ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

36 / 102
ミサイル撃墜。ついでに黒幕。

 北へ行こう。ランララン。

 わたしは音速を遥かに越えるスピードで飛翔している。

 

 でも、北って行っても本当は北西の方向っていうのがミソな。

 言っておくが国のことじゃないからね。

 

 イオちゃんは良い子なので、勝手に人ん家に入ったりしません。

 国境をまたいだ不法侵入も、やろうと思えばできるけど、そんなことしたら後から非難されるに決まってるからな。

 

 Jアラートが鳴ったということは、おそらく弾頭に核が搭載されていることはまちがいなく、その国から非難されることはないだろうけど、あとあと他の国がわたしを脅威とみなす状況になるのはよろしくないってことだ。

 

 ついでにいえば、わたしが撃ち落としたということは『非公式事実』にすべきだろう。

 

 わたしが日本人としてミサイルを撃ち落とすというのはいいとしても、政治的な力動に誘導されて、人型防衛機構として使われるのはよくないからだ。

 

 ママンはこのことを何度も言っていた。わたしが日本だけに利する存在だとみなされれば、他の国から暗殺者が送られやすくなるのではないかと。

 

 そうでなくても全世界からの風当たりが強くなるのではないかと。

 もっと言えば、孤独になるんじゃないかと。

 

 イオちゃん無敵なんでーって言い返してもよかったんだけど、ギュっと抱かれてあなたが心配なのって言われれば、娘としては何も言い返せません。愛とは偉大な魔法なのだ。

 

 したがって、わたしがすべきことはEEZ――排他的経済水域内で、なにごともなくミサイルを撃ち落とすことにある。わたしがやったのはバレバレだろうけど、お花を摘みに行っていたと言い張ればいい。ミサイルは勝手にどうにかなったのだ。あるいは日本が保有する謎の魔法技術で撃ち落とされたのだ。

 

 ついでに――。

 できれば、北の国がやったという証拠を残したほうがいいだろうと言われている。

 まあこれは当たり前だな。あとあと国際的に非難するためには証拠があったほうがスムーズにいくだろうし、北の独裁者様はおそらくそれで米国あたりに滅ぼされるか、内乱によって終わるだろう。日本は憲法上、占領するってことはしないだろうけど、何もしなくても勝手に滅ぶんじゃないか。

 

 次善としては破壊。

 

 わたしとしては、核ミサイルを迎撃したら核爆発を起こすんじゃないかって心配だったんだけど、その可能性はほぼ無いらしい。

 

 核爆発というのはプルトニウム239に中性子を当てることによって生ずる核反応の連鎖によって引き起こされる。核反応によって中性子が飛び出て、それがまた核反応を引き起こしって感じで無限ループさせるわけだな。無限ループって怖くね?

 

 もちろん、そのためにはプルトニウムを凝縮し、一気に核反応を起こさなければならないらしい。核ミサイルは数十に小分けされたプルトニウムを火薬によって一点集中することによって生ずる。このプロセスはきわめて()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なので、例えば迎撃ミサイルで撃ち落としても核爆発は起こらないんだ。

 みんなわかったかなー? 大丈夫。わたしにはわからんかった!

 

 ともかく、結論としてはメラなりギラなりイオなりを当てて撃ち落としても核爆発が起こることはないってことだ。

 

 戸三郎じいちゃんには海上なら好きにやってくれてかまわんと言われているし、あまり深く考えなくていいのは、こちらとしてもありがたい。

 

「さて、海上にでましたが……ミサイルはどこにあるんでしょうか」

 

 残念ながら人型ミサイル防衛システム、通称イオちゃんは音速を生身で飛んでいる関係で、通信機能が使えない。海上であればなおさらだ。

 

 海上までは一分もかからずに到着したけど、こっからどうすればいいかが問題となる。

 

 ミサイルというのは実は撃ったら撃ちっぱなしということはなく、ほとんどの場合は誘導し弾着場所を微修正している場合が多いらしい。だから、発射場所から着弾地点を予測するとはしても、単純な直線を引けばいいわけではない。

 

 ではどうすればいいか――。

 答えは簡単、魔法だ。

 

