り、中から試験前の姿と同じ小柄な(このみ)が出てきた。

 

「えぇ……あ、そういえば大通り爆走してた人……てかこれ、ビスケット?」

「あぁ。俺の個性だ」

 

 そう話す(このみ)は砕けた体を横目に確認し、手をたたき始める。

 すると砕けたビスケットの欠片はさらさらと粉末状になり、一点に集まっていく。

 そしてそれは人の形となり、顔や体、さらに鎧まで丹精に作りこまれていき気が付けば先ほど彼女が吹き飛ばした(このみ)の姿になった。

 自分のすぐ隣に作り出した人形をポンポンと叩きながら出来具合を確認する(このみ)は苦い表情でつぶやく。

 

「やっぱ出しすぎたな……あの速度とはいえ砕けるのはちょいと脆すぎだ」

「……ビスケットってこんな感じだっけ?」

「ははっ、よく言われるよ」

 

 目の前で起きる中々に今までの常識をぶち壊す光景に目がしらを抑える彼女に向かって笑い声をあげる。

 

「さて、さすがに時間もない。おしゃべりはこの辺にして、俺は先に行くよ」

「そうね。いろいろ気になるけれど……何ッ!?」

「おぉ……なんだ? 地震か?」

 

 彼女が言葉をすべて紡ぐ前に会場全体が地響きを上げ大きく揺れだした。

 (このみ)が地震かと口に出すが、もしそうならばプレゼントマイクあたりが何かアナウンスしているはずだ。しかし、それがないということは……。

 

「試験の一環……うわぁ、絶対あれだ」

「でかすぎ……てかあれって説明にあったゼロポイント?」

「あ、確かにそうっぽい……てかあいつやばくね?」

 

 あまりにも巨大なロボ……説明にあったお邪魔ギミックとなる0ptのロボットが出現する余波により崩れ始めていくビルの下に(このみ)は人影を見つけた。

 (このみ)はその人影を見つけると同時に急いで手をたたき始める。

 それと同時に、大通りに大量にいた(このみ)の分身のうちいくつかがさらさらと崩れ始め、ビルの下敷きになりそうな人影のもとに集まる。

 

「守れ! "ハードビスケット"!」

 

 (このみ)の声に合わせ、一枚の大きなビスケットが現れ、それと同時にビルが完全に崩れて下敷きとなる。

 

「あれまずくない!?」

「一応守ったから多分大丈夫と信じたいけど……」

 

 崩れたビルを眺めながら不安そうに声を漏らす二人。

 しかし、そんな心配は次の瞬間には払拭される。

 

「うがぁー!! あっぶねえ!! なんか変な壁みたいなのが防いだけど俺じゃなかったら出られなかったぞ!!」

 

 ビルの壁を砕いて現れたのは全身を金属のように鈍色に輝かせた少年だった。

 おそらくは全身を金属のように硬くする個性なのだろう。そう結論づけた(このみ)は少年のもとに駆け寄り、いまだに下半身が埋まる彼に手を伸ばす。

 

「大丈夫か? 一応守ったつもりだったが、その個性なら必要なかったかもな」

「__ん? あぁ、さっきの壁はお前だったのか! ありがとな!」

「お、おぉ……無事ならいいんだ」

 

 熱く礼を言う少年に気圧されながら握り返された手を引き上げようと力を込める。

 そのタイミングで先ほどの女子がこちらに到着し、一緒に引っ張り上げて脱出させた。

 

「助けてくれてありがとな! 一先ずここは離れようぜ!」

「ええ、さすがにここは危険だしね」

「……」

 

 いつまでも崩れたビルの上にいるのは足場や周りの環境もそうだが、何よりも巨大なロボがすぐそこにいる。

 そのため二人は離れようと話しているが、それに対し(このみ)だけは静かにロボを見上げていた。

 

「__? ねえ、どうしたの? ここは危ないから行こ」

「……ん? あぁ、先行っててくれ」

「いや、お前も行くんだよ!」

 

 女子に声をかけられるが、(このみ)は一人ロボのほうを向き、離れることを促す。

 それに対し先ほどの少年が手をつかんで引っ張り始める。

 

