せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!   作:あずももも

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15話  正解と、氷解と

 

「……………………え。 ……と、リラ? な、何を言っているのかしら?」

「………………………………………………………………………………………………」

 

ジュリーお嬢さまの瞳がさまよったのを見逃さなかった。

 

心理学の知識として、そして商人……の娘としての経験から、カマをかけた反応で、お相手が嘘をついているかとか、あとは虚勢を張っているかとか、そういうのにはけっこうな自信がある。

 

僕は大勝負っていう博打はキライだから、ふだんはもっと調査とかして情報を集めた上で、ここぞってときに使うんだけど………………………………今は、大恩人な大天使に対して、世話を焼きたい相手から世話が焼けないどころかメンタル面では……こんな状況でも安定してますよ?って知らせなければ、「かわいそうだからかわいがってあげなきゃいけない義理の妹」という立場が固定されてしまうからしょうがない。

 

なかったんだけど………………………………よかった、お付きの人たちもおろおろしてるあたり、まだぜんぜん話してないけどジュリーさまがムリしてるタイプのお人だってのは合っていたらしい。

 

「ジュリーさま」

「リ、……リラ?」

 

頭の上から離れたお手々をああすべすべでやわやわでおっとちがうちがう、僕よりは大きいけれどほっそりとしてやーらかいお手々を静かに包み込ませていただく。

 

そしてさっきは7割だった上目づかいを9割に引き上げる。

 

オマケに商談をあと1歩のところでポカミスで逃したときの悔しさを思い出し、軽ーく目を潤ませて、10秒足らずで涙を一筋二筋流れさせる。

 

………………………………女の武器にはまだほど遠いけど。

 

いいや、使わない手はないんだしな。

 

どう見ても、せいぜいが少女の武器だけども、それは気にしない。

 

嘘泣きは最終手段のひとつだからな。

 

今までコレのおかげで切り抜けてきたのが何度もあったんだ、今使わなくてどーする。

 

「ジュリーさま。 ジュリー、お嬢さま。 あなたはほんとうは、改まった場に畏まったお姿で出向くのはお好きでないはず。 いえ、きっと、多少ならば平気ですけれどもずっと続けるのは苦痛なはず。 ほんとうはむしろその逆で、慎ましやかでも静かにしていたい………………………………性質をお持ちです。 きらびやかな場でたくさんの人と上辺だけのおはなしをするのではなく、そう、たとえば緑の中で、ほんの数人の仲がいい人たちと、ゆっくりとした時間を望まれている。 ……人の、基本的な性質、性格というものは、ある程度繕うことはできても、変えることはできませぬゆえ」

 

中庭で木漏れ日の下、本のページをめくる画が目に浮かぶ。

 

緑と茶色に柔らかい光が差し込む空間に、それを受けてきらきらと輝く金髪と赤い優しい瞳。

 

なんてお似合いなんだ。

 

みんなと同じ格好でも、どこか決定的にちがう気品に包まれているような、そんな……高嶺の花どころじゃない、神聖な印象を持っていて。

 

うん、ジュリーさまが現代に生まれて学校に行っていたら、きっとそんな感じだろう。

 

「さらに言えば……たぶん、お貴族さまとしての、ご令嬢としての言葉づかいもお好きではなくて、もっとふつうに、ごくふつうにおはなししたいという、僕たちに近い性格のお方。 回りくどい言い方も、本音でない駆け引きも、そういうのも、ほんとうは、とってもお嫌い。 けれど、ずっとしていたから今さらは戻せなくて………………………………と、いうところかと」

 

だって、ちょっと観察していただけでも……なんでもないことでも言いにくそうにしている感じな場面があまりにも多かったから。

 

だから僕は、たたみかける。

 

確証がないから、勢いで。

 

「たぶん……お外はともかくお家では、ふつうに、使用人の方たちに囲まれたりしないで、おひとりで楽なお姿で過ごしたい。 いえ、使用人の方たちはむしろ大好きなので、こうしてかしずかれるのではなく、対等に過ごす時間だってほしい。 あるいはお友だちと静かにおはなしされたい。 そういう……持って産まれたジュリーさまの性格を、お貴族さまの長女としての義務感で無理やりに矯正をさせられ……いえ、それもご自分からしているのだと思います。 それはすごいです。 ほとんどの人は、まず気づくこともできないです。 ………………………………けれど、いつかそれは、いちばん大切なときに崩れます」

 

なんか適当にしゃべっていたら思ってもいなかった感じのそれっぽいのがすらすら出てくるあたり、前世の僕、あるいは身近にそういう人がいたんだろう。

 

もしくはそういうお仕事か。

 

メンタルをケアなお仕事?

