せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!   作:あずももも

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34話 いやいやこれしきのことで死ぬとかないから、そーゆー体質だからっ! 大ごとにしないでくださいお嬢さま方!

 

シルヴィーがリラを、ジュリーと会う前から念入りに調べていたと言うこと。

 

そして……リラに向けて、ずっと疑惑の目を向け続けていたと言うこと。

 

そのような告白を終え、どこかほっとした調子のシルヴィーは……安心と不安の入り混じった視線を控えめに、ちらちらとジュリーへ向けてきている。

 

ジュリーは、そんな彼女を……初めて見るような彼女の仕草を見て、いささかにほっとした様子で。

 

「………………………………いいえ、シルヴィー。 その気持ちはとても嬉しいものです。 それほどまでに私と……リラのことを、想っていてくれたのですから」

「やーよ、そんな風に言わないでって。 私、そういう風に言われるの苦手なんだから。 知ってるでしょう?」

 

やっぱりこのベッド固いわね、よくこんな所でこんなにぐっすり寝られるものね……などと言いながら、リラのほほをつつくのを止めないシルヴィー。

 

そしてそれを……少し羨ましげに見つめつつ、けれども少しだけ口を尖らせてジュリーがつぶやく。

 

「でも。 ……それが私のことを想ってのことだと、充分に分かったけれども。 せめて少しくらい相談してくれてもよかったと思うのですけれど、シルヴィー?」

 

「だーって、相手はすごいのよ? 寝ているときはこんなに無防備でかわいいけれど、その正体は国じゅうに……いえ、商家としてのつながりを使ってでしょうね、他の国へも数えきれないくらいの人を派遣しているくらいだもの、迂闊に手が出せないというのもあったわ。 考えてもみて? もともと……そう、あなたのところへ来る少し前には、自分の家の資産をたったひとりで何倍にもして。 あなたのところに来て少ししたらすぐに家長……お父さまに認められて、いろいろと任されて。 使い道はなかった狭い土地や飛び地なんかをうまーく使ってよ? ……実質的に公爵家のあなたの家の資産もまた、何倍にもしているの。 はっきり言って、手元にあれば生きる宝箱であり、そうでなければいろいろなものを奪っていく化け物よ? それを知っている人たちからの扱いは。 そりゃあもう警戒するの待っているでしょ? さっき私が言ったみたいに、何か得体の知れない魔法なんかを使っているんじゃないかって」

 

「………………………………嘘、……ではないのですよね、それも。 私それは初耳ですけれど……ほんとうなのですね、きっと。 けれどもシルヴィー? 魔法だなんて、あるわけがないでしょう。 さすがに私だって知っていますよ、そんなものはお伽話の世界の存在だって」

 

「分からないわよー? だって、この歳で、私たちと変わらない年で、私たちと同じ女の子で……それをやってのけているんだもの。 それこそ、魔法で遠くのことまでを見通せる力くらい持っていても不思議ではないわ。 意識してかしないでかは分からないけれど。 ……ま、今まで言ったみたいなのはぜーんぶ、リラのことを知った段階での憶測でしか過ぎないんだけれど。 この子のことをよく調べて知ってからは、きっと無実なんだろうって分かっていたのだし。 最後の確認で昨日、このお部屋とこの子のお部屋も調べさせてもらったけれど……あ、これももちろんあなたのお父さまの了解を得ているわ?……そこにあった書類などを見ていたら違うと分かったもの。 どうしても開けられない扉なんかはいくつかあったけれど……まあ誰にだって隠しごとはあるものだし、何よりあなたの家の機密情報だろうから、無理に開けようとしなかったわ。 見張りの方も恐かったし? くすっ」

 

そう言いながらゆっくりとベッドから起き上がったシルヴィーは、リラを抱え上げて……またもや彼だった彼女が知ったとしたら歯ぎしりしたであろう密着具合で、そろそろ戻ろうと告げた。

 

「………………………………けれど。 ほんとうにどうやったらそんな情報まで集められるのかってものまであったけどね。 例えば私のお父さまの、内緒のウワキ相手とか」

「え?」

 

