叩けば増える、夢のビスケット   作:トリリリリリ

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前半にワンクッションの50m走の追記
最後に菓の順位の追加


3枚目 体力テスト

「次、切島と栗焼。さっさとレーンに入れ」

「だってさ。行こうぜ」

「あ、先行っててくれ。準備するから」

 

 突如始まった最下位除籍処分となってしまう個性解禁の体力テスト。現在はその第1種目の50m走の計測を行っている。

 菓もまた、この受難に立ち向かっているが、こういった単純なフィジカルが必要な種目については彼の個性の使いどころは中々ない。

 しいて言うならば試験の時のようにビスケットの鎧を纏って疑似的にフィジカル強化を行うくらいだ。

 そのため菓は、相澤に呼ばれ行こうと声をかける切島に先に行っててくれと言い、個性発動のトリガーの手を叩き始める

 切島は訝しげな顔をするが、すぐに分かったと言い二つ並んだレーンの奥に陣取る。

 その間にビスケットを生み出しては砕き、自身に纏わせる。

 異形系の個性をもった生徒が着ることも想定しているのかすさまじい伸縮性を誇る体操着の隙間から粉末状にしたビスケットを侵入させ、鎧を形成する。この一連の作業自体はすでに手慣れたものであり10秒もかからずに身長2m後半程度の巨体を作り上げる。入試の時の4m近くまで大きくすることも出来るのだが、直接自分の体を操る要領で操れる範囲や、単純にデカすぎるとそれに比例して横幅も大きくしなければ重心を取りづらくなり、そうなると真横にいる切島を蹴飛ばしてしまうため3m手前程度にとどめておいた。

 

「おまたせ」

「お、来たか栗焼……いやでかくね?」

「ん? あぁ、俺の個性だな」

「へーそうなのか」

「しゃべってないでさっさとやるぞ。ほら構えろ」

 

 菓のあからさますぎる変化に気が付いた切島が尋ねてきたため素直に答える菓だったが、あまりおしゃべりをしている時間もなさそうだ。相澤がギロリとにらみをきかせて菓と切島を強制的にスタート体制にさせる。

 やべえやべえと軽く言いながら二人一緒のスタンディングスタートの構えをとる。

 

「よーい……スタート!」

「ッ……!!! ……って、はっや! その歩幅ずるくね!!??」

 

 少し間をおいて出る合図に合わせてほぼ同時に駆け出す。しかし、徒競走は足の回転と一歩の大きさがモノをいう競技。足の回転よりも3m近い巨体による歩幅の大きさによりぐんぐんと距離を離していく。

 後ろからなんか声が聞こえてくるが菓はそんなこともお構いなしに加速していき、すぐにゴールに到達する。

 

「4秒78!! ……6秒04!!」

「うあー! 6秒切れなかった!! てかハエーな栗焼!!」

「まあ走る系なら体デカいほうが有利だしな」

「クッソー」

「ほらゴールしたならさっさと退け。次が来るぞ」

「ウス」「はい」

 

 その後は、第2種目握力、第3種目立ち幅跳びと続くが、栗焼の成績は基本的にすべてで上位に入りこそはするものの飯田のエンジンによる50m走や爆豪の爆破を使った立ち幅跳びのように頭一つ大きく飛びぬけた記録を出すことは出来なかった。

 強いて言うならば握力で腕を大量に生やした男子生徒が500㎏という記録を出しており、菓も似たようなことが出来るのだが出席番号順に計測しているためまさかのすでに計測済みというミスを犯してしまっていた。

 

「あー畜生……握力完全にしくったな……こういう形式なら一つでもああいう記録出したかったんだがな」

「よっ、栗焼。割と調子よさげじゃん。あとその体なんだ」

「こういう普通の体力テストだと単純だが体はデカいほうが有利だしな。いまは個性でデカくしてる」

「へぇ便利そうな個性だな」

 

