ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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掲示板。ついでにスライムの夢。

1:名無しの魔法少女観察者

 

見つけてしまった

 

 

16:名無しの魔法少女観察者

 

SNSでいま流行りのやつじゃん

ていうかこの子なんなの

ほんとに魔法少女なの?

 

 

36:名無しの魔法少女観察者

 

魔法少女的なフリルつきの服じゃないからオレ的には減点

 

 

49:名無しの魔法少女観察者

 

どっちかというと学生服に近い感じだよな

 

 

55:名無しの魔法少女観察者

 

朝潮型が着てるようなやつだ

絶対いいとこのお嬢様って感じの服

 

 

73:名無しの魔法少女観察者

 

正直興奮する

 

 

79:名無しの魔法少女観察者

 

動画だとかなり遠目だから顔が良く見えんが、なんとなくシルエットで美少女だとわかる

 

 

91:名無しの魔法少女観察者

 

オレの美少女センサーによると間違いなく美少女

 

 

101:名無しの魔法少女観察者

 

おっさんが魔法少女に変身しているだけかもわからんだろ!

バ美肉はもうお腹いっぱいなんだ

 

 

111:名無しの魔法少女観察者

 

お前らもっと語るべきことあるだろ

異世界からの侵略なのかとか

魔法世界からの刺客なのかとか

実はR18な魔物と戦う対魔忍とか

 

 

123:名無しの魔法少女観察者

 

カードキャプタータイプなんじゃないかって思った

昔の魔法少女ものはご近所の平和を守るために魔法を使うというタイプだったのが

今では、私的な理由で魔法を使う

 

 

136:名無しの魔法少女観察者

 

どう見ても小学生くらいの女の子だよな

対魔忍の小学生とか……なんというか…その…下品なんですが

 

 

146:名無しの魔法少女観察者

 

おいやめろ

 

 

162:名無しの魔法少女観察者

 

崇高な使命を帯びた対魔忍に対するひどい風評被害

 

 

177:名無しの魔法少女観察者

 

やーい。お前の娘、対魔忍~。

 

 

185:名無しの魔法少女観察者

 

実際のところどうなんだ。

解析班とかいないの?

 

 

206:名無しの魔法少女観察者

 

CGとかの類じゃないのは確かだよ。

渋谷から新宿のスクランブル交差点まで飛んでて

かなりの目撃例がある

一番降下したときにはビル窓の清掃員が数メートルくらいの近さで見たらしい

 

 

215:名無しの魔法少女観察者

 

で、美少女なんですか?(切れ気味)

 

 

227:名無しの魔法少女観察者

 

ちょっと魔法少女ちゃんが停止したときの画像なら持ってる

アップするから待ってな

 

 

231:名無しの魔法少女観察者

 

これはまちがいなく美少女

 

 

232:名無しの魔法少女観察者

 

というかどこかで見たような顔なんだが

 

 

246:名無しの魔法少女観察者

 

結構近くで撮ってるけど、なんかオーラみたいなのが出てね?

 

 

254:名無しの魔法少女観察者

 

イデの力だよ

 

 

260:名無しの魔法少女観察者

 

月光蝶である

 

 

269:名無しの魔法少女観察者

 

実は別次元でワルプルギスの夜と戦ってる説

オレらはヤムチャ視点でわからない

 

 

283:名無しの魔法少女観察者

 

人類絶滅は勘弁な

 

 

295:名無しの魔法少女観察者

 

あーっ!

この子知ってる

女優、星宮マリアの娘ちゃんだよ

確か名前は星宮イオちゃん(10)

 

 

 

299:名無しの魔法少女観察者

 

10歳か食べごろだな

 

 

317:名無しの魔法少女観察者

 

魔法少女スレだからロリコンが多いとは思っていたが

申し訳ないがナマモノはNG

 

 

321:名無しの魔法少女観察者

 

星宮イオって子役?

聞いたことないんだけど

 

 

340:名無しの魔法少女観察者

 

イオちゃんのメディア露出はめっちゃ少なかったからな

CMに数秒でたりとかしてたみたいだけど

 

 

355:名無しの魔法少女観察者

 

ハーフかね?

