ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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まわした。ついでに初配信。

「まわせ!」

 

 ルナの唐突の言葉に、わたしはどう反応してよいものか迷った。

 とりあえず――、字義通りにしてみるか。

 わたしは立ち上がり、ルナの背後に立つ。

 ルナはパイプ椅子に座っていて、わたしを振り返った。

 怪訝な表情をしている。

 ()()()()っと。

 

「おい、なにを。みゃぁ」

 

 脇のところに手を入れてルナを持ち上げた。

 いくら小学生とはいえ、20キロ以上あるルナを簡単に持ち上げるなんてできないと思われるかもしれない。しかし、魔法少女イオちゃんにとってはお手の物だ。

 

――筋肉増強呪文(バイキルト)

 

 初出はドラクエ3。

 効果はその名のとおり、倍斬るというところからきており、最終ダメージを二倍にする。

 しかし、近年のドラクエでは攻撃力を増強する効果と言われていた。

 

 攻撃力ってなんだろうと思うけど、要するに筋肉だ。

 見た目的には小学生らしい細腕のままだけど、魔法的な筋肉ですべてを解決する。

 じゃなきゃ、装備なしのままでも攻撃力が増強されるのはおかしいからな。

 わたしはそう解釈した。そしてその通りだった。担任の安藤先生をお姫様抱っこしたことを覚えているだろうか。あれもバイキルトの効果だ。ついでに、屋上のフェンスを飛び越えたりしたのも、足の筋肉を増強した結果だ。

 

 ルナは子猫のようにわたしに軽々と持ち上げられた。

 慌てふためくルナがかわいい。

 ついでにモフっとしている金髪の匂いもわりと好きだ。

 そのまま、ぐるぐると()()()

 

「やめっ。やめろぉぉぉ!」

 

 ルナがおめめぐるぐるになるまでまわした。

 なんか、たのしい。

 数分ほど、ルナをまわして遊んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ルナは床に突っ伏していた。

 息は荒く、特に運動したわけでもないのに肌は上気し、ただでさえ白い肌がピンク色に染まっている。うーん。やりすぎたかな?

 

「ううっ」

 

 あれ。なんか泣いてないか?

 

「怖かった」

 

 にらまれてしまった。

 やべ。半泣きになってる。

 これはギルティ。ギルティですか?

 

「えっと、まわせといわれたので」

 

 と、愚にもつかない言い訳をしてみる。

 

「すごく怖かったんだぞ」

 

 うるうるしたおめめで言われると、なんだか罪悪感が湧くのと同時に、やっぱりメチャメチャにまわしたい欲求が湧いてくる。かわいいものを、かまい倒したくなる心って、誰にでもありますよね? いまもルナのほっぺにちゅーしたいもん。性的な欲求じゃないぞ。

 

 わたしがどうなだめるか考えていると、

 

「イオちゃん、鬼畜すぎ」

 

 この中では一番の年長者であるみのりさんにたしなめられてしまった。

 

「イオちゃん、人の話はよく聞いたほうがいいよ」

 

 同級生の理呼子ちゃんにも。

 

「ごめんなさい。ルナちゃん。ちょっとだけ、わたしのお姉ちゃんごころがうずいてしまったんです。姉なる者の宿命なのでゆるしてください」

 

「日本のシスターは恐ろしい概念なんだな」

 

 白衣をなおして、再び椅子に座るルナである。

 どうやら少し落ち着いたようだ。

 

「コミュニケーションの不具合を感じる。必ず言葉が人に届くとは限らない。いわゆる郵便的不安だな。特にイオの場合は、百通くらい手紙を送ってようやく一通届くかどうかくらいで考えていたほうがいい……」

 

 なにやらひどいことを言われている気がする。

 

「お手紙食べちゃうヤギじゃないんですから、さすがにそこまではないですよ」

 

「イオちゃんはどっちかというと、お手紙食べたヤギさんを食べちゃう虎さんだもんね」

 

 理呼子ちゃん。それってむしろ悪化してないか?

