ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
2030年の小学校は、パソコンを使ったりタブレットを使ったりしているところが新しかったりするが、黒板がホワイトボードになっているほかは、備品的にはさほど違いはないかもしれない。
小学校のときに使っていたちょっと小さめな机も、百年以上前からの定番だ。
そして、意外と新鮮だったのが、机を並べて食べることだな。
わたしが前世で小学校やってた頃は、机を並べて食べず、授業のときと同じように前を向いたままひとりきりで食べていた。
衛生的にはこちらのほうが優れているんだろうけれど、これがクソつまらん。友達としゃべることもできないしな。もっと昔の昭和の時代は、机を並べて食べるのが主流だったらしいから、いまの状況はいわゆる先祖帰りをしているんだろう。知育にも流行とかそんなのがあるらしいし。
そんなわけで昼食の時間は、みんなで近くのやつで6人くらいが固まって班を作るんだが、少年田中はまあ普通の反応で、理呼子ちゃんはわりとわたしにかまってくれるんだが、他の少女Aとか少女Bとか少年Cとかは、わたしに余裕がなかったせいか、かなり疎遠な関係だった。
魔法を使ってからは空気最悪というか、囚人のように下を向いてどんより気分でみんなもくもくと食べるので、やむなく、わたしと理呼子ちゃんでふたりだけのパラダイスを形成していたのだが、まあそれもこれも魔法ってやつが悪いんだ。しゃーないだろ。しゃべりたくないって言うんなら。
さて、今の状況だが……。
わたしと理呼子ちゃん、エージェントのルナ、そしてついでに少年田中が班を形成している。
あれ、なんで田中いんの? ハブられそうになってたんじゃねえのと思ったが、田中はいつのまにやらわたしの斜め後ろに移動していた。つまり、ルナの隣だ。
田中ぁ。おまえガワだけ見るとハーレムだぞ。よかったな。わたしという異物が混じっていることを除けば、ルナも理呼子ちゃんもくっそカワイイしな。
じっと田中を見つめると、目があった。なぜか目を伏せて顔を赤くしている。
ふむ……、ハーレムの空気にあてられたか。
まあ、ルナについて言えば、わたしを監視するために来たのだろうし油断はできないんだが。
そんなルナは小さな口をもぐもぐと動かして食パンを食べていた。
く。こんな、小動物のような様子にほだされたりはしないぞ。ちょっと小生意気な様子もぜんぜん嫌味にならんところズルい。美幼女は正義であり無敵であるゆえんか。
食パンをがんばって食べ終わったあとルナはこちらに向きなおった。
ああ! 白衣でお口をごしごしするのがかわいいーっ!
「さしあたって魔法の実験について方向性を決めるべきだと思う」
「実験ですか?」
「そうだ。実験だ。科学に実験はつきものだからな」
「魔法ですよ」
「その魔法を科学的に分析するんだ」
「できるんですか」
「さあな。やってみなければわからんだろう。ただし目指すべき方向性はハッキリしているぞ」
「どんな方向性でしょう」
「誰にでも使えるようになるということだ」
「誰にでもですか。魔法はMPがないと使えないという設定のはずです」
「まあそれはおいおい考えていく。科学に試行錯誤はつきものだからな」
傲岸不遜な八歳児というのも珍しい。
ただ、傲慢な様子もさすがにかわいらしさでだいぶん中和されている。
妹とほとんど同じ年齢だし、わたしの中で十年来育まれた姉としてのこころがビンビンと反応してしまうのだ。この子、愛でたくなるようなかわいさを持っているわー。
「ところで、イオは魔法を広めるという考え方についてはどう思う?」
「どうとは?」
「人は与えられた力を独占したいと考えるものだろう。思うに、自動車という機械は便利なものだが誰も彼もが乗るから道路が混雑してしまう」
「まあそういう考え方もあるでしょうが、わたしとしてはべつにそうなってもかまいませんよ。そのほうが皆さんがわたしに依存しないで済むでしょうから、だれかがわたしの代わりに魔法を使えばよくなるわけですし、面倒くさくなくて済むことも多いかもしれません」
「すばらしい。イオの考え方は小学生のレベルを超えている。今日半日ほどイオの言動を観察させてもらったが、おそらく中学一年生くらいの精神年齢に達している」
ちょちょちょちょ、ちょっと待て。それってどゆこと?
