ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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モシャス再び。ついでに焼きそばパン。

 お昼時。

 わたしは、みのりさんにお呼ばれした。

 学園内にあるフードコートである。フードコートは学園内のちょうど真ん中あたりに位置していて、初等部からは少し遠い。

 

 初等部に属している子は基本的にお家の人にお弁当を作ってもらっている子が多い。

 家庭の事情やらなにやらでお弁当を作ってもらえない子もいるだろうが、基本的にはお金持ちの学校なので、お弁当を作れる程度の余裕があるというのが入学条件になっているってわけだな。

 

 なので、初等部の子はほとんどこっちには来ない。

 フードコートを利用するのは中等部からというのが暗黙の了解だ。

 ただ、当たり前のことだが、べつに来てはいけないというわけではない。

 小さい子にとっては、中等部も高等部も、果ては大学生もいりまじるここは、少々尻込みしてしまうってだけだ。ちっちゃくてかわいーって言われるのは悪くない気分だけどな。

 

 いつもは教室でおとなしく食べているので新鮮な気分になる。

 

 ちなみに、フードコートというのはシステム的には食券を出して、その場で定食を選んだり、あるいはお弁当やパンなどを購入して食べたりということになるが、わたしの場合は、寺田さんがつくってくれた手作りお弁当の持ちこみだ。残念ながらママンは料理ができない。まあ、蕎麦煮てくれたりはするけどな。良家のお嬢様なんてそんなもんだ。

 

 フードコートと言えば、イオンとかの室内にある場所をイメージするかもしれないが、ここの場合は、外と中がつながっていて、カフェテラスみたいになっている。雨の場合は軒先が長いとはいえ、さすがに濡れるだろうが、今日みたいな天気のいい日は外のほうが気持ちいいって人も多いかもしれない。

 

 クロスのかかった丸テーブルには、わたしの他に、みのりさん、理呼子ちゃん、ルナが座っている。みんなかわいい子ばっかりでわたしはとてもうれしいです(小学生並みの感想)。

 

 そういえば、小学生といえば本当に小学生っぽいあいつ――。

 悪ガキって感じのあいつ。

 わりと頻繁にわたしの教室の前に来ていたアホの姿をこの頃見かけないな。

 もう5月も半ばだから、十日ぐらい見かけてないか。

 いないとなるとなんかさみしい。この感覚。わかりますかね。

 べつに好きってわけじゃない。

 いつもしつこいぐらいこっちに来るワンコが急によそよそしくなるような、そんな感じのものがなしさ、そんな感じの気分だ。おまえなんかに興味は無いって言われるのも、それはそれで悔しいじゃないか。

 

 だから――。

 

「そういえば最近、あの子の姿を見かけませんね。みのりさん何か知ってます?」

 

 世間話的に、わたしは何気なく聞くのだった。

 

「え、あの子って?」

 

「えっと……、校長先生のお孫さんです」

 

 みんな何も言わない。

 顔を見合わせて、視線だけのやりとりが続く。

 な、なんだ。

 わたし、なにかよくないことを言っちゃいました?

 やがておずおずと、みんなを代表するように口を開いたのはみのりさんだ。

 

「たける君ね。いま一か月間の停学中だよ。まあ正確には出席停止措置っていうんだけど、いわゆる教育的指導ってやつかなぁ。ちなみにうちの父も校長先生もたける君のやらかしでちょっと叱られちゃったみたい」

 

「ええ!? なにしたんですか。その子……」

 

 あいつアホだアホだと思っていたけど、小学生で停学とか伝説じゃねえか。草生えるわ。

 たぶん、ろくでもないことしたんだろうなぁ。

 好きな女の子の盗撮でもしたんじゃないか。あの年代だと好きな子にちょっかいかけるとかいう謎の行動原理が働く年頃だしな。なにより、あいつならやりかねん。

 

 みんなもなんか微妙な顔しているし、けっこう誰でも知ってる感じなのか。

 わたし、世間に疎かったわ。

 悲報、イオちゃん世間に取り残される。

 

「あの、たける君、なにかしたんですか?」

 

 わたしは疑問を口にした。

 みのりさんは、なにやら言いにくそうにこちらを見ているが……、

 もしかしたら聞いたらいけないことだったのか?

