Abyss of Carnation   作:メアリィ

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♠Put my feelings.3

───気持ちを伝える

 

 

 絵名や瑞希は私に今日この日を見返るにあたってのやるべきこと(?)を教えてくれた。

それがどういう意味を込めての話だったかは分からないし興味がない。

 

 気持ちを伝える以前の問題で、私は私の気持ちがよくわからないままこの日を迎え、お兄ちゃんと一緒にファストフードを食べ、私に似合う服を選ぶといってショッピングモールに連れていかれて沢山似合うらしい服を購入していた。似合う服とか喜ぶとか、興味ないのに、それでもお兄ちゃんは笑顔を絶やすことなく自然と(・・・)手を繋ぎながら縦横無尽に駆け巡る。

 

 

 

 

そして気づけば、私とお兄ちゃんはショッピングモール内にある観覧車に乗っていた。

 

 

 

 あたりは薄暗い夕焼け。

遠い空の向こうではカラスが飛び、街中では蛍の様に街灯がひとつ、またひとつとついていく。

 

「俺達さ」

 

 向かい合うように座るお兄ちゃん。

景色を眺める横顔。なんども見てきたのに何故か惹かれる気がする。

 

「昔、母さん父さんと一緒に一度だけ遊園地来たよな」

「...あの時の」

 

 お兄ちゃんの言う通り一度だけ、お母さん達に連れられて地方の遊園地に遊びに行ったことがある。

だけど急に何を言い出すのだろうか。

 

「あの時のまふゆって観覧車に乗るの怖くてビビり散らかしててさ。まー俺から離れなくて離れなくてさ。『お兄ちゃん怖いからここにいてー!』って大号泣してたもんな」

「......それは記憶にない」

「嘘だな。おいこら、目をそらすな目を。こっち見ろ」

「んにゅ...おひいひゃんはなひへ(お兄ちゃん離して)

 

 無意識に目を逸らしてしまった私の顔を、お兄ちゃんの両手で挟んでこっちに向けさせる。何故かお兄ちゃんの顔を直視できなかった。

 

「...少し照れてるか?」

「気のせいでしょ」

「照れてる」

「しつこいよ」

「可愛いじゃん」

「......」

 

 お兄ちゃんの素直に言ってくるところが羨ましかった。

私もこんな風に気持ちを伝えられたら(・・・・・・・・・・・)---

 

 

「...」

「まふゆさ。今日めっちゃ楽しいでしょ」

「どうしてそう思うの?」

「今日のまふゆは、いつも以上に何を考えているのかわかりやすいから。表情とか動作とかはいつも通りなんだけど......こう、声が弾んでるような気がする」

 

わからない。でもお兄ちゃんがそう言うならそうかもしれない。

 

「でもこうやって数年越しにまふゆと観覧車に乗れるだなんて、予想もできなかったよ」

「私と来るより他の子と来たほうが楽しいでしょ。絵名とか瑞希とかさ」

「なんであの子らの名前出てきた?」

「...わからない」

 

 咄嗟に彼女らの名前が出てきたことにも驚きだけど、傍から見て彼氏の前で拗ねてる彼女のような構図になってないだろうか、と冷静に思ってしまう。

 

「俺は、まふゆと来れたから楽しいんだよ。落ち着けるし話も弾む。まふゆと過ごす時間がなによりも大切なんだよ」

「そのセリフ、彼女に言うセリフじゃないの?」

「残念ながらなぁーまふゆ。俺、彼女いない歴=年齢です。大学院のゼミでも俺シスコン判定受けてるから女の子寄ってこないんだよ」

「お兄ちゃんゼミで何を話したわけ?」

 

 お兄ちゃんがシスコンなのにこの際どうでもよくて、その判定を受けるにあたって一体この人は何を話したのかが、もしかするといずれかは問いただす必要があるのかもしれない。なんてことを特に重く考えずに適当に思った。

 

 

「でも、まふゆに渡す機会(・・・)があってこちらとしては棚ぼたなんだけどさ」

「?」

「まふゆにこれを受け取ってほしい。目をつむってくれる?」

 

 私は言われた通り目をつむる。

お兄ちゃんがもそもそもそ物音を立てた後、私の首にそっと手を回す。自然とお兄ちゃんが近くなるからまたいつも(・・・)の鼓動が始まる。たかが5秒、10秒なのに、私にはそれ以上に長く感じられた。

 

「目を開けてみて」

「......?」

 

 言われた通りにする。

ネックレス、なのだろうか。首元には小さく光る音符のネックレス。さっきまで首元にはなかったものがそこにあった。

 

「クリスマスプレゼント。さっきショッピングモールで見て回った時に似合いそうなのあったから隙を見て買ってた。どう?」

「......お兄ちゃん」

「ん?」

「......センス、無いね」

「えぇ!?マジ!?あー......否定できない」

 

 別にオシャレに気を遣っているわけではないからどうでもいいんだけど、今日の服には些か違和感を感じるような、そうでもないようなという微妙なラインのネックレスだった。

でも、私は思う。お兄ちゃんは何かしらの意味を込めて私に贈ったのだろう。それがどんな意味でも断るなんてできないし、何より。

 

「鼓動がちょっとうるさいかな」

「え?」

「私の心臓の音に触れてみる?」

「はい?」

 

 私はお兄ちゃんの返答を待たずして、その手を取り、私の胸元にあてる。

お兄ちゃんの温かい手のひらがしみわたるようにして感じられる。お兄ちゃんもまた、一瞬にして耳まで顔を赤くしていた。

 

