ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

27 / 102
前話は改稿しております。


変身。ついでに魔法少女はセンシティブ?

 イオは寝不足だった。

 新作ドラクエの未完成品をディスクに焼いてもらい、家でしこたまプレイしたからだ。

 

 新作ドラクエはこれまた大長編であり発売はされていないもののほとんど完成品に近い。

 ファンとしてむさぼるようにプレイしながら、魔法のためという言い訳も成り立つわけで、寝不足になっても叱られないのであるから最高だ。

 

「太陽がまぶしいです」

 

 校門前で、イオが手影をつくった。

 直射日光がまぶしすぎる。

 

 満足のいく週末だった。

 

 怒涛のようなプレイの結果、ゴールデンウィークの残り四日を利用してようやくクリアまでこぎつけた。50時間以上かかってるから、一日たったの12時間だ。うん、普通だな。

 

 結果は――ダメだった。

 新作魔法は使えなかった。

 

 けれど、身体は心地よい疲労感で包まれている。

 名作をプレイしたとき特有の疲労感だ。

 脳みその奥がしびれるような鈍麻した感覚と、じんわりと広がる多幸感。

 このままベッドに入れれば最高なのだが、残念なことに小学生は勉学が仕事なのである。

 

「イオちゃん、なんか眠たそうだよ。ゴールデンウィーク忙しかったの? まるで習い事ばっかりしてた前みたいな感じだよ」

 

 理呼子が心配そうに声をかけた。

 

 ルナは今日も遅刻のようだ。

 ドラクエのプレイングはルナも並走していたので、同じくグロッキー状態なのだろう。

 

「そうですね。ある意味、仕事だったのかもしれません」

 

 口から緩く息を吐き出しつつ言った。

 油断するとあくびになりそうだ。

 美少女のあくびはご褒美だが、イオのなかのこだわりとして我慢している。

 

「お仕事? 子役のお仕事はお休み中じゃなかったの?」

 

「発売前の新作ドラクエをプレイしていました」

 

「ああ、魔法のために」

 

「違います。ドラクエをプレイするのは魔法のためなんかじゃありません。そこにドラクエがあるからプレイするんです」

 

「どこかの登山家みたいなこと言ってるけど……それでどうだったの?」

 

「もちろんおもしろかったです。控え目にいって最高でした。攻略サイトが無い状態で小さなメダルをコンプするのがあれほど難しいとは……」

 

「じゃなくて、魔法のほうは使えたの?」

 

「うーん。残念ながら新しい魔法は使えませんでしたね。そもそも新作ドラクエでは使えるようにならないのか。それとも周知度が足りないからなのかはわかりません」

 

「ドラクエとしてのクオリティが足りなかったとかは?」

 

「それはないですね。さすがプロといった出来で、ストーリーにも無理はありませんでしたし、新作魔法もなじんでましたよ。そして最高におもしろいんです」

 

「ワクワクキラキラしているイオちゃんって、なんだかかわいいなぁ」

 

 イオはよしよしされている!

 

「にゃあ……眠くなっちゃいます」

 

 もとから眠気がすごいのに、心地よくマッサージされると、もはや陥落寸前だ。

 

「ねえ、イオちゃん」

 

「なんです?」

 

「漫画とかアニメの魔法も使えるんだよね?」

 

「そうですね」

 

「漫画とかアニメってゲームを原作とすると、二次創作だよね? だったら例えばわたしがドラクエの二次創作小説とか書いたらどうなるのかな」

 

「あー、なるほど。そういうことも考えられますね」

 

 ゲームは作成するのに一年も二年もかかったりすることが常である。

 漫画もジャンプみたいな週刊で二十ページ程度が限界だろう。

 だが、二次創作小説であれば、速筆ならば一か月で30万文字程度書けたりもする。

 単行本でいえば3冊分も書けるのである。

 

「実は書いちゃいました」

 