 まあ、確かに理事長や校長も連帯責任をとってるってことは、学園の醜聞だったんだろうけど。

 ぶしつけに聞きすぎたのだろうか。

 

「イオちゃん。わたしのウインナーと卵焼き交換しない?」

 

 変な空気になってしまったところで、理呼子ちゃんが救いの手をさしのべてくれた。

 本当にありがたい。その提案にのっかることにする。

 

「理呼子ちゃん。いいですよ。じゃあ交換しましょう」

 

「はいどうぞ」

 

 先にとれというとこだろう。タコさんウインターを頂戴する。

 代わりに卵焼きを一個進呈する。

 ニコニコ顔の理呼子ちゃんを見ていると、わたしまで不安が除去され嬉しさであふれてくる。

 

「あ、おいしい。なんか甘いね」

 

「はい。わたしのマネージャー兼ハウスキーパーさんが、わたし好みに作ってくれるんです」

 

「ふぅん。イオちゃんって甘めの味が好きなんだね」

 

「ええそうです」

 

「じゃあ、今度甘めの味で作ってくるね」

 

「ん?」

 

 どういうことだろう。

 

「また交換しよう」

 

「ええ、いいですよ」

 

 きゃっきゃうふふと笑いあう。

 友達がいる生活のなんと充実していることか。

 ここのところ、人生で一番充実しているぞ。

 

「交換といえば――、少し気になることがある」

 

 ルナが声をあげた。

 あきらかにわたしに視線を向けている。

 

「なんでしょうか」

 

「イオの体重はいくらだ?」

 

「えっと、34キロですが……」

 

 いきなりなんだ。体重ぐらいで恥ずかしがるような狭量な精神は持っていないが、女の子的にはマナー違反じゃないのか。体重とか乙女の秘密の最たるものだろ。そのあたりは女の子友達ができたのがつい最近なので経験値が足りん。

 

 仲良しになると体重を教えあうものだったりするのか。もしかして。

 そろそろ仲良しゲージが一段階越えたあたりなのか。

 

「身長は確か136センチ程度だったか」

 

 ルナはわたしの頭のてっぺんあたりから、足の先までを目測している。

 

「そうですね」

 

 小柄なんですよね、わたし。

 まあそれでも八歳児のルナよりはだいぶん背が高い。

 

「私の身長は125センチ。体重は27キロ程度だ」

 

 うーん。ちっちゃい。

 

「人間の場合、体重と体積がほとんど同じ値だと言われている。例えば、体重が27キロであれば、体積は27リットル。体重が34キロだったら34リットルということだ」

 

「なるほど」

 

 わからん。

 何が言いたいんだ。

 これでも最初のころに比べたらだいぶんわかりやすくなったと思うんだが、天才の発想は凡人にはよくわからんかったりするんだよな。

 

 たぶん、コミュニケーションについては凡人以下という偏りのある天才――サヴァン症候群の一種だったりするんだろう。

 

「であれば、つまりだな……。少し前に私の姿をイオに変えてもらっただろう」

 

「そうですね。変化呪文(モシャス)で変えましたね」

 

「だったら、34リットルから27を差し引いた7リットル分はどこから生じたんだ?」

 

「魔法力による質量変換でしょうか」

 

「そう、それしか考えられない。わたし自身も体重が重くなった感覚はしたからな」

 

 まあ、確かにね。

 逆もまたしかりだと思う。

 

 例えば、ゲームでは明らかに体積が小さいであろうスライムにも変化できていたんだけど、これはモシャスはある程度の質量の()()を許容することを意味している。

 

 一度減ったあとの体積が元に戻る仕組みは、質量を魔法力として滞留させておき、呪文の効力が切れたと同時に質量に戻すといった感じだろうか。

 

