ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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ポンコツ。ついでに勘違い。

 スライムが一匹。

 スライムが二匹。

 スライムが三匹。

 スライムが……。

 

 ただでさえかわいいスライムたちが軽やかにジャンプしながら合体していく。

 ピョインピョイン。ピョインピョイン。プォン!

 な、なんと、スライムたちが合体してキングスライムになった。

 

 キングスライムというのは、スライムの合体モンスターであり、頭の部分には王冠のようなものをくっつけているが、それもまた粘性生物であるスライムでできた擬態なのだ。

 

 それにしても、キングスライムの雄偉である。

 

 人間の身長を軽々と越える2メートル以上のゼリー状の身体。

 そして、張りつけられたような微笑み。ほっぺたにできた巨大なえくぼ。

 身体をそっと横たえてみれば、人をダメにするソファのようなものである。

 端的にいってすごく大きいです。

 身を沈めてみると楽園がそこにあった。

 やわらかし。きわめてやわらかし。

 

「えへへぇ……ハっ!」

 

 そして、覚醒した。

 なんのことはない最高品質のいつものベッドだった。

 

 たぶん、ママンのお胸さまの余韻がよかったんだろうな。

 夢……じゃないよな。

 うん。さすがに、あの感触は夢じゃない。

 わたしも愛されていたんだなと思うと、無敵の人は卒業です。

 未来には希望が満ち溢れている。

 

 んんぅ、と伸びをする。外は暗く夜闇に包まれている。

 一瞬、いつの時間なのか見当識を失い、いつもベッドの頭のほうに置いてあるスマホを探った。

 20時。日付は変わっていない。

 どうやら軽く寝ていたらしい。

 

「お寝坊さんをしてしまいました」

 

 いつもは習い事をしていて、確か今日はカポエラと水泳だったはずだ。

 もっとも、ママンに習い事はしなくてよいといわれているから、マネージャーの寺田さんがキャンセルしてくれているはず。わたし自身がお断りの電話をいれたりすることは基本的に無い。

 

 夕食を食べていなかったんで、お腹がキュウと鳴った。

 誰も聞いていないし、そもそもお腹が鳴るくらいで恥ずかしがるようなメンタルもしていない。

 

「おなかすきましたね」

 

 さすがにドラクエの魔法にも空腹をどうにかするようなのは存在しない。

 唯一派生作品のトルネコの大冒険という作品でハラヘラズの指輪というアイテムがあるのだが、あれは魔法のアイテムではあっても、魔法そのものではないので使えない。

 

 いつもは、マネージャー兼ハウスキーパーでもある寺田さんに夕食を作ってもらったりもしているが、今日はもう帰っちゃったかな。

 

「お嬢様」

 

 グッドタイミングだ。

 お部屋をノックする音が聞こえる。

 

「はいどうぞ」

 

 入ってきたのは、20代半ばの年若い女性だ。スーツ姿をバッチリ着こなし、身のこなしはきびきびしている。

 

 名前は寺田電子さん。

 

 わりと特殊な名前だけど、父親が電子工学博士だかで、娘にそれ系の名前をどうしてもつけたかったらしい。本人が少し気にしているので、苗字で呼ぶことにしている。

 

「お嬢様。なにか召し上がりますか?」

 

「そうですね。お腹すきました。お母さまは?」

 

「今日はお家にいらっしゃいますよ」

 

 珍しい。ほとんど夜もどこかの撮影場所に近いホテルに泊まることが多くて、あまり家には帰ってこないのにな。

 

 考えるまでもなく、わたしのことをどうするか決めあぐねているのだろう。

 

 わたし自身は、フルオープンでいいんじゃないかなって思ってるけど、大人は大人で別の考えとかがあるんだろうな。

 

 よく、魔法少女もので、魔法バレするとなんらかのペナルティがあったりするけれど、仮に魔法的なペナルティがなかったとしても、社会は異物を排除する傾向にある。魔女狩りなんてものは、まさにその典型だ。

 

 キリストもパンを無限増殖したり、完全回復呪文(ベホマ)使ったりしてたけれど、最期には処刑されてしまった。

 

 でも、それはわたしが生きていなかった時代の話で、今も昔と変わらず人間は愚かなんだろうか。

 そうとも言えるし、そうでもないとも言える。

 どっちなのかは正直わからん。かしこさが足りない!

