ある日、俺は久々にまふゆと夕飯の買い物を一緒にする約束をしていた。
夏真っ盛りのこの季節は、セミの鳴き声や風鈴の音、じめっとした空気が風情があって心地いい。
「まふゆ、荷物重いだろ。そっち俺に頂戴」
「......別に」
「まぁいいから」
スーパーを出てすぐ、まふゆの両手に提げているエコバッグの片方を俺が受け取り、少しだけ良いお兄ちゃんアピールをする。多分わかってないと思うしあくまで自己満足だけど。
「いつも塾終わってこうしてスーパーに行かせてるの、ごめんね。気を回せなくて」
「......別に。お兄ちゃんは試験が近いだから」
「でも、少しくらい俺に甘えてもいいんだよ」
「......よくわかんない」
「こう、なんていうかさ......ゴロにゃん♪みたいに」
俺が空いている手で猫の前をすると、まふゆはいつもの無表情で俺をじーっと見る。流石にノーリアクションがつらかったので咳払いをして場の空気を換えようと試みる。
「ゴホン、まぁとにかく......わかんないなら何でも兄に聞いて頼ってくれって事」
「......そう」
その会話を最後に俺とまふゆの会話は途切れる。
会話がない中こうやって過ごすのはいつものことだし、これはこれで居心地がよくて俺は好きだ。
まふゆは、まぁよくわからなって言うだろうけど。無意識に嫌だって思ってるときって大抵雰囲気でわかる。
まふゆが足を止めていることに気が付いたのは、数メートル先に歩いてからだ。
「どうした?」
「......聞きたいことがある。
「なに?」
「お兄ちゃんって好きな人はいる?」
「っ!!??」
予想だにしない爆弾投下に反応が遅れる。
これはつまり、先ほど俺が言った『兄に聞いて頼れ』のファーストステップなのだろうか。
「なんで急に?」
「今日クラスメートは話していたのを聞いてた。私にはわからないけど、お兄ちゃんはいるのかなーっていう疑問」
「あー、そう」
妙な深入りされているのかと思ったが、まぁまふゆらしい。
跳ねている心臓の鼓動を落ち着かせる。歩き出したまゆふの歩幅に合わせて俺も彼女の隣を歩く。
「......いるよ。好きな子」
「......」
「俺はまふゆ一筋だよ」
「......」
「......」
「......」
「......え?反応なし?」
うんともすんとも反応しない彼女の顔を覗き込むようにして姿勢を低くする。
「......なに?」
「いや。聞いておいて反応してくれないのさみしいなって」
「......」
まぁ俺に何か言われたところで反応が薄いのはいつものことだし、特に気にすることもないだろう。
そう言い聞かせてーーー正直ちょっとだけ、いつもとは違う反応してくれるのを楽しみにしていた俺だけど。
いろいろあった彼女に無理難題押し付けるのは酷な話だろう。
「......兄妹だから」
「え?」
「兄妹は
小さな手が、ぬくもりが俺の右手を包み込むように合わせてきた。
まふゆが、少しだけ昔のころの彼女に戻ったように見えた。
「まぁ、そうだな。俺とまふゆは仲良しだもんな」
そう言いながら小さなおどけなさの残る手を握り返す。
「......よくわかんないけど、そうかもしれないね」
手から感じる体温が徐々に上がっていく。
それは俺の手なのか、彼女の手なのか......夏のせいなのか。
今日は夏の気温が心地いい......