中学一年生っておまえ、12歳か13歳やぞ。今の肉体年齢とほとんど変わらんやんけ。
前世と合算していいかはわからんが、少なくとも引き継ぎしている分だけで考えても20歳。合算可なら30歳以上の精神年齢に達しているはず。はず……だよね?
悲報。イオちゃん八歳児に中学一年生呼ばわりされる。
「あの、ルナちゃん。わたしには前世の記憶があるんですよ。転生したんですから」
たしなめるように言うわたし。
「そうか。わたしには前世の記憶というものがないから、どういうふうに積みあがっているのかはわからないな。通常、記憶というものは海馬に記憶されているものがほとんどだが、魂と呼ばれるような外部的記録装置が存在するんだろうか……」
なにやら考えてしまったルナ。
いや、わたしが言いたいのはソコじゃねーから。
わたし、大学生レベルの精神力はあるつもりだから。
「実験が必要な項目がまたひとつ増えてしまったな」
「あの、ルナちゃん。実験するのはいいですけどね。最近はいろいろとほら影響の大きいことをしてしまったでしょう。ですから、勝手に魔法実験をやっちゃうのはさすがにどうかなーって思い始めてもいるんです。国の許可はとっているんですか」
「もちろんだとも」
ルナは自信たっぷりにうなずいた。
んー。国がOKだしてるんなら、わたしが口を出すべきことでもないか。ママンやばあちゃんも国との折衝はしてもらっているはずだし、国がやってほしいと言ってることをやらないというのも角が立つ。
ここはルナの顔をたてるべきか。せっかくわたしのために転校してきたんだしな。
☆
ここで残念なお知らせがまたひとつある。
ルナ・スカーレット・エーテルマイアは、まぎれもない天才児ではあるのだが、はっきり言って自分の興味があること以外はかなりのところずさんな、
夢中になって機械を弄り回していたと思ったら、誰かに言われなければ、寝食を忘れてそれに没頭する。コミュ障かといわれると、そこまでではないのだが人間そのものにはあまり興味がない。
他人がなにをどう考えようが、その考えを否定することもないが肯定することもない。邪魔にならなければ放っておく。他者の考え方を尊重するという面ではいささかこころもとない人選である。
初めて興味をひかれた人間が『イオ』であるくらいなのだ。
これによって、なにが生じるかというと、コミュニケーション・ロスである。
イオが先ほど言った『国の許可をとったか?』というのは、星宮マリアや星宮飛鳥など家族につらなる、要するに日本国の許可をとったのかという意味だったのだが、ルナはそこまで深く考えずに『アメリカ合衆国の許可はとった』という意味で言ったのだ。
なんと国が違ったのである。
すこし考えれば、アメリカとドイツのハーフだといっているのだし、どこにも日本的要素はないと気づいてもよさそうなものだったのだが、いままでの流れから、星宮家が政府と調整しているという言葉をそのまま素直に受け取ったイオは、まさかルナがアメリカのエージェントだとは気づきもしていなかった。
そして、ルナもそんなことにいささかも心を砕いていなかった。イオを騙すという悪意もなかったので、自信たっぷりに腕を組みつつ鷹揚に頷いたのである。
そもそも、この転校劇にもアメリカと日本の二国間における丁々発止とした盤外格闘があったのだが、そんなことはのほほんと生きているイオには知りようもないことである。
結果として、他国の防波堤にもなるからというアメリカ側の言い分に、やむを得ないこととして日本側も一応の納得をみたのである。日本は押し切られると弱いという性質は80年以上前から変わっていなかった。
ちなみに日本ではエージェントになるような人材がいなかった。そもそもそういった子どもの権利については人一倍敏感なところがあり、天才に対する知育すらも人権侵害であると見る向きが、まだ文化的に根づいているところがある。