 逆に体積が増えるパターンも同じような感じだろう。

 ルナがわたしになったパターンは、魔法力を"肉"に変えており、効力が切れると同時に魔法力に再変換され霧散した。

 

 そんな感じだろうか。

 

 しかし、いきなりなんでこんなことを聞くんだろう。

 魔法力が滞留しているといっても、それはその人に染みるわけじゃないし――、つまり、ルナが魔法を使えるようになるわけじゃないんだけどな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ルナが言ったのには、もちろん理由がある。

 きっかけは、十日ほど前の出来事。

 イオの魔法少女への変身シーンである。

 わりとピッチりした制服から、ふんわりと膨らんだ魔法少女の服装に変身したのを見て、ルナはピーンと来たのだ。

 

――変化呪文(モシャス)は、質量を増減できる、と。

 

 このあたりをもう少し掘り下げて聞きたかった。

 

 ただ問題があって、魔法少女の変身シーンは結構センシティブな感じに創られており、イオ自身も理呼子限定だからこそ見せたという経緯があった。

 

 これが世間様に漏れてしまい、お恥ずかシーンとして永久に残るというのは、精神的によろしくなかろうと判断されたのである。

 

 恥ずかしさのあまり、この世界を"無かった"ことにされても困るところだし。

 

 そういったわけで、三人かかりで事実共有が図られ、変身シーンが流出したことは伏せつつモシャスの効力を聞き出すというミッションが課せられたのである。場所のセッティングは三人が一堂に会してもおかしくないフードコートということになった。

 

 周りの視線はあるものの、実をいうと秘匿するような情報はそれほどない。そもそも、全世界ベホマズンというやらかし実績がある以上、全世界ザラキーマも可能なのであろうし、いまさらモシャス程度で世界が震撼するわけでもないのである。

 

「いまになって思うのだが、モシャスというのはだいたい一時間くらいで効力切れを起こしていたようだが、これは効力時間としては固定なのか?」とルナ。

 

「ええと……」

 

 イオは言い淀む。

 祖母と母親にそのあたりは伏せるように言われたからだ。

 

 しかしながら、ルナは魔法については国の全権を委任されている。いつのまにやら日本とも折衝を終えて、日米共同のプロジェクトの長におさまっているし、ここでバレても問題はない。

 

 ただ、周りに人がいる状況なので、イオは席を寄せて耳元でこしょこしょした。

 

「魔法力によって効力時間は伸ばせます」と。

 

 ルナはフムと一言。

 

「なるほど……ちなみに、イオはカフカの"変身"という小説を知っているか?」

 

「えっと、確かある日、目覚めたら虫になっているというやつでしたよね」

 

「そうだ」

 

「それが何か?」

 

「例えばこの場で、私を虫にできたりもするんだろうか」

 

「可能だとは思います」

 

「懲罰的に人を虫に変えることも可能なのか……しかも、一生」

 

 口元に手を当てて、ルナは思索をめぐらせる。

 

「ええそうですけど……。しないですよ。ルナみたいなかわいい女の子を虫にするなんて」

 

「ねえ。イオちゃん」理呼子が口を開く。「妖精さんみたいにするのはできるのかな?」

 

「んー、妖精さんですか?」

 

「正確にはちっちゃくなるんじゃなくて、人間サイズのままでトンボとか蝶々の羽を背中につけるの。あるいは天使みたいに鳥の羽をつけるのもいいかもしれないね」

 

「あ、それはいいですね。理呼子ちゃんは天使の羽が似合いそうです」

 

「わたしは、この大きすぎる胸をもうワンサイズ小さくしてほしいな」

 

 自分の両手ではさみこみながら、みのりが言った。

 強調されるおっぱいに、イオは釘付けになる。

 

「ダメです。人類の損失です! 小さいのが罪だとはいいません。小さいのも大きいのも貴賤はありません。けれど、あえてちっちゃくする必要もないはずです!」

 