 まあ確かに、ちょっと前に自分を虎だと呼称したことはあるけどさ。

 

 虎は、ライフルで撃たれて死ぬんだ。

 

 言うまでもないが、虎というのは社会的不安分子のことを言う。

 みんな、わたしが怖いだろう。

 だからこそ、その不安を除去するセルフブランディングなる言葉がでてくるんだろうけど。

 

 正直、匿名掲示板をつらつらと眺めてみても、みんな言いたいことしか言ってないという印象だ。プラスのイメージもマイナスのイメージもどちらもあって評価は二分されている。

 

 セルフブランディングって要は、他人の評価をコントロールしようって試みだから、それはそれで人のこころをあやつれるって考えなわけで、傲慢なんじゃないかなと思ったりもする。

 

 それに、そもそもこの国の政治家だって、評価は二分されている。

 

 戸三郎じいちゃん――大江首相だって、直接相対してみれば悪い人じゃなかったけど、支持しない人も当然いるわけで。支持率とかが特別高いわけでもない。

 

 完璧な人間なんかいないんだから、どこかで誰かは否定するだろう。

 すべての意見は相対主義にのっとり誰かにとっての悪であり誰かにとっての善だ。

 

 そんな意見すらも、また誰かに否定されるところなんだろうけど。

 

 わたしは――。

 心のどこかで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っているのかもしれない。

 

 わたしが社会になじむように心を砕いてくれているみんなに悪いから、流れに身を任せてるけどね。みんなと仲たがいはしたくないし。

 

「まあいい。曖昧に言ったのはちょっとした言葉遊びのつもりだったんだ」

 

 ルナはかぶりを振った。

 

「言葉遊びですか」

 

「ああ、ダブルミーニングだったんだ。ダブルミーニング。わかるよな?」

 

 そんなに必死になって確認をとらなくてもと思うが。

 よっぽどさっきのグルグルまわしたのが効いたのかもしれない。

 わたしは当然、百パーセント正解な答えを返す。

 

「言葉遊びのことですよね?」

 

「うん? ああ……そうだ。日本語的に言えば掛詞だな」

 

「掛詞。みやびだね。ルナちゃん」とみのりさん。

 

 掛詞。

 二重の意味を持たせる日本語の妙技。

 中学のときくらいに古文で習ったりしたな。

 ふたつ以上の意味を重ね合わせることを言う。

 

「それで、意味はなんなんです?」

 

 そもそもの話は、ドラクエを量産するためにお金を稼ぐという話だったはずだ。ついでに、わたしが社会になじむために、ファンを増やす。……アイドルを目指しているわたしとしては悪くない話だ。

 

「まずは、タービンを()()()という意味だった」

 

「タービン? なんですかそれ」

 

「発電所のことかな?」と理呼子ちゃん。

 

「そうだ」

 

 ルナは力強く頷いだ。

 なるほど、発電所ね。

 わたしの魔法は魔法力をこめることで持続時間が決まる。

 つまるところ、燃料要らずの無限エネルギーといってもいい。

 

「火力なんですか。風力なんですか。それとも原子力?」

 

「その前に、イオは発電所の基本的構造を知っているか?」

 

「いえ、知りませんけど」

 

「タービンだ」

 

「はい?」

 

「だから、タービンをまわして電気を得ているんだ。べつにこれは火力だろうが水力だろうが原子力だろうが変わらない」

 

「原子力もですか?」

 

「そうだぞ。原子力発電も結局のところはウランが核分裂するときの熱で水蒸気を沸かして、その水蒸気でタービンをまわしている」

 

――どうあがいてもタービン。

 

「なんだかすごい原理が働いていると思ったらそうでもないんですね」

 

「そんなもんだぞ。エネルギーそのものを取り出しているわけじゃないからな」

 

「でも、電気を売るってだけでいいんですか?」

 

「最初はな。いきなり世界を相手どって大仰なことに手をだすべきじゃない。発電だって、電力会社とか、ウランを輸入する先とか、各種調整が必要なんだぞ」

 

「そういった調整は会社のほうでしていただけると……」

 

「そうだな」

 

「もうひとつの意味はなんです?」

 

「これはセルフブランディングにもかかわることだが……。できるだけ見栄えよく、派手で、衆目を集める必要がある。イオは正義の魔法少女であるというイメージを植えつけるんだ」

 

「わたしは良い魔法少女ですよ」

 

 どうせ、誰かに違うと否定されるから、だからそう言い切っていいんだ。

 

「多くの人にそう思われるようにする」

 

「多くの人に……」

 

「そう。だから配信するぞ」

 

 配信。

 ユーチューバーになって、世界中に見られる。

 アイドルとしては本懐。

 でも、にわかに緊張もする。

 だって、わたしは子役としては端役もいいところだったし、たくさんの人に見られたのは、例の記者会見が初めてだったからだ。想起されるのは『かしこさ3』という悲しい事件。

 

 かしこさ3でかわいいという脳死な意見もあれば。

 かしこさ3に魔法を使わせるのは危険ではという意見もあった。

 

 人が多くなるとどうしても意見に広がりがでてしまう。

 特にわたしの場合、持ってる力が巨大すぎて否定的意見も大きくなる。

 