「おお、三分クッキングみたいな……」

 

 小学校ではいまだに使われている四百文字詰めの原稿用紙。

 そこに理呼子が手書きでドラクエ二次創作を書いている。

 

 イオは感動した。

 

 かなりのところジェンダーフリーなドラクエとはいえ、まだやはり男子のほうに人気があるドラクエである。理呼子もこの年になるまで、雑談でゲームのことはあまり話していなかったようだし、つまり、きっかけとはいえドラクエの世界に引き込めたのである。それがうれしい。

 

「読んでいいんですか?」

 

「いいよ。イオちゃんのために書いたんだし」

 

 女の子らしいかわいい丸文字で書かれていた。

 

 丁寧な字で小学生ながら時間をかけて書いたことが窺われた。

 イオは居住まいをただして読むことにする。

 

 

 

 ◆

 

 

 

【イオちゃんとわたし】

 

 イオちゃんはすごくかわいい女の子。

 わたしのいちばんの友達。

 そしてマホウを使える女の子。

 マホウといって思い浮かぶのはなんでしょう。

 やっぱり、いちばん最初に思いうかべるのはシンデレラのやさしいマジョさんだよね。

 マジョさんがマホウをとなえるとママ母たちにズタボロにされちゃってた服が、きれいなピンク色のドレスに早変わりします。

 

「ドレスアッープ!」

 

 イオちゃんもマホウをとなえます。

 

 プリキュアみたいにくるくるとまわりながら、かわいらしいフリルいっぱいのドレスになるのです。周りのみんなはいっそうかわいくなったイオちゃんにぱちぱちと拍手を送りました。

 

 教室のなかで、くるくるイオちゃんがまわります。

 窓から入りこむ光を浴びてかがやくようせいさんのようでした。

 すごくきれいな姿に、みんなが見ほれます。

 私もいっしょになっておどります。

 

 イオちゃんがわたしの手を取ってくれます。

 くるくるくるくる。

 イオちゃんがわたしの腰を持って、イナバウアーみたいにしてくれます。

 

 ダンスパーティがはじまりました。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 一度読むのを中断する。

 

「あの理呼子ちゃん。これは現実の二次創作であってドラクエの二次創作じゃないように思うのですが、そのあたりは大丈夫なのでしょうか」

 

「あそっか。イオちゃん自身がゲームから飛び出してきたみたいな女の子だから気づかなかったよ。でも、可能性があるなら使ってほしいな」

 

「えっと、このドレスアップという魔法ですか」

 

「うん。そうそう。魔法少女だったら変身魔法は定番でしょ?」

 

「モシャス使えばそもそも可能ですが……」

 

 モシャスは変化の魔法なので、イメージ次第で服も変えられる。

 

 ただし、それは着ている服をそのまま変化させているのであるから、質量的に足りないということはあるかもしれない。

 

 フリルたっぷりのモフっとしたドレスと、いまの比較的ぴっちりとした制服では容量がかなり異なる。

 

 いとこの好美の胸をちょっとだけ大きくしたりはしているので、多少の質量なら増減可能なのであろうが、そのあたりを魔法的な許容範囲として収められるかは不明だった。

 

「もうっ。イオちゃん。こういうのは専用魔法だからいいんだよ」

 

「そうですか……」

 

 イオにとってみればよくわからないこだわりであるが、理呼子からすれば当然の帰結だった。

 

 それは魔法少女趣味である。

 

 理呼子はイオの魔法を3歳のころから覚えていたのであるから、プリキュアや魔法少女もののアニメも『本物』として認識していたのである。いや、まあアニメであるからもしかしたら本物かもしれないという真偽不明の状態ではあったのだが、普通に魔法を目撃することなく育ってきた一般人とは少しばかり――、否、かなりこだわりが違う。

 

 真の魔法少女であるイオをアニメの中の魔法少女のように着飾りたい。

 それが、理呼子の野望である。

 