「……はぁ――……あのね、残念だけども、いるみたいなのよ。 お父さまったら……それで男子が生まれたりでもしたら大変なことになることくらいわかっていらっしゃるはずなのに、もうっ。 だから私が帰ってすべてを報告したら、お父さま。 お母さまにたんと叱られて、たっかいものいーっぱい買わされるでしょうね。 かわいそうだけれども、後々のことを考えたらしておかないとまずいのだもの。 ああ、帰りたくないわ」

「………………………………えっと、その。 がんばってください?」

 

「まー、おかげでいきなりお家騒動を持ち込まれる未来は避けられそうだから感謝しないといけないけれどね。 ……この子、何をあげたら喜ぶのかしら。 物欲無いみたいだし」

 

「でしたら、なるべくこうしてお泊まりして……抱きかかえてあげたらいいのではないでしょうか」

「それもそうねぇ、この子、とにかく抱っこしているあいだはムチャとかはしないだろうし」

 

ろうそくの火を消し、ふたりぶんのランタンを手にとってジュリーが扉を開けると……部屋の中の会話を聞かないようにと部屋から出て少し離れたところに立っていたふたりの家の付き人たちが、 静かにその灯りを受け取る。

 

リラを代わりに抱えて行こうかという問いに、シルヴィーは静かに首を振って歩き出した。

 

「……ですがこれで。 私にこうして知らせてくれたように、リラは、この子は、ただ……この子が幼いころからすばらしい才能と頭脳を持ち合わせているというだけで、私やこの家、あるいはあなたに害を及ぼすようとしたりはしていないということがわかったのですよね。 よかったですわっ」

 

「…………、それが、良くないのよジュリー。 話は、まだ、終わっていないの」

 

心なしかリラを抱える腕に力を込め、ゆっくりと、しかし確実に帰路を歩くシルヴィー。

 

「……ここからは、わざとこの人たちと一緒に聞いてもらいたいのだけれど、ジュリー。 この子ね? リラを、このままこんな無茶をさせ続けていたら、そう遠くないうちに――――――――――――死んでしまうわよ。 そうでしょう? リラを間近で見てきたあなたたち」

 

シルヴィーがそう言うと、シルヴィーと、そしてジュリーに視線を向けながら一様にして頷く周りの……リラと、「同僚として」働いている者たち。

 

「……………………………………………………………………え? し、死?」

「そ。 あなた、この子が毎日どのくらい寝ているかは知っているかしら?」

 

「え、ええと……私を寝かしつけて起こすまでの間だから……私よりも少し短い、の、かしら」

「いいえ? そんなものではないわ。 この人たちにも聞いたけれど、この子、ほとんど寝ていないらしいのよ? それこそ毎日、これからくらいの時間まで起きていて。 それで少しだけ寝て、日が昇ったらすぐに起きて、明るくなりきるまでさっきの部屋で延々と仕事をして。 それで朝食の時間になってからようやくあなたの所に向かうらしいの」

 

「………………………………そんな」

「このことは何よりも、この子を本気で心配しているこの人たちからの証言よ。 こんな生活を、あなたのお父さまに認められてからすぐ、ずっと、ね」

 

「……それは、いつも、という意味、なのですよね? その言い方、ですと」

「ええ」

 

「…………、だって、あの子。 リラは、私と同い年なのですよ? 体も、小さいのですよ? そんな生活を……私の世話のためだけの生活を、そんなに続けていたらっ」

「……」

 

「あまり眠らなくても平気な体質だとは言っても……、そんな生活を、ずっとなんて続けていたら」

 

「ええ。 …………だから、何度か昼間に倒れていて。 それを他の人……今日来てもらった、あなたの家の人たちに発見されて、介抱されてやっと目が覚めて。 ……そんなことがあったと、絶対にあなたに言うなと言われていたと。 そう、問い詰めて、聞き出したの。 他ならぬ、リラの「同僚」としても働いている、あなたとリラを心配している、この人たちに」

 

「………………………………、嘘、……で、しょう?」

 

恐る恐るという具合に見慣れた顔を見渡すジュリーだったが、……そのどれもが、真剣な表情で……申し訳なさを込めたそれを、ただただ彼女に向けている。

 

「……嘘。 ……リラが死ぬなんて、嘘。 嘘、よ。 ……嫌。 私、そんなの」

 

