ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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イオの噂。ついでにミサイル。

 NHKテレビのニュースを見ていると、だしぬけにアナウンサーがわたしのことを喋りだしたのでびっくりした。

 

 いや、それ自体はべつに驚くべきことではないんだ。朝の占いコーナーみたいに、朝のイオちゃんコーナーが置かれるようになったからな。国自体がわたしという存在を認めざるをえないということで、それはそれで不健全なんだろうけれども、もはや当たり前になったというかなんというか。ただそれは今週の魔法はなんだろなってな軽いものであって、今みたいにニュースではないんだ。

 

 今のは完全にニュース。

 

「昨日おこなわれた北による飛翔体発射に対して豪筑(ごうつく)外相が、これ以上のミサイル発射実験は容認することができず、もしも発射された場合は即座に()()()()()()()()()撃墜を行うとの声明を発表しました」

 

 牛乳噴いた。

 

 いやいや。わたしそんなこと容認してねーし。

 そもそも政治には関わりのない小学生だよ。

 勝手にミサイル撃墜することになっていてビビったわ。

 

 アナウンサーは喋り続ける。

 

「関係筋によりますと、豪筑外相は星宮さんの配信の際に、また他国からミサイルが来たらどうするのかと聞いたらしく、これに対して、ミサイルなんかでわたしの国は壊させません。ぜんぶ守り切ってみせますと凛とした表情で答えたらしいです」

 

 それって、魔法配信の時じゃないよな。

 わたしだっていつも魔法配信しているわけじゃない。

 時折は普通のゲームをして、普通の少女であるということをアピールする必要があるからだ。

 寺田さんに用意してもらった配信器具を設置して、普通にゲームを楽しむ小学生を演じる。

 うん。実に平和的だ。

 

 それで、他国からミサイルだっけ。

 そんな話をしたっけな。

 んん~~~~~~~。

 あ~~~~。あったような気がするよ。

 

 たしかシヴィライゼーションという文明育成ゲームだ。

 

――シヴィライゼーション。

 

 世界の偉人さんのひとりになって、古代から未来まで文明を発達させるゲームである。

 私が選んだのは日本人である徳川家康だ。

 なぜとか、時代背景ガーとか考えてはいけない。

 そういうゲームなのだ。

 それで、隣の国にはなぜかガンジーがいた。

 ガンジーは核ミサイル厨だった。

 こいつ地球や隣国の人間のことなんか、一ミリも考えずにバンバン核を撃ってきやがるクレイジー平和主義者だったんだ。

 ブチ切れたわたしは当然、報復の核ミサイルをぶっぱした。

 不毛な戦争のはじまりだった。

 地球は滅んだ。

 核戦争を起こしてはいけない(戒め)。

 またひとつ賢くなったイオちゃんである。

 

 そんなこんなんで、上記のような言葉をどっかで言ったような気がする。

 

 いやでもさぁ。ゲームだよ? たかが小学生のお気楽なお遊びだよ。

 なんで外務大臣が見ているんだよ。暇人か。

 

 大人にもなってゲームの話と現実の話をごっちゃにしてはいけない(戒め)。

 ドラクエもゲームだろという声は置いておいてな。

 

「寺田さん。なんか政府の人が変なこと言ってるんですけど」

 

 わたしはテーブルにこぼした牛乳を拭きながら言った。

 

 なお、ママンとユアは先に小学校に向かっておりいない。

 

 わたしのマネージャー、寺田さんは不快そうに顔をしかめた。

 

「政府もこのような方を外務大臣に据えているなんてお門が知れますね。総理大臣に抗議を送っておきます」

 

「よかった。お母さまが許可しているわけじゃなかったんですね」

 

「そんなわけありません。おそらく豪筑外相が勝手に放言したんでしょう」

 

「あの、わたしミサイル撃墜しないといけないんでしょうか」

 

「そんな必要はございませんよ。そもそもあの国がおこなっているのは建前上は衛星発射実験だったはずです。専守防衛を旨とする日本は飛翔体を先制撃墜することはできません」

 

「日本に着弾しそうだったら?」

 