 

「お嬢様。夜の九時以降は、体型に影響を及ぼしますから控え目にいたしましょう」

 

「寺田さんにお任せします」

 

 寺田さんは、当然、昼のわたしの所業をママンから聞いているだろう。

 もしくは、仕事の関係者から電話連絡を受けているはずだ。

 にもかかわらず、なにもなかったかのように、いつもと変わらずに接してくれている。

 優しい人だなと思う。

 

 五歳のときからの付き合いだから、五年ほどになるけれども、ママン以上に母性を感じていたのは確かだ。前世のわたしとほぼ同年代だけどな。

 

 人はママみ成分には勝てないのだよ。

 

「寺田さん。明日、学校には瞬間移動呪文(ルーラ)で向かおうと思うんですけど」

 

 軽い食事をしながら、さりげない日常風会話で言った。

 寺田さんはシステムキッチンで洗い物をしていたけれど、ピクリと一瞬固まった。

 そろりと振り返る寺田さん。

 

「お嬢様はドラゴンクエストの魔法を使えるのでありますよね」

 

「そうです。寺田さんはドラクエ魔法をご存じですか」

 

「人並み程度には存じております」

 

 世間一般の平均的なドラクエ知識がどれほどのものかはわからないけれども、ルーラはかなり有名なほうだと思う。

 

 ただ、念のために申し添えておこう。

 

「ルーラがあれば、人はきわめて効率的に移動できます」

 

 プレゼンをしているサラリーマンのような気分だ。

 

 なにしろ、わたしは学校に通い始めてから、いや下手したら幼稚園の頃から、寺田さんには送り迎えもしてもらっている。

 

 これからそれをやめようというのである。

 寺田さんの仕事を奪ってしまうことになるし、気持ちを傷つけてしまうかもしれない。

 できるだけ穏便に受け入れてもらいたいのだ。

 

「学校まで50分もかけずに済みますし……、いえ、寺田さんとおしゃべりしながら登校するのはけして苦痛ではないのですが、できればお家でゆっくりと準備してからでかけたいのです。よろしいですか?」

 

「私の許可を得ずともよろしいのですよ。お嬢様のなさりたいようになさってください」

 

 寺田さんってもしかして女神様じゃね?

 

「ありがとうございます。行きはわたしがユアを連れていくこともできますが、マスコミがもしかすると学校を見張ってるかもしれませんね。ユアは寺田さんに連れていってもらうほうが安全かもしれません」

 

「マスコミの対応はマリア様もなにかしらお考えのようでしたよ」

 

「では、今後どうするかについては後程お母さまとお話しておきます。わたし個人の考えでは、適当に魔法をお披露目するつもりです。ドラクエの魔法だということも言ってしまうつもりですよ」

 

 今もマンションの外で見張ってたりするのだろうか。

 さすがに不法侵入になるので中までは入ってきてないが、いつまでも待たせておくのもかわいそうかな。春先とはいえ、まだまだ冷えこむ時期だし。

 

「お嬢様はすべて明らかにするおつもりなのですね。危険はないのでしょうか。ドラクエは確か呪文を詠唱することで発動するのですよね? 口を塞がれたら無力なのでは?」

 

「別に口を塞がなくても意識がなくなれば魔法は使えなくなりますし、わたしをかどわかす方法として手っ取り早いのはスタンガンとかの気絶させる武器でしょうね。たとえドラクエ魔法だと言わなくても、気絶させてくるでしょう。もっと簡単にわたしを排除したいのなら、スナイパーライフルとかで狙えば一発ですよ」

 

 まあ、わたしに感知されなければの話だけど。

 

「やはり危険です。魔法そのものを隠すほうがよいです」

 

「魔法自体はあれだけの人に目撃されてますからね。水面下でそういった『組織』に動かれるよりは、世間一般に公表して、公的な組織に監視されたほうがむしろいいんじゃないでしょうか」

 

「もっとご自分を大切にしてください」

 

 ギュっとされてしまった。

 やべえ。また優勝しちゃったよ。今日のわたしは確変している。

 

「ところでさきほどの話ですけれども」

 

 しばらくして、落ち着いてからわたしは言った。

 

「はい。さきほどというと魔法をむしろ積極的に公表していくという話ですか」

 

「そうです。特にドラクエ魔法であるという点ですね」

 

「ドラクエ魔法だというのは、弱点でもあると思うんですけど」

 

「むしろドラクエ魔法だからいいんじゃないですか」

 

「え?」

 

「だって、ドラクエ魔法はどのような種類があるか、誰もが知ってるわけです。まあ多少は現実的に適応する際の解釈幅というものはありますけれど、なんでもできる万能の力ではないのですよ。その知識を共有しているという点が非常に良いですね」

 

「そんなものでしょうか」

 