「言ってくれるかな、イオちゃん」

 

「え、ここでですか」

 

 いまは休み時間とはいえ教室にはたくさんの生徒が残っている。

 ここで、魔法少女よろしく全力でドレスアーップしなければいけないのだろうか。

 それはかなり恥ずかしい。

 

「もちろんここじゃなくてもいいよ。みんながいないところに行く?」

 

「わざわざ場所を移してまでドレスアップと叫ぶんですか?」

 

 それもちょっと……と、辞退を考えるイオ。

 しかし、理呼子は逃さぬとばかりに、肩に手を置いた。

 

「描いてきたの」

 

「え?」

 

「だから、描いてきたんだよ」

 

 今度は自由帳だった。まっしろなキャンパスに描かれてあるのは巨匠理呼子が描いた、イオのドレスアップ姿だった。漫画チックな描き方であるが、銀髪と金の瞳でイオだというのはすぐにわかる。全体の着色はピンク色で、ところどころにクリーム色でアクセントをつけている感じ。リボンも多めで、赤色か。スカートは短めでまっしろなふとともを惜しげもなく露出していて、肩口のあたりはガンダムのザクのように膨らんでいる。

 

 ひとことでいえば魔法少女然としたかわいらしい服である。

 

「さ、さすがにこの服に着替えるのは恥ずかしいですね」

 

 スカートや制服にはさすがに十年も女の子をやっていれば慣れるが、積極的にプリティを狙っていくのは、わずかばかり残留している男としての矜持がダメージを受けるのだ。

 

「えー」

 

「それに、この魔法は使えませんよ。先ほども申し上げましたとおり、ドラクエの二次創作ではないのですから、そもそも前提にたってません。せっかく描いてくださったのに申し訳ございませんが、この話はなかったことに……」

 

「じゃあ、ドレスアップって言ったあとに、モシャスを多段階でかけてみたらどうかな」

 

「あの、それって意味があるんでしょうか」

 

「あるよ」

 

「え?」

 

「あるよ」

 

「アッハイ……」

 

 なに当たり前のこと言ってるのと言いたげな瞳だった。

 理呼子に逆らうと、ブラックダイヤモンドのような瞳が濁っていって闇落ちしそうで怖い。

 

「あ、ついでにちゃんと下着から順々につけていってね。一瞬で変身しちゃったら味気ないから。ついでに、トベルーラとかも使って、くるくる舞いながら変身するの」

 

「あの、着替えの時とかにご存じでしょう。わたしまだブラジャーの類はつけていないんです」

 

 教室のざわつきが大きくなった気がした。

 

「スポーツブラみたいなのもつけないの?」

 

 理呼子が自分のシャツをちょっとだけ引っ張った。

 胸元がチラリと見えて、そこに灰色の布が見えた。

 そろそろつけたらという意味合いであろう。お誘いなのである。

 イオ焦る。

 

「理呼子ちゃん。みんないるのにはしたないです!」

 

「大丈夫だよ。わたし地味だし。誰も興味ないよ」

 

「理呼子ちゃんはかわいい天使なんですから、自覚をもってください。クラスの男子が理呼子ちゃんで穢れた妄想を抱いてしまいますよ」

 

「イオちゃんくらいかわいければ、そんなこともあるかもしれないけどね。いまも必死に聞き耳立てて、男子のみんな、ここでイオちゃんが変身してくれないかなって思ってるよ」

 

「わたしの貧層な身体でそんなことはないはずです」

 

 イオ自身、自分の身体が類まれな容姿であることはわかっている。

 しかし、それはかわいさ全フリであり、妖艶さや色気とは無縁のものだと思っていた。

 イオ自身は前世も今世もロリコンではない。

 だから、自分の身体がロリコン的には好かれるだろうなという意識はあっても、同年代の男の子にどういうふうに見られるのかとか、そういった点については意識が薄いのである。

 

