海、それは大概の男性にとって喜ばしい場所。海、全ての生物の生まれ故郷。海、それはこの男にとって最も最悪な場所なのである。そしてここ、水のターミナルでは、一年中夏の季節なのであった。
「海か・・・・・・」
拓也は海パン一丁で海を見渡した。そして頭を悩ませる。もし相手が本当に海の中のデジモンなら、こちらからは手が出せ無い。海の中では、炎はむいみなのだから。シリカに付いてきた事を少々後悔していた。
「だ〜れだ?」
ふと、世界が闇に包まれた。ついでに自分の身体もなにか柔らかくて温かいものに包まれる。背中にとりわけ柔らかいふたつの感触。
「だ〜れだ、拓也。」
耳元で熱い吐息と可愛らしい声。背中から抱きしめられるようにして感じる、その柔らかさに鼓動が早くなる。多分、水着同士だからか、直接肌と肌が触れ合って、その感触がリアルに伝わってくる。きめ細かい、すべすべの素肌。
「んもう、わかんないのかなぁ。」
ちょっと拗ねたような声。
「いや、ユウキ、だろ?」
それは、わかるけど。でも、この状況の意味がわからない。
「せ〜いかい」
ぱっと、視界が開けた。夏の強い日差しと共に、目に飛び込んできたのはユウキの水着姿だった。太陽のように清々しい笑顔を浮かべて、ユウキが目の前に立つ。
「・・・・・でも、少しショックだったなぁ。なかなか、拓也が答えてくれなくて。もしかしてボクの声がわかんないのかなって不安になっちゃった。」
その言葉どおり、しゅんとした表情を浮かべる。
「いや、その、ユウキだってことはすぐにわかったんだけど。いきなりくっつかれて気が動転してしまったと言うか・・・・」
「へ〜」
ユウキの目が宝石のように輝きだした。
「気持ちよかった?」
「はぁ?」
「だから、ボクに後ろから抱きつかれて、気持ちよかった?」
いきなり何を言い出すんだろうか?
「気持ち良いとかそう言うんじゃなくて、いきなり抱きつかれるのは、その・・・・・」
「じゃあ、嫌だったんだ?」
「い、嫌じゃないけど、その、なんて言うか、世間体って言うか。」
「ボクは気にしないよ。できればずっと拓也にくっついていたいし。」
そして、にっこりと笑みを浮かべる。その笑顔に思わず胸が高鳴ってしまう。もともとユウキは身体的コミニケーションが活発だけど、ここまで積極的だったか?いや、どちらかと言うと、こっち系の話題は苦手だったような。
「ん?どうしたの、拓也。ぽかんとした顔して。」
「あ、えっと・・・・・・・」
やっぱり可愛いな、なんて思ってしまう。無邪気で感情豊かな表情。くりっとした大きな瞳。整ったプロポーション。さらさらと綺麗な髪の毛。
「ふふふ、さてはボクの水着姿に思わず見惚れたな?」
「・・・・・うっ・・・・・・」
「あ、顔が赤くなった。もう拓也のえっちー!」
「そ、そんなわけないだろ?」
「んじゃ、もっと、近くで見てみる?」
そう言って、ユウキがにじり寄る。
「いいよ。拓也にだったら、誰よりも近い場所で見せてあげる。」
ユウキの動きにあわせて、その胸が拓也の顔に迫ってくる。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
その距離はわずか数センチほど。はっきりとした肌の色。かすかに汗ばんでいるのもわかる距離。ユウキの、女の子の匂いが拓也の鼻腔をーー
「・・・・・・・なにを、しているのかな?拓也くんは?」
「『うわっ!』」
「ずいぶんと楽しそうですね?拓也さん?」
背後から、背筋の凍るような声が聞こえてきた。その声音から、相手がどんな表情を浮かべているのかが、わかりやすぎるくらいにわかる。
「あ、いや、その・・・・・・」
「あ、あははは・・・・・・・」
振り返ると、そこには鬼がいた。
「で、なにをしていたのかな?拓也くんは」
「納得のいく説明が欲しいものです。そうですね、アスナさん。」
「そうね。拓也くんの顔と、ユウキの、む、胸がどうしてそんなに接近していたのか。ちゃんと教えてほしいな。」
表情は笑顔だったけど、目はまったく笑ってなかった。ってか、なにも説明するようなことは無いと言うか、出来ないと言うべきか。となりでは、ユウキがバツの悪そうな表情を浮かべていた。
「あの、それは、多分、偶然ーー」
「偶然、なんて言いませんよね?最初にユウキさんが立っていた位置からその胸が徐々に拓也さんの顔に近づいていくまで、時間にして約47秒。避けようと思えば避けられる時間は十分すぎるほどありましたからね。」
「うっ!」
ってか、最初から見てたんかんよ!
「その、ユウキの胸に見惚れてました。」
こうなっては、何を言っても無駄なので、正直に話す。
「えへへ〜」
なぜか、隣で嬉しそうな表情を浮かべるユウキ。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
笑顔のまま、こめかみをぴくぴくとさせている、アスナとシリカ。この後に待ち構えているのはきっと、いつものあの光景で、
「拓也くん。」
「・・・・・はい。」
「エッチなのはだめだって、言ったでしょ!」
真昼間の海水場に、アスナの声が響き渡ったのだった。
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