「いや、あれを放置するにはまずいだろ。さっきのあんたみたいなのが出たら守り切れない」

「まぁそうだが、俺たちがそうならないためにもさっさと離れようぜ!」

「んー……ま、何の得にもならないんだけど……さ」

「……?」

 

 破壊される街と、遠くで逃げ惑う受験生たちを眺める(このみ)は静かに口を開く。

 

「この惨状を見ながら逃げるのは、ちょっとヒーローには思えなくてね」

「ッ! っは! いいねえ! そうだよなぁ! ヒーローになるにはそうだよな!」

「……まぁ、そうなんだけども、なんか勝算はあるの?」

 

 女子の言葉に少しだけ(このみ)は考える。勝算……というのがあのロボットを完全に破壊し機能停止させることならば……

 

「いや、ないけど」

「「おい!」」

 

 危機感のないやり取りをしている三人だが、その間も刻一刻と時間は過ぎ、状況は動き続けていく。

 

 ____0ptロボットの巨大な腕が三人に迫っていた。

 

「てかおい! やべえぞ!」

「大丈夫……二重、いや念のため三重にしておくか」

 

 慌てる金属の少年を横目に(このみ)は手をたたき始める。

 

 すると、彼らの前にさらさらと砕け散ったビスケットが集まり、5m四方の巨大なビスケットが3枚現れる。そのビスケットが3枚重なり、3人を守るように巨大な腕の前にふさがる。

 

「守れ。"トロワ・レペテ"」

 

 ガキィンとビスケットとは思えない音を立てて金属でできた巨大な腕を受け止める。

 そして(このみ)は二人に向き直り、言葉を発した。

 

「正直あれを壊す火力は俺にはないけど、一応やりようはある……が、その前にあんたたちの個性を教えてくれ。俺は栗焼菓(くりやきこのみ)。個性はビスケットを増やして操れる」

「鉄哲徹鐵だ! 個性はスティール! 金属化ができるぞ!」

「拳藤一佳。個性は大拳。掌を巨大化できる。一応人を丸々すっぽり覆えるくらいまでなら巨大化できるけど……」

 

 二人の個性を聞いたうえで(このみ)は少し思案する。

 二人の話を聞く限りではどちらも対人では非常に強力な増強系の個性なのだろう。しかし、現状あのロボットを壊すのに必要なのは強力な発動型などによる瞬間的な一撃火力だ。それは二人の個性どちらにもない。

 必要な要素と現在使える手札を考慮し、結論を出して二人に伝える。

 

「聞いた限りじゃこの三人であれぶっ壊すのは多分無理だな。さすがに火力が足りない……でも一応俺ならやりようはある。すまんが、ここは俺に任せてあそこに怪我してる人がいるから二人はあっちに行ってほしい」

「いや、壊せないんならどうやって……」

 

 壊せないという言葉に反応し、思わずといった様子で言葉を漏らす拳藤の疑問は最もなものだ。

 しかし、それに対し(このみ)は笑顔で親指を立てながら自信満々といった風にふるまう。

 

「大丈夫! 壊せなくても、俺ならいける!」

「……そうか! よし、ここは任せた! 怪我人てのは……あいつだな!」

「え!? いいの?」

「本人が言っているんだ! ここは任せるぞ! 栗焼!」

「えぇ…………んー、わかったわよ……。とりあえず、怪我しないでね!」

 

 身を案じる拳藤に背を向けながら親指を立てる(このみ)はすぐに手をたたき始め、彼の個性を発動させていく。

 すると、先ほど生み出したロボのパンチを受け止めた巨大なビスケットがさらさらと崩れ始める。

 

 そしてそれと同時に大通りにいる先ほど崩さなかった残りのビスケット人形がすべて崩れ始め、3m近くあるビスケット人形約100体分の質量のビスケットの粉末が一点に集まり始める。

 さらにそれらに追加して(このみ)は手拍子を続けながら自信の周辺に大量のビスケットを生み出し、そしてそれらもまたビスケット人形と同じようにさらさらと崩れ粉末となっていく。