あえて言えば天才はいる。しかし、その天才児が結構な確率で集められているのが光竜学園なのである。もしも、十分な時間があれば、誰か生徒をピックアップして、それとなくエージェントとして過ごすよう要請することができたかもしれない。しかし、イオが魔法を開陳してからわずか二週間後に記者会見が開かれるという状況で、星宮イオが日本人であるという圧倒的リード感が決定的な油断を産んだのだ。日本も見通しが甘かったというべきだろう。本当に慢心が大好きなお国柄である。
ともかく、そう。
不幸なことに、残念なことに。
この状況を一言で表せば、勘違いだった。
「とりあえず――、
昼食を食べ終わったあとルナは言った。
「え、
イオは顔を曇らせる。モシャスは母と祖母にじきじきに禁止されたばかりだ。
国の許可があるとはいえ、あれだけ禁止されたのに母親たちがすぐに意見を覆すだろうか。
「あの。モシャスは混乱が生じるからマズイのでは?」
「大丈夫だ。問題ない」
やはりここでも不安を感じさせない幼女の声だった。
「お母さまの許可はとったのですか」
イオは重ねて聞いた。
「もとより当たり前のことだ。そうでなければ、わたしはここに来れない」
勘違いがミルフィーユのように重なっていた。
ルナは、イオの発言を自分の母親のことだと思ったのだ。
そもそもルナは他国に単身乗りこむような形になっている。
いくらグランマイスターレベルであるとはいえ、そこはさすがに八歳児。
わりと強く反対されたのを押し切ってきたのである。
母親の許可を得てここにいるという自負がある。
付言すれば、日本語が話せるといっても、やはり根はアメリカ人であるルナにとっては、『お母さま』だろうが『ママ』だろうが『お母さん』だろうが、全部、母親という意味の単語であるということでしか置換できない。
だから、『お母さま』と言われて思い浮かぶのは、自分の『マム』のことだったのだ。
「そうなんですね」
そこまで言われてしまっては、イオはもう何も言うべきことはなかった。
☆
なんだかおもしろそうなことになっているなぁ……と、理呼子は思っていた。
理呼子にとっては、べつに魔法を使おうが使うまいが、イオの隣にいることができればそれでよいと思っている。魔法の周りに対する影響はいろいろと大きいと思うが、それでイオがどこかに隠れてしまうでもなければそれでよいのだ。
なんにしろ全世界ベホマズンという特大級のやらかしをしているのである。
もういまさら遅いという言葉に収斂された。
だって、
いちいち、そんなことを考えるだけ無駄だし、目もくらむようなかわいらしい外貌を持ちながら、少しだけ抜けているギャップが魅力的な友人と、楽しくおしゃべりしたい。
理呼子にとってはそんな感じだったのだ。
永続性のあるモシャスを知らないがゆえの無邪気さとも言えよう。
それで、ルナが言い出したのは
「私をイオにしてほしい」
つまり、イオの容貌をコピーするというのが、魔法普及実験の第一歩だったのである。
「まあかまいませんけど、モシャスは外貌をいじるだけであって魔法力はその人のままですよ」
「なにごとも実験が大事だ」
「わかりました。
そして、理呼子は見た。
イオがふたりいる。
まるで双子のように寸分たがわぬ姿にルナは変化していた。
理呼子は狂喜した。
「イオちゃんが二倍になってお得感が二倍だよ」
「あの……意味が分からないのですが」
所作が圧倒的に綺麗で表情の硬いイオ。
その隣のルナのインストールされたイオは表情にも面白みがあって、それはそれでかわいい。
つまり、二倍お得なのだ。
「わからないかな。田中くんもそう思うよね?」
「ぼ、僕は、その星宮さんの姿だけじゃなくて、その、心も綺麗だと思っているので」
なぜかきょどる少年田中。
「うん。その言葉は同意するけど、田中くんにはあげないからね」
急に真顔になって、それからとびきりの笑顔になる理呼子。
少年田中は蒼白になりながら何度も頷いた。
「わたしは物じゃないのですが」
