ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
前話の後ろあたりをカットしてつなげた感じです。
前回上げた分はなかったことにしてください。
「ところで、なんでわたし達ってここにいるんでしたっけ?」
応接室で待っているという状況にようやく疑問を持ったイオが聞いた。
ルナはあきれた表情になる。
「聞いてなかったのか。この件に関しては比較的わたしたちと年の近い担当者がつくことになったんだ。あの会議室にもいて、自己紹介してたぞ」
「そうなんですか。夢のひと時すぎて、正直覚えていません」
「幻の大地にでもいたのか」
「もう少しで本当の自分に
「重症だな。実験はちゃんとしてほしいぞ」
魔法の実験のことである。
これからやることはさすがのイオでもわかっている。
新作のドラクエで新しく創作された魔法を実際に使う。
これだ――。
「わかっています。新作ドラクエができるっていうのも、ものすごぉ~くワクワクしてるんですよ。国民のみなさんに先んじてドラクエをプレイできるなんて、神さまにお年玉をもらったみたいでうれしいです」
役得役得と、うれしさを隠そうともしないイオ。
普段はメダパニによって表情が硬いが、今は素の状態なため表情が柔らかい。
「イオ……、あの記者会見で使った
「ええ、そうですよ。知ってたらみなさんの前で、かしこさ3をお披露目することもなかったと思います。全国のみなさんに知られることも……」
最後のあたりは声が震えていた。
ルナは慌てて言葉をかぶせる。
「ああ、そういうことが言いたいんじゃない。そもそも、イオが主観的に知っているかどうかにかかわらず、魔法は発動するということが言いたかったんだ。つまり、プレイする必要はない。もちろん、プレイしてもいいが、まずは魔法を使ってみてほしい」
「ええー……まあ、後でプレイできるんならいいですよ」
しばらくしてドアがノックされた。
「どうぞ」
ルナが受け答える。
入ってきたのは物腰の柔らかそうな女性だ。
スーツ姿の20代。
言っちゃなんだが、おじさんだらけの制作班の中でかなり浮いているひとりだった。
イオも珍しかったので、覚えている。
名前までは憶えていないが。
「城崎優です」とその人は名乗った。
事前に、制作班はひとりひとり名乗ったのだが、十数人程度はいたためとっさに覚えるのは小学生でなくても大変だ。
もう一度覚えてもらうためにあえて名乗ったのだろう。
「星宮イオです。よろしくお願いします」
イオは元気よく答える。
なにしろ新作ドラクエをプレイできるのだ。
名前のとおり、嬉しさが爆発しそうだった。
イオのほほえましい姿に城崎の視線が柔らかくなる。
魔法のことは置いておくとしても、ファンである様子は十分に伝わったからだ。
「城崎氏。ゲームのプレイングの前に魔法を使ってみたい」
ルナが言った。
「わかりました」
「では、魔法力を譲渡する魔法の名前を教えてほしい」
「マホアゲルです」
「それは既存の魔法だな」
「ストーリーに魔法が使えない戦士に魔法力を芽生えさせるという流れを組み入れました」
「なるほど。では、イオ頼む」
ルナからの視線を受けて、イオは軽くうなずいた。
「では、
対象は当初の予定通りルナである。
光のエフェクトが出現し、ルナの身体を包みこむ。
ルナは手術前のドクターのように両手をニギニギした。
「まったく感覚的にはわからないな……。
呪文はむなしく響き渡った。
なにも起こらなかったのである。
「むー。これはわたしの
イオはなにぶん感覚的に使っているので伝達できていない部分もあるのだが、呪文の詠唱が魔法の発動を意味するわけではない。例えば、『カメラ』と言っただけでメラが出てしまうと、とてつもなく危険であるからして。
魔法力の運用をしているのである。"使う"というイメージをしているだけであるが、それはイオの魔法力がバカでかいせいかもしれないし、前例がないのでイオ以外の作法がそもそもわからない。そういったわけでルナは魔法力の運用ができていない可能性があった。
「
「頼む」
「
MP0/0
増えていなかった。
「んむー。ダメか。もうひとつのほうの食料無限増殖のほうはどんな魔法なんだ? 城崎氏」
「ハラヘラズです」
それはトルネコの大冒険において、巻物という形で呪文を封じ込めた際に使われている魔法だ。
巻物については、そもそも使えなかった。魔法という形で人の身から出力されるものでなければダメなのかもしれない。
今回、それを形にしたということらしい。
「なるほど、トルネコか。ではイオ、同じように頼む。今度は自分で使ってみるんだ」
「わかりました。ハラヘラズ!」
しかし――。
なにもおこらなかった!
「なにもおこりませんね」
「空腹がなくなるという魔法なのではないか? 城崎氏。どういう設定にした?」
「パンが出るようにしました。ホカホカの柔らかフランスパンです」
城崎の趣味全開だった。
いちおうそれなりに意図があって、たとえば魔法力そのもので空腹が抑えられるとすると、脳内が満腹と判断しているだけで、実は栄養素はいきわたっていないということも考えられるわけで、それだと健康的にまずいと考えたからだ。
もしもパンが許されるならイメージした料理が出てくるような魔法を創ればいい。
ハンバーグ。お寿司。ステーキ。高級フランス料理。
お腹だけでなく夢も膨らむばかりである。
「ふむ……パンがでないか。魔法力は減ってるか?」
「んー。減ってる感じはしませんね」
ダモーレをかけるまでもなく、自分自身の減りはわかるのだ。
たとえ極小の数値でもなんとなく感覚的にわかるのである。
――ハラヘラズは発動していない。
「であれば、現段階で新作ドラクエの魔法の効力は適用されていないということになるな。次の実験として、実際にプレイしてみよう」
「そうですね」
ウキウキした声でイオは答えた。
なにはともあれドラクエがプレイできるのはうれしい。
「かしこまりました。では少しご足労いただけますか」
「わかった」
ルナはピョンとソファから降りて付き従う。
向かった先は事務所だ。一フロアをほぼ大きく使った大きさで、事務机を使ったダンジョンのようにイオは思った。
もちろん、制作班だけではなく広告班や営業班など様々な人が思い思いに仕事をしている。
時折こっちをチラチラ見てくる。気にしないふうを装いながらも気になってる人。
「イオちゃん。かわいいーっ」「イオちゃんだ! マジで?」「サインもらっとこうかな」
ざわついて、気になっているのを隠そうともしない人。
いちおう、ここには国の業務として来ていることがわかっているためか、みんな実際に声をかけてくることはなかったが、イオとしてもうれしくなって、少しだけ手を振ってみたり。
「おい。いまイオちゃんがオレに手を振ってくれたぞ」「イオちゃん私の想いはメラミより熱いわ」「おまえの想いはマホカンタされるから」「あとでサインもらえるかな……」
そうして、城崎の机にたどり着いた。
「ゲームというのは、正確にはコンピュータゲームのことを言います」
城崎がデスクトップパソコンを起動させる。
いまどきデスクトップだと思われるかもしれないが、これは情報漏洩を防ぐ意味合いもある。
USBひとつ持ち出すのも許可制だったりするのだ。
他社にドラクエの情報が渡れば、とてつもない損失になるから当然の処置である。
いまはなおさらそうだろう。
人類の行く末を決定する情報といっても過言ではないからだ。
「まずはパソコンを使って断片的に作られたりもするんですよ」
「へえ。そうなんですね」
イオは感心した。
起動した画面には、ドラクエの新作ナンバリングのファイルが置いてあった。ドラフトの文字もある。ドラフトというのは仮のという意味である。イオにはよくわからなかったが。
「えっと、わたしが魔法を使ってからまだ二週間くらいしか経ってないのに、もうほとんどできているんですか? 早いですね」
二週間前には新作ドラクエの"ド"の字もなかった。
国民的RPGともなれば、広告宣伝がおこなわれて満を持して発売されるイメージだ。
二週間しか経ってないのに、もうほぼ完成品ができているのが不思議だった。
「いえ、たまたまと言いますか。偶然といいますか。完成までのあらすじはできていたんです。ドラクエの場合はですが、ゲームの場合、主にデバッグと戦闘の調整が多いですね」
「へえ……だから、4から5が出るまでに時間がかかったんですね」
「世の中の事情もありますね」
「世の中の事情ですか?」
「ソフトウェアが売れるためには、ハードウェアが普及していることが前提ですから。ハード屋さんの勝ち馬に乗るというのが、より売れるための前提になってきます」
「なるほど」
厳しい世界だなとイオは思う。
まあ商売である以上、やむを得ないのだろうが。
「では、さっそくだがプレイしてくれ」とルナは言った。
「パソコンでプレイするんですか?」
すごく違和感があった。確かにUSB接続された見慣れたコントローラーはついているものの、液晶画面とテレビではやはり感覚が異なる。
「ふむん。通常のゲームハードで起動できる状態にならなければ完成品として認識されず、魔法が発動しないということも考えられるが、まずは試してみることだ。いいかゲームを創るという工程にはおおざっぱには5つの段階があると考えられる」
ルナがちっちゃなおててを一本ずつ親指から順番に折りたたむ。
構想。未完成品。完成品。広告宣伝。発売。
この5つの段階がそれぞれあり、どの段階でドラクエがドラクエとして認識されるのか、あるいはされないのかが問題らしかった。
「よろしいですか?」
城崎が確認する。イオは頷いた。
ゲームを起動すると、例のオープニングが流れる。
やはり何度聞いても素晴らしい。
イオはすっかりその荘厳な始まりだけで感動してしまう。
もうドラクエ世代にとってはパブロフの犬だ。反射レベルで感動する。
コントローラーを持つだけで嬉しい。ボタンを押したい!
エサにむさぼりつく犬のような感じである。
清楚な見た目もこうなると、ただのワクワクしっぱなしの小学生だ。
「デバッグモードはいかがいたしましょうか?」
城崎が興奮しているイオを気に掛けるように言った。
「デバッグモード?」
「いわゆるチートだな。無敵とか、敵に会わないとか。あるいはフラグを飛ばしたり。まあ、最初はさっさと魔法を使う場面まで行くのが順当だろう。それでダメなら普通にクリアといった感じか」
「えー、チートとか使うのもったいないですよ。そもそも製作者さんとしていいんですか?」
ドラクエを辱める。
ドラクエを歪める。
それはドラクエ本来の輝きを失わせてしまうのではないか。
イオはそれが心配だった。
「かまいませんよ。事情が事情ですし」
城崎は余裕の笑みだ。
イオは言われるがまま、デバッグモードで進める。
冒険は――唐突に始まった。
フラグを吹っ飛ばして、断片から始まるので、いまがどういう状況なのか理解できない。
「この作品はオーソドックスな勇者ひとり旅から始まるパターンです。魔法については、できるだけ序盤になるように設定しました」
状況を見ると、ドラクエ3のような戦士が主人公と話をしている。
「戦士の彼はマジックポイントがなく魔法が使えません。転職をすればというところなんですが、それにはレベルが足らない。けれど魔法を使わなければならない事情があるのです」
「事情ですか……」
「片思いをしている人に、魔法も使えない人とは付きあえないわと言われる感じです」
「世知辛い世の中ですね」
「イオちゃんは付き合うならどんな男の子がいい?」
年上のお姉さんのような感じでくだけた口調になる城崎である。
イオは慌てた。
「わ、わたしはよくわからないですね。優しい人がいいかな?」
「そっか。好きな人はいる?」
「いないですいないです」
「ふふ。慌てちゃって」
真っ赤になりながらも、ゲームを進める。
城崎が説明したとおり、恋する戦士のために勇者が一肌脱ぐというストーリーのようだ。
「マホアゲルはMPの最大値を上昇させる魔法ではありません。そうしてしまうと、戦闘バランスが著しく害されますし、職業の意味が薄くなってしまいます」
「ですね」
「なので、マホアゲルの意味を魔法力の覚醒というふうにしました」
「うーむそれだと、我々に魔法力の才能が欠片もないとダメということにならないか? 効力のところを修正できないだろうか」
ルナが口を出した。
城崎は少し考える。
「では少しストーリーを変えて、最大MPを分け与えるという仕様にしましょうか?」
「イオの最大MPが減るのは好ましくない。削りまくって一般人並にするというのも、イオの安寧にとってはいいだろうが、最大MPが馬鹿でかいからこそできることもあるだろうからな」
「では……うーん。どうしましょうか。最大MPを削らずに最大MPを拡張できるとなると、あまりに野放図すぎてゲームとして成立しません」
「ゲームとしての成立よりも、現実の餓えている人間を優先してほしい」
「ルナちゃん。ダメですそれは」
イオは言った。ルナの言い分も理解はできるが、あまりにもクリエイターを軽んじていた。
「なぜだイオ。現実には餓えている人間が何億人といる。それらの人たちを放っておいて……遊戯を優先させてもいいのか。砂漠で喉が渇いている人がいて、ドラクエと水のどちらか一方を与えようと言われたとき、どちらを人は選ぶ?」
「どっちもくださいって言います!」
イオは地団太を踏んだ。
わがままイオちゃんであった。
ルナは渋面になったが、そもそも魔法の起点になっているのはイオである。
イオの気持ちが完全に離れてしまったら、そもそも魔法の普及が成り立たたない。
「ごめんなさい城崎さん。わたしのせいでゲームを歪めていますよね」
すんすんと鼻をならしてしまうイオである。
メダパニが切れていると、基本的に泣き虫で弱虫でクソ雑魚なめくじな精神力しか持ってない。
「わたしのせいで、ドラクエが」
「問題ございません。そもそも、その程度で壊れるほどドラクエは脆くありません」
イオは顔をあげる。
精霊だ。精霊様がいた。
いくら踏みつけにされたところで、ドラクエの輝きが失われることはないのだ。
「我々、クリエイターは顧客の意見を取り入れます。そのうえでいくらかクリエイターの意思をいい具合に織り交ぜるのですよ」
「そうなんですか」
「ええ、すべてがクリエイターの思い通りにいくわけもありませんし、すべてがプレイヤーの言うことを聞くわけでもありませんが、ドラクエがドラクエであるというオーラは消えることはないのです」
「すごいです」
イオは素直に尊敬した。
こんなにもクリエイターが我慢し抑制しゲームを創っていることに敬愛の念を抱いたからだ。
「それで、どうしましょうか。マホアゲルですが」
「生涯に一度だけ――」ルナがぼそりと呟いた。「たったひとりに対してだけ、使い手の最大MPを減らさずに受け手の最大MPを増やすというのはどうだろう」
「うーん……、物語的には最大値は999が限界ですね」
「ああ、それでいい。日常生活を送るぶんにはそれで充分だろうし、みながみな核兵器を持つことになったら、たぶん世界は壊れるからな」
イオと同じ程度のMPだと、マダンテで銀河がぶっとんでしまう。
999程度であれば、世界が破滅することはないだろう。
「では、少しストーリーラインを変更しますね」
イオの隣で、城崎はキーボードを叩く。
その姿は凛としていて、格好いい大人に思えた。
ものの数十分もしないうちに、ストーリーは書き換えられいよいよ戦士に魔法がかけられる。
それまでに、洞窟にマホアゲルを覚える呪文書をとりにいったりしたが、雑魚には会わないし、ボスは戦闘が始まったと思ったら終わっていたりと、味気ないどころの話ではなかった。
けれど、これも戦いなんだとイオは思った。
いま"現実"と折り合いをつけるために、みんなでパーティを組んで必死に戦っている。
味気ないなんて言っていられない。
「よし。これで使えるようになったか確認だ」
「わかりました。
続けざまに魔法を使う。
が、しかし。残念ながらルナのMPは0/0のままだ。
「ダメみたいです」
「落ちこむ必要はないぞ。ひとまず今度は普通のハード機でやってみよう。チートを使わずということになると、ここに至るまで……ふむ。一時間程度か」
城崎に仮のディスクを焼いてもらい、応接室にあるプレステで実際にプレイしてみたが、やはり使えるようにはならなかった。
「うーん。こうなると実際にエンディングまで見てみるか、発売まで待つしかないのかもな」
「そうですね」とイオ。
「わかりました。できる限り急いで完成品を作りますね」
「あの……」
イオはおずおずと話しかける。
「はい。なんでしょう」
「わたしのために、ドラクエが本来のものじゃなくなったりしませんよね」
「もちろんですよ」
城崎は自信たっぷりに答えた。
「ドラクエはおもしろいからドラクエなんです」
ちょっと作者の我儘が入りすぎていたようなので、改稿しました。
少しはよくなっているといいなと思います。
あいかわらず半ナマなので、そこのモヤっと感は残るかもしれませんが、コンフリクトを少なくして、口当たりをよくした感じをめざしました。
実際に作中と同じでデバッグしている感覚でした。
皆さまのご意見のおかげで少しでもよくなっていたら幸いです。