 ハンドボール投げを終えて次の種目の上体起こしの計測待ちの間、瀬呂が声をかけてくる。

 彼は明らかに教室の時の菓とは風体の違う姿に、思わずといったふうに尋ねてきた。

 事実、鎧を纏った菓の姿は、試験の時の4m近い巨体ではないが、それでも2m前半程度はある巨体に変貌していた。

 それを菓は自身の個性故の姿だと言い放つ。まぁ間違いではないがだからと言って正解というわけではない。

 しかし菓は自身の個性の説明について説明するしにしても、いきなり「これは俺の個性で出したビスケットを鎧のように纏っている」と言おうもんなら、それぞれ特殊な個性があるという常識がある現在でも菓子を纏うという余りにも特殊すぎる個性なため、それなりに理解が面倒くさいものだと菓自身自覚している。さらにはこの場で話を長々とするのも担任の目が怖いためその誤解を解くつもりはなかった。

 

 終わったら個性の説明でもするかなと考えつつ瀬呂と話しながら、菓はそっと視線を現在ハンドボール投げを行っている生徒に目を向ける。

 現在ハンドボール投げの円にいるのは1投目を終え、これから2投目を投げようとしている受付時に見かけた緑髪の生徒……緑谷出久だ。入り口付近でともに話していた女子……麗日お茶子と飯田の二人が心配そうに緑谷のことを見ているのが見えた。緑谷自体と面識はないが一方的に知っている人物のため少々気になったことや飯田にまだ挨拶していなかったことを思い出して二人のもとへ寄る。

 

「飯田、挨拶が出来なくてすまんな。久しぶり」

「あぁ、栗焼君か! ……栗焼君か? 記憶にある姿と違うのだが……」

「そうだな、今は個性使ってこの姿になっているだけだ」

「なるほど! 今は体力テスト中だものな!」

「飯田君? この人知っている人?」

「栗焼菓だ。飯田とは入試試験の説明の時に隣だったんだよ」

「ほえーおっきい人やねー」

 

 そう言って2mを超す姿となっている菓の体を見上げてくる。

 

「いまは個性の影響でちょっとデカくなってるだけなんだ。それより飯田、あいつなんだが……」

「あぁ、今のところ彼らしい記録が無いんだ……。先ほど指導を受けていたようだが……」

「っは! 除籍宣告だろ!」

 

 飯田の言った、彼らしい記録というものが少々気になった菓は飯田に問いかける。

 

「飯田、あいつの個性を知っているのか?」

「あぁ、緑谷君は入試試験の0ptロボを殴り飛ばしたのだ」

「……あれをか?」

 

 菓は一度はやろうと思い、最終的には断念した0ptロボの完全破壊。それを彼が行ったという話を聞くが、にわかに信じがたい。試験開始前などで何度か見かけた彼にそのような強力な個性があるならばそういう人間特有のオーラや自身を纏っている。

 ましてや殴り飛ばしたという言い方ならばおそらくは身体能力を高める個性なのだろうがそれにしては尻尾の生えていた尾白という少年のように武道をしていた人間の体の動かし方などがあるはずだ。

 そういった類いの「慣れ」を持った人間の匂いが一切しない彼がそんな大味な個性とは思えないが一体どういうことなのだろうかと考えていると、気が付けば緑谷はすでにボールを握りしめ、覚悟を決めたような表情で勢いよく振りかぶっていた。

 

 大げさなほどに上体を前に倒し、遠心力をフルに使った投擲。身体能力を爆発的に向上させる個性ならばすでに発動していなければ腰の回転や両足の力などが伝わらず、普通ならばすでに手遅れの段階まで個性を発動していない。

 

 しかし、

 

「SMASH!!!」

 

 最後の押出し。指先のみにおそらく彼の個性を発動させて投げ飛ばすというよりも指で弾き飛ばす要領で勢いよく空へと消えていくボール。

 

「先生……まだ、動けますっ!」

「こいつ……」

 

 相澤に向かって痛みに耐え、苦しそうながら笑顔を見せて宣言する緑谷。

 そんな緑谷を見て相澤は口角を上げて少々顔が恐ろしいが笑顔を見せていた。

 