 配信ってそういう意味では炎上しないようにコントロールするのが難しそうだけど……。ママンが覚悟を決めてわたしをプロデュースすることにしたのかもしれない。もう魔法は広まってしまっているわけで、秘匿されたとかいわれるのもアレだしな。どう転んでもあげ足とるやつはいるわけで、わたしがキレてザキしなければ、それでいいんだろう。

 

 あれ、でも先ほどの言葉遊びとはつながらないな。

 

「いったいなにをまわすんです?」

 

「カメラを()()()!」

 

 そういうことですか。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 わたしは都内近郊にある某発電所に来ていた。

 

 ここは火力発電所らしい。

 

 いや、正確には火力発電所だった場所。

 高効率のもっと割りのいい発電所がつくられるに際し、ひとまず休止している場所らしい。

 

 原子力はいろいろとヤバいこともあるかもし、いきなり稼働中のところから始めるのも失敗したときのダメージが大きいので、とりあえず無難なところから始める算段のようだ。

 

 発電所の印象は、鉄の要塞という感じだ。

 そもそも火を扱うだけあって、燃えやすい材質のものはダメなんだろうけど、床にしろ壁にしろだいたいは冷たい感触を返してくるものばかり。

 

 で――、対極的なのは人の温かみ。

 

 まず通された集中コントロールルームでは、この日のために出張ってきたのであろう、何人かの人が出迎えてくれた。

 

 人に案内されて発電所の中をひとしきり見学する。

 鉄のパイプが張り巡らされたロボットの中みたいな感じ。

 

 なんかよくわからんけどタービンをまわすのは水蒸気だけでなくガスも混ざっていて、ダブルタイフーン状態らしい。

 

 ただ原理的には事前にレクチャーを受けたとおり。

 結局はタービンを回す。それに尽きる。

 で、火力発電の場合は、なにか燃料を燃やすわけだが――。

 

「つまり、初級火炎呪文(メラ)なんですよね?」

 

 隣にいるルナにわたしは聞いた。

 ルナは頷く。

 ここに来るまでに何回かシミュレーションはおこなっている。

 小型のボイラーを使った実験でも成功した。

 

 要するに普通の火力発電は燃料を燃やしてタービンを回すわけだが、今回はそれをメラ系の魔法でやってしまおうというわけだ。

 

 燃料を燃やした場合は排ガスやらが出て、環境破壊にならないように考慮しなければならないが、わたしのメラは魔法力を燃やしているのか、そもそも現象そのものがでているのか、それそのものは非常にクリーンなエネルギーだ。

 

 であれば――。

 魔法力が続く限り、メラは燃え続ける。

 つまり、わたしが馬鹿みたいに魔力をこめればメラは永遠の炎となるということだ。

 やったね。イオちゃん。タービン回し続けられるよ。

 

 ところがどっこい。

 話はそう簡単でもないらしい。

 電力を作り続けるにしろ、その発電量はコンピュータ制御されていて微細な力の入れ具合をしている。メラが燃え続けるにしろ、今度はフェールセーフをどう取るのかといった問題がでてくるらしい。もうここらへんからわたしの脳内キャパはオーバーしている。

 

「メラは魔法力そのものを消費して燃焼している。したがって、メラがメラとしての形状をかたどっている限り火は消えない。今度は余剰電力をどう調整するかという問題がでてくるが、これは単純に排熱するなりすればいい。むしろこの排熱コントロールのほうが重要になってくるな」

 

 と、ルナは言ってくれるが、さっぱりわからんのよ。すまん。

 

 そして、ついに火力発電所の中枢といってもいい、ボイラーを見下ろせる位置まで到着した。

 

「さて、これからイオは配信をするわけだが……」

 

「はい」

 

「まずは例の魔法少女の姿になったほうがいいな。変身シーンから始めるのはどうだ?」

 

「えっと……なぜそれを」

 

 理呼子ちゃんが魔法少女の服を描いてくれて、わたしはモシャスやらを使った変身を試みたことがある。正直、あの姿はコスプレっぽくて恥ずかしい。

 

 しかも変身シーン。

 あえて、嘗め回すようなカメラアングルといいますか。センシティブな姿態を繰り返すのは、わずかに残った男ごころとしても非常に恥ずかしいものがある。

 それをお茶の間の皆様にご提供するとか、無理無理! 断固拒否する。

 

「私はイオのトレーナーだからな」

 

「ちょっとストーカーっぽいんですけど。もしかして、わたしを見張ってたりするんですか」

 

「プライバシーには十分配慮してるつもりだぞ」

 

 たぶん、理呼子ちゃんに聞いたんだろうけど、あれはちょっとなぁ。

 不特定多数に見せてはいけない(戒め)。

 