 

「一つ叩けば二つに増えて、も一つ叩くと三つに増える……叩けば増える夢のビスケット」

 

 これこそが彼の個性、"ビスケット"。

 幼いころ、誰もが歌った不思議なポケットから生み出される夢のビスケット。彼の個性はまさにそれの現実世界での再現。

 手を叩くことによりビスケットを生み出し、さらに叩き続けることで生み出したビスケットを自由自在に操れる。

 

 (このみ)の手拍子に合わせ、ビスケットは増えては崩れ、増えては崩れを繰り返し次第にビスケットの粉末は大量に溜まっていく。

 その量がやがて巨大ロボと見劣りしないほどの大きさになると(このみ)はビスケットを増やすことをやめ、今度はビスケットの粉末を彼の望む形へと形成する作業に移る。

 

「さてロボよこんな話を知ってるか? 昔々の物語。幼い兄妹を出迎える夢の家」

 

 粉末のようになったビスケットは彼の手拍子に合わせ広がり、分裂し、自由自在に形を変える。

 それはやがて4枚の巨大なビスケットとなり、そして家の屋根のように斜めに結合された1枚のビスケットに形を変えていった。

 

「おい……なんだよ、あれ……?」

「でっけー……ビスケットの……家?」

 

 その異様な光景を前に気が付けば逃げることも忘れて受験生たちは呆然と見上げていた。

 

「よし! 足は痛むか!? 俺の肩掴め!」

「あ、あぁ……助かるよ。……なぁ、あれって何か分かるのか? 君たちさっきまで一緒にいたよな?」

「いたけど、正直なところ分からない。でも栗焼は任せろって言ったからね」

「ああ! あいつが任せろっつったんだ! 信じなきゃな!」

「……だとしてもあれはすごい気になるけどね」

 

 すぐ近くにいた足から血を流した少年に肩を貸しながら二人はほかの受験者とは違い確実に歩を進めながらも背後の光景を眺めていた。

 

 ……そして次第にビスケット達が一斉に動き出し、ロボットを4枚のビスケットが囲むように四方に散り、その上から斜めのビスケットが蓋をするようにロボの上空に配置される。

 

「そうら囲え。そうら逃がすな。甘い菓子の香りに誘われたなら、ご愛嬌。どうか後悔せぬように」

 

 彼の口上と手拍子に合わせそれは作られていく。世界的にも有名な物語に存在する子供たちの夢の結晶。誰もが一度は夢見たお菓子の家。

 

 ……しかしそこには恐ろしい魔女が住んでいるという、そんな家。

 

「甘ーい話の裏側に、どんな魔女が潜んでいるかはわからない。甘くとろける菓子が欲しけりゃ、まずは対価を問うべきだ」

 

 目のまえにふさがる壁を壊そうとロボットは巨大な腕を振り回すが、ビスケットはびくともせずにゆっくりとロボットを壁の中に囲い込む。

 前はおろか、横も後ろも、しまいには上もふさがれていく。

 ガンガンと内側からビスケットの壁を殴る音が聞こえてくるが、やがてロボットが満足に暴れられる隙間もなくなるにつれて聞こえなくなり、完全に閉じ込められる。

 

「甘い甘いお菓子の家には、何がある? 夢か、はたまた絶望か。さぁ、完成だ! "ハードビスケット・ヘクセンハウス"!!」

 

 最後に上から屋根の形のビスケットが覆いかぶさり、すべてがビスケットで出来上がった高さにして40m近くある巨大なお菓子の家が出来上がる。

 (このみ)は最後に一枚、手元にビスケット生み出しサクリと聞き心地のいい音を立てながらかじりつき、ロボに向けて不敵にほほ笑む。

 

「おかわりは……いらないか?」

『しゅううぅぅぅぅりょぉぉぉぉぉ!!!!』

 そして彼の言葉を合図にしたかのようにプレゼントマイクにより試験終了が告げられた。




主人公の名前の読み方が若干特殊なので全部にルビを振っていますが、次話からはルビ外します。
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