「やっとヒーローらしい記録出たー!」

「指が腫れあがっている……よくわからない個性だな……」

「ッ……」

 

 麗日と飯田の二人が緑谷の大記録を見て各々の感想をこぼしている中、菓は緑谷の腫れあがった指を見て、苦い顔をしたまま唇を噛んでいた。

 

 腫れあがり、紫色に変色してしまった人差し指。確実に折れていることが推測できる指を、菓はジッと見つめる。

 

『嫌だよ! やめてよママ! 痛いよ! やだ! やだあッ!』

 

「どーいうことだこらワケを言えデクてめえッ!!」

 

 そんな彼の大記録を信じられないといった顔で見ていた爆豪が緑谷に向かって突撃していくが、その前に相澤により拘束される。

 軽く注意を受け、実力的にも立場的にも上の相澤相手にどこかみみっちいところのある爆豪はいったん矛を収めたようで緑谷に食って掛かることはなかった。

 

「栗焼君っ……栗焼君!? どうしたんだ? ボーっとして」

「……ん、……あぁ、飯田か。すまん、ああいう痛々しいのは個人的に苦手なんだ」

 

 菓は飯田に声をかけられ、しばし自分の思考のみに集中していたことに気が付いた。そして、興奮していた爆豪が一先ず落ち着いたところを確認し、麗日に指の様子を聞かれている緑谷のもとへと歩いていく。

 

「なあ、あんた。指、見せてくれ」

「えっ!? えーと……あ……うん……君は?」

「栗焼。一先ず指を固定するから、少し痛むぞ。我慢できないようなら教えてくれ」

 

 そういって菓は手を数回叩き、自分の周囲にビスケットを出現させる。そしてそれらを粉末状にして緑谷の指に巻き付くように移動してがっちりと固定させる。

 

「……ッ!」

「あ、ごめん。痛かったか?」

「いや……うん。少しだけだから大丈夫。えーと、栗焼くん? ありがとう」

「別に……いいよ。とりあえず固定はしたから早く保健室に行け。……それと、あんまし……こういうやり方はやめて欲しい。俺は痛いのが嫌いなんだ。自分も、他人も」

「あ、うん……」

「ほら、応急処置が終わったんならさっさと次に行け。時間がない。それと栗焼、緑谷はまだ動けると言ったんだ、だから残りの種目をその状態でやれ。保健室(ばあさんとこ)行くのは後にしろ」

 

 

「…………は?」

 

 早めに保健室に行けという言葉に反応した相澤が、緑谷に対し続行の指示を出す。続行について緑谷本人は、相澤とのやり取りをし、それを覚悟のうえで行った痛みを最小限に抑えるやり方だったため、やりづらくはあるが行おうと考えていた。

 ……しかし、それに納得がいかないものがいた。

 

「……先生。緑谷は怪我人ですよ? それも軽い怪我とかならともかく指の骨がバキバキに折れていてどう考えても右手をまともに使える状況じゃない」

「緑谷はそれを承知の上でとった行動だ。怪我したのはあいつの個性の扱いが未熟だったからだ」

「おいおい待てよ栗焼! とりあえず今は……な?」

 

 菓は珍しく感情的になり、切島がそれを慌てて止めに入る。栗焼のすぐそばにいる麗日や緑谷はオロオロと動揺し、周りの生徒たちもなんだなんだと集まってくる。

 冷静……というよりも冷酷とも言える表情になった相澤は切島に抑えられている菓に対し言葉を返していく。しかしそれでも菓は納得いかないのか、言葉を荒げていく。

 

「痛みに耐え、こんな状態で正確な記録が出るはずもないじゃないですか!」

「……プロになった後でも、そんなことが言えるのか?」

「……」

「怪我をしているからなんだ? 痛かったからヴィランに負けてしまい、為すすべなく市民を犠牲にしてしまったとでも言うつもりか? だとすればお前はヒーローには向いてないよ」

「でも……」

「ヒーローになれば全て自己責任。出来ませんでしたでは、自分も市民も守れない。いいな?」

 