「軌道計算はしているでしょうし、イージス艦やイージスアショアが守ってくれるでしょう。べつにお嬢様が撃墜する必要はないんですよ」

 

「そうなんだ……」

 

 わたしはほっとする。

 わたしが原因で戦争が始まるとかマジ勘弁って感じだからな。

 ちなみに豪筑外相は速やかに更迭(しゅっか)された。

 ほどなくして戸三郎じいちゃんがママンとわたしに謝りにきたよ。

 

 いやマジで超スピード解決だわ。

 戦争に学徒動員されるイオちゃんはいなかったんだね。

 よかったぁ。

 

 そんなわけで、本格的な夏が始まった。

 7月の初旬の朝のことだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 しかし、話はそれで終わりじゃなかったのである。

 

――首相の責任。

 

 あの豪筑とかいう外務大臣を選んだのは戸三郎のじいちゃんだ。

 首相――つまり、内閣総理大臣は国務大臣を任命する権限を持つからな。

 当然、外務大臣も爺ちゃんが選ぶ。

 つまるところ、あんなアホをよく外務大臣に任命したよなと責められることになる。

 

 野党連中がめちゃくちゃ騒いだわけだ。

 まあそれもいいんだけどさ……。

 べつに政治に冷めているわけでもないけど、わたしはまだ選挙権すらもってない小学生だし、政治的な力学がわかっているわけでもない。

 でも責められるじいちゃんの姿を見るのは心苦しくはあった。

 ゲームのこととはいえ、わたしの発言が元になっているのは確かだし。

 責任があるのはわかるけど、部下を完全にコントロールできるなんて土台無理な話だと思う。

 恐怖の独裁政治家でもあるまいし。メダパニ使えば楽勝だけどね。しませんけどね。

 

 それで、じいちゃんがまた家にきたんだ。

 

「もはやこれまで……」

 

 戸三郎じいちゃんはもはや辞めるのもやむなしって感じだ。

 正直なところ、政治家の作法として辞めて責任をとるというのがよくわからない。

 悪いことをしたなら、むしろ残ってリカバリーするべきなんじゃないか?

 まあ、このじいちゃん、マジで責任とって切腹でもしそうなところあるけど。

 

 ママンは腕を組んで、じいちゃんをにらんでいる。

 

「首相。辞めて責任逃れというのもどうかと思います」

 

「んむ……。しかし、豪筑の異常さを見抜けなかった責がある。あの男の父親は外交的な敗北を喫したことがあったのだ。それで、おそらく親の敵を討ちたかったのだろう。こころの中に敵愾心を燃やしていたのだ。そのこころに寄り添えなかったわたしの責任だ。本当にすまない」

 

 丁寧に頭をさげるじいちゃん。

 でも、そうなるとますますママンは怒るんだよな。

 

「あんな元外相のことなんてどうでもいいです。問題はイオが余計な発言をしたと思われないかです。イオの発言がもとで首相が退任したとか言われたら困ります」

 

「もちろん、そのあたりは支障がないようにしよう」

 

「どうやってです」詰め寄るママン。

 

「んむ……。難しいな。ひとつは私がもっと大きな失策をして責任をとるということが考えられるが、国の不利益になることはしたくない」

 

「イオの不利益はどうでもいいというんですか」

 

「そうは言っておらん。しかし、豪筑の発言はかなりマズイ事態を生んでいる」

 

「マズイ事態?」

 

「ミサイルが実際に日本に向けて発射されかねんのだ」

 

「いままでと変わらないように思いますけど。太平洋側に着弾するんでしょう?」

 

「いや、今度は本土が撃ちぬかれる可能性がある」

 

 戸三郎じいちゃんはすごく大きなため息をついた。

 大丈夫かな。ベホマしたほうがいいのかな。

 そう思っても、もはや勝手に魔法をかけない賢いわたしです。

 

 ていうか、ミサイル飛んでくるのか。

 やべえな。

 

「あの国は、もともと最貧国のひとつで内に相当な不満をためこんでいる。破裂寸前の風船のようなものだ。そのガス抜きになっているのがミサイルの発射というわけだ」

 

 溜まってんですかね。

 まあ組織内の不満を外側に逸らすっていうのはよくある方法だろうけど。

 