「イオちゃんって自分のこと発育悪いって思ってるの?」

 

「ええ、まだ第二次性徴を迎えていないっぽいですし。ニトリで売ってる寸胴鍋みたいな体型ですよ。子どものときに苦労しすぎたせいでしょうか」

 

「イオちゃんまだ子どもじゃない」

 

「まあそうなんですけどね……」

 

「でもまあ、ブラつけてなかったら逆にいいんじゃないかな」

 

「え、何がですか」

 

「謎の光を光源魔法(レミーラ)で表現すればいいだけだし」

 

 レミーラで身体を淡く発光させたのは記憶に新しい。

 

 あのときは夜だったこともあって、蛍のような優しい光だったが、プリズムのような感じに光らせれば、確かに魔法少女の変身シーンができあがりそうだ。

 

「もはや最初の新作魔法とか関係ないような」

 

「大丈夫だよ。きっとかわいいし、私が考えたお洋服を着てくれるだけでうれしい」

 

 にっこり笑顔で言われると、イオとしても断りにくい。

 最初の友人のお願いである。

 

「わかりました。やりますよ」

 

 捨て鉢に言い放ったイオ。

 

「やった! じゃあまず変身ポーズからだね」

 

「え、変身ポーズですか」

 

「前口上と変身ポーズはセットだよね?」

 

「そんなもんでしょうか」

 

「ちゃんと考えているから」

 

 ある意味、押しの強い理呼子であった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「それにわたしまだブラジャーしてないですし」

 

(え、イオちゃんって上半身なにもつけていないの)

 

 聞き耳を立てていたのは近くにいる少年田中である。

 妖精のようなイオの裸体を想像してしまい、思わず机につっぷしてしまう田中。

 油断すると、下半身が硬くなりそうだった。

 

 いくら謎の光で覆われて見えないからといって、魔法少女の変身シーンは身体の輪郭が見えてしまう危ういものである。それを超美少女のイオが惜しげもなく晒すということに対して、純情ボーイの田中は顔を赤くした。

 

 でも、チラ見してしまうのを止められない。

 

 斜め前方に座っているイオ。

 その桜色の唇と陶器のような整ったかんばせに引き寄せられてしまう。

 

 いま、田中は暇つぶしに国語の教科書――ちょうど新見南吉の"ごんぎつね"を読んでいたのであるが、いまはもう文字が頭に入ってこなかった。

 

 少女たちは華やぐような談笑を続けている。

 漫画であれば背後に百合の花でも咲き誇っているかのようなイチャイチャっぷりだ。

 

「シャイニング・ドラクエパワー・ドレスアーップ! って、これ本当に言わなきゃダメなんですか。恥ずかしいんですけど」

 

「大丈夫大丈夫。イオちゃんならできるよ」

 

「そりゃやろうと思えばできるんでしょうが……、わたし恥ずかしいです」

 

 白いほっぺたが桜色に染まっていく。

 

(イオちゃんって少し表情が柔らかくなったような気がする)

 

 正解である。

 

 それもそのはず。

 ゲームのしっぱなしでお疲れ状態のイオはメダパニすらかける気力もなかったのである。

 いまのイオは素の状態だ。ついでに眠気と疲れのせいでフラフラでもあって、結果的にはメダパニをかけているのと同じような判断力のなさであったが。

 

 密談が終わり。

 四時間目の授業の鐘が鳴った頃。

 

「じゃあいこうか」

 

「わかりました」

 

 少女たちが連れ立って楽園へと旅立っていく。

 衆生の者たちは嫉妬がましく見守るのみだ。

 

 理呼子が前を歩き、手をひかれたイオが後をついていく。

 わりと珍しい光景だ。普段ならイオはすたすたと歩いていくタイプである。いまのように静々と誰かに手を引かれる様は、同世代さえも庇護欲を誘う妙な()()()()()()()を発揮していた。

 