「……まあそこまで嫌なら仕方ない。変身シーンは勘弁してやろう」

 

「魔法少女のコスプレ姿もけっこう恥ずかしいんですが」

 

「子役のときにそのくらいは着ていただろう。それにコスプレじゃない。ガチだ」

 

 確かにもっと幼い頃にプリキュアの玩具のCMで、それに近いのを着たことはあるけどさぁ。

 もう十歳なんだよ。プリキュアは卒業したんだよ。

 理呼子ちゃんが強くお願いするからあのときは変身したけど、正直なところ、あんまり着たいもんじゃないよなぁ。子どもっぽいし。

 

「仕事だから我慢しろ」

 

「むぅ……」

 

「イオはかわいいから、魔法少女姿も似合うだろう。みんなもそう思ってくれるはずだ。たくさんの人がほめてくれるぞ。かわいいかわいいって言ってくれるぞ」

 

「え、そうですか? ふふ、わたしって素の状態でかわいいですからね。魔法少女姿だとさらにかわいらしくなっても、しかたありませんよね」

 

 イオちゃん超かわいいからな。

 たくさんの人にかわいいかわいいって言われるのは悪くない気分だ。

 承認欲求みたされちゃう。

 

「うむ。チョロインになれるぞ」

 

「ルナちゃん。それはチョロインじゃなくてヒロインって言うんですよ」

 

「そうか。日本語はむずかしーなー」

 

「ふふ、ルナちゃんったら」

 

 そういうわけで。

 

 とりあえず、魔法少女姿に変身することになったのだった。

 ちなみに変身シーンはカットです。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 その配信は前もって周知されていた。

 

 世界初の魔法についての配信である。

 いちおう、記者会見が初という考え方もあるが、あれは国側が用意したフォーマットであり、イオ自身が用意したものではない。

 

 魔法カンパニーIOが用意した、イオのイオによるイオのための配信。

 

 つまり、同人的な、ファンのコミュニティ的な雰囲気が最初からあり、ブイチューバ―や生身の配信に慣れ親しんでいる者からすれば、裸身のイオを知るいい機会だったのである。

 

 その配信は、始まる前から登録者数が2500万人を越え、いまも伸び続けている。

 世界各国からのアクセスも止まらない。

 

 魔法という未知なる技術。

 いまだブラックボックスのなかに秘されている技術の一端が、この配信で暴かれるかもしれないのである。それと、イオ自身のスタンスが明らかになる。いまだイオ自身の人となりはわずかな露出から推測するしかない。

 

 日米への協力は当然だろうが、各国はどうなのか。

 彼女の魔法はどこまでのことができるのだろうか。

 

 ドラクエ魔法はいまや世界の潮流といってもいい。

 各国は置いていかれまいと必死だ。

 小学生の配信に、50代とか60代の国の要人がかかりっきりになっているのである。

 

 もちろん、一般市民も同じだ。

 こちらは純粋な興味に近いが。

 

 待機画面。

 

 イオをアニメ化してデフォルメしたらこうなるであろうキャラが、モフモフした羊に身を任せて眠っていた。ひと昔前のスクリーンセイバーのようである。

 

 パソコンやスマホを開いて、みんなかたずをのんで見守っている。

 

 予定時間を一分過ぎた。じりじりとした焦りが視聴者のなかに生まれる。

 国会放っておいているんだが我が国……とか考えたどこぞの国の議員もいるかもしれない。

 

 そして、不意に沈黙が破られる。

 

「…………イオ!」

 

 接続不良ぎみだったのだろう。

 

 アイドルご用達のヘッドセットマイクをつけたイオが、何回かマイクに向かってテストを繰り返し、かなりの大音量に設定されたときにつながってしまった。

 

 結果――。「イオです」という、なんのひねりもない挨拶が初級爆破呪文を開幕ブッパするように聞こえてしまった。

 

『ひえっ』『開幕爆破はやめろ。繰り返す開幕爆破はやめろ』『鼓膜を爆破された』『あ、イオちゃんが伝説の魔法少女姿してる』『変身シーンが入ってないやりなおし!』

 

「あー、イオです。みなさん見えてますか。聞こえてますか」

 

 てのひらをひらひらと振る。

 

『聞こえてる』『見えてる』『カメラかなんかで撮影しているのかな』『この場合、コメントを拾い上げるのはできそうにないな』『オレらのこと見えてない?』『つまりちょっとくらい変態コメントしてもバレへんか……』『ツインテールイオちゃん』

 

「あの、いまみなさんのコメントですけど、わたしの背後にプロンプターみたいな画面が見えてます。だから確認できますよ」

 

