Abyss of Carnation   作:メアリィ

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ごめんなさい...
もう1話分書かせてください。


♠Put my feelings .2

クリスマス当日。

私はニーゴの皆にコーディネートしてもらった服装と選んだプレゼントをカバンに隠し持ちながらいつもの様にお兄ちゃんのマンションに向かっていた。

普段着慣れない服装に少し違和感を感じながら...

 

「瑞希、別にここまでしなくてもいいのに」

 

黒の丸ネックトップスの上に白のカーディガン、ピンク色のフレアスカートという特にピンク色のスカートにむず痒さを感じる。

今は真っ白なトレンチコートで隠れているけど、これはちょっと恥ずかしいように感じる。

 

「...なんで私ドキドキしてるの?」

 

そう。今日は朝からやけに鼓動がうるさかった。

起きてからここに来るまでに落ち着きもなかったように感じる。

お母さんにも、

 

『今日はどうしたの?もしかして彼氏でもできて今日はデートするの?』

 

なんて聞かれたりした。

 

「彼氏...お兄ちゃん...」

 

あの後お母さんから何かアドバイス(・・・・・)を言われたような気がしたけど、全然頭に入っていない。

あれだけ『クリスマスは私にとってもお兄ちゃんにとってもいつもの日常の変わらない』なんて言ってたのに、意識しているのだろうか。

 

「でもなんで、私は」

 

私は、妹。お兄ちゃんはお兄ちゃん。

ただそれだけの関係。今までも、これまでも。それだけは変わらない。

 

「...なに、この感じ」

 

ふと、気がつけばお兄ちゃんの住んでるアパートのドアの前に立っていた。

いつの間に着いたのだろうか。

今まで味わったことの無い謎の感情と謎の鼓動の音に翻弄されながら、いつものようにチャイムを鳴らす。

 

──いつも学校やお母さん達の前の私のように演じれば(・・・・)落ち着くかもしれない。

 

すぅっと深呼吸していつもの(・・・・)笑顔をつくる。

簡単な事だった。これならいつも通りだと思った。

 

「はいはいっと。どちら、さ...ま?」

「おはよっ!お兄ちゃん!」

 

寝起きなのかジャージ姿にボサボサの髪の毛、まだ剃っていない無精髭のお兄ちゃんがいた。

 

「.....」

「えっと...まふゆ?」

「.......」

「おはよう?」

「.......」

 

いつもと変わらないお兄ちゃん。

だけど、そのお兄ちゃんに会いに来る私の方がいつもよりおかしい事は客観的に考えても確かだった。

 

「...どした?その服装」

「...別に。お兄ちゃんの今日の予定はあるの?」

「いや、特にないけど...あっ」

 

 

ふと、何かを思い出したように口を開けて、そしてすぐに私の来ている服を上から下へ吟味するかのように見る。

 

 

「もしかして......クリスマスだから?」

「クラスの皆が今日は大事な人と過ごす特別な日だからって」

「あー......なるほど」

 

 

───私にそんな意図は無い。

そう思ったけど、それを言葉として発することは出来なかった。

今日に至るまでクラスメートやニーゴのみんなに影響を受けたせいだろうか。

それとも、お兄ちゃんにとってのクリスマスは特別な日なのかもしれないと思ってしまったからなのだろうか。

 

───嫌だな

 

どこから出てくるのかわからない明白な感情。

確かに私は思っているみたいで奥底のざわめきと、同時に高鳴る心臓の音が煩くて煩くて、静めさせるように次の言葉を紡ぐ。

 

「買い物したいから付き合って欲しい」

「買い物?まぁ別にいいけど。事前に連絡くれればこんなだらしない姿見せずに済んだのに」

「...ごめん」

「いいよ。少し待ってて」

 

お兄ちゃんは私の頭の上にポンと手を乗せて、家に招き入れる。

たったそれだけなのにまた余計に騒ぎ出す心臓が煩い。お兄ちゃんと再会してから胸の鼓動が大きくなることは度々あったけれど、それでもまだ心地いいかもしれないと感じる程度だった。

言ってしまえば、日々演じている自分へのプチご褒美のようなもの。

 

 それが、今日...ううん、ここ数日はやけにドクンドクンと高鳴って呼吸が乱れている。

寝つきが悪い日さえあった。

 

「まふゆどうしたのその服。よく似合ってるけど」

「今日お兄ちゃんに会いに行くならお洒落しなさいって、絵名達にコーディネートさせられた」

「そうなんだ...綺麗で似合っているよ」

「...そう」

 

───綺麗で似合っているよ

 

 そう言われただけなのに一際鼓動が強くなった。

ニーゴのメンバーで服を買いに行った時も『似合ってる!』とか『綺麗に化けてむかつく』って褒められたけど、今みたいに鼓動が強くなるなんて事はなかった。

 

「何着たって同じじゃない?」

「同じじゃないって。まふゆは美人なんだからもっとオシャレして欲しいくらいだよ!」

「私にオシャレさせてどうするの」

「もちろんみんなに自慢する」

 

そして謎のドヤ顔。

一体何が嬉しいのがわからない。

この鼓動の高まりもわからない...