「いやぁ肩こるし……、イオちゃんがおっぱい好きなのは知ってるけど」

 

初級回復呪文(ホイミ)かけますから」

 

「あ、癒される……きもちいい」

 

「天然由来というものは尊いものなんですよ。それをすてるなんてとんでもない!」

 

 イオは必死だった。

 この小学生、こころは童貞である。

 

「妖精の羽については一考の価値があるな。質量の関係で、どう考えても飛べそうにないが、もしも飛べたとしたら移動手段がかなり改善される。が――、ここでやるべきではないだろう」

 

「わかっていますよ」

 

「錬金も可能なのだろうか」

 

「錬金ですか?」

 

 錬金術――。

 

 最も狭義の意味としては、そこらの石ころを黄金錬成したりすることを指す。

 広い意味としては、様々な物質変換を用いて便利なアイテムを作り出すことも言う。

 変化というのを変換として捉えれば、そういったことも可能なはずだ。

 

「やったことないんでわかりません」

 

「まあここではやらないほうがいいだろうな。あとで私の実験室に来てくれ」

 

 いきなり石をダイヤやルビーに変えたら、それはそれで大問題だろう。

 しかも、質量増大で――超でかいダイヤや超でかいルビーができてしまえば、逆に天然もののと魔法由来のものの見分けがつかずに、価値が暴落しかねない。

 

 しかし、モシャスを100年かけるとしても相当な魔力を使うので、イオが長生きするなら使わないほうがいいだろう。レアアースなどを変換するのも同じだ。

 

「制服をサイズの違う制服に変えていたわけだから、似たような分子構造だったら確実に変えられるだろうな」

 

「そうですね。なんだったら人間をスライムとかにも変えてるわけですから、わりとイメージ次第なのかもしれませんよ」

 

「例えば、石をパンには変えられるか?」

 

「わかりません。やったことありませんので。ドラクエ的には人間や魔物にはモシャスしても、非生体にはモシャスしていませんからね」

 

「ではこれも実験項目のひとつにしよう」

 

「モシャスって案外可能性がある呪文なんですね」

 

「そうだな。ただ解釈によって幅を広げるのは怖くもある」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、例えば先ほどのパンの話だが、通常のモシャスなら一時間ほどで石に戻るわけだろう。イオのパンを食べたあと、お腹が重いなと思ったら石がゴロゴロでてきたみたいなことになるわけだ」

 

「昔話でそんなのがあったような」

 

「仮に100年という効力になったとしても、人間の寿命が延びて100歳以上生きたときに魔法の効力が切れた場合、どうなると思う?」

 

「どうなるんでしょうね……」

 

「パンは血となり肉となった、ということは、それらが石になるということも考えられなくはない。人間は三か月ほどで血も細胞もすげかわるから大丈夫だとは思うが、保証はできないってわけだな」

 

「なんだか難しい話ですね。食料の無限増殖は全世界で一番願われていることなんでしょうけど、そんなにせっつかれてるんですか?」

 

「まあ、ドラクエ原作が発売されるまでもう少し時間がかかりそうだし、ドラクエの二次創作小説もダメだっただろう」

 

「ダメでしたね」

 

 現在、ドラクエの漫画もアニメもやっていない。

 

 ただし、二次創作小説については、比較的誰でもお手軽に始められるので、既にイオに使われるのを期待してか、無数に生み出されているのである。

 

 例えば、ザ・ワールド。時は止まる。

 ジョジョのパクリやんけと思ったが、時間停止はロマンだ。

 さっそく使ったりしてみた。けれどダメだった。

 

「周知度が足りないのか。よくわからん抽象的なドラクエ度が足りないのかはわからないが……あるいは、既存の魔法しか使えないのか。いずれにしろ、イオがこの世界になじむためには、多大なる社会貢献が必要になる」

 

「そうですね」

 

「他者への魔法付与。それから食料増産。まあ思いつくところを試行錯誤していこう」

 

「わかりました。頼りにしてます」

 