「独裁者の立場としては、ガス抜きに失敗すれば自ら失墜ということになる。もちろん、日本のように穏当に余生を送れるはずもない。常からの怨みが爆発すれば、一族郎党――」

 

 わたしをチラっと見て、じいちゃんは言葉を止めた。

 まあ、そうなるな……。

 要するに、豪筑の発言はドラゴンボールの悟空がフリーザに言った『当ててみろよ』と同じなわけで、煽りまくってるというだけでなく、独裁者の立場を追い詰めてしまう。

 

 なにしろ、おまえの攻撃なんて意味がねえんだよって言われたに等しいわけだから、ガス抜きがガス抜きにならない。

 暴力でもって、なんとかメンツを保てていた国がそのメンツもプライドもなくなったら……。

 独裁者は民衆に追い立てられるだろう。

 その前に、最後の一発くれてやるよ、ってなってもおかしくない。

 

「実際に撃ってきたとして」わたしは初めて口を開く。「大丈夫なんですか?」

 

 もちろん、わたしという最終兵器を使わないでの話だ。

 できるなら出動はしたくないしな。

 

「んむ……。大丈夫かと言われると正直なところ心もとない。損害ゼロというわけにはいかないだろう。本格的な戦争になればという注釈はつくが、かの国は準中距離ミサイルを500発ほど持っている。これらは通常弾頭だが数が多く、すべてをイージス艦で撃ち落とすのは難しいだろう。西日本が壊滅的ダメージを受ける可能性もなくはない」

 

「核ミサイルは?」

 

「落ちれば当然、甚大なダメージが生じる。以降、数十年にわたり傷跡が残るだろう」

 

「そちらは撃ち落とせないんですか?」

 

「誰も試したことがないから、なんとも言えん」

 

 まあ、そりゃそうか。

 アメリカのほうも、本国まで届かなければ放っておくって方針だったしな。

 所詮、他国のことですから、冷たいもんよ。

 

「ミサイルは高高度になればなるほど撃ち落としにくくなる。逆に言えば、ミサイルから防衛したい場合、もっとも容易いのは発射基地を先制攻撃で潰すこと。第二に、発射直後を撃ち落とすことになる。だが、いずれも我が国の憲法上取りえない。軌道計算をして我が国が狙われていると判明してから迎撃行動に移れる」

 

「厳しくないですか?」

 

「厳しいな」

 

「でも最初の一発は――、核ミサイルなんですよね?」

 

「おそらくはな。戦端が開かれればさすがに米国が徹底的にあの国を潰すだろうから、向こうも最大のダメージを与えたいと思うはずだ」

 

「わたしいざというときには撃墜しますよ」

 

「イオ!」

 

 ママンが叫ぶ。

 

 でも、マジで核落とされたらヤバいでしょ。何十万オーダーで死んじゃうと思うし。

 あとから、ザオリクやマホカトール、ニフラムあたりで壊れたもの以外はだいたい元に戻せるけど、死んだという経験はやっぱ嫌じゃない?

 

「そうしてくれると助かる」

 

 じいちゃんは心の底からほっとしているようだった。

 

「でも、戸三郎おじいちゃん。わたしだけに負担がかかるのって変ですよね」

 

「む……。そうだな」

 

「やめないでくださいね」

 

「わかったそうしよう」

 

 ヨシ。

 これで丸くおさまったな。

 そう思っていたら、ママンにぐりぐりされた。

 

「イオ。あなたわかってるの。政治的に使われるということになるのよ。豪筑の発言を追認することになるじゃない。今度は宇宙人から地球でも防衛する気?」

 

「もちろん。このことはここだけのオフレコってやつですよ。もしも、本当にミサイルを撃ってきたら、なんとなくニュータイプ的に気づいたわたしが勝手に正当防衛するってだけの話です」

 

「実際にそれって可能なの?」

 

「そういう探知魔法ってないんですよね」

 

 あえて言えば、探索呪文(レミラーマ)是非弁別魔法(インパス)あたりだろうけど、常時展開していなくちゃならなくて、日常生活に支障をきたす。

 

 普通にスマホに連絡してもらったほうが早いだろう。

 

 お風呂入ってたらどうするかって?