 グッと唇を噛む菓。しばらく俯いていると、その後ろから緑谷が声を掛けてきた。

 

「えっと……栗焼くん。ボクは大丈夫だから……さ? 最初からこうなる上でやったことだし……」

「緑谷がそれでいいなら……分かった。……お騒がせして、すみませんでした」

「お前の意見も全て間違いというわけではないが、勝手に怪我したやつを甘やかすのは違う。……お前らも、いい加減計測に戻れ」

 

 はーいと生徒たちが各々の計測のために散っていく。

 そこでようやく落ち着きを取り戻した菓は緑谷のもとへ歩いていく。

 

「すまんな、緑谷。騒がした」

「ううんいいよ、栗焼くん。……大丈夫?」

「……大丈夫だ。というよりも、お前の方が大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ! あと三種目だから早く終わらせちゃお!」

 

 そう笑顔で言う緑谷だったが、額に脂汗を浮かべ、時折ビクリと身体を震わせ負傷した指を押さえているため強がりだとすぐに分かった。

 痛くないはずがない。骨が砕け、内側から肉が押し上げられ血管も筋繊維もブチブチに千切れてしまったのにも関わらず、笑顔を浮かべ菓の心配をする緑谷の姿が眩しく思えた。

 

 小さく息を吐き、菓は目を細める。どこか遠いところにいるんじゃないかと感じてしまうほどに一瞬だけ儚い空気を纏わせる菓の姿に、緑谷は息を呑んだ。

 

「そうか……。凄いな……強いんだな、緑谷は」

「ッ!? ……そんな……ことはないよ」

 

 その言葉を聞いた菓は、少しの間顔を俯かせ、すぐにパッと顔を上げた。

 

「……うん。さっ、残りの種目をちゃっちゃとやろうか」

 

 そう、笑顔で言う菓はすでに先程までの消え入りそうな気配は無くなっていた。

 

 その後、順調に全員分の体力テストを終え、生徒達全員が相澤のもとに集合する。緑谷は、自分の体力テストの成績をよく分かっており、始まる前に言われた最下位除籍という言葉を脳内で反芻しながら苦々しい表情をしている。

 相澤は、緑谷の心の準備を待つような性格ではないため、さっさと彼の持つ機械により全員分の結果をいっぺんに発表する。

 

「あ、ちなみに除籍はウソな」

「!?」

 

 ……ついでと言わんばかりに爆弾を投下して。

 一瞬思考が停止した緑谷や飯田を見ながら相澤は「ハッ!」と短く笑いながら言葉を続けた。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 …………

「「「は────!!??」」」

 

 生徒たち……というよりも主に緑谷たちを中心に声を上げる。

 特に除籍がかかっていた緑谷に至ってはムンクの叫びのような表情で輪郭すら朧げなものとなっている。見る時間や場所によっては子供が失禁しかねない顔だ。

 

「少し考えればあんなのウソだとわかりますわ……」

 

 凄まじい形相の三人に対しポニーテールの女子、八百万が呆れたように言う。

 そして相澤は体力テストの終了を言い渡し、教室に戻ってからについての事務連絡を簡潔に行う。

 それらの連絡も一通り終えた後、ポカンとする緑谷に対し相澤は一枚の紙を懐から取り出して渡した。

 

「緑谷。リカバリーガール(ばあさんとこ)行って直してもらえ。明日から更に過酷になるぞ」

 

 全体の成績としては、1位と2位に推薦入試の八百万と轟。その下に爆豪、飯田と続き菓の最終的な成績は5位に終わった。1位から4位までの4人は、一つだけ大きな記録というわけでもなく、複数の大記録を出しながら全体的に高い順位で終わっていたため、常に上位に入る成績を残しながらも大記録を出していなかった菓は6番の同じく全体的に上位の成績を多くキープしていた常闇よりも競走系や幅跳びの記録が上だったため、この順位に落ち着いたようだ。

 初日から波乱万丈なものだったが、こうして雄英高校の初日は幕を閉じた。




少し短いです。
平日は仕事などもあるため、2日に一話か3日に一話くらいのペースになります。
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