 

ジュリーさまもうつむいていらっしゃるし、あながち外れてもいないみたい。

 

……よし、ここまで言っても周りの誰も邪魔してこないってことは実はコレ、ジュリーさまをなんとか支えないとって感じだったんだろうか。

 

ここにいるみなさんは小さいころからお世話していたはずだしうああらやましいジュリーさまがミニジュリーさまであられたころからずっと身の回りをおはようからおやすみまでずっとずっとなんてああ自然と涙が出て来ちゃうどうしてくれるんだ。

 

と、本気の涙のせいで、思わずひっく、ひっくってなってきちゃうじゃないか。

 

「………………………………ひっく……ほ、ほんの少ししかおはなししていませんけど……。 ここじゃなくて、もっと人のいるところでは……ときどき、他の人に見えないようにため息をついていました。 その感じですと、たぶん……ふだん社交場からお帰りになってからは、帰られて服を着替えたらしばらくなにもできないで、力が抜けたみたいになられるかもです。 ごはんも、褒めるために無理やりに食べていらっしゃるのを見ました。 ひょっとしたらそれでおなかを痛めることが多いのでは。 あと、さらに言えば愛想笑いとかいうものを心の底から……、ぐす」

 

「………………………………もういいですよ、リラ」

 

………………………………しまった。

 

僕がやらかしたかもって思い至って、無意識で涙をこぶしでぐしぐしやっちゃったくらいに、それを悟る。

 

なんだか口の勢いのまんまに……たぶん前世でのトラウマチックななにかのせいかもしれないけど、こんだけまくし立てちゃってたもんだから、しゃべりすぎてジュリーさまに嫌われるって可能性、すっかり抜け落ちてた。

 

………………………………………………………………………………………………。

 

やばいかも。

 

どうしよ。

 

これで決定的に嫌われたりして距離置かれたら、本気で凹む。

 

言い過ぎた僕自身が恨めしい。

 

ああ、どうすれば。

 

「………………………………分かりましたから。 貴女が、リラが、……少なくとも私と近しいお年で、経験はきっと上だということも。 ……あと、ほんの少しの時間で……よくそこまで気がつかれたのだと。 驚きすぎて何も言えないくらいに感心してしまいましたわ。 ………………………………ああ、もちろん怒ってなどはおりません。 前々から、一部の者の前以外では隠していたのですから。 ね、みなさん?」

 

………………………………おや?

 

お怒りでない?

 

女神だから?

 

僕の唯一神なお方だからか?

 

オンリーマイガッデスだから?

 

てことはセーフ?

 

「それにしても、他人……失礼、他人だった方からこれを、それもああもはっきりと見通されていたというのは、初めてですわ。 まるで占い師かなにかみたいですね、リラは。 ……それも、とてもとてもお優しい心を持たれた」

 

外れていたとこ、なさそう?

 

……なんか、すっごい運を使っちゃった気分。

 

とと、お返事お返事。

 

「……僕は、女の身ではありますが、家ののれん……ではなく名前を使って好きにしていいと父から認めてもらえていて、店を構えようという夢を持っておりましたゆえ、人の観察は当然です。 ジュリーさまに今してしまったことは、申し訳なく思います。 ………………………………なのでどうか、ジュリーさまのために、そして僕のために。 ……これからは、お世話になるあいだは……僕に対しても、ご家族やここの方たちと同じように、もっと楽に話されてください。 だって、義姉妹、なのですから」

 

 

 

 

さて、博打のタネ明かし、もといただの心の整理をば。

 

まずもってジュリーさまは天使だから、今言ったようなものを持ってるだなんてはじめは思ってもいなかった。

 

だからただただジュリーお嬢さまを愛でるついでに観察していたら、「妹」として過剰にハグハグされたり膝とおっぱいに包まれたりしてふかふかほわほわうへへってしていたら……浮かんでしまったんだ。

 

僕の前世と今世の経験則っていうものが、その可能性を……こう、パッシブスキル的に。

 

気がつくっていいことばっかりじゃないんだなーって思ったりもして。

 

けど、ピンと来ちゃったもんはしょうがない。

 

で、1回思いついちゃった以上、気がつけば僕の中でどんどんと証拠がたまっていって、……んで、途中からはその先のことまでしゃべっちゃったって感じなんだろう。

 

まー、実際心配でもあったしな、しょうがない。

 

けど、怒られも嫌われもしなかったんだから結果オーライ。

 

だって僕の命の貞操の……心の全存在の恩人なんだ、すべてにおいて僕ができるすべてを使ってご奉仕させていただかなければ僕が生きている価値がないんだから………………………………、おっと、ネガティブよくない。

 

で、――どんだけ情報を集めても、「公爵令嬢」として……それも、幼い頃からできすぎているって印象が拭えないくらいにできていらっしゃるジュリーさま。

 

だけど顔はいつも青ざめているのをお化粧で隠しているし、しょっちゅう……外の人に見られないようにしかめたり胃のあたりを抑えたりしているし。

 