探索魔法(レミラーマ)!」

 

 魔法力をこめて探索範囲を思いっきり広げたレミラーマを撃つ。

 カーンっと潜水艦のソナーのように、わたしを中心に探索領域が広がっていく。

 前に家の中に変なものがしかけられていないか試したことがある魔法だが、これはわたしがイメージしたものを脳内で探索する魔法だ。

 

 初期のドラクエのように見下ろし方の画面で、レーダーサイトのように対象物が光点として光る。福島に向かうときもこの魔法を使えばよかったんだろうけど、あのときは忘れてたわ。まあ、デモンストレーションだったしな。

 

 ものの数秒で探索完了。およそ千キロを射程内に収める。

 

「ん。ありました。高速度で飛翔する物体」

 

 今回の核ミサイルは見つけるのが簡単だった。

 なにしろ、高高度かつ高速度で飛翔する物体なんてミサイルくらいしかないからな。

 

 真正面から迎え撃つように飛んで行く。

 

 ミサイルは上昇を続けている。事前にじいちゃんに聞いてたとおりだ。

 迎撃しにくいように高高度に達している。

 

――ロフテッド軌道だ。

 

 既に雲海が真下に広がっており、フバーハやトラマナが無ければ生きていけない環境下にある。

 

 このまま何もしなければ、ミサイルは大気圏外から大気圏内に再突入し、落下するような感じで日本国土を蹂躙する。

 

 いまからでもさっさと爆破するのが安牌だが……。

 

「証拠を残すっていうのが難しそうですね」

 

 戸三郎じいちゃんは、証拠が残せればとは言っていたが、こんなに速くミサイルを撃ってくるとは思ってなかったらしく、具体的方策については聞いていない。

 

 準備は一任されている。

 

「とりあえず、高度を落としてみますか。重圧呪文(べタン)

 

 べタンはその名のとおり、重力を操る魔法だ。

 この魔法を使えば十倍の重力で修行したり、嫌なやつをひざまずかせることができるぞ。

 ミサイルは、わたしの魔法を受けて想定よりも早いスピードで海上へと落ちていく。

 

 このままいけば海に衝突してドボンだが、万が一にも核爆発が起こったらヤバい。

 

 だから――。

 

極大氷結呪文(マヒャデドス)!」

 

 ある程度高度を落としたところで、ミサイルを氷で覆い分子の動きを固定させる!

 

 あ、やべ。

 

 加減がわからなかったから、ちょっと力みすぎた。

 

 さりげなく極大呪文を放ったのも問題だったのだろう。

 海上はことごとく凍りつき、それだけでなく極寒の地のように空気自体が凍っている。

 どれだけの領域が凍ったかわからないけど、とりあえず見渡す限り海が氷で覆われている。ミサイルもちゃんと凍っているけど、氷上のうえで氷像のようになっていて、なんともいえない。

 

 証拠は確保できたと思うけど……。

 

 見渡す限りの氷塊。

 

 まるでひとつの超巨大な氷の島ができたかのようで、大陸側に向けて海自体がかなりの広範囲にわたって氷におおわれている。

 

 えっと……。

 

 意味もなくきょろきょろしてみる。もちろん誰もいない。

 誰も意見を聞く人もいない。

 

 でもなんとなくだけど、これってヤバくね?

 

 特にお魚さんとか……。

 

 わたしの背後にいた漁師や自衛隊のみなさんとかの気配は大丈夫っぽいけど。

 御神渡りできそうな感じじゃん。

 どこまで続いているかわからないけど、下手したら大陸側まで歩いて渡れたりするのかも。

 

 あとで叱られそう……。

 

「と、とりあえず、ミサイルを浮かしてっと……」

 

 飛翔呪文(トベルーラ)で氷で固めたミサイルを浮かす。

 めきめきという音を立てて、凍り付いたミサイルをひっぺがす感じだ。

 ある意味、トベルーラって念動力だよな。

 かなりコントロールが難しいから、おおざっぱにしか使えんけど。

 

 で……、一面の氷。

 

 証拠隠滅を図らなきゃ。いやいや証拠隠滅とかじゃないよ。

 これはそう……リカバリ。リカバリ行為だ。

 べつにやらかしてなんかいない。微修正微修正。

 

 とりま、溶かしてたほうがいいよな。

 

 氷を溶かす魔法といえば炎が一番だろう。

 

極大火炎呪文(メラガイアー)!」

 

 ヨシっ!