 レミーラで光り輝く飛翔体が見れますよ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 イオは会場を照らし出すライトをぼんやりと見つめた。

 裏での話し合いが終わったあとは、表での記者会見だったのである。

 

 ミサイルが飛んでくるかどうかは神様しか知らない。

 であるならば、まずはできるところから対処にあたるほかない。

 

 一番の対処が必要なところは、イオ自身が政治にかかわるつもりはないということを、はっきりと伝えることである。

 もちろん、火力発電など、エネルギー供給や、この先行われるであろう無限パンの供給など、政治的色合いを帯びることは避けられない。

 

 だが、防衛はまずかった。

 政治色があまりにも強すぎる。というかモロなのである。

 だから、防衛にはかかわらないと釘を刺しておく必要があった。

 

 あのときの記者会見の焼き直しのように、イオ、ルナ、マリア、そして大江首相が椅子に座り、全国生中継されている。

 

 イオは若干慣れた。

 人の多さにも、注目されることにも。

 そして今回は謝罪会見でもある。

 ゲームでの発言が元で世の中を混乱させたというのがその内容であるが、客観的に見れば、これが悪いことかどうかは微妙なところであろう。自分の発言の影響力を軽んじたイオが悪いといわれればそうかもしれず、かといって、ゲームプレイ中の発言まですべて本気にされたら、イオはまともに遊べない。

 

 ともあれ、謝罪配信だった。

 だからプロンプターは外してもらっている。

 カンペガン見の謝罪に意味なんてないからである。

 

 記者のひとりが質問を開始する。

 

――豪筑元外相の発言についてお聞きしたいのですが……。

 

 その瞬間、イオの雰囲気が変わった。

 悲しみに顔を歪ませ、しかしながら、悲しみに負けんとする力強さもにじませる。

 健気に咲く一凛の花のような。

 否――、神気すらまとった聖女のようであった。

 

 記者たちは。その圧倒的な聖女のオーラに息をのむ。

 

 イオがおこなっているのはメソッド演技。

 ドラクエシリーズの中でもぐうかわヒロインの一人、フォズ大神官(12)である。

 大神官なので聖女でも間違いではない。ちなみに年齢は推定値である。

 

「わたしがいたらないばかりにこのような最悪の事態をまねいてしまったのです」

 

――どういうことでしょうか。

 

 記者は動揺しながらも聞いた。

 

「ゲームでの発言を、豪筑様は現実のものと勘違いしたのでしょう」

 

――魔法により可能だからこその発言だったのでは? 実際にイオさんの力なら楽勝でしょう。

 

「この国の防衛は自衛隊の皆様がたがしてくださっています。わたしのような幼い子どもが防衛のかなめを担っては、かえって国民の皆様にご迷惑をおかけしてしまうと思います」

 

――わざと勘違いさせるように仕向けたのでは?

 

 記者はいじわるに聞いた。

 彼は自分の仕事が、取材対象を怒らせることにあると勘違いしている。

 それで、ザキを撃たれるなどとは微塵も考えていないのだ。

 

「2度と不規則発言をゆるさぬよう今後はネットリテラシーも強化していきます」

 

 対するイオはどこまでも健気だった。

 可憐で儚く、そして蓮の花のように穢れなき様。

 もともとイオのファンな視聴者としてはすぐさま聖女認定されるくらいの凄みがある。

 

『マジかよ。記者最低だな』『イオちゃん泣かないで』『あれ、イオちゃんいつもと様子が違うくね?』『でも相手小学生なんだから加減しろよ』『ほんと記者かしこさ3以下かよ』

 

――えー、イオさんはいま小学生ですし、防衛に関わるというのは人権上問題が大きいと思うのですが、逆に言えば、大人になればこのあたりは解消されるはずです。イオさん自身としては将来、そちらのほうに向かうということは考えられないのでしょうか。

 

「国民の皆様にお頼みするのはあまりにも心苦しいのですが、あえてお願いもうしあげます。どうか、わたしにゲームを遊ばせてください」

 

 この娘、配信で食っていくことにすっかり味を占めてしまったようである。

 

 しかしながら、客観的に見れば、イオの主張はひとりの子どもとして遊ばせてほしいというものだった。大人として子どもに銃を持てというほど最低なことはない。

 

『イオちゃんはゲームで遊んでるくらいがいいよ』『時々、発電所まわしてくれればいいんじゃね?』『バカな大人の後始末を子どもに任せるのもどうかと思うんだわ』

 

――豪筑元外相の発言については彼の責任だと考えられますが、彼が更迭された件についてはどのように思いますか?