「ああ、まかせろ」

 

 胸を張るルナがかわいくて、思わずよしよししてしまうイオだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ルナの魔法実験室は学園内の離れに存在する。初等部のある校舎から歩いて五分ほどのプレハブ小屋だ。つい最近作られた即席の建物ではあるが、イオが勉学を終えてからすぐに来れることもあり、そもそも身ひとつで実験が可能なのだから、立地がすべてといってもいい。

 

――魔法クラブ。

 

 イオを中心とした魔法を人類のために役立てようとするクラブ活動であり、学園内でも正式に認められた。放課後であれば自由に出入り可能であるし、ドラクエのゲームをするという名目で、あらゆるゲームハードも持ちこみ可能。ついでに御菓子やらもオーケーということになっている。

 

 もっとも、分子構造を分析したりといった本格的な研究は都内になる研究所のほうに持ちこまなければならないが、魔法の実験は魔法の"解釈幅"を手探りで調査することがほとんどであるので、たいした設備はなくてもよいのだ。

 

 魔法クラブに入会しているのは、イオを除けば先ほどの三名である。

 他の人員が増えるかはいまのところ未定だ。

 そして、今日は三人ともそろって、魔法実験室に来ていた。

 

「じゃあまず、モシャスで羽をつけてみて。イオちゃん」

 

 理呼子が熱い視線でイオを見た。

 

「わかりました」

 

「じゃあ、ちょっと待っててね」

 

「え、なにを待つんで……す……か」

 

 しゅるりと首元のリボンをとりはずし、理呼子は上半身の制服を躊躇なく脱ぎ去ったのだ。

 もちろん、スポーツブラも。今日は水玉模様だった。

 イオが止める暇もない早業である。

 

 体育のときの着替えなどで見てはいるものの、こんなふうにイオの目の前で見せつけるように脱ぐというシチュエーションは始めてだ。それにブラジャーまではさすがに脱いだことはない。

 

 心臓が早鐘を打つ。

 

「な、なぜ裸になってるんです」

 

「えっと、羽がはえたらお洋服が破れちゃうかなって思って」

 

 そして、小学生ながらに羞恥心を感じるのか、手でわずかな膨らみを隠しながら真っ白い背中をイオのほうに向けた。痩せすぎず、しかし細い体つきだった。首元にわずかにかかる黒髪が、さらりと岩で裂かれる滝のように分かれていく。ドキドキが止まらない。

 

変化呪文(モシャス)!」

 

 破れかぶれになったイオは叫んだ。

 瞬間、理呼子の背中から羽が生えた。天使のような穢れなき真っ白い羽。

 

「あー、すごいすごい」

 

「へえ。すごいね」とみのり。

 

「部分変身もやはり可能なのか」とルナ。

 

 それから、一生懸命羽を動かす理呼子。

 だが、どうがんばってもやはり飛べるようにはならない。

 

「変化しただけでは無理なのだろうな。人間が飛ぶには……そうだな。やはり体長30センチくらいまで縮めないとダメだろう。あるいは寒天みたいなスカスカの体重になれば可能だろうが、骨が重力で折れそうで怖いな」

 

 ルナが羽を触りながら言う。

 

「んー見た目だけか」

 

 理呼子も残念そうだ。

 

 イオは真っ赤になって、顔を覆ってる。

 天使な理呼子が天使すぎて、まともに見れなかったのである。

 

 しかし、誰も指摘しなかったが、べつに服を着たままでも変化は可能である。服自体の組成を少しいじってスリットなりを創ればいいのだ。

 

 そこらで拾った石を黄金に変える実験も簡単に成功した。

 はっきり言って、これで不労所得は完成したも同然であるが、100年後に元の石ころに戻るとしたら、なんだか人を化かす狸のような気分であるから、この案は却下だ。

 

「ただ、レアアースはありだと思うぞ」

 

「え、そうですか?」

 