 

 極大には極大をぶつければ相殺できるだろう。

 

 氷は炎で蒸発するからな。こんなの楽勝な化学だよ。小学生でもわかる。

 

 わたしは超巨大な火炎球を出現させ、そのまま眼下の氷に向かって放り投げた!

 

 消えろ、わたしの罪よ。

 

 どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 みーんみーん。

 

 蝉が鳴いている。

 魔法クラブのみんなはエアコンで快適に過ごしているけれど、夏の気だるい感じは悪くない。

 

 それで、ルナが新聞をパサっとテーブルの上に放った。

 

 なぜか()()()()()()()()()()()()()()()らしく、北の核ミサイル事件とともに一面のトップを飾っていた。

 

「水蒸気爆発って知っているか?」

 

「いえ、知りません」

 

 正確には経験はした。

 これ以上なく身をもって体験したといったほうが正しいか。

 

「水を瞬間的に気化させると、体積が1700倍にも膨れ上がり爆発する。多量の水と高温の熱源が接触した場合に起こる現象だな」

 

「へえ。そんなことがあるんですね」

 

「例えば、水の代わりに氷を使っても熱源次第では同様の現象は起こるだろうな」

 

「でしょうね……」

 

 なぜだか、わかります。

 

「イオちゃん。お魚さんに厳しいね」

 

「理呼子ちゃん。違うんですよ。ちゃんと海域に全体蘇生呪文(ザオリーマ)かけときましたから」

 

「生き返らせたからOKっていう考え方はちょっとどうかな。いのちを弄んじゃダメだよ」

 

「おっしゃるとおりです」

 

 ていうか知らなかったんだよ。

 大量の氷で温度が下がったり、魚が氷漬けのままだと困るかなって思ったんだ。

 

 あのあと猛烈な爆発に巻き込まれたわたしは、もちろん無事だった。

 

 トラマナとフバーハによる環境対応と、アタカンタとスカラによる完全防御態勢は水蒸気爆発による影響をまったく受けなかった。

 

 ただ、天高くそびえたつようなキノコ雲と、わりと広範囲にしっちゃかめっちゃかになってしまっているお魚さんたちを見て、これは叱られると思ったのだった。

 

 実際に、ママンにはメッチャ叱られた。

 

 とりあえず、よかったのは核ミサイル自体は確保されていたことと、事前に浮かせていたことで、水蒸気爆発の影響を受けなかったことだ。

 

 これはほんとファインプレー。

 で、海上の適当なところにポイっちょして、ミサイルは無事政府が回収。

 わたしはリトルグレイみたいにママンに回収。

 

 それからみっちり三日間ほどお説教をうけ、本当の意味でのリカバリ行為をおこない、ようやく学業に復帰である。

 

「あの国は三日で内部から崩壊か……。米軍が出動するまでもなかったな」

 

 ルナがあまり興味がなさそうに呟いた。

 

「南の国が併合するのかな」と、みのりさん。

 

 さすがに中学生だけあって、そのあたりは小学生より詳しいようだ。

 南のほうの国については――まあ、心情的には同一民族だから統合したいだろう。

 でも、それはちょっと難しい。

 

「いや経済的に足を引っ張られる形になるからな。どこもとりたがらんだろ」

 

 と、ルナはにべもなく言った。

 

 まるで体育の授業で二人組をくめなかった人みたいで哀れだが、いまの状況的にはしょうがないだろう。独裁主義者の国家は利益をトップ連中が旨味成分を総取りしているせいか、国際的な競争力がないんだ。それこそ核による脅しでなんとかするぐらいしか方法がない。

 

 よって、南と北の経済的格差がひどいことになっている。

 