銀髪が地毛だったらたぶんそうなんだろうけど

 

 

357:名無しの魔法少女観察者

 

確か父親のほうはアメリカのほうで有名な映画監督らしいぞ

 

 

361:名無しの魔法少女観察者

 

つまり美少女確定か

 

 

369:名無しの魔法少女観察者

 

おまえら美少女美少女って、そんなことより語るべきことあるだろ

イオちゃんがどうして魔法を披露したとかさ

 

 

376:名無しの魔法少女観察者

 

魔法文明の姫様でした説

 

 

390:名無しの魔法少女観察者

 

イデの力の発動前

 

 

404:名無しの魔法少女観察者

 

月光蝶である

 

 

408:名無しの魔法少女観察者

 

滅びよ滅びよ……

 

 

416:名無しの魔法少女観察者

 

ここは危険人物だらけのインターネッツですね

 

 

427:名無しの魔法少女観察者

 

魔法少女をネットストーキングしてる時点でそもそも

 

 

428:名無しの魔法少女観察者

 

他人の空似かもしれんだろ

どうして星宮イオだって断定できるんだ?

 

 

429:名無しの魔法少女観察者

 

イオちゃんが妖怪に親を喰われた村娘役のシーン見てみたら

くっそオーラがあって逆に浮いてたわ

いわば、お遊戯会の中でひとりだけハリウッドスターが混ざってみるみたいな感じ

少しは加減しろっていわれてそうww

ある意味大根

 

 

444:名無しの魔法少女観察者

 

大根みたいな白い肌だけどな

ほっぺたむにーってしたい

 

 

455:名無しの魔法少女観察者

 

別動画でもう少し近くで撮れてるやつをあげとくわ

 

 

468:名無しの魔法少女観察者

 

>>455

くっそ有能メン

この指先を突き出してるときに、なんか魔法陣っぽいの空中に出てるな

声は遠すぎて聞こえんがイ行とオ行の二文字を言ってるように見える

 

 

482:名無しの魔法少女観察者

 

そりゃ、イオちゃんだからイオだろ

 

 

491:名無しの魔法少女観察者

 

ドラクエかよ草生える

 

 

512:名無しの魔法少女観察者

 

でも花火っぽい爆発が急に空に出現しているように見えるんだよな

あれはまちがいなくイオだわ

 

 

521:名無しの魔法少女観察者

 

特技はイオナズンです

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 そう特技はイオナズン……ってやかましいわっ。

 わたしはいま絶賛引きこもり中である。

 どうせ習い事も子役の仕事も終わったんだ。いまのわたしの時間は普通の小学生並み。

 つまり余分な時間があふれている。

 そんで、さっきのやらかしのフラッシュバックというか引き戻しというかなんというか。

 

 わたしは落ちこんでいた。

 

 生まれてこの方、まったく魔法を使わなかったわけじゃないけれど、秘匿していたのにはそれなりに理由がある。

 要するに、過ぎたる力はうんぬんってやつだ。

 わたしにも人並みのかしこさはあるわけで、普通に魔法っぽい何かをあれだけ大々的に披露してしまったら、謎の技能を持つ少女に対して、謎の組織とかからのアプローチがあるかもしれないと考えるのが普通だ。良くて超人扱い、悪くて化け物かモルモットだろうなとか。

 

 アプローチなんて生やさしいものだったらいいけど、なんらかの強制を含むものだったらどうするべきなのかなんて問題もある。

 

 平穏無事に生きたいなら、能ある鷹はなんとやら。

 

 普通は隠して生きていくほうが無難だよねって話。

 

 さっきは無敵の人モードになって、どうでもいいわそんなんって思ってたけど、冷静になってみると、やっぱり不安だ。

 

 あああっ。不安だ。ごろごろごろ。

 

 自室のベッドの中にもぐりこんで、ワニのようにローリングしながら現実逃避しつつ、これから何が起こるのか不安で膨らみのない胸がはちきれそうだった。

 

 スマホでエゴサーチしたら、とてつもない勢いでSNS各種が伸びまくってる。わたしが無難にアイドル活動していた日々はいったいなんだったんだというぐらい、さっきのイベントは強烈だったらしい。

 

 幸いなのは、わたしが美少女認定されていることくらいかな。

 やっぱりわたしってカワイイよね。えへへっ。

 

 あのはぐれメタルのような輝く銀髪とスライムベスのような可憐な唇を持つかわいらしい魔法少女は誰でしょう。そう、わたしです。なんちゃって……。

 

 いまはまだ都市伝説のようなものだろうけど、これはいずれ誰かが接触してきそうだ。あるいはもうマネージャーの寺田さんに問い合わせくらいはきているかもしれない。

 

 まあそんなことはどうでもいい。

 

 とりわけ、最初に何が起こるかは決まっている。

 

「イオ! 入るわよ」

 

 ママンの来訪だ。

 ノックもせずに、わたしの部屋に血相を変えてやってきた。

 わたしはおずおずとベッドから抜け出した。

 

 ママンはあいかわらずわたしに対する視線がきつい。

 思い起こせばはじめての反抗期だったからな。反抗期ってレベルじゃないけど。

 

 とりあえず、ベッドに座る。

 ママンは腕を組み、わたしの勉強机に備えつけられた高級そうな牛革の椅子に座った。

 

「どうしたんですか。お母さま」

 

「あなた、二時間ほど前に外に出かけてないわよね?」

 

「出かけましたよ。お役ごめんになりましたんで時間が余ってしょうがなかったんです」

 

 小首をかしげて、それが何かのポーズをしてみた。

 ママンは顔をひくひくさせている。

 効果はいまいちのようだ。

 

「守衛さんはあなたが出ていくところを見てないらしいわ」

 

 セキュリティ高い超高級マンションだからな。

 一階の外に出ていくところには受付みたいな場所があって、そこを通らなければ外には出れない。 まあ、そっちのルートでも守衛さんに見とがめられずに外に出る方法はあるけど。

 ドラクエ知ってるならわかるよね?

 

 ただ、まあ……。

 

 ずいぶんと迂遠な問い方だと思った。おそらくママンはわたしの飛んでる姿を動画か何かで見たんだろうけど、あんなのが現実だとはなかなか受け入れがたいのもわかる。

 

 だからこれは、通過儀礼のようなものなのだろう。

 

「屋上から出ていきましたからね」と、取り澄ましたようにわたしは言う。

 

「屋上への扉は閉まっているはずよ」

 

開扉呪文(アバカム)ですよ」

 

「なによそれ」

 

 信じられないものを見るような目。

 

「ドラクエの魔法です。ドラクエはご存じですよね」

 

「ドラクエってゲームの?」

 

「そうです。その中でもアバカムは派手さはないですけど、現実的には結構使える呪文だと思います。効果はすべての扉を開けることができるというものです。扉というのは観念上の障害のことを指すので、例えばパソコンのパスワードなども開けることができるみたいですけど」

 

 まあ、五歳くらいのときに、ママンがスマホを放り出していた一瞬の隙に試してみたら、なんか知らんけどできたというのが真相だけどな。

 

 ママンは額に手を当てて、現実をインストールしようと必死だ。

 

「それで、空を飛んだのは?」

 

飛翔呪文(トベルーラ)ですね。実をいうと、こちらの呪文はダイ大、つまりダイの大冒険というドラクエの世界観を漫画にした作品で使われた呪文なんですけどね。魔法力を噴出することで空を飛べたりするわけです」

 

「空を爆発させたのは?」

 

初級爆発呪文(イオ)ですね。あ、イオというのはわたしの名前のことではなくて、小さな爆発を任意の場所に発生させる呪文のことを指します」

 

「つまり、あの動画はあなたなのね?」

 

「あの動画がどの動画なのかはわかりませんけど、二時間前に空を飛んだり、花火を打ち上げたりした謎の魔法少女さんはわたしですね」

 

「なぜそんなことをしたのよ」

 

 非難がわずかに混じる声。

 まあ、謎の美少女を追う謎の組織があらわれたときに、家族を人質にするっていうのも普通に考えられるからな。

 ママンの非難はまずまず正当と言えた。

 

 ただ、それでも使いたかったのは、我慢の限界だったからだ。

 魔法の力をわたしから切り離すことはできない。もしも魔法が使えなくなる時が来るとすれば、それはわたしが死ぬときだろう。

 

 つまり、魔法はわたし(イオ)そのものだった。

 ありのままのわたしをママンには受け入れてもらいたかった。

 なんて言ったら、感傷的すぎますかね。

 

「ルーラって便利だと思いませんか?」と、わたしは何気ないふうに口を開く。

 

「は?」

 

「覚えているところに瞬間的にたどり着ける呪文です。もしもドラクエの魔法をひとつだけ使えるとしたらという問いだと、まず間違いなく上位につけますね」

 

「なにが言いたいの?」

 

「例えば冬の寒い時期。ベッドから起きたくないって思うことはありませんか? そんなときもルーラがあれば大丈夫。ギリギリまで寝ていても学校に遅れることはありません。けれど……」

 

 そう。この世界には魔法は無いのだ。

 

「現実は観測しうる限り、奇跡も魔法もない世界ですから、わたしが魔法を使ったらみんなをビックリさせてしまいます。でも、みなさんが魔法に慣れてくれば、別段どうということもないかもしれません。人はどんなことにも慣れるいきものですから」

 

「そんなわけないでしょう。魔法が使えるなんて周りからしたら危険人物に決まってるじゃない。自分が特別な存在だって勘違いしてるんじゃないの」

 

「自分を特別な存在だと思わないのも小さくまとまってるようで嫌ですね。大人はいつだって、人間はひとりひとりが特別な存在だというじゃないですか」

 

「日本では出る杭はうたれるのよ」

 

「出過ぎた杭は打たれないともいいますね」

 

「そのちっぽけな魔法で、なにができるっていうの。傲慢な考えは捨てなさい」

 

「お母さまは、あまりドラクエの魔法をご存じないのでは?」

 

「知らないけど、個人ができることはたかが知れているのよ。その枠組を越えようとしたら、ただでは済まないの。どうしてそれがわからないの!」

 

 ママンの言うことはたぶん正しい。

 ママンは呼吸が荒く、目が血走っていた。相当興奮しているようだ。

 それもいい意味ではない。得体のしれないものを見るような視線を必死に隠そうとしているように思える。いつもの大女優の余裕も見られない。

 

 ママンはあまりゲーム好きではなさそうだったから、ドラクエ魔法のことをどこまで知っているかはわからない。

 

 ただ、魔法が他害性のあるものだという認識くらいは日本人だし持ってるだろう。

 なんたらパトローナムしているイギリスの魔法少年も、わりと危険そうな魔法を使ってるしな。

 

 わたしは誓って即死呪文(ザラキ)厨じゃないけど、普通に考えて、すれ違いざまに人を即死させることができる人間が近くをうろつくと怖いだろう。実際にそうする力もあるわけだし。

 

 ただ、それはべつに魔法を使えなくてもいっしょだと思う。

 電車やバスにいっしょに乗ってる人が包丁とかで他人を刺し殺すことはできるわけだ。

 

「そう思いたい人には思わせておけばよいのでは?」

 

「そういうわけにはいかないでしょう。もう少し大人になりなさい」

 

 ヒステリックに子どもを叱る親と聞き分けのない子。

 どちらが大人なんだろうな。

 

「わたし、まだ子どもですし」

 

 前世をカウントしなければ、ですが。

 

「これからも魔法を使う気?」

 

「そのつもりです」

 

「今ならトリックだのなんだのでごまかせるかもしれないわ」

 

「毎日、学校にルーラで通っていいなら、それでもいいですけど」

 

「はぁ……、あなたはもう少し賢い子だと思っていたわ」

 

「申し訳ございませんが、かしこさはあまり魔法に影響しない仕様のようです」

 

「ハァ……」

 

 特大のため息をつくママン。

 

 本当に申し訳ない。煽りたいわけじゃないんだけどな。

 もう今更なにをしようと遅いということを知ってもらいたいだけだ。

 

「あなた、わたしに怨みでもあるわけ?」

 

「怨みですか? ないですけど」

 

 こんな才能もないわたしを辛抱強く育ててくれたのだ。

 怨みなんてあろうはずもない。

 むしろ今のママンは美人だし、わたしの憧れに近い。

 控え目にいってママになってほしい。ママから生まれたい。

 あ、わたしママンの子どもだったわ。既に勝ち組だったわ。

 残念ながら、表情筋が氷結呪文で固定されているのかっていうくらいのクールなわたしである。

 脳内が桃色でも、わりとキリっとしています。

 

「わたしを困らせたいの?」

 

「いいえ」

 

「さっきあなたがやったことで、事務所の電話はパンクしているし、ここを嗅ぎつけた怪しい連中が表にたむろしているわ」

 

「案外、早いですよね。さすが高度情報社会」

 

「どう対処する気なの?」

 

「ご安心くださいお母さま。わたしができる限り対処するつもりです。可及的速やかに高度な柔軟性を持って善処させていただきます」

 

「対処って、魔法でカメラを破壊するとかじゃないわよね」

 

「違います。きちんと、彼らの前で魔法を使うだけですよ」

 

 見たけりゃ見せてやるよってな。

 

「そんなやり方だとハチミツにむらがるアリみたいに、取材が増えるだけよ」

 

「時間の問題だと思いますよ。お母さまやユアは魔法を使えないわけですから、取材がいくら増えようと、彼らを楽しませるようなことにはなりません。結局は、パフォーマンスをするわたしに集中していくのではないかと思います」

 

「私はまだいいのよ。ユアが潰されてしまうかもしれないじゃない」

 

 妹の名前が出て、わたしは胸の奥がズキリと痛むのを感じた。

 やっぱり、ママンはユアのほうが大事なのだ。

 

「ユアは、わたしの百倍は演技の才能があるのでしょう。カメラの前で彼らを手玉にとるなどたやすいのでは?」

 

「あなたはお姉ちゃんでしょう。どうしてそんな冷たいことを言うの」

 

「人は与えられた能力で現実に対処するいきものです。たとえ七歳児だろうと、大人だろうとそれは変わりません。ユアはユアで対処するでしょうし、お母さまはお母さまで対処するでしょう。もちろん、わたしも。ただそれだけなのでは?」

 

「家族じゃないの。それともなに。あなた実は異世界人だっていうの?」

 

「お母さまから生まれたのですから、わたしが少なくとも肉体的にお母さまの血縁であることはお母さま自身がよくわかっていることですよね。精神はよくわかりません。前世の持越し記憶はありますけど、神様カッコカリの言い分が正しければ転生のはずです。もちろん、謎の精神生命体が赤ん坊にとりついてという線も考えられますけれども、申し訳ないですが、それを証明する術はわたし自身も持ち合わせておりませんし、社会的にも審議することは不可能なのでは?」

 

「そういうことが言いたいんじゃないの」

 

「そうですか」

 

 ママンもそうだけど、女の人って時々言ってることわからんのだよな。

 まあ、わたしの場合は、たぶん若干コミュ障入ってるのかもしれんけど。

 

「家族は助け合うものでしょう」

 

「わたしの家族は比較的個人プレイ好きな気がしますが」

 

 今世のママンは、大女優で仕事は忙しく。

 パッパは遠い異国で映画撮ってて、ほとんど会ったことすらない。

 昨日までのわたしは、鬼のようにてんこもりの習い事で時間がない。

 

 家族団欒みたいな、普通の家族のようなことをしていないんだよな。

 

「やっぱり怨んでいるのね」

 

「意味がよくわからないのですが」

 

「正直なところね、あなたのことを少しだけ不気味な子だと思っていたの」

 

 悲報。ママンに不気味な子扱いされる。

 それでも表情が崩れない、完全なポーカーフェイスなのが怨めしい。

 怨みといえば、神様カッコカリに与えられたこのボディについてだけだな。

 でもま、合点はいった。

 わたしはわたしなりに普通の子を演じてきたつもりだったけど、やっぱりママンにはバレバレだったみたいだ。

 

 ママンは椅子に身体をあずけて天井を見上げた。

 

「だって、五歳児が完璧な演技をするなんておかしいでしょう」

 

 わたしが子役を始めた年だ。

 

「完璧だったのでしょうか」

 

「完璧すぎる点を除けばね」

 

 なんだその禅問答みたいな答えは。

 実は自分自身に浅い催眠をかけて、完全なメソッド演技をできてただけなんだけどな。

 メソッド演技というのは登場人物に投影する手法で、一種の催眠みたいなもの。

 それを魔法的におこなっただけだ。

 

――混乱呪文(メダパニ)

 

 を使って。

 

 わたしの実力そのものではないから、いわゆる本当のチート。ズルってやつだ。

 

 習い事にめげなかったのも、おそらく恒常的にメダパニを使ってるせいかもしれない。

 

 常に情動を制御する。

 

 ある意味、ディストピアの世界だな。

 

 おかげで、こんなクールな美少女が誕生してしまいました。ガワだけですけど。

 

「わたしはお母さまに疎外されている気がしていました。けれど怨んではいません」

 

 不気味に思われるのはしょうがないよな。

 だって、わたしだし。

 ガワがかわいいだけの、中身残念人間だし。

 

「さみしかったんです」

 

 そう締めくくる。

 

「そう……」

 

 それから奇跡が起こった。いやどんな魔法を使ったんだ。

 

――わたしはママンに抱きすくめられている。

 

 大事なことなので二度言おう。

 わたしはママンに抱きしめられている。

 

 その柔らかく母性あふれるおっぱいが顔に思いっきり当たっている。

 これ、優勝したんじゃね?

 

 呼吸困難。でも幸せだった。なんかふわふわする。

 実際には触ったことがないけれど、顔に伝わる柔らかさはドラクエの最も有名なモンスター、青いフォルムと素敵な笑顔が特徴のスライムの感触に似ているに違いない。

 

 おっぱいがお好き? けっこう。ではますます好きになりますよ。

 さぁさぁ、どうぞ。おっぱいのニューモデルです。

 ……快適でしょう? んああぁ、おっしゃらないで。

 

 心臓音がとくとくと聞こえる。

 

 ……いい音でしょう? 余裕の音だ、母性が違いますよ。

 

 ヤバい。なんか眠たくなってきた。

 

 起こさないでやってくれ死ぬほど疲れてる。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 完全に寝入ってしまったイオを見て、星宮マリアは複雑な心境だった。

 思えば生まれた当初から、不思議な子だった。

 妙に敏いところがあったし、子どもらしいわがままもなかったのだ。

 それどころか、異常なほど粘り強い性格をしていた。

 通常なら三日も持たないタスクを負わせても、なんなくこなしてしまうのだ。それで余計躍起になって、いろいろと無茶な習い事をさせてしまった。

 

 今日、イオの子役の仕事と習い事をやめさせたのは、ひとえに恐ろしかったからである。

 

 魔法と前世の経験によるカサ増しを知りようもなかったマリアにとって、イオは不気味という言葉すら越えて、異常と言えた。

 

 例えれば、化け物の子を育てているような気持ち。

 

 いや、育ててすらいない。単に血縁関係があるからしかたなく家族を演じているのではとすら考えたのである。

 

 最初から完成されてしまったものを見続けるというのは、人並みならぬ努力をしてきた大女優マリアにとって、まったく育てがいがなかったのだ。

 

 しかし、いま腕の中で抱きすくめたイオの矮躯は、想像以上に小さく思えた。

 あどけない安心しきった顔をしている。

 

「前世……ドラクエの魔法」

 

 荒唐無稽な話だ。

 しかし、与えられた現実は変えようがない。

 奇跡も魔法もある世界だと証明されてしまった。

 

 きっと、世界はイオに注目する。

 たったひとりの魔法使いとして、注目しない理由がない。

 プライベートは剥奪され、あるいは人権も。

 

 その恐ろしい予感に、マリアは身がすくむ想いがした。

 

「こんなのどうすればいいのよ」

 

 なお沈痛な面持ちのマリアに対して、当のご本人は大量のスライムにダイブして、ぷにんぷにんするという幸せな夢を見ていた。


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