「そんなものです。例えば、ドラクエの魔法では毒や麻痺の治療はできても、病気の治療はできません。仲間が病気になるシナリオでわざわざすごい薬草とかをとりにいかなくてはならないというものがあるので、それはドラクエ魔法の限界なのです。考えても見てください。お偉いさんが世界で唯一の魔法使いに病気を治してもらおうと思っても、ドラクエにそんな魔法はないから無理だと事前にわかります」

 

 もっとも――。

 ドラクエ魔法であると喧伝したところで、それを素直に信じるかは別問題だけどな。

 本当は万能の魔法を使っていて、ガワだけドラクエ魔法に似せているのではないかと思われる可能性はある。

 

 けれど、それは反証のしようもないけれど、証明の必要もないことだ。

 わたしができないことは本当にできないのだし、たとえわたしを脅そうが、不可能なものは不可能なのだから。

 

「結局、どこまでいっても所詮はドラクエ魔法なのですよ。言い方は悪いですけどね。社会を変革するほどの力ではなくて、ただ少しだけ使う本人が便利なだけです。お母さまもおっしゃってましたけれども、ちっぽけな力なのですよ」

 

 便利という意味ではスマホにすら及ばないだろう。

 

 ただ、まったくの無意味な力とも思わない。

 この世界には、奇跡も魔法もあるのだと喧伝することになるのだから。

 あの神様カッコカリがどういう存在なのかはわからないけれども、人間を超越する知性体が存在する証明にはなるだろう。人間が宇宙でたったひとりではないという証明は、さみしがりやの種族にとっては、朗報だろうと思う。

 

「お嬢様はどうなさるのですか?」

 

「ただ単に自重なく魔法を使っていくのみです」

 

「ああ、いや。そこまで大仰なことではなく、明日の下校についてなんですが、いつものようにユアお嬢様と車内でお待ちしていればよろしいですか」

 

「ああ、その件ですか」

 

 ユアは小学二年生で、わたしが小学五年生だから、ユアのほうが一時間ほど学校が終わるのが早い。いつもはわたしが仕事場に送迎されるために待っていてもらっていたが、わたしは単独ならルーラで帰れるし、仕事場にも初見でなければ向かえる。

 

 しかし、それ以前の問題として。

 

「わたしは子役の仕事をお役御免となりました。お母さまからお聞きしておりませんか?」

 

「その件でしたら、マリア様は撤回なされていましたよ。ただ、子役のお仕事をなされた場合は、そちらの方面からも魔法の件について聞かれるのではと危惧なされておりましたが」

 

「そうなのですか」

 

 朗報。追放宣言撤回される。いまさら戻ってこいと言われても……遅くはないな。

 まあ、アイドルとか子役とか言ってる場合じゃないかもしれないけれど、今もまだその仕事をやりたいかって話だ。

 

 要はわたしの情熱の問題。

 

 それで、やっぱりわたしは未練があった。

 子役の仕事というよりはアイドルの仕事に転向したいんだけど、それはおいおいママンに話していければいいな。きっと、しばらくは魔法のことでかかりきりになるだろうし。

 

「子役の仕事自体は辞めませんが、状況が落ち着くまではユアに代わってもらおうと思います。有名になるついでに、人気者になれば十分にペイできるので、魔法のお仕事もそんなに悪くありません」

 

 それから、ママンともお話して、まずは外の連中をどうにかすることになった。

 学校で待ちかまえられる可能性を少しでも減らそうという算段だ。

 それと、管理会社や他の住人に結構怒られたらしい。

 ママンに頼まれたら断れるわけがない。

 しょうがないにゃぁ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「あ、出ました! 出ました! 噂の魔法少女。星宮イオちゃんです」

 

 レポーターのひとりが興奮したように叫ぶ。

 くだんの少女、星宮イオは誰も伴わず、悠然と闊歩していた。

 まるで女王のような貫禄。

 小さな身体に圧倒的なオーラをまとい、マンションの入り口から出てきた。

 

 もちろん、それは混乱呪文(メダパニ)を利用した、浅い催眠状態からもたらされる虚構の貫禄であって、もしも素の状態でマスコミの前に姿を現せば、生まれたての小鹿のようにガクブルしていたに違いない。

 

 与えられた能力はすさまじいスペックであるが、心のうちは小物臭漂うただの一般人である。

 

 幸いなことに、イオの内心はだれにも明かされぬままであった。

 

 黙っていれば、クールで無口な妖精系美少女なのはまちがいないので、得体のしれない人外めいた存在感を放っていたのである。

 

 それにダメ押しを追加した。

 

光源呪文(レミーラ)

 

 イオがつぶやいたのは、ドラクエで洞窟を照らし出す光の魔法である。

 

