Abyss of Carnation   作:メアリィ

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First Contact

 

 

 

 

 

 

 

都内某書店。

 

 

その瞬間は突然やってきた。

俺は勉強で使う筆記具の追加分を買いに、いつもの書店にやって来ていた。

シャー芯と消しゴムと赤ポールペン、ノート数冊とルーズリーフをカゴに入れ、何となく立ち寄った参考書コーナーで本を手に取り眺めていた。

 

「あれ.....?」

 

 

最初は俺を見ての反応だということに気付かなかったが、近寄ってくる気配に気づいた俺は視線を本からその気配に向けた。

それは.....女子高生2人組によるものだった。

 

「ええと?」

「ほらやっぱりそうだよ絵名(えな)!お兄さんまふゆのお兄さんだよね!」

「こら急に大きい声で話しかけたらびっくりするでしょ!」

 

 二人の制服はまふゆの通う宮益坂(みやますざか)女子学園のものではなく近くの神山(かみやま)高校のものだった。そのうちの一人、薄いピンクの髪の色をした少女は俺の顔色を覗き込むようにして姿勢を低くする。

それにまふゆって言ってたが二人はまふゆとどういう関係だろうか気になった。

 

「君達は......その、まふゆの友達?」

「まぁそんな感じかなー。それよりも、お兄さんは名前なんて言うの?」

「こら瑞希(みずき)!」

「いいじゃんそんなにツンツンしないでさ」

 

 瑞希と絵名。

まふゆから二人の名前を聞いたことがなかったけど、なんとなく付き合いは長そうな距離感ではある。俺をまふゆの兄と認識しているということは本人から聞いたか、それとも。

 

「俺は宮村(みやむら)浩平(浩平)だ。いつも妹が世話になってるね」

「......宮村(・・)?」

 

 二人は俺の名字を聞いて疑問符を浮かべている。

二人の反応は至極当然だ。まふゆと俺の姓は違う。朝比奈(・・・)宮村(・・)

俺も元は朝比奈という苗字を名乗っていたが、絶縁し、今は親戚の養子として姓を名乗っている。

 

「そのあたりはまふゆからは聞いてないの?」

「全然です。あの子全然話してくれないから......」

「お兄さんのことは以前、まふゆと一緒にスーパーで買い物してる姿を目撃して、それで問い詰めて聞いたんだよ」

「それでもほっとんど口割らなかったけどね」

 

 先週の土曜日のことを指しているのだろう。確かに二人で夕飯の......というか俺の夕飯の食材を買いに行った。その時は誰も二人のような女子高生は見かけなかったし、まふゆも気づいたとして話しかけにはいかないだろう。

 

「普段のまふゆってどうなんですか?やっぱりあんな感じ(・・・・・)なんですか?」

「んー?」

 

絵名、と呼ばれた顔立ちの整った少女が”あんな感じ”を強調して質問してくる。

 

「というと?」

「無感情というか自分を演じないというか」

「まふゆは......君たちの前ではその姿見せるんだね。なんか意外だな」

「まぁそうなったのはつい最近なんだけどね」

 

 俺の前以外だと優等生の朝比奈まふゆ(・・・・・・)だと思っていたが......

俺の知らないところで変化があったのだろう。なんとなく不快(・・)に思った......気がする。

 

「お兄さんはこれから時間ある?」

「え、いや......これ買ったら帰るけど......」

 

筆記用具類を入れたカゴを少し上げる。

 

「丁度いいし、まふゆの話聞かせてよお兄さん」

「いやだから瑞希、宮村さんにも用事があるだろうし!」

「いいじゃんいいじゃん。ボクは話が聞きたいの。絵名も聞きたいしお兄さんと喋りたいでしょ?」

「あのねぇー」

 

 女子高生のノリというのは恐ろしいと感じた瞬間であった。

まふゆの女子高生ではあるんだけど、二人のようにキャピキャピしたことはしないし、演じていてもそうでなくてもまふゆは非常に大人っぽい。

今までの人生で女性との関わりに縁がなかった俺にとって、この光景は新鮮味があった。

 

「まぁ......少しくらいなら──」

「いいじゃん。丁度まふゆもいるんだしさ(・・・・・・・・・・)

 

 

──少しくらいならいいよ。

こう答えようとした俺を制した一言だった。

 

「てかまふゆどこ行ったの?」

「え、まふゆいるの?」

「いますよ......店入るまでは一緒にいたんですけど」

 

 

 あたりを見渡すがぱっと見、見当たらない。場の開けた入口に集合と2人に告げ、手に持っていた本を戻し、先に商品だけ会計を済ませる。

集合場所に来ると、まだ2人は来ていなかった。

ふと、辺りを見渡すと店内の入り口の新入荷ブースにまふゆはいた。

 