 

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

「で、何を買いに行くんだ??」

「...」

「まふゆ?」

「特に考えてない」

「え?」

 

 

 

家を出て数十分。ショッピングモールを散策する中、お兄ちゃんがそう聞いてきた。

お兄ちゃんは足を止め何か考えているかのように私の顔をじっと見ている。

 

「...誰かになにか言われた?」

「どうしてそう思うの?」

「なんていうかまふゆが嘘つくとは考えられなくて、なんか意図あるんだろうなって」

 

嘘、と言われるのは心外な気もするけど、確かに嘘ついたのは事実。

『買い物するから付き合って』そういえば間違いなくついてくるだろう。

そういう瑞希の指南のおかげでこうしてお兄ちゃんを連れて外に出ることができるのだから。

 

「クリスマスだし、兄を連れて出かけたら?って瑞希と絵名に」

「あぁ~納得」

「お兄ちゃんは予定とかあったの?」

「ん?俺は―」

 

顎に手を当てて考えこむ素振りを見せる。

 

「彼女と予定が───」

「嘘」

「早いよおい。せめて彼女とデートがあるって言わせろよ」

「彼女とデートあるなら断ればよかったんじゃないの?」

 

 『まぁ確かに』と心にもない事を呟くお兄ちゃん。

お兄ちゃんに彼女がいて、隠していたならそもそも家にあがる時点で気づくだろうし、お兄ちゃんは嘘つくの下手だからわかる。

それに、

 

 

「お兄ちゃん嘘の内容考えるとき顎の下に手を当てる癖直したら?」

「え?ほんと?そんな仕草してた?」

「......」

 

 私に言われたことを再現するように同じ動作をする。

お兄ちゃんは昔からそうだった。それだけはよく覚えている。

 

「まぁ、特に買い物するもの決まってないならちょっと付き合って」

「どこにいくの?」

「とりあえずお昼にしようか。俺まだ何も食べてないし、ちょうどいい時間だと思う」

 

 

お兄ちゃんが指さす先には某有名なハンバーガー屋がある。

何度かニーゴのみんなと食べに来たことがある。

 

「まぁ.....クリスマスデートでここは雰囲気無いか。じゃあ別のところに───」

「お兄ちゃん食べたいんでしょ?いいよ。お兄ちゃんとならどこだっていい」

 

 

多分本音。

1人で食事をしようものなら暗いことしか考えないし、わからない味がより分からなくなる。お兄ちゃんの食べてる姿を見ながら食べれば、味は多少わかる気がしている。

それに──

 

「『なんとく...今日はお兄ちゃんについて行きたい気がする』」

 

そんな理由が不明確な気持ちがあって、私はお兄ちゃんが指さすハンバーガー屋へスタスタと歩みを進める。

 

「あ、おい待て離れるとはぐれるぞまふゆ」

「っ」

 

お兄ちゃんに腕を掴まれる。

 

 

「......」

「っと、ごめん。引っ張る力強すぎたな。ケガしてないか?」

「大丈夫」

 

 そのままお兄ちゃんの体に吸い込まれるように引き寄せられる。

冬の鋭い寒さが一気にお兄ちゃんの体温に包まれる。

 

「.....」

「まふゆ?」

「お兄ちゃん、あったかいんだね」

「え、おおうそうだな。俺は体温高いから暖かいと思うぞ」

 

お兄ちゃんが温かくて、その温もりに触れる時間が長いのと比例してまたいつもの病気(鼓動)がやってくる。

 

───ドキドキドキドキドキドキドキドキ

 

煩くて煩くて早く鎮まって欲しかった。

ずっとそう思って、その度に何故かこの鼓動が心地よく(・・・・)感じている自分自身に違和感を感じていた。

 

すっと。気がつけばお兄ちゃんは私から離れて、歩いてきた時と同じように私の横に並んでいた。

 

「ほら行くぞ」

「...うん」

 

ゆっくりと鼓動が落ち着いていく。

だけどその落ち着きがどうしても不愉快な気がした。

 

 

 

 

 

───

 

 

 

「まふゆは何食べる?」

「お兄ちゃんと同じもの」

「おっけ」

 

 

 

お兄ちゃんと私はベーコンチーズバーガー2人分とナゲット、烏龍茶を購入し、近くのベンチに腰かける。

 

「俺さ、ここのハンバーガー何が一番好き?って聞かれたらベーコンチーズバーガー一択なんだよね。まふゆは?」

「...なんだろう。味よくわかんないからどれも一緒かな」

「じゃあこれから俺と一緒に食べ歩いて好きな物見つけてこうな」

「...そうだね」

 

お兄ちゃんと雑談しながらの食事は多分好き。

少なくともクラスメートや両親と食べる食事と比べたら演じながら食べなくて済むし、何より何となく味がわかる気がする。

 

それに何気ないお兄ちゃんの一言がちょっとだけ私の"自分を見つける"為のキッカケになりそうな気がする。

 

「お兄ちゃん」

「ふもっ?...っく、なに?」

「ほっぺにマスタードついてる」

「あぁホントだ」

「貸して。取ってあげるから」

 

カバンからハンカチを取って──その時、私はふと絵名に言われた一言を思い出す。

 

 

 

 

 

──いいまふゆ?お兄さんと食事して、もし何か頬につけてたらぺろって舌で舐めとってあげなさい!!

 

 

 

 

 

その発言をした時の瑞希が黄色い声を上げていたけど、なにか意味があるんだろう。私は出しかけてたハンカチをしまい、お兄ちゃんの頬に顔を近づける。

 

 

 

「おい何を──」

 

お兄ちゃんの頬はまるでお餅のように柔らかい感触だった。

味覚がわかれば、きっと甘いなにかの味、なんて表現していたかもしれない。

とにかく、お兄ちゃんの頬は柔らかいということだけわかった。

 

 

「ま、まふゆ!?一体なにを!?」

「何をってマスタードを取って上げただけだけど」

「ならハンカチとかティッシュとかあるだろ!?」

 

珍しく顔を真っ赤にしているお兄ちゃんに、また心臓が変な動きをする。

それはいつもと違って締まるような動きだった。

 

「どこで覚えてきたんだよまふゆ」

「絵名が、こうすると喜ぶよって言ってた」

「...はぁ。全くあの子は。いや確かに喜んだけどさ」

 

───喜んだんだ

何故か反芻した。

 

 

 

 

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