 光に誘因される蛾のような感じで、そろりと席を立ちあがりそうになった田中だが、すんでのところで思いとどまった。

 

 いくらなんでも、ついていったらバレる。

 

 それに、誰かがいたらイオは変身しようとはしないだろう。

 

 そんなわけで少年田中の妄想は膨らむばかりである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 最初は屋上も考えたのだが、さすがに自宅のマンションと同じように開錠魔法(アバカム)で無理やり侵入するわけにもいかない。

 

 小学校に限らず自殺や転落防止のため屋上は侵入禁止エリアとなっている。アニメのように屋上で告白されたりといったことは――ファンタジーよりファンタジーなのである。

 

 そう考えると、視線がない場所というのは案外少ない。

 

 階段下。否――鬼ごっこでもしている男子に見つかってしまうだろう。

 女子トイレ。否――確かに男子には見られないが女子には普通に見られる。

 保健室。否――気分が悪いわけでもないのに使うのはちょっと。

 いっそ、みのりに頼んで理事長室ではどうかと理呼子は提案したのだが、イオは大きくかぶりを振って否定した。なにが楽しくてあの理事長に変身の過程をつぶさに見られないといけないのか。

 

 で――、結局のところ。

 人が来なさそうで侵入が可能なところは唯一、体育館くらいしかなかった。

 

 もちろん、授業中は体育館は使用される。

 しかし、ここでひとつの盲点があった。学園内の体育館は、昼休み中も解放されているのである。子どもたちが健やかに成長するように、自由に使ってよいというふうになっているのだ。

 

 つまり昼食の時間に、()()()()()()()()()()()ダッシュして体育館に向かえば誰もいない。この学園は比較的自由な校風でべつに昼食はフードコートで食べてもいいし、教室内でお弁当を食べてもいい。給食はないのが難点であるが私立の金持ち学校なので、そんなもんである。

 

 それで初等部についていえば、フードコートに向かうのは一部の生徒のみであり、ほとんどの生徒たちは教室内で食べていた。高等部も使うフードコートは大人に混じる感覚で、初等部には少しレベルが高い。エリア的にも少々離れている。たまに中庭でビニールシートを広げてピクニック気分を満喫している者もいるが、ごく少数である。

 

 つまり――、体育館でわざわざ食べるようなやつはいないということである。

 

 おまけに都合がいいことに、体育館にはそれなりの高さもある。

 

「ハァハァ……よし。誰もいないみたいだね」

 

「理呼子ちゃん。そんなに焦らないでも学校が終わったあとにいくらでもお見せしますよ」

 

「だって早く見たかったんだもん」

 

 理呼子にとって、魔法少女をプロデュースすることが至上の快楽だったのである。

 

 イオは観念した。

 

 休み時間のほとんどを使って伝授された、前口上、変身ポーズ。着ている服のつける順番。恰好。そして最後のキメッ☆

 

 もういっそ殺してほしいほどに恥ずかしかったが、友達のためであれば断れない。

 

「さあはじめて♥」

 

「わかりました……」

 

 

 

【変身】

 

「シャイニング・ドラクエパワー・ドレスアーップ!」

 

 イオは学生証を高々と掲げた。(単なる演出)

 

 すかさず光源魔法(レミーラ)を使い、イオの肢体が輝く。

 

 続いて、変化魔法(モシャス)を使い、イオの着ている服が魔法力にいったん変換される。

 

 レミーラが効いているので、イオの身体はプリズムのような光に覆われ見えない。

 

 その状態で、さらに飛翔呪文(トベルーラ)

 

 同時に雷撃呪文(ライデイン)を使い、エフェクトで彩る。

 

 くるくると空中をアイススケートのように横回転しながら上昇し、魔法力を次々と魔法のドレスに変換していく。多段変化魔法(モシャス)である。

 