「まふゆ」

「......」

 

 声に反応して、まふゆは相も変わらずな表情で一度だけこちらに振り向くと、すぐにブースのほうに戻ってしまった。

 

「まふゆ何やってるの。あんなところで」

 

 続いて遅れてやってきた絵名と瑞希が彼女のもとに向かっていく。

それでも見向きしないまふゆ。

 

「何見てるの」

「......」

「何とか言いなさいよまふゆ」

「......まふゆ?」

 

 まふゆが友達の声に反応しないくらい興味をもって見ているものが何なのか気になり、俺も彼女のもとに歩み寄る。それはごく普通のシャーペンとボールペン、消しゴム等筆記用具のセット商品だった。

何が違いのかというと単純に新しいデザインであること、それだけ。それに対し無心になって眺めているまふゆは余程興味があるのだろうか。

 

「欲しいの?」

「......よく、わかんない」

「ほんっとアンタそれが口癖みたいになったわね」

「まぁまぁいいじゃないの。でもまふゆがここまで興味深そうにしているのってこうなってから初めてじゃない?」

「それはそう、なんだけどさ。もっと、こう......あるじゃない!」

 

まふゆの発言にイライラしながらもほっとけない様子の絵名。

 

 

「まふゆ、どうした?」

「......お兄ちゃん」

「お兄ちゃん!?」

 

 

 絵名が大声で驚きの声を上げた。

瑞希も声を上げないが、目を見開き、厭らしい笑みを浮かべながらまふゆの背中と俺を交互に見比べる。

”お兄ちゃん”と呼ぶイメージがないのだろう。

 

 

「勉強でほしいのか?」

「別に......勉強道具とかはいつもお母さんが買ってくれるから」

「そう」

「でも、買う」

 

 まふゆの意思を感じた。

きっとなんで買おうとしているのか自分でもよくわかったいないんだろう。

 

「わかった」

「......」

 

 まふゆは手前のセットを手に取り、レジへ足早に向かう。

その姿を見た絵名がこんなことを言う。

 

「あの子、本当に朝比奈まふゆ?」

「なんか......いつものまふゆじゃなかったね」

「なんていうか、感情表現が下手な小学生?」

「あーわかるかも。ボクもびっくりした」

 

 驚きを隠せない二人に対し、俺は俺でほほえましくなっていた。

書店にきて、物珍し気に商品を見て、買うと決めて足早にレジへ向かう姿。まるで幼い子供がおもちゃ屋で欲しいおもちゃを見つけた時のそれだった。

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

しばらくしてまふゆは商品袋を提げて戻ってきた。

 

 

「おかえりまふゆ」

「......」

 

ふと、戻ってきてすぐに提げた袋を俺に突き出す。

 

「え?」

「これお兄ちゃんに」

 

 今度こそ俺は驚いた。

どうやら俺の為にまふゆは購入した筆記用具だったらしい。予想していなかった行動に、俺もそうだが他の二人も両手を口元に充てて驚いていた。

 

「ありがとう。でもなんで急に?」

「......明日誕生日」

「あ」

 

 言われて初めて思い出した。

明日は俺の誕生日。つまりまふゆは俺の誕生日のプレゼントを買おうと悩んでいたということだ。

 

「......私はお兄ちゃんがどんなもの欲しいのかわからないし、何あげたらよろこぶかよくわからない。でもいつも勉強している姿は見てるから。いらなかったら捨てていいよ」

 

 まふゆのその言葉だけで俺は満足していた。

まふゆから紙袋を受け取り、それをカバンに大事にしまう。

 

「ありがとうまふゆ。大切に使うから」

 

 感謝の気持ちを込めて、まふゆの頭をそっと撫でる。

昔と変わらない、さらさらな髪が心地よかった。無表情だけど、ちょっとだけ......本当にちょっとだけ頭を手に押し付けているのがわかる。きっと無意識なのだろうけど。

 

 

「うわぁ......すごい光景に出くわしちゃったなぁー」

「まさかまふゆがこんなお兄ちゃんっ子だったなんて。なんだか意外」

 

 

完全に蚊帳の外になっていた二人が頬を染めながらつぶやく。

 

 

「さっきの話だけど、少し喫茶店で話でもする?まふゆはどう?」

「......どっちでもいいよ」

 

 

 

 

 こうして俺はまふゆの友人達と4人で話をした。

知り合った経緯、まふゆが素の自分を晒すようになったきっかけ、その後のことなどなど

どんな風に話をしたか、どう思ったか。

それはまた別の機会にでも......。

 

 

 

 

 

 

 

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