「ああ、例えばスマホにはレアアースが使われているわけだが、スマホの耐用年数はせいぜい10年程度だろう。レアアースが石ころに変わるのが100年後だとしても誰も困らん。リサイクルができないレアアースですよと銘打っておけばいいだけだ」

 

「なるほど……」

 

「つまり、イオはこの時点で無限の金持ちになったというわけだ。おめでとう」

 

「ありがとうございます。なんだか釈然としませんが……」

 

「ただ、レアアース売りはなかなか難しくもあるな。例えば、巨大な鉱石をレアアースに変えるとしても、それをどこが買い取るか。どこが分配していくかとか、様々な問題がある」

 

「錬成チートは一日にしてならずですね」

 

「そういうことだ。それと……パンな」

 

 石ころはパンに変えることができた。

 いちおう、百年ものの魔力をこめてみた。

 

「まあ、うんこになってでてくるだけだと思うが、栄養的にはどうなんだろうな」

 

「ルナちゃん。はしたないです」

 

「ん。排泄物といったほうがよかったか」

 

「そういう問題ではなく……」

 

「いままで体の中にいたのに、出てきた瞬間に嫌われるとは、うんこも難儀な存在だな」

 

 この天才児――、恥ずかしいという感性がそもそも欠けている。

 べつにうんこと連呼するのが楽しい年頃だからではない。

 

「まあ、とりあえずわたしが食べてみるとしよう」

 

 ルナがもぐっと小指のサイズほどの錬成パンを食べてみた。

 

「ルナちゃん、危なくないんですか」

 

「いざとなったら生き返らしてくれ。イオなら可能だろう」

 

「それはそうかもしれませんが」

 

 ルナみたいな小さな子が危ないことをすることは、あまり好ましくなかった。

 愛すべき妹と同一視してしまうところがある。

 ルナはあまり気にもしていない。

 しばらく、うんうんとうなっていたが――。

 

「危険度からいえば、パンを増量させたほうがよかったかもしれないな」

 

 と、思索の淵から帰ってきた。

 

「え、増量ですか?」

 

「石をパンに変えるより。パンを増量させたほうが危険は少なそうだろう?」

 

「まあ……そうなんですかね。魔法力でできた部分があるってことですから、それが危険じゃないのかはわかりませんけれども」

 

「まあな。それこそ餓えてる人に対して、いまここで餓死するか。それとも魔法パンを喰って寿命が縮むかもしれんがそれでも喰うか聞いてみればいい。選択は自由だ」

 

「そういわれればそうなのかもしれませんけど」

 

 なんか釈然とないのである。

 

 あれだけ苦労したハラヘラズの魔法は要らなくなりそうだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「焼きそばパン買ってきたよ。ひとつだけ残ってた」

 

 みのりさんにパシリをさせてしまった。

 わたしがひとっぱしり行ってきてもいいんだろうけど、この部屋の主はわたしであると言われればしょうがないし、理呼子ちゃんも初等部なので、ひとりでフードコートには行きにくい。

 

 ルナも同様に初等部であるし、実験者でもあるから、ここで待機することになった。

 なので、みのりさんが自らを声をあげて、パンを買ってきてくれたのだ。

 

「うむ。ご苦労」

 

 鷹揚に頷くルナ。

 偉そうだけど、あいかわらずかわいいのが困る。

 みのりさんからパンを受け取り、包んであるビニールをとりはずす。

 

 そして――、そっとテーブルの上に置いた。

 

「よし……。じゃあ、実験をはじめてくれ」

 

 実験内容は簡単だ。

 パンの増量実験。

 モシャスによる変化によって、質量を増大させ何十倍、何百倍にも膨張させる。

 組成自体を変える必要はないが、変化の効果時間はひとまず十年程度に設定する。

 

 モシャスについて復習しよう。

 これは、イメージの魔法だ。

 しかも、単体魔法。単体魔法であるから、複数を対象にするのは難しい。

 魔法の効果範囲に含めても、単体は単体であるという理屈だ。なぜといわれてもわからんがそういうものだと思ってほしい。

 

