「あれ?シリカたちは?」
さっきまでそばに居たと思ったのに。
「そう言えば、見てないね。まだ、泳いでるのかな?」
視線を海の方へ向ける。たくさんの海水浴客たち。この中から見つけ出すのは大変そうだ。って、別に無理に探す必要もないか。子供じゃないんだし、お腹がすいたら勝手にメシにするだろう。
「ってことは、ユウキとふたりか?」
「うん、そうだね。」
にっこりと笑顔を浮かべる。
「って、拓也、ボクとふたりじゃいや?」
その表情が少し曇った。
「そんなことないぞ。」
「えへへ、良かった。ほら、並ぼ?」
一転、再び笑顔になる。拓也とユウキは二人して海の家の注文待ちの行列へと並んだ。
「拓也、どう?ラーメン美味しい?」
「味的には微妙だけど、雰囲気も合わせると及第点だな。」
やたらと塩気の濃いスープを纏った、ゴムのような歯ごたえの麺をすする。砂浜の味がした。
「ボクにも一口頂戴?」
「あぁ、いいけど。」
拓也は割り箸をユウキに渡した。
「えへ、いただきま〜す。」
長い髪を耳元で押さえるようにして、ラーメンをすする。なんというか、こう言う何気ない仕草ひとつで絵になるんだよなぁ。そして、ユウキが食べているだけで、それが美味しそうに見える。まるでテレビCMみたいに。
「うわ〜、しょっぱいね。麺もごわごわしてる。」
「でもウマイだろ?」
「うん♪」
笑顔でうなずいてくれた。この気安さもポイントが高い。外見だけ見ると完璧で隙が無さそうなのに、実際に話してみると気さくで、結構隙も多い。完璧な外見に親しみやすい内面。男子プレイヤーに人気になるのもうなずける。
「ありがとー。お返しにボクの焼きそばを一口あげるよ。」
そう言って、ユウキが焼きそばを一口分割り箸で摘むと、拓也の方へと差し出してきた。
「はい、あ〜ん。」
とびっきりの笑顔で言われてしまう。つまり、これはあれだよな。男にとっては夢のような、それでいて鬼門のようなシチュエーション。周囲の視線が拓也に突き刺さる。そりゃそうだ。ユウキはどこに居たって注目の的なんだから。そして、そんなユウキが、
「あ〜ん。」
とかしてるわけで。しかも水着で。
「・・・・・・・・・・。」
なんというか、反応できない。あ〜んは嬉しいけど、
「・・・・・・・・・・。」
周囲の視線は厳しい。この目の前の焼きそばを口の中に含んだ瞬間、どんな暴動が起きても不思議ではない。そんな緊張が周囲を包んでいる。
「拓也に食べてほしいな、ボクの焼きそば。」
「ぐっ。」
少し首をかしげながらそんな風に言われてしまったら、食べるしかないわけで、
「んぐっ。」
拓也は意を決して、ユウキの割り箸に口をつけた。口の中に広がるソースの味。
「おいしい?」
「あぁ、美味しいよ。」
正直な話、味なんてぜんぜんわかんなかったけど。
「えへへ。間接キス、だね?」
ユウキが照れながら、恥ずかしそうにそんなことを言う。頬が赤かった。そして周囲の緊張はさらに高まっていく。嫉妬の視線が突き刺さる。嬉しいけど、辛い・・・・・。
「もう一口、どうかな?」
赤い顔をしたまま、ユウキが少し潤んだ目で拓也の前に箸を差し出した。
「はい、あ〜ん。」
この幸せ地獄はまだまだ続きそうだった。
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