Abyss of Carnation   作:メアリィ

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♠Put my feelings .1

「朝比奈さんは今年のクリスマスはどう過ごすの?」

「どうって言うと?」

「だからほら、あるじゃん!彼氏とか彼氏とか彼氏とかさ!」

「いないわよー。そういう貴女こそどうなの?進展は?」

 

クリスマスという一大イベントを前にしたある平日のお昼時。

私はクラスメートの女の子達といつものようにたわいない会話で花を咲かせるように混ざっていた。

 

恋人のいる人や、この日に距離を進展させようとする男女にとってクリスマスというのは絶好の機会。私の隣でその日の作戦を練っている女の子も、クリスマスに告白するらしい。

 

 

「やっぱり告白は私からしなきゃダメそう。アイツマジで朴念仁だからアプローチに全く気づかないのよ!もう!」

「もういっその事キッスしちゃえば?なんならホテル直行!なんて」

「そう言う話は男子のいない所でしてよね。恥ずかしいなぁ」

 

二人の会話が私にはよくわからない。

そういう感情があるってことは、知識としては知っている。

 

特定の相手の価値を人の何倍も高く感じて精神的にも肉体的にも接触したいという願いから来る心理。加えてその相手と距離が近く感じるとドキドキという高揚感を強く味わうという。

 

──それが恋...らしい

 

愛もまた別の意味があるらしいけど、私にはどっちも同じように思えるし、理解できても感じることは無いだろう。

 

「まふゆホントにいないの?彼氏」

「だからいないってばぁ!」

「じゃあこの前一緒に駅前歩いてた背の高い男性は?」

「...あの人はー」

 

何故か、言い淀んでしまった。

わからない。ただ、『私のお兄さん』と一言言ってしまえば済む話なのに。

何故かこの場で『兄』と呼称するのを躊躇ってしまった。

 

「あー!ほらやっぱりそうなんじゃない?」

「な、なんでよー」

「だってほら、自分の顔見てみなよ」

 

 クラスメートの1人が、カバンから手鏡を取り出して私に向ける。

何の変哲の無い見慣れた朝比奈まふゆ(・・・・・・)の顔。長いまつ毛にくりっとした瞳、整った顔立ち。世間一般でいう美人らしい......。お母さん似だって、そう言われた。

 

 でも、いつもの自分(・・・・・・)ではないと、そのピンクに染まった頬が教えてくれた。

思わず自分の頬に触れる。温かくて、『自分の頬が温かい』と自覚すると更に熱を持ち始める。

 

 

「なに......これ」

「ほらやっぱりそうじゃん朝比奈さんったら恥ずかしいからって~」

「やっぱり好きな人なんじゃない??」

「...よくわかんないなぁ。好きって言ってもお兄さんだし......」

「お兄さん?朝比奈さんにお兄さんがいたんだ!!」

「え!?てことは禁断の恋ぃ!?」

「もうっ!勝手に話を進めないでよ」

  

 これが噂のガールズトークというものなのだろうか。

ナイトコード(・・・・・・)の集まりでは一切そういう話をしない。目的がそういう話をすることじゃないから当然といえば当然。

 

「てことはさぁ。まぁ相手がどうであれクリぼっちを決めるのはアタシだけかぁ。アンタにはアタックする相手がいて、朝比奈さんには愛しのお兄さんがいてさー。うらやましいよほんっと」

「愛しのお兄さんって言わないでよ、恥ずかしいでしょ」

 

───でも、なぜかそう言われて心が跳ねている気がした。

 

「朝比奈さんはそのお兄さん(・・・・)にどんなプレゼントを贈るつもりなの?」

「っていうか一緒にクリスマス過ごすんだよね?」

「......え?」

 

とても含みのある言い方をされたけど、それよりも質問された事に思わず聞き返してしまった。

 

「えって......あれ違う?」

「いや、うん。そうだね。その予定かしら」

 

 私はクリスマスというイベントに興味もなく、その日は私にとってのいつも日常でしかない。

だからその日は塾が休みなので学校が終わったらお兄ちゃんに献立を聞いてスーパーに買い物に行き、アパートでご飯を作って、お兄ちゃんの食べている姿を見守る。時間があれば隣でくつろぐ。

 

 私はそのつもりだった。

でもそれは私の日常。お兄ちゃんにとってその日が非日常(・・・)であったら...?