 そして、このイメージだが……、わりと難しい。

 いとこ殿のまぶたを変えるだけでも結構な練習を要したし、再試を受けられるのが幸いか。

 

 つまり、何が言いたいかというと集中力が必要なのである。

 

「いいか。絶対に膨張させすぎるなよ。絶対だぞ。いいな?」

 

 ルナがわたしに何度も念押しするが、そんなことぐらいわたしでもわかってる。

 むしろフラグになるからやめてくれ。

 集中力が必要なんだよ。元との変化の差が大きいほどイメージがしにくいから難しくなるんだ。焼きそばパンは焼きそばパンのままで、中身スカスカじゃ意味がないだろうからな。

 

 みのりさんも理呼子ちゃんもじっと見守ってくれている。

 

 膨らんでいくイメージ。

 

 そういえば――、理呼子ちゃんもけっこうおっぱい大きかったな。

 

 冷静なイメージの中にピンク色の雑念が入り混じる。

 

 いけね。なんか変なイメージが混ざる。

 

 それは、よくあるスライム姦というやつで、部屋いっぱいにスライムが膨らんで押しつぶされて幸せ悶死するというイメージだ。

 

 みのりさんのお胸様がチラリチラリと視線に入る。

 そう、ちょうどあんなお胸様が部屋いっぱいに広がったら幸せがたくさんで、わたし幸せ。

 

「イオ、まだか」

 

 急かすなって。

 いま集中しているんだから。

 

「がんばれ。がんばれ」

 

 みのりさん。無意味に跳ねるのやめて。連動するお胸様のイメージがヤバいから。

 

「胸がどきどきしてきた」

 

 理呼子ちゃんもそうやっておっぱい触るのやめて意識しちゃうから。

 

「イオ?」

 

「イオちゃん?」

 

「イーオちゃん」

 

 なんかおめめがグルグルしてきた。

 ああ、もうなにがなんだかわからなく……。

 

変化呪文(モシャス)

 

 わたしの魔法を受けて、焼きそばパンはムクムクと大きくなりはじめる。

 そして、嫌な予感はすぐに現実のものとなった。

 膨張が止まらない。

 どんどん膨らんでくる。

 このままじゃ、スライム姦状態で悶死しちゃう。

 

「加減しろ馬鹿ぁ! 脱出だ。脱出するぞ」

 

 ルナが即座にドアのほうに向かう。ドアを開けて、ルナは脱出。

 

 みのりさんは一番ドアに近かったのでなんとか間に合ったようだ。

 

 理呼子ちゃんは動けてない。

 

 ヤバい。このままじゃ圧死しちゃう。

 

強制転移呪文(バシルーラ)!」

 

 対象を吹っ飛ばす呪文をかけて、理呼子ちゃんを外のほうへと押し出した。

 みのりさんがお胸様でしっかりキャッチ。

 とっさに加減できたのは奇跡だ。

 

 そして、わたしは――。

 わたしはもう端っこのほうまで追い詰められている。

 

「イオちゃん。逃げてぇぇ」

 

 理呼子ちゃんが叫ぶが無理。

 

 やきそばパンがわたしを押しつぶしていく。

 硬殻呪文(スカラ)と、あといくつかの魔法で守られているから死にはしないけど。

 

 焼きそばパンに潰されるなんて嫌ぁ!

 

「むぎゃ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 その日、魔法実験室は焼きそばパンの膨張という悲劇によって、あえなく崩壊してしまった。

 

 膨れに膨れあがった焼きそばパンは高さ10メートル横幅100メートルほどの巨大さを誇り、周囲は焼きそばパン臭くなってしまったのである。

 

 とりあえず、地面に接していないところは有志をつのって食べてもらい、残りはイオが焼却したのだが、学園内に起こったバイオハザード事件として、長く後世に語り継がれることになった。

 

 イオはしばらく焼きそばパンを食べられなくなった。




せめてノーマルパンにしとけば
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