 

 

 

あー、失敗した。

 

昨日はつい……おふろで手が滑って。

 

これは誓って、手が滑っちゃったせいで、ジュリーさまのとっても大切なとこを間近で見ちゃった上に触っちゃうっていう、どこぞのマンガのスケベ主人公みたいなハプニングに出会っちゃったもんだから。

 

ああ、………………………………………………………………。

 

………………………………………………………………、うん。

 

未だに僕の中で尊さと嬉しさと感謝と罪悪感とその色形とぷっくりとかすかな、……視覚と感触とが混じっているせいで、つまりは今世いちばんに激しく興奮していて。

 

だから寝付けなくって、なにかしていないとおかしくなっちゃいそうで、だからとうとう徹夜でお仕事をしちゃって片づけちゃった。

 

それなのに、まっ昼間に廊下でばたんきゅーと寝落ちしちゃってみんなに心配かけちゃったのは職務怠慢というほかない。

 

反省せねば。

 

………………………………………………………………………………………………。

 

うん、反省した。

 

もう何回目かだけど。

 

まー、もう何回目かだからみんなも慣れてるだろーし、寝付けなかったから……って過少申告気味な事実を言い含めておいたから大丈夫だろう。

 

……まったく。

 

僕ったら、こういう予想外の嬉しさを味わうたびにこうなるんだから。

 

 

 

 

「……そのときはすぐに気がついたみたいだけれど。 いえ、ほとんどの場合はすぐに気がついて、お医者さまも問題ないとおっしゃる、らしいのだけれど。 他の人に心配をかけるし、何よりもジュリー、あなたたち家族にはもっとそうだろうから、秘密にしておいて、と。 自分は大丈夫だから、健康だから大丈夫、だと。 そう言って……ここの人たちよりも上の立場という、あなたの妹というものを盾に、絶対に報告をさせなかったそうよ」

「…………………………………………………………………………………………っ」

 

ぽた、ぽたと涙を床に落としながら聞き入るジュリー。

 

「他にも………………………………そうねぇ。 先ほど話したものになるのだけれど……する必要はないのに、なのに、あなたのお父さまに、商売はお手の物だからいくらか任せて欲しい、と頼んで……あの事件から気が紛れたらいいからって、試しに任せさせたそうなのよ、あなたの家の財政を。 ……そうしたらしばらくもしないうちに領の財政が格段に良くなって、問題点を書き出した報告書とともに手渡したそうよ? ……これは、少し前から私のところでも確認済みの事実ね。 おかげでリラに対する意識が向いたのだけれど。 だからこそ、あの事実が分かったってわけ。 あなたのお世話だけではまだ足りないって……自分の恩義は、こんなものじゃない、って」

 

このちっこい頭のどこにそんなかしこさが眠っているのかしらね、と、先ほどと同じようなことを言いながらリラの髪を片手で梳きつつシルヴィーが……独白のように綴る。

 

「それも……どうせ無くなるのなら役に立てて欲しいからと、あの子の……今は亡き、あの子のお父さまのお家の販路っていうものを、すべて渡すまでして、ね。 だからこそすぐにそうなったわけみたいなのだけれど。 ……その働きに対して、その権利や情報を使って領を豊かにしていることにたいして相応の対価も、財政を担うことに対するお給金も払うって……あなたのお父さまがいくら言っても。 あなた……ジュリーという姉がもらっているものよりも少ないおこづかい以上は絶対に受け取らないって、頑として首を振らなくって。 ………………………………それはもう、いじらしいを通り越して、痛々しいくらいのあなたに対する忠誠を持って、ね」

 

そうして平然を装っているシルヴィーの声も、どこか震えているようで。

 

前で、後ろで付き従っている者たちの中からもまた、すすり泣きのようなものが……長い長い廊下に木霊していた。

 

たったひとりの……こんこんと眠り続ける、小さな小さな少女の境遇を、身を案じて。

 




リラちゃんのあれこれがバレ続けた挙げ句に……報いとなる勘違いが訪れます。 なおその原因はただの煩悩の塊だった様子です。 みなさまご存じのように。 煩悩まみれなくせに、意外とピュアなところがあるあたりは今世での年相応……なのかもしれません。
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