『イオちゃん愛してる』『好き好き大好き超愛してる』『かわいいよ』『イオちゃん私の国に来てくれー』『わしの国の議会にシャナクをしておくれ』『もう一回くらいベホマズンください』

 

「えっと、愛してるってわりと強い言葉ですよね。軽く見えます」

 

『赤くなってんぜー』『かわいい』『かわいい』『かわいい』『かわいいの三連星かよ』『イオちゃんってやっぱり演技だよね』『あわてんぼうのイオちゃん』『まあかしこさ3だしな……』『かしこさ3のイオちゃんが何を想い、何を成すのか』

 

「さて……、いまから行うのは発電です」

 

『イオちゃんで発電……ひらめいた』『ひらめくな』『発電か……。まあ無難なのか?』『電気余っても悪くはないだろうしな。電気代が安くなるかもしれんぞ』『電力会社涙目なんじゃ?』『資本主義は強いものが勝つんだよ』

 

「発電方法は簡単です。メラを使ってタービンをまわします」

 

『イオちゃん大丈夫? 意味わかって言ってる?』『うーん。つまり燃料の代わりにムチプリを燃焼させるってことか?』『イオちゃんのムチプリ考えたら無限のエネルギーじゃん』『無限のエネルギーもすごいが、実質無料っていうのがすげえな』『管理費用はかかるだろ』

 

 イオはすたすたとボイラー上の通路を歩く。

 カメラが下を向いた。四方八方に伸びている鉄のパイプが、心臓部であるボイラーにつながっている。

 

「では、いまから点火します。上級火炎呪文(メラゾーマ)

 

 イオは指先に火炎球を発生させた。

 温度調整し、大きさも整える。

 魔法力によって熱伝播が抑えられているが、さすがに熱い。

 片方の腕で、おでこをぬぐう。

 

『あれはメラではない。メラゾーマだ』『メラでもいいんじゃねって思うけどな』『べつに魔法力こめりゃどっちでもいいんだろ』『おでこ』『おでこ民がいる』『エッチコンロ点火』『えちちちちちちちち』

 

「さて、ここから温度、サイズともにいい具合になったメラゾーマをボイラー内に転移させます。強制転移呪文(バシルーラ)

 

『ほう。バシルーラで飛ばすか』『メラってイオとちがって手元に出現するから、バシルーラがいるんだな』『ボイラーの中でいっしょに燃え上がるわけにもいかんしな』『ボイラーのなかでもトラマナあたりを使えば大丈夫なんじゃね?』

 

「はい。これでおしまいです。ボイラーの中の火はスタッフさんがいい具合に調整してくれます。説明されてもよくわかりませんでしたので、詳しくはウェブで」

 

『スタッフのほうがすごくね?』『消えない火を調整する神業か』『まあ実際のところ安い電気さえ来てくれるんなら、どうしてとかナゼっていうのはあんまり考えないな』

 

「では、コントロールルームに向かいましょう」

 

 カメラのほうに向かって歩き出すイオ。

 細い通路なので、カメラと行き違いになる。

 

『近い近い』『一瞬ふわっていい匂いするやつ』『すうううううううう』『魔法に興味があるやつが半分。イオちゃんに興味があるやつが半分って感じか』『小学生に興味があります(危険人物)』

 

「コントロールルームにつきました。えと、電気できてますか? ヤッター! できてますって。ほら見てください」

 

『はいかわいい』『なんだこれ』『日本大勝利。希望の明日へレッツゴー!』『維持管理に結構金使うんじゃねーか? 無限のエネルギーって言ってもな』『そんなことよりベホマズン……』

 

 最後に画面に向かってにこやかな笑顔を作る。

 

「今日は初配信を見てくださいましてありがとうございました。これから普通の配信とかもしてみたいと思っております。魔法カンパニーIOと魔法少女イオをご愛顧ください」

 

『普通ってなんだろうな』『やらかしがなかったことが物足りない』『かしこさ3を底上げしているスタッフさんの努力に涙した』『イオちゃん配信者になるの?』『普通の配信者みたくゲーム配信とかしても困るだろ』『まあ……そりゃねえ』

 

「とりあえず――、やれることをコツコツとやっていく感じです」

 

『ベホマズンをコツコツとやっていくのか?』『努力しているのは伝わった』『日本だけなのか? 他の国には来てくれないんか?』『言うて株式会社だから、利害がなければ行かないだろ』『真の勇者は星宮ママン』

 

 そういうわけで、イオの初配信はおおむね好調に終わった。




発電の仕組みとかはニュアンスで感じ取ってください。

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