 光の粒がはじけるようにして、イオの身体にまずはインナー。そして上半身。脇やら重ねた手やらを強調するように装飾をつけ(しばしば魔法少女の変身演出はセンシティブである)、次に下半身のスカート部分。はだしの状態から謎な材質の靴。さらに腕には貴婦人がつけるようなグローブ。ちょっとウインクを混ぜてみたり、新体操のように足を延ばしてみたり。

 

 本来一瞬で終わるところを、わざわざ絶妙なタイミングで変化魔法(モシャス)を放ち、それっぽく見せていく。

 

 最後にはいつも下ろしたままのロングの髪を、リボンでツインテールにしてみた。

 髪を意味もなくかきあげる。

 

 そして、ふわりと降り立った瞬間に、きわめて弱い真空呪文(バギ)をかけて、変身後の余波を演出する。意味もなく天地魔闘のかまえ。

 

「このマジカルイオが、竜の力で世界を守る!」

 

 横ピース☆

 

【変身完了】

 

 

 

「やったー! イオちゃん最高。大好き!」

 

「へ、へにゃ」

 

 理呼子に抱き着かれて、イオは変な声を出した。

 観客がひとりとはいえメチャクチャ恥ずかしかったが、喜んでくれたのならまあいいかと思うイオだった。

 

 が――、しかし。

 

「なにやってんだ。あのバカ」

 

 体育館の二階部分は、細い通路状になっているが、卓球台が置かれたところだけわずかに膨らんだスペースがあって、人が休憩するに足りるスペースがあるのだ。

 

 そこに校長の孫、村澄たけるがいた。

 ひとりがなんとなくカッコいいと勘違いした彼のぼっち飯タイムだったのである。

 

 秘密基地っぽくていいなと思ってたのもあるだろう。

 

 それで、バッチリ先ほどのイオの変身シーンを目撃していた。

 

 それだけでなく――なんかアヤシイことをしていると思い、証拠を押さえてやろうと思った彼は、スマホでイオの変身シーンをあますことなく撮影していたのである。

 

 ふたりが去ったあと、しばらくたけるは考える。

 

「こそこそやってるってことは()()()()なんだよな?」

 

(だったらよのなかにひろめるのが正義だよな?)

 

 残念ながら、彼のかしこさはイオに匹敵するぐらいの出来だったのである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

156:名無しの魔法少女観察者

 

オレがイオの悪事を暴いたぞ

みんな見ろ

 

 

157:名無しの魔法少女観察者

 

あ? え……これキター!

 

 

158:名無しの魔法少女観察者

 

イオちゃんかわいいwww

 

 

159:名無しの魔法少女観察者

 

え、これなに?

イオちゃん魔法少女なの?

いや、魔法少女なことは知ってるけどさ

 

 

160:名無しの魔法少女観察者

 

なんというか特撮での魔法少女ものの変身って、クソ雑魚だけど

リアルな魔法での変身ってすげえな……CGいらずじゃん

ファンタジー映画はイオちゃんに演出してもらうべき

 

 

161:名無しの魔法少女観察者

 

クソ。謎の光で見えない。

レミーラか、これ。

 

 

162:名無しの魔法少女観察者

 

おい、おまえら、イオの悪事をだな

 

 

163:名無しの魔法少女観察者

 

ポージングって誰かに監修してもらってるのかな

そもそもこのシーンっていったいなんだろう

たぶん、モシャスなんだろうけど、

モシャスって一瞬だろ?

 

 

164:名無しの魔法少女観察者

 

どこかに我らの同志がいるということだろう

これを撮影しているのも同志なのかもしれん

ありがたやありがたや

 

 

165:名無しの魔法少女観察者

 

はあ……くっそかわヨ

わざわざ、脇とかおみ足とか見せつけてくるの、ほんとなんなん?

イライラするぜ……部分的に

 

 

166:名無しの魔法少女観察者

 

ここはロリコンの多いインターネッツですね

 

 

167:名無しの魔法少女観察者

 

政府筋の情報によると、ゴールデンウィーク中に

名前を呼んではいけないあの会社様に向かったらしいからな

なんらかの進展があったんじゃないか?