 

「政治のことはよくわかりません。豪筑様の責任は豪筑様のものですし、わたしの責任はわたしのものでしょう」

 

『イオちゃんがかしこい?』『かしこさ3だぞよく考えろ』『かしこいこと言ってるふうで、実はあまり中身がないんじゃないか?』『よくわからなくなってきた』

 

――ミサイルが落ちてきたとして、イオさんは国民の皆様を見殺しにするんですか。

 

「不規則発言は控えていただきたい!」

 

 戸三郎は大喝した。普段おとなしい彼の久方ぶりの芯の通った声である。

 記者は震えあがりながらも、相手の怒りこそが自己の正当性だと感じる。

 

――大江首相も同罪じゃないですかね。外相の責任は首相の責任なんですから。イオさんが防衛しないというのなら、外相は国家防衛に関わることで嘘をついたことになる。この責任は重い。首相も退任すべきなのでは?

 

「私自身の進退については別の機会を設けよう。そちらで十分に質問してくださればよい。今回は星宮イオさんのささやかな願いをかなえるためのものだ。それはゲームを他意なく楽しみたいという子どもらしくかわいらしい願いだ。我々大人は子どもが遊ぶために最大限の努力をすべきではないかね」

 

『ほんまそれ』『いいぞ首相もっと言ってやれ』『たまにいいこと言うじゃん』『記者も多いといろいろ混ざるよなぁ』『弾けんのかねぇ』『ニフラムすれば一発なのでは?』『多すぎるから無理なんだろ』『首相の発言も若干マッチポンプ気味だけどな』

 

――先ほどの質問には答えてもらってませんよ。あなたはミサイルが落ちてきたらどうするんです? 守るんですか守らないんですか。はっきりしてください。

 

『この記者根性あるな』『クビになるんじゃね?』『んー。守る力があるのに使わないっていうのもなんか変かなぁ』『小学生に守られるとか最高かよ』『子どもは遊ぶのが仕事だろ』

 

「わたしは――」

 

 フォズのメソッドとしては守りますと言ってしまいそういなるが、母親との約束上、それは言えない。沈黙するほかなかった。

 

――答えられないんですか?

 

「わたしは、まも……」

 

 そのとき。

 

 突然、会場内にミサイルアラートが鳴り響いた。

 みんなの持っているスマホが一斉に共鳴する。

 地震のときにも聞いた、ブイーンブイーンという大きな音だ。

 

 ミサイルが撃たれたらしい。

 

 会場はにわかにざわつき始める。

 イオが目の前にいるのである。

 ミサイルは本当にイオなしで迎撃できるのか。

 それは誰にもわからない。

 そしてミサイルが弾着するまで、約七分ほどだろうと言われている。

 

――イオさんミサイルを撃ち落としにはいかないんですか。

 

 記者が聞いた。

 

『そこでそのセリフはあかんやろ』『いやしかしイージス大丈夫か?』『うーん』

 

 場内は騒然としている。

 大江首相やマリアが必死に落ち着かせようとしているが難しい。

 

 イオはその場でガバっと立ち上がった。

 

「あ、ああ! あの……みなさん!」

 

 シンっと一瞬静まりかえる場内。

 イオはみんなを見渡して一言。

 

「ちょっとお腹が痛くなってきたんで中座します」

 

『ついにきたか』『なにがだ雷電』『生理だよ』『おまえここでセクハラ発言とか神ってるな』『まあ世界が明日滅んでもイオちゃんが復活させてくれるだろ』『人間復活させまくったら神認定がとまらないな』『それもまたヨシ!』

 

 イオは飛翔呪文(トベルーラ)を使って空を駆けていく。

 もちろん、誰もイオがトイレに向かったとは思わなかった。


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