「お、まえ......なにしてんだ」

「私、ずっとお兄ちゃんといると心臓が苦しくなってる。わかるでしょ、私のお兄ちゃんなんだから」

「......早いね」

「早くなる理由が私にはわからない。でもこの早さは嫌いじゃない。ずっと感じていたいなって思うようになった」

 

 最初は違和感だった。

体は熱くなるし、頬も熱い。鼓動が早いから自然と呼吸も早くなるしとにかくこの感覚が怖かった。

でも、時間が経つにつれてそれは心地いいものに感じられるようになった。

 

───なんでだろう

 

───なんでだろう

 

───わからない

 

 答えのないまま、私はよく知りもしないままそのままを受け止めるしかなかった。

ただ鼓動が早くなるだけ、お兄ちゃんを前にした時だけ、きっとそれはいい事(・・・)なのかもしれない、と。

 

「プレゼント、ありがとう」

「今度はもっと、勉強してから送るよ」

「多分嬉しいんだと思う。だから私も何か送らせて」

「まふゆは何を?」

「私からはこれ」

 

 そういってカバンからは一つのぬいぐるみ。

ちょっと眉間にしわを寄せたクマのぬいぐるみがお兄ちゃんにそっくりで送りたくなってしまったというのが本音だけど、それを伝えたらお兄ちゃんがちょっと拗ねそうなので特段伝えることなく、渡した。

 

「へぇ......可愛いじゃん。なんか俺みたい」

「.....っ」

 

 思わずくすりとしてしまいそうになるのを堪える。

ぬいぐるみを受け取り、ぬいぐるみと向き合って、おんなじ顔をまねしているところが面白いのかもしれない。

 

「ありがと。大切にするよ」

「いいよ。でもーーー」

 

 あとは、お兄ちゃんに感謝の気持ちを伝えるにはこれが一番。

ううん、正確には『これが一番だ』って絵名と瑞希は言っていた。それで伝えられるなら......

 

「お兄ちゃんも、目を瞑って」

「ん?」

 

目を瞑ったのを確認した後、静かに立ち上がる。

そして───

 

 

 

 

 

 

───そして、お兄ちゃんの頬へ軽くキスをする(・・・・・)

 

 

 それは今までの感謝の気持ちを示したもの。

今の私にできる精いっぱいの気持ち。気持ちと言ってるけど、私自身の気持ちがわからないで言っているから呆れたものだけど...。

 

「......」

「......ま、まふゆ?」

「顔、赤いね」

「そ、れは...だな!?」

「......ありがと。いつも傍にいてくれて」

 

 

 私にとってたかがキス。

唯一無二のお兄ちゃんへの感謝のしるしと精いっぱいの愛情表現。

ただのそれだけ。なのに...

 

 

───なんで私はこんなにも嬉しいな(・・・・)って思っているんだろう?

 

───私はいつになったら自分の気持ちがわかるんだろう?

 

 

早く、自分の気持ちが知りたいって思うようになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...もうすぐ、観覧車がおわる

 

 

 

 




~帰宅後~


「ただいまぁー!」
「あらお帰りなさいまふゆ。ずいぶん遅かったわね。あらそのネックレスどうしたの」
「これ友達から(・・・・)のプレゼント。可愛いでしょ?」
「そう、可愛いわね」

 帰宅するといつものように(・・・・・・・・)お母さんが出迎えてくれる。
リビングにはすでにお母さんの作ってくれた夕飯が並べられていていつものように(・・・・・・・)私の帰宅を待っていた。

「遅くなってごめんね。着替えてくるから少し待ってて」
「ええ、ついでに手も洗っておいで。お母さんごはんよそっておくわ」

そう言って自分の部屋へ戻ろうとする。

「ねぇまふゆ」
「なぁに?」

ふと、いつものように(・・・・・・・)お母さんに声をかけられて足を止める。

「彼氏でもできた?」
「なんでそう聞くの?」
「だってまふゆすごく嬉しそうにそのネックレス見せてたもの」
「彼氏じゃないよー」
でもねまふゆ(・・・・・・)


また、いつもの(・・・・)が始まった。

「別に彼氏を作るなとは言わないけど、受験生にもなるのにこんな夜遅くまでで遊びに連れまわすような相手、まふゆの為にならない(・・・・・・・・・・)と思うわ。お母さん」
「......」

───私の為にならない

 その言葉は幾度となく聞いてきた。すべては私の為。そう私の為に(・・・・)お母さんは、お父さんは言ってくれた。だから期待に応えられるように頑張って理想のまふゆ(人形)でいようって思った。


───俺はまふゆにそれでも(・・・・)って言い続けるよ。


「......」

 お兄ちゃんの。
私にとって最後の()。お兄ちゃんが私の為にかけてくれた言葉が脳裏をよぎる。
その言葉があったせいか、私は今まで言ったこともない言葉をお母さんに言ってしまった。


「お母さん」
「なぁに?」
それでも(・・・・)、私にとっては大事な()だから」
「まふゆ......」

 私に反論されるなんて思ってもいなかったことだろう。
お母さんは茫然としたまま私を見ていた。

「ごめんねお母さん」
「......やっぱりその人はダメよ」
「え?」
「まふゆをダメにする人よ。今すぐ会うのはやめなさい?ね?」
「どうして?」
「まふゆはそんな我儘を言う子じゃなかったの。いつだって私やお父さんの言うことを聞く良い子だったのよ?それも何も知らない人にそそのかされて変えられちゃったのよ」
「......」
「まふゆ、もうその人に会うのはやめなさい?まふゆの夢には







───不要な人よ」










この瞬間。


何かが壊れた気がした。











「....そうだね。ごめんね?お母さん(・・・・・・・・・・)



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