 光度をあげれば、太陽拳のように目くらましにもなったりするが、本来的には長時間の洞窟探索用の魔法なので淡い光を放つ呪文となる。

 

 夜闇をドレスのようにまとい、うっすらと神秘的な光を放つさまは、さながら月の妖精女王のようでもあった。

 

 集まっていたマスコミは当然湧いた。

 

 しかし、あまりにも奇跡的な光景のためか、近づくのも忘れてイオに見入っている。

 

 結果として、奇妙な沈黙が場を支配して、誰も動けなかったのである。

 

 イオはふわりと笑った。

 

 情動コントロールによる"メソッド演技"。

 

 役柄の完全なトレース。

 

 いまは月より降りてきたお姫さま。

 

 すなわち、輝夜姫のような気持ち。

 

「みなさま。本日はわたしのためにお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」

 

 涼やかなよく通る声で、イオは言った。

 

 誰も出し抜いて声を出そうというものはいない。

 

 いつまでも聞いていたい。そう思わせるほど可憐で奥ゆかしく、やんごとなき声に聞こえたのである。

 

「わたしの秘術に驚いておられるようですが、これらは特に隠すつもりはありません。いずれは皆さんにご説明する機会もあるでしょう」

 

 イオは周りを見渡して、また一言述べる。

 

「ただ、このような場所でご説明するのも無粋でしょう。あまり多くのカメラを向けられるのも好ましくはありませんね」

 

 ざわっ。

 

 マスコミは一瞬でざわついた。

 イオの発言は、マスコミを選抜するように聞こえたのだ。

 

「しゅ、取材料はうちの会社が一番多く出せると思います!」

「おい。なに言ってやがるんだ。抜け駆けすんな」

「うちは星宮イオさんのために二時間の枠をとるつもりなんだぞ!」

「1千万。1千万だします!」

「うちは2千万。2千万だす!」

「3千」「4千」「1億!!」

 

 釣りあがっていく謝礼に、イオは冷たい汗が背中をつたうのを感じた。

 

(ハチャメチャが押し寄せてきてるぅ)

 

 もちろん、メソッド演技中のイオにとっては、内心でいくら焦っていても表層には現れない。

 

「えっと。そうですね……特に取材の時間単価を受け取ることは考えていません。ただ、わたしとしてはあまり長時間の時間的拘束は好みません。できましたら、マスコミの皆様方で質問内容を決めていただき、今後わたしに対するゲリラ的散発的な取材はやめていただきたいのです」

 

 つまり、抜け駆け禁止というやつである。

 マスコミの連中は、お互いに視線を合わせあった。

 もしも、希代の秘術を使えるイオの機嫌を損ねたら、そのマスコミはつまはじきにされるだけでなく、業界からも締め出しを喰らうだろう。

 

「お時間と場所をこちらから指定いたしますので、待っていただけますか?」

 

「いつごろに会見をなされるつもりですか?」

 

 若いレポーターが聞いた。

 

「引き伸ばしする理由もないですし、場所がとれればすぐにいたします。二週間以内というところでしょうか」

 

「星宮イオさんは、異世界の姫君という噂もありますが本当ですか」

 

「わたしは星宮マリアの娘です。一般人ですね」

 

「イオさんが空を自由にとんだのは、あれは魔法なのですか? 超科学なのですか」

 

 なし崩し的に取材が始まってしまい、イオはたじたじとなる。

 これでは、せっかく会見を指定した意味がない。

 

沈黙呪文(マホトーン)

 

 とっさに唱えたのは呪文を封じるマホトーンという魔法だ。

 ドラクエの魔法は詠唱タイプがほとんどであり、発声が力の起動キーになっている。

 マホトーンは発声自体を封じることで魔法を封じるという仕組みなのだ。

 

 結果、マスコミは、口を金魚のようにパクパクさせるだけになった。

 

「ふぅ……沈黙は金といいます。ご存じないんですか。大人なのに」

 

 魔法を世間にぶちまけようとしているイオである。

 よくよく考えてみれば、盛大なブーメランなのだが、基本的にイオは物事を深く考えず、その場の雰囲気で行動しているので、これが限界だった。

 

 とはいえ、誰も見たことのない秘術を使う彼女を非難できる者などいなかったし、そもそもイオが魔法を披露したきっかけが、いわばその場のノリによるものだったことは、知るよしもなかったので、大人たちは小学生に無理に取材を敢行したことを恥じるのみだった。

 

「それでは、皆さまおやすみなさい。その状態は時間経過とともに解除されますから、ご心配なさらないでくださいね」

 

 その日のマスコミの取材はたちまちのうちにネットに広がり、再び掲示板が湧くことになった。

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