私のお兄ちゃんは、私の頭を撫でるのが好きらしい。
いつものお兄ちゃんのアパートで、いつものソファに座ると、お兄ちゃんは私の隣に座っては必ず頭を撫でてくる。
きっと丁度いい高さでお兄ちゃんの目線の高さに私の頭があって、何気なしに頭に手を乗せているのだろう。
最初の頃こそ、頭を撫でられるのが不快感を煽られて咄嗟にのけていた時期もあった。
───撫でる、それは
私がいい子を演じているとき、決まってお母さんは頭を撫でては『いい子ね。流石私の自慢の娘』って褒めてくる。それがとても不快だった。不快な気持ちと自覚してからはそれはただの愛のないただの行為にしか思えなくて、それもまた不快感を煽った。
私にとって、撫でるという行為は
だから最初お兄ちゃんから撫でられると、その時の記憶と感情が瞬時に暗転していた。
「まふゆ、今日もお疲れ様」
「......いつも頭撫でるね」
「嫌だったか?」
「......」
嫌だったらのけるくらいはする。
撫でられるのが不快だった時、私はのけていた。それを忘れてしまっているのだろうか......。
どうでもいいような、少しだけ感じるチリチリした痛みの理由は今でもわからない。
お兄ちゃんが私の髪を撫でるその手のぬくもりは、多分好き。
いいや、これが
「まふゆの髪は昔からさらさらで気持ちいいね。お手入れ大変だろ」
「......別に大変じゃないよ。こうした方が綺麗になれるって
「そっか......」
「......」
またいつもの回答に少しばかりの罪悪感を感じている。
お兄ちゃんもまた罪悪感を感じていることを、私は知っている。
───まふゆが
別に私はお兄ちゃんが悪いことをしたとは思っていないし、罪悪感を感じる必要もない。
でもきっと私がそう言ったところで、お兄ちゃんは一層罪悪感を感じるだろう。
私のお兄ちゃんは
「多分昔お兄ちゃんが私の髪を褒めてくれたのが、嬉しくて頑張ってたんじゃないかな」
「え、そうなのか?」
「......よくわかんないけど」
「...そっか」
気が付けば兄の指の感触に合わせるように自分の頭をすりすりと押し付けていた。
きっと私が
撫でられる行為に特段感情を抱いたことはないのに、この時間がずっと続いたらいいのに、とさえ思っている。
その思いが一体どこから来ているのかはわからない。
それを
でもただ、『心地良い』という思いだけが私の中を駆け巡っているのは確かだった。
「あ、こらまふゆ。あんまり動くと髪型乱れるよ。せっかく綺麗にお手入れとかしているんだから大事にしないと」
「...ごめん」
無意識だった。
お兄ちゃんの指の動きに合わせて、左に動いて右に動いて。
ポニーテールを触られると左右に振ってみたり。お兄ちゃんの手の感触がなくなると、胸の奥がぽっかり穴が開いたように虚無感を覚える。
それが不快でまた兄の手のぬくもりを求めて自分の頭を押し付ける。
───はじめはあんなのも不快だったのに...。
いつから私はお兄ちゃんの温もりを求めるようになったのだろう。
いつから撫でられることに心地よさをおぼえるようになったのだろう。
いつからこの時間が
このなんとも形容しがたい気持ちはなんだろう。
多分一人で考えても答えは出ない。でもこれを他の人に尋ねても判然としないだろう。
でも、お兄ちゃんが私を撫でるときの優しい目。
「ん?どうしたまふゆ」
「......べつに」
その目は好きなんだと気づいてしまった。
...いいや、違う。お兄ちゃんに撫でられる行為そのものが好きなんだ。理由はわからなくともそれだけは確かだ。
「......まだ、撫でてて」
「ん、わかった」
お兄ちゃんの手はとても温かい。
お兄ちゃんの声が柔らかい。
お兄ちゃんの目が優しい。
それがわかるだけで、私は嬉しかった。
これはきっと