 

 口の中で妙な苦みが広がっていく。その苦みは前に、絵名や瑞希からお兄ちゃんと連絡を取り合っていると本人たちから聞いた時のものと同じものだった。

その苦みはただただ気持ち悪くて不快だった。

 

「プレゼントとか何あげるの?」

「......」

「?まふゆ?」

「っ、ごめんね。ちょっとまだ決めてなくて」

「そうなの!?何あげようとか候補あるの?」

「そうねぇ......」

 

 そう考えると私はお兄ちゃんの好きな物や欲しい物がなんなのか全く知らないことに気づく。

それに気づいて、また口の中に気持ち悪い苦みが広がる。

 

「(嫌だなぁ......、この感じ)」

 

 何故嫌だと思ったんだろう。

私はお兄ちゃんのことを知らない。自分のことすらわかってない、探している所なのに、どうしてこんなのにもお兄ちゃんのことを全く知らないでいる事が嫌なのだろう。

 

「お兄さん、何が好きなのか難しくて。誕生日の時とかは筆記用具をプレゼントしたら喜んじゃって」

「へぇ~!何ていうかお兄さんもお兄さんで、こんなかわいらしい妹からプレゼントされたらなんでも喜びそう!」

 

...本当になんでも喜びそうだ。

クラスメートの感想にそう思った。

お兄ちゃんは客観的にみて”シスコン”という類の人だ。私がアパートに入ると必ず笑顔で出迎えるし、勉強を中断してでも話しかけたりしてくる。

すぐ撫でたり、抱きしめたり......私のわからないことを言葉とぬくもりで教えてくれる。

それを”シスコン”と呼ばずして、他に何て呼べばいいのだろうか。

 

 

「......そうね」

 

 

 すっと、視線を窓のほうに向ける。

ちらりちらりと雪が降っている。

クリスマスまであと少し......。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 

クリスマス、三日前。

 

 

 

───あ、みんないるー?

 

───大丈夫。いつも通り

 

───ごめーん。まだお風呂上がりで髪乾かしてないから少し遅れる~。

 

───えななん(絵名)ゆっくりでいいよー。()はー?

 

 

 

 

 

25時、ナイトコードで。

 

 

 

 通称ニーゴ(・・・)という音楽サークルの名前。

曲からMVの作成全てを4人のメンバーで作成している正体不明な集団。

そのメンバーの一人である私は(ゆき)というハンドルネームで作詞と編曲を担当している。

 

 今日はそのメンバーと次に作る曲の会議の日で、私はいつものようにマグカップにコーヒーを入れて

湯煙を燻らせながらキーを打っていた。

 

 

───大丈夫。今準備できたことろ。

 

───オッケー、みんなおつー。そろそろミュート解除して始めようかー

 

 

彼女...Amia(瑞希)に合わせて私もミュートを解除する。

 

 

『やっほっほー!みんな元気~?』

『Amia今日も元気だね』

『雪は元気ない?何かあったの?』

『......いつも通りだよ』

『疲れてるなら無理しないほうがいいよー』

 

Amiaは実際会う時のテンションと変わらずで話しかける。

 

 

『新曲作成に向けて頑張らなきゃだし!K()もテンション上げてこー!』

 

あまりにも大きな声だったので思わず耳を塞ぎそうになる。

 

『..K』

『?どうしたの?』

『Kはクリスマス予定あるの?』

『...え?』

 

空気が凍った気がした。

それに気づいた時にはもう遅くて、弁解する前にAmiaが食いついてきた。

 

『え!?なに!?雪は誰か一緒に過ごす人いるの!?』

『え、いやそれは──』

『もしかしてお兄さん!?』

『っ』

 

呼吸が乱れた。

どうしてこうも色んな人に当てられるのだろうか。自分から匂わせるような質問したせいもあるが、よくわからない...

明らかに目をキラキラさせてるであろうAmiaが本題を無視して質問を続ける。

 

 

『え!?なに!?雪、お兄さんとどこか行くの?』

『...まだそうと決まってないし、そうするとも言ってない』

『でも今この時点でその質問するってことは、そういう事じゃないの?』

 

 

.....そういう事なのかな。

自分でもKに質問した意図がわかってない。ただ何となく、そう、何となく聞いてみただけ。

 

『Kはどう思う?』

『え、というか雪にお兄さんがいたの初耳』

『あちゃー、そうか。Kは外に出る事ないから知らないか。』

『...あれ、もしかしてえななんも知ってる?』

『あー、ごめん。K以外知ってる』

 

画面越しにショックを受けてそうなKの声が聞こえた。

 

『っと、ごめん遅れたー。何?今何の話??』

『おかえりーえななん。今ね雪がお兄さん連れてクリスマスデートするって話』

『待って、私一言もそんなこと言ってない』

『え?!アンタが!?マジで!?うっわ〜...』

 