 経済的にもどん詰まり、脅迫行為も無意味になった北の国は、いわゆる詰みの状態に入った。それで、結局クーデターが起こったらしい。民衆による反乱を起こすには少々疲弊しすぎていたから、側近がトップを廃したということになるようだ。

 

 それだけだったら、独裁者の首がすげかわるだけだっただろうが、そうはならなかった。

 

 その後は、クーデターのトップは速やかに国連による統治を望んだとのこと。

 

 考えてみれば当然かもしれない。

 

 もはや核ミサイルにも意味がないし。

 なぜかすぐ近くでは核ミサイル以上の大爆発が起こるしで。

 あの国はもう限界だったんだろう。心が折れてたのかもな。

 

 これからアメリカと中国があの国の統治を巡ってにらみあうのかもしれないけれど、ひとまず争乱としては収束したとみてよいようだ。

 

 戦争にもならずに終わったのはよかったと思います。

 

 やっぱり平和が一番です(小学生並みの感想)。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 あの記者。

 

 イオを詰問した記者――名を木林と言うがべつに覚える必要はない。

 彼は都内にあるホテルの一室に通されていた。

 スイートルーム。

 一部屋だけでワンフロアはありそうなほどの広さを誇る。

 一泊するだけでうん十万はしそうな超高級な部屋だ。

 

 彼の隣に立つ初老の男は、しゃんと伸びた背筋をしており、物腰は優しくそれだけで優秀さをうかがわせる。優秀な執事といった感じだ。住んでいる世界が文字通り違うのだろう。

 

 場末の、しょうもない記事を書いている自分とは大違いだ。

 

「木林様。会長はまだ到着しておりません。少々こちらの部屋でお待ちください。その前に盗聴器の類がないか調べさせていただきます。またスマートフォンは会談が終わるまでは預からせています。よろしいですね」

 

「ええ、わかりました」

 

 目的の御仁はまだ到着していないらしい。

 上流階級様はこれだから。

 

 彼は鼻を鳴らす。

 

――だが。

 

 木林はニヤリと笑う。

 顔が醜く歪んだ。

 

 財界のトップ、日本のフィクサーと呼ばれている御仁からお声がかかったのだ。

 

 もちろん、それはイオに詰問をするという依頼であったのだが、その意図するところはわからない。目的は中途半端であったが完遂された。その報酬を渡されるという。

 

 大事なのは、コネと金。

 彼の中にあるのはそれだけである。

 

 否、彼の中にはあるのは、目立っているもの、有名人、芸能人、えらいとされているやつらを扱き下ろすことこそが正義であるという考えがあった。

 

 読者はそれこそ望んでいる。

 

 スポットライトを浴びているやつらを地獄の底にひきずりおろすことに快感を覚えるのが底辺のやつらだ。オレはそんなやつらの欲望をかなえてやってるんだ。

 

――あのガキも魔法が使えて調子に乗っているだけさ。

 

 だから、木林はべつだん質問内容に違和感を覚えず、むしろそれが正しい行為であると確信していたのである。属していた新聞社はクビになったが、フィクサーの覚えがめでたくなれば、これから仕事はいくらでも入る。

 

 もしも、相手がごねたら?

 そのときは脅してやるさ。

 

 普通はトカゲの尻尾切りみたいなやつをかませるはずなのに、黒幕の御仁は最初から顔と名前を明らかにしてきた。逆に怪しいと考えたがうだつのあがらない木林にとってはチャンスでもあった。

 

 しばらく待っていると、着物を着た老人が入室した。

 

 杖をつき、半ば執事に支えられるようにして部屋の中に入ってきた。

 

 彼こそが日本の黒幕。

 財界のトップを牛耳る黒田豪萬(くろだ・ごうまん)である。

 

 木林はバッタのようにジャンプして、すぐさま平伏した。

 文字通りの土下座であった。

 

「黒田先生。このたびはお日柄もよく……」

 

「よいよい。若者がそんなふうにへりくだるものでもない」

 

 声は明るく好々爺のようだ。

 

 黒田はソファに身を沈みこませる。

 緊張感で喉がひりつくのを感じながら、木林はそのまま床に平伏したままだった。

 