砂漠というのは、暑い。
砂に足を取られ爛々と照り付ける太陽は強制的に体力を削ってくる。知らずの内に水分を消失し、正常な判断感覚を奪う。そのような環境でどのように己の生を確立するか。砂に足を取られないように体重を軽くし接地面積を広くする。遮熱機能を持たせた肌を持ち日陰で活動をする。少ない水分で活動できるように体を改造する。砂漠で適応した生物を見てみれば、進化・適応の歴史を感じられることができる。
しかし、ここ新大陸の砂漠では諸兄の想像する環境とは恐らく異なっているだろう。南部にはオアシスと呼ぶには控え目なほど豊富な水資源があり、代わりに北部は渇水耐性のついた植物しか生息できない環境だ。このような、ある一線を境に環境がガラリと変わることを、バイオームの壁と呼ぶ者もいる。このバイオームが発生した理由としては、やはり高低差が考えられるだろう。
南部には巨大な地下水脈が流れており、地表に湧き出る水を求めて様々な植物が群生している。森林でも発見される植物も群生していることから、よほど強固な水資源が確保されていることが予想される。この水源から1kmも北に移動してみれば、水など一滴も見つけられないことから奇跡のような環境である。
高いところから低いところに流れるという水の性質から、南部が低く北部の方が高い。
ここはちょうど堺。足元には川というには小さすぎる水が流れ、日陰であることから空気中に漂う水分を肌で感じることができる。だが、視線の先には爛々と照り付ける日光と、乾ききった地面が生物の侵入を拒むかのようにある。
一歩一歩、少し湿った台地踏みしめをゆっくりと登っていく。
急ぐことはなく、されど気怠い様子は微塵もなく。
あなたは地面の足跡に気が付いた。
しゃがみそれに手を触れ、それは大型の鳥竜種と呼ばれるものであると判断する。
クルルヤックというモンスターだ。
クルルヤックは岩を持ち、殴りかかってくる知恵のあるモンスターだ。
足跡は不規則な間隔で荒く地面が抉られている。
何者かから逃げており、瀕死の重傷の様だ。
川の反対側、南部側には別の大型モンスターが体をこすりつけたような跡があった。
通常、生存競争故の縄張り争いで瀕死になる程争うことは少ない。怪我をすれば生き残ることが難しくなるからだ。ではなぜクルルヤックは瀕死なのか。何らかの理由で、瀕死に追い込まれるほど攻撃されたからだろう。
このようなとき、目的は2つに分けられる。1つ目は食べるため。いや、クルルヤックは大型と分類されるモンスターだ。大型モンスターを狙うのは同じ大型、専ら強力な飛竜種であることが多い。飛竜種の痕跡を見つけていないことから、その線は薄いだろう。
2つ目は、ハンターだ。
金、名誉、生存権の確保。なんらかの理由でモンスターを狩り続ける人間だ。
そう、あなたもハンターだ。
つまり、今まさに同業者の狩猟の最中に乱入してしまったことを意味する。
命の取り合いをしている状況で乱入してくる人間だ。昂った精神で勘違いをして攻撃してきてもおかしくはないだろう。目撃者もいないのだ。結果に合わせて自身の正統性を主張することや、端からなにもなかったことにすることもさして難しい話ではない。
出来れば同業者に会いたくないと思う心は、歩む足に出ていたが、それでも坂を上り切り斜陽の世界へと繰り出した。
日陰を探しながら右手へ、サボテンが群生しているところへ行く。
目当てはサボテンだ。
我が狩友会は新興であり、活動を行うための基盤が十分ではない。
食糧が、金が、人が、いや人は多くいるか。
ともかく、フィールドワークに出てはせっせとみんなの食糧を確保するのが今のあなたの契約だ。
サボテンの群生を見回してみるも、どれも細く背の小さいものばかりだ。これは食用に適しておらず、2日くらい断食をした状態でないと食べようと思えない。
ふと、顔を見回してみれば崖際に大きく実ったサボテンを見つけた。
これはしめたものとあなたは駆け寄る。
メロンのように大きく実ったサボテンを数個認め、良い機嫌で道具袋を下す。
サボテンのトゲが刺さらないよう慎重に採取を行い、3つのサボテンを手に入れることができた。
特に大きなものが1つとそこそこのものが2つ。狩友会の買取評価では、特大と大とそれ以外となっている。つまり、一定の大きさより小さいものは全て買取価格が下がってしまうのだ。
そこそこの2つは屑のような価格で買いたたかれてしまうのだろう。買取評価を大とそれ以外ではなく、特大・大・中・小にし、事実に即した評価をするべきだとあなたは憤慨する。