イオは小さく呟いている。
そんなイオに対して、理呼子は楽しげに提案した。
「あ、いいこと考えついちゃった。田中くんもイオちゃんの姿にしてあげたらどうかな」
「ええっ!? さすがにそれはいろいろと問題がありそうな気がしますが」
「田中くんもイオちゃんの姿になれたらうれしいよね?」
「その……僕は、その……」と、哀れ少年田中は小さくなっている。
ここで理呼子がなぜそんな発言をしたのかは、なかなか表現が難しいところである。
理呼子は小学五年生という心と体の仕組みが変わっていく思春期の入り口に立っている。
男子が少女の姿になる――しかも、それなりに執着のあるイオの姿になるのは、一歩間違えば嫌悪を抱いたかもしれない。
しかし、モシャスがゲーム的には一時的な変化であることを知っている理呼子としては、ヘリウムガスで声が変わるのを楽しむがごとく、いろんな表情をするイオをただただたくさん眺めていたいという欲望を抱いたのである。
イオちゃんがいっぱいで楽しい。
わりと、理呼子も単純な思考をしている。
「ふむ。なにも魔法は使えそうにないな。 メラ! メラ! やはりでないか」
窓に向けてルナは呪文を唱えていた。
事前にイオが申し向けていたとおり、やはり何も魔法を使えない。
「おそらく魔法力は魂的な何かに付着しているんでしょうね」
「だとすれば、人によってはその魂とやらに魔法力が宿っている人がいるかもしれないな」
ルナは純粋な科学的好奇心から、教室の壇上に登った。
「みんなに提案がある。よければ、モシャスの実験に参加してくれないか?」
クラスのみんなは顔を見合わせることになった。
実のところ、魔法やイオに対する親御さんたちの反応はかなりマチマチである。そもそも、魔法というものをほとんどファンタジーとして捉えていて、なんらかのトリックじゃないかと疑っている者もいれば、イオを危険人物だと考えてクラスを変えるように嘆願している者もいる。
親の心情は子に染みるものだ。
親がつきあうなというのであれば、つきあいにくい。
ただ、そうであっても――。実際このクラスは幼稚舎からのエスカレーター式であがってきた者たちばかりなので、言ってみれば全員が幼馴染のような状態と言えた。
だから、イオが比較的おとなしく、突然人を傷つけるような者ではないという程度の信頼はあったのである。
それに、やっぱり魔法というものに興味がないわけではなかった。
子どもらしい好奇心がうずいていて、決壊寸前だったのである。
そこに、
いや、それどころか。
「これは人類のためだ。未来のためだ。オールフォーワン! ワンフォーオール!」
と、ルナはイオの姿で言う。
みんなのためという言葉を、一番使う年頃が小学生だ。
興奮してピンク色に染まった頬と、うるわしいハチミツ色をした瞳。
いつもの人形めいたイオとは違い、人間らしい姿は非常に魅力的で、誰もが協力したくなるほどだった。
それで、あわよくば魔法が使えるかもしれないのである。
「その僕でよければ……協力するよ」
少年田中がおずおずと挙手すれば、あとはダムの決壊だ。
同調圧力がうねりとなってクラスを襲い、残念ながら抵抗力もさしてない小学生たちは全員その渦に飲みこまれることになった。
残念ながら魔法を使える者は出なかったが、かつてないほどにクラスが一体化したのである。
「ひえっ」
午後の授業で教室に戻った安藤先生は、クラスがイオで埋め尽くされているのを見て、自分がメダパニにかかっているのかといぶかしんだ。教室のドアは、かつてないほど丁寧にそっ閉じされた。
プチやらかし?
追記
にゃあああああああああ
海綿体は作者のやらかしでした……
おまえ頭ン中海綿体かよ
これはもうネタのしこみにするしか……
この作品は作者もかしこさ3なので、過度な期待はしないでくだされ
再追記
いろいろ考えた結果、やはりネタとして消費するのは難しそうなので
海馬に修正しました
ゆるし亭ゆるして