こっそりあったかい飲みものや湯たんぽ的なものをお付きの人から手渡されているのを何回も見かけたし。

 

決して月のものとかじゃなくて、それは、ご令嬢としてのお仕事をされている片手間に、悟られないように……って、ちょっとのあいだだけだけど、でも、いつもいつも。

 

それが顕著なのが、来客があったりお仕事として出向かれた先っていうのが……ねぇ。

 

紹介がてら、あとは僕のことを気にかけてくださってお側にっていうかおひざにおみ足におふとももに乗せていただいている時間っていうのが。

 

ごめんなさいジュリーさま、僕の体温低くって、あったかくなくって。

 

……んで、そういうのは……人と会うたびに苦しくなるっていうのは、たぶん僕には、ない。

 

少なくとも今世では。

 

前世ではどーだか分からんけど。

 

克服したのかな?

 

それはともかく、いつものごとく寝かしつけられるもんだからしょうがなく寝たふりをして、与えられたやったら豪華なお部屋でひとりになってからこっそり……眠れなくて月明かりで暇つぶしに本を読んでいたら、夜中なのにジュリーさまのお部屋から苦しそうなお声がして。

 

こっそりと覗いたら、………………………………………………………………吐いてた。

 

それはもー、ふだんのジュリーさまの量からじゃ多すぎってくらいの食べものを。

 

んで、そこからは確信して焦った。

 

だって、………………………………これ、あかんでしょ。

 

あかん。

 

やばい。

 

なんで、って。

 

過食からの嘔吐って、ストレス抱えすぎた人の典型的なパターンのひとつじゃんって。

 

女神さまなのに、女神さま過ぎてお体を壊されてどーするって。

 

ストレス抱え込まれ過ぎて、吐き出す場所がなくて、だから物理的に吐くっていう……無意識の本能を使われているんだって。

 

で、あとはそっからさりげなーくジュリーさまの幼かったころのことを聞いたりして……実はおてんばな一面があるけど、基本的には自然体ってやつが好きなお人で。

 

んで、こっそりお部屋に忍び込んで書いたりしたメモとか日記とかを拝見して。

 

その過程でいろいろとうれしい情報とかもたんまりとぐへへ、あ、いや。

 

これは怒られるだろうからぜったいに言わないようにせんと。

 

そんでもって、もう少し経って仲良くなって信頼されてから、さりげなくストレス緩和のためのお手伝いをしようって思ってた矢先の今日だったもんだからねぇ……………………………………だからその、つい、言っちゃった。

 

ドンピシャだったみたいだからよかったけど、……いや、よかったんだ、うん。

 

……………………………………………………………………………………………………。

 

こんだけ現実逃避しててもだーれもなーんにもぴくりともしない、静まりかえっているお部屋の中。

 

少し涙を拭ってるジュリーさまを、メイドさんたちが見守っている。

 

……………………言うことは言ったんだし、空気、変えないとなぁ。

 

「………………………………ジュリーさま」

「………………………………、リラ…………」

 

やばい、泣いちゃう。

 

泣かれちゃう。

 

僕のニセ涙とは違って、ほんとうに感情が昂ぶられて出てくる、できるのならば僕のべろで目元からじかに舐め取って差し上げたいいかんいかんこんなときに煩悩退散。

 

というか涙ぐんでるジュリーさまって目元とほっぺがほんのり赤くなってふだんは凜とされているのにすっごくキュンとくる感じの庇護欲をそそってきて僕まで赤くなってきそうでつまりはものすごい破壊力。

 

これはいけない。

 

僕の回路が焼き切れちゃう。

 

あってないような理性も吹っ飛んじゃう。

 

脳内に保存してあとで何度も何度も鑑賞するだけに留めなければ、僕がやられてしまう。

 

その先にどーなるのか、僕にも分からんのがやばい。

 

「……ジュリーさまのおっしゃるとおり、嘘はよくありません。 それは、ご自身を傷つけること、………………………………です。 ジュリーさまがずっと続けておられるでしょうそれは……他人からでなくご自分からなので。 ご自分をご自分で、助けられないのです」

 

ぐすん、とか聞こえて来ちゃって僕の心拍がいよいよやばいことになってきたからおなかに力を入れて踏ん張って耐える。

 

「だから。 それに気がついてしまったので、どうか僕に。 ジュリーさまが少しでも楽になれる………………………………、そんなお手伝いをさせてください。 メイドではなく、……妹として。 おそばで、少しだけお手伝いする、だけですから」

 




リラちゃんのクリティカルヒット。 それはとてもすごいことで、ジュリーちゃんにとっても必要なことだったのですが……その半分以上がリラちゃんの頭の中の煩悩から生まれているなんてことは、世界でリラちゃんしか知りません。 なので、このリラちゃんを見ているジュリーちゃんをはじめとした人たちからの、リラちゃんの印象は……。
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