狩友会に戻ったら、抗議しようと思いを固めたあなたは、がけ下を見やる。
ハンターだ。
恐らくは自分で狩猟したモンスターの防具をまとった男の同業者のそれは、絶命していることが明らかだった。
坂を伝い、がけ下に降りたあなたは同業者を観察する。
鉱石をメインに使った防具に、片手剣。
あなたはこの片手剣に使用されている素材に心当たりがなかった。
胸部にV字の後があり、頭部が破壊されている。
クルルヤックの足に蹴られ、持っていた岩で頭を砕かれたか。
ともかくあなたは、これで同業者と狩場で争うことがなくなったと胸をなでおろした。
足元には、根元が黄色く、羽先にいくにつれて赤色がかった羽が落ちている。
羽は、クルルヤックの巣がある方向に続いている。
あなたは道具袋のサボテンを意識した。
あなたの契約は食糧の確保であり、大型モンスターの狩猟は契約外のことである。無論、狩猟を行えばモンスターの素材をはぎ取り、換金できるなどのうま味はある。
足跡からクルルヤックが瀕死であろうこと、自分の体力を鑑みて、あなたはついでに狩猟することを決めた。
理由はない。モンスターを見たら狩る。それがハンターだ。
同業者から北西に50歩。すこし高い位置にクルルヤックの巣はある。慎重に進む。
よほど追い込まれていたのだろう、それは寝ていた。
あなたは太刀の柄に手をかけ近づく。すぐそこというところまで近寄る。喉仏を這うように、薄皮一枚距離を開けながら刀を沿わせる。えいやと刀を突きこむと、刃が骨に当たった感覚と、すわ何事かと飛び起きようとするクルルヤックを認めた。
あなたはそうはさせるかと体重をかけ、刀を地面に突き刺すようにクルルヤックを縫い留める。
クルルヤックが暴れるごとに傷口が開き、酸素が入ることでドっと出血が増える。
数秒、あるいは数十秒だろうか、そうしているととうとうクルルヤックの抵抗がなくなった。
あなたはあまりの呆気なさに、消費した労力と手に入れる報酬を想像し気を良くする。
さぁ剥ぎ取りだと小さなナイフを片手にあなたは先ほどまで生きていたそれを解体する。
前任者で同業者で死者である彼によほど手酷くやられたのか、全身が傷ついていた。一番高く売れるクチバシはひしゃげ折れ曲がっていた。
これではなんのためにわざわざ狩猟したのかと嘆息するあなたは、さほど労力を支払っていないことを思い出し、そこまで価値のない素材が手に入るだけで納得する。
あなたは、謙虚なハンターだ。
剥ぎ取りの結果、売値が付くものは鱗が数枚と皮が1枚しか取れなかった。すこし寂しい思いがあるのは、日が傾いてきたのも関係しているのだろう。
サボテンの入った道具袋に無造作に突っ込んだあなたはキャンプ地へと足を向ける。
今月で同業者が死んだのは何人目だっただろうか。クルルヤックは大型モンスターに分類されるが、強いとは言い難いモンスターだ。無論、種別差からくる強力さを軽んじているわけではない。クルルヤックよりも強力なモンスターがもっといるという意味だ。そしてそれと渡り合うハンターもやはり、人間という種別の枠をはみ出している存在だと思う。
ともあれ、瀕死まで追い込んでいたあの同業者は、まだ新大陸に来れるほどの実力がなかったのだろう。
気にすることはない。人なら毎月のようになってくる。交易船にのり、新大陸に希望を求めた青臭い少年少女や、奴隷に落ちた異人共。なにが楽しいのかより強く、見たこともないモンスターを求める頭のおかしいあなたの同業者が。
砂漠は寒暖差が激しい。すでに落ちかかった太陽は、昼間の熱射が嘘のように消え、底冷えする冷気が足首を掴んだ。
あなたは冷気を振り払うように足早に移動する。
あなたはハンターという人種が理解できない。ことさら上位のハンターは。
あなたもハンターという職についてはいるが、根本的に彼らとは違うのだ。
100キロ以上の装備を背負い常と変わらず動き、回復薬と称して草とキノコを調合したものを飲むだけで無限にモンスターの突進を受け止められる。
これがあなたであれば、10キロの装備を背負うだけで行動に違和感を感じ、回復薬1瓶を飲み干すのに20秒はかかり、気休め程度の効果しかでないだろう。
モンスターの突進を受け止めれば一撃で背骨が折れ人生をリタイアすることとなる。
だから、狩猟など受けず採集クエストを受注し、しかし、生活基盤が整っていない狩友会では重宝されるのだ。
そう、あなたは狩友会のハンターなのだから。