せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!   作:あずももも

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序盤も序盤ですが、いちばんのどん底です。ここがいちばんに悲しくて、そこから1話まで戻っていくのでご安心ください。タイトルを叫ぶ程度にはハッピーエンド?となります。


7話 不幸は平等に、唐突に

 

僕は、中世をなめてた。

 

今世を、なめてた。

 

なんか妙にうまく行くもんだから、なんとかでもやっていけるって。

 

そう、楽観的に思い込んで……なんにも起きないのを前提にして、生きていこうって思っていたんだ。

 

その結果が、これだ。

 

目の前には、いくつもの、石でできた横長のものの、頭の上の部分に……名前とかかんたんな履歴が掘ってある石が立っている。

 

足元には石でできたフタがあって、そこには人だったものが眠っている。

 

お墓。

 

前世じゃたぶん映画とかでしか観たことが無くって、今世でもそんなに見ることがなかったやつ。

 

それが僕たちの周りに10以上、遠くにはもっとたくさん、無数に……地面の起伏に合わせて、ある程度まとまって並んでいる。

 

お墓が。

 

……噂にも聞いていた中世。

 

いや、つい最近の近世まで……前世の僕のいたところがどうだったのかは分からないけど、でも、人類の敵は戦争でもなんでもなくって……病気、疫病だったんだ。

 

病気を怖がって……当たり前なんだけどな……手伝いに来てくれた、いや、生き残った使用人の人たちとその親戚の人たちしか集まらなかったお葬式で、僕は思う。

 

広い墓地の……お金に任せて買ったし、ご先祖たちもまとめてお引っ越しさせてきた、見晴らしのいいところに。

 

僕の家族だった人たちが、みんな入っている。

 

使用人の人たちもけっこうたくさん、おんなじくらいの大きさの石に入れてあげた。

 

僕にとっては10年以上世話をしてくれた人たちだし、お金とか、もうどうでもよくなったし……で、先祖代々のお墓の土地に一緒に入れてあげた。

 

もう反対する人もいないしな。

 

もう、誰ひとり。

 

………………………………まさか、僕以外の家族がみんな死んじゃうなんて。

 

つい先週まで……みんなが具合悪いって、いっせいに寝込んで……流行病とおんなじ症状かもって、お医者さんが逃げるようにしながら言い残して出て行くまで、思ってもみなかった。

 

僕は中世っていう時代をなめていた。

 

けど、きっと、なめていなかったとしても、なんにもできなかっただろう。

 

最近広まり始めていた、タチの悪い病気。

 

はじめは遠くの町でそうなっているらしいって話が流れてきていて、それで、町の反対側でもだいぶ広まっているらしくって。

 

おかげで商売どころじゃなくなってきていたところに、これだ。

 

……タチの悪いことにみんなの症状が割とバラバラだっていうのもまた拍車をかけているらしい。

 

けれどもそれは僕にとってはどうでもいいことだ。

 

もはや、ほんとうに、どうだって。

 

……僕にとって大切だったのは、新しい、今世の家族たちがみんないなくなっちゃったっていうことだ。

 

天涯孤独の身ってやつになっちゃったっていうわけだ。

 

うざったかったっていっても、やっぱり家族は家族で。

 

しかも、女の子としてではあるけど、相当にかわいがってもらっていたんだから……いくら僕だって悲しくはなる。

 

そこそこ、いや、かなり泣いたけど……飽きるまで泣くと、少しだけ楽になった。

 

で、そうなると、この後のことを考えるだけで精いっぱいになって……ときどきに泣きながら、まずはってことで、避難先だったはずの別荘を駆けずり回って、書類を集めて回った。

 

……だって僕の家……もう、僕の……は、父さんを中心とした、ご先祖たちから受け継いだ、家族経営の商売みたいな感じなもんだから……父親が死んだからはいおしまいっていうわけにはいかない。

 

もちろんお葬式のあとしばらく……特に今は、まだまだ疫病が続いているからどうせ相手先の人たちも動けないから心配は要らないけど。

 

でも、このあとのことがあるんだ。

 

僕は、生きている。

 

そして、少ないながらも使用人の人たちや働いていた人たちも生きている。

 

その人たちの家族も、生きているんだ。

 

だから僕は、これからがんばらなくっちゃ、なんだ。

 

父さんたちの分まで。

 

……僕が生まれる前からの商売で作ってきたネットワークっていうもの、それが僕にとっての唯一の家族の遺産になっちゃったもんだから。

 

写真なんて、ないんだから。

 

最後に描いてもらった、2年くらい前の肖像画しか……実家にしか、残っていないんだから。

 

………………………………日に日にみんなの顔が、薄れていく。

 

だからせめて、情報だけでも残しておいて……覚えておいて、その先へつなげていかなきゃならない。

 

まだ、……たぶん数週間は、みんな、町の中どころかきっと国じゅうどこだって、なんにもできない。

 

そのあいだに、僕は家を、きっと実家の父さんの部屋をはじめとしたあちこちにあるはずの大切な書類……権利書とか、いっちばんに大切なものを集めきって、管理できる程度に整理して、それで、商売を続けていかなきゃならないんだ。

 

じゃないと僕は、生き残っちゃった僕は、死んでも死にきれない。

 

……2回目に死ぬっていうのはどんな気持ちかわからないけど、でも、死ぬならやっぱり満足してから死にたいんだから。

 

僕はしゃがみ続け過ぎて痺れていた脚をゆっくり伸ばして立ち上がって、ととと、とよろけたとこを隣で待ってくれていた使用人の人に抱きかかえられて……その使用人さんたちと少しだけ話したあと、父さんたちが埋まってしまった場所を後にする。

 

この後にやらなきゃいけないことは、まだまだあるんだ。

 

こんなとこで止まってるわけには、いかないんだから。

 

 

 

 

家が、燃えている。

 

家のある区画一帯が、炎に包まれている。

 

火の粉がパチパチと上がっている。

 

夜なのにまぶしい。

 

熱い。

 

こわい。

 

この時間なのに、このあたりは病気にかかっている人が多いっていう理由で人が寄りつかないようになっていたのに、通りには数え切れないくらいの人が駆けつけてくれていて、バケツリレーで水をかけてくれている。

 

中世の……石造りの文化なこの地域の家っていうのは、石造りなんだけど内装とか屋根とかは木がメイン、その上にどの家もくっついて建てられている……密集しているもんだから、火事っていうのはこの世界でも他人ごとじゃない。

 

だからこういうときばかりはいろんな人が駆けつけてくれるはず……なんだけど、僕の家の前だけ人がいない。

 

………………………………いや、いない、じゃないんだ。

 

抜き身の武器を手に持っている鎧を着た人たちが、周りの、水をかけてくれようとしている人たちを近づけさせていないんだ。

 

なんで。

 

どうして。

 

……理由はともかく、そんなもんだから僕の家の前だけ誰も人がいなくて、火花が上がり続けているんだ。

 

真っ赤にもなっているんだ。

 

オレンジ色の火のせいで、その人たちの顔を分からないけど、でも、斧とか槍とか剣を持っているのだけは……金属が紅く染まっているんだから、はっきりわかる。

 

こわい。

 

僕が僕として、リラとして産まれて……初めての、心のそこからの恐怖という感情。

 

家事っていう非常時、野党崩れとかだったりしたら、どんな目に遭わされるか分かったもんじゃないっていうのが常識で、お母さんからよーく言われてきた。

 

だけど、行かないわけにはいかないんだ。

 

だってあの家には、父さんたちが築き上げてきたものの多くが……紙が、情報が、遺品が残っているんだ。

 

だから行かないわけにはいかない。

 

だから僕は、使用人の人たちには別の倉庫とかに行くように言って、止めてくれようとした町の人たちを遮って、その人たちの前に近づいた。

 

………………………………………………………………。

 

………………………………正直すっごく強かったけど、思ったより素直に……武器を下げてまで、その人たちは道を開けてくれて、僕は家の前までたどり着けた。

 

……よかった、火は1階にしか、それも、まだ燃え移ってきてすぐみたい。

 

なら、僕ひとりででも、少しでも多くの物を運び出さないと。

 

いや、この人たちが邪魔してこないんなら、使用人の人たちを呼び戻して……。

 

……とりあえずどれだけ燃え始めているかたしかめてから決めよう。

 

そう思って近づいて、ドアの前まで辿り着きそうになった僕の前に……ひとりの男の人が、いや、おっさんが立ちはだかった。

 

大きい体に、でっぱったお腹に、威圧される。

 

見下ろされている。

 

顔は、……光が当たっていないから、よく、見えない。

 

「いやぁ……危なかったですねぇリラさま。 大丈夫ですよ、リラさま? ……この地区で火事が起こり始めたときにですねぇ、たまたま……偶然に私たちが通りかかっていたものですからねぇ? ええ、許可も得ずに申し訳ないとは思いましたけれどねぇ、しかしですねぇ……先祖代々の付き合いのあるリラさまの商家の中心たるこちらと、その……ええ、悲劇に遭われた中で幸運にも唯一に生き残られたリラさまにとって、きぃっと大切でしょう物という物を少しでも守らねばと思いぃ!」

 

小さすぎる僕と立ち話をする大人が必ずしてくるように、僕の顔をよく見ようとして屈んでくるおっさん。

 

そのせいで余計に威圧感があって、思わずに……勢いに押されて、1歩だけ後ろに足が行く。

 

「……ふぅ……、あー、それでですねぇ? たまたま! 見回りをしていた者とともにお家にあったものを運び出させていただきました次第でしてぇ!!」

 

勝手に、……だけど、今はそれがすっごくありがたい。

 

だって、馬車で数日単位の移動だったんだ、もし僕たちが1日遅かったら、火事が1日早かったら……いや、時間単位でずれていたら、どうなっていたことか、だもんな。

 

みんな灰になっちゃう可能性もあったのに、それを運び出してくれただなんて。

 

資産の何割かをあげてでも、しっかりとお礼しないと。

 

「ありがとうございます……えっと、ほんとうによかったです、商家にとって大切なものももちろんですけど………………………………、なによりも。 家族たちの形見も、いっぱいあったものですから」

 

頭がいっぱいいっぱいで、おっさんの名前すら出てこなかったけど、とにかく顔見知りの商人さんだっていうことは思い出せた。

 

………………………………ちょっと黒い噂があって、うちとは付き合いがなかったところだけど、やっぱり噂は噂なんだな。

 

だって、火事があってすぐに……たまたまとは言え、僕の家の前を通りかかって、それで、この地区が焼けちゃうってすぐに察知して、だから僕の家に入って重要な書類とかを、………………………………。

 

………………………………………………………………。

 

僕の頭の中の奥底で、僕がささやく。

 

なにか、おかしくは、ないか?………………………………と。

 

………………………………………………………………………………………………。

 

そうだ。

 

………………………………なんで、そんなにも都合がいいんだ?

 

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