 

遅れてやってきたえななんにすらも驚かれてしまう。

 

『別に。いつものお兄ちゃんと過ごす時間と何も変わらないよ』

『は?何言ってんの。クリスマスって一大イベントだし。カップルだけじゃなく美味しいスイーツのセールとか服とかいっぱいあんのよ。それを見て楽しむこともできるんだからそういうのも楽しんでこそのクリスマスなんだから!』

『はいはい、えななんちょーっと落ち着こうね』

『...なんだか、作曲する雰囲気じゃなくなったね』

『ごめんK。話戻して始めようか』

 

まだ1人で騒ぎ立てるえななんを置いといて、私は予定通りの作詞に取り掛かろうとする。

えななんにとって、Amiaにとって...きっとKにとっても大事なイベントなのだろう。

 

 

───私にとっては、何ら変哲のないいつもの日常。

 

そのはず。周りのみんなのように恋人や、ましてや想う相手なんていない。

いなくても、ソワソワするような気持ちも無いしわからない。

 

お兄ちゃんは...違う()

血の繋がったお兄ちゃんで、幼少期の私はずっとあとを着いて歩き回ってた位好きだったと思う。

 

嬉しい時、楽しい時、悲しい時。

お母さんに『邪魔はしちゃダメ』と言われても、当時の私の話をちゃんと聞いてくれたのはお兄ちゃん1人だけだった。

 

今も、そう。

学校であったこと、勉強の事、家の事.....そして、ニーゴ(みんな)の事。

何も知らない、何もよく分からない私の言葉をただ真正面から聞いてくれる人。

 

何故か...なぜだかわからない。私から、今日あった出来事を進んで話す相手、それがお兄ちゃん。

 

『...K』

『なに?』

『前に、私が体育祭であった事を話した時、言ってたよね。"後輩のことについて自分から話してくれた"って』

『そうだね、確かに言った』

『あれから、私って何か変わったのかな』

『雪.....』

 

Kは少し間を置いて、そしてゆっくり答えた。

 

『そういう風に思ってるって事は、少しずつ変わろうとしてるんじゃないかな...救われるだけじゃくて、見つけようとしてる(・・・・・・・)。今の雪はそんな風に見える』

 

───見つけようとしてる。

 

今まで言われたことの無い意見で、ふっと何かが掠めた感覚になる。

自身を探している私が、自信を探すために何かを見つけようとしている。それはつまり.....。

 

やっぱり、分からないものはわからない。

 

『雪さ、もし良かったら明日服見に行かない?』

『服?なんで』

 

唐突にAmiaが私に提案する

 

『クリスマス、お兄さんと普通に買い物するとしてもやっぱりいつも通りじゃトキメキとか物足りないと思うよ。少しは気分転換にね?えななんもKも付き合うしさ』

『え!?なんで私まで?!私はスイーツの──』

『あーはいはい、それにもちゃんと付き合うから。ね?Kもいいでしょ?』

『.....クリスマス向けのオシャレな服どころか、ジャージしかないけどそれでもいいなら』

『じゃあ丁度いいしKの服も買おうか』

『いや私は──』

『はーいけってーい!みんな明日11時頃に駅前集合で!!』

 

この強行突破するあたりAmiaらしさが滲み出ていた。

気分転換。まぁ、たまにはいいのかもしれない。意味があるとは思えないけど。

 

 

『それにさ雪』

『?』

『お兄さんにこの機会、感謝の気持ちをたっくさん伝えるのもアリだと思うよ』

『感謝の気持ち?』

『雪の家族の事情とか私達にはわからないけどさ、でも雪の事大事に大事に思っているお兄さんって事だけはよくわかってるつもり。そんなお兄さんにさ、ちょっとでいいから.....いいや、思っきりさありがとう(・・・・・)って伝えるのも大事な事だと思う』

『あり、がとう...』

 

そう言えば再会してからありがとうって言葉をお兄ちゃんに伝えてなかった気がする。

 

『...どう?』

『.....』

 

お兄ちゃんへの感謝の気持ち、ありがとう.......。

私がそう言うと、お兄ちゃんはどんな顔をするのだろう...?

ちょっとだけ、気持ちがすっと軽くなった気がした。

 

 

『.....じゃあ、どうしたらいい?』

 

 

 

 

そうして、私はAmiaに強制連行されることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




謝罪1.遅刻大変申し訳ございませんでした。
謝罪2.思った以上に長くなりそうなので前編後編で投稿します。
謝罪3.多忙のあまりクリスマス衣装購入し損ねてまふゆのコスが見れなくなりました(謝る意味とは)
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