 

 

168:名無しの魔法少女観察者

 

もういい。誰もわかんねーバカばっかか

 

 

169:名無しの魔法少女観察者

 

アイディアが煮詰まった結果、

魔法少女として活躍することを決めました

とかだったらウケるわ

日本が先進国すぎるw

 

 

170:名無しの魔法少女観察者

 

もともと素養のある国ではあるが、

仮にこのシーンが大人たちの邪悪な思惑だとすれば腹立たしいな

児ポ……(ボソ)

 

 

171:名無しの魔法少女観察者

 

世界の平和を守る(キリッ)って言ってるんだから

これってPVなんじゃねえかな。

スマホとかで撮影しているのもリアルさの演出ってやつで

 

 

172:名無しの魔法少女観察者

 

はやく配信とかすればいいのにな

スパチャで超速で億を達成するんじゃね

オレもお布施するわ

 

 

173:名無しの魔法少女観察者

 

みんな忘れていると思うが

イオちゃんかしこさ3だからね

たぶん、誰かに乗せられてホイホイ変身しちゃったんだと思うよ

 

 

174:名無しの魔法少女観察者

 

そんなバカな……

まさか、えっちなビデオも撮られちゃう?

 

 

175:名無しの魔法少女観察者

 

おまえらよく見ろ

この背景は体育館だろ

つまり、撮影者もほぼ間違いなく生徒だろうから

大人の意思は混じってないと思うぞ

 

 

176:名無しの魔法少女観察者

 

同級生からの頼みならホイホイ聞いちゃうんだね

 

 

177:名無しの魔法少女観察者

 

うーん。クラスの友達なんじゃね?

たぶん、男子じゃなくて女子だろ。

で、撮影者は誰かわからんが、偶然撮影したって感じじゃねえか?

 

 

178:名無しの魔法少女観察者

 

イオちゃんの動画、もう消されてる

はえーな……まあ消したら増える類のものだと思うが

 

 

179:名無しの魔法少女観察者

 

またイオちゃんが『見ないで。見ないで』って叫ぶぞ

 

 

180:名無しの魔法少女観察者

 

なにそれ捗る

 

 

181:名無しの魔法少女観察者

 

イオ虐がまた始まってしまったか

イオちゃん強く生きろ

でも自分でやったことだからしかたない面もあるよ

断固として断るべきだったんだ

魔法はホイホイ使っちゃいけないってこれでわかっただろう

 

 

182:名無しの魔法少女観察者

 

軽々に使うのはどうかと思うが、マウントとるのも違うだろ

 

 

183:名無しの魔法少女観察者

 

かわいそうかわいい

イオちゃんが涙ぐんでいるのを想像して寝る

 

 

184:名無しの魔法少女観察者

 

ふぅ……

 

 

185:名無しの魔法少女観察者

 

なんだおまえら変態ばっかか。イオは悪いことをしたんだろ。違うのか。

 

くぁwせdrftgyふじこlp

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 イオの動画はアップロードされるたびに速攻で消された。

 

 国の威信をかけた全力の削除である。匿名掲示板すべてとP2P果てはダークウェブにまで及ぶ削除合戦が巻き起こったのだが……。

 

 今回ばかりは、イオは幸いなことに知らないままだった。

 もはや数千を超えるスレッドのすべてをエゴサーチすることはできず、問題が大きくなる前に消火されたからである。ギリギリのところで彼女の安寧は守られたのである。

 

 ただ、初期にダウンロードされた動画だけは、今も消えずにどこかのハードディスクに残っているかもしれない。

 

「イオちゃん……すごくかわいいな」

 

 例えば、田中と呼ばれる少年の家にも。




ちょっとでも面白いと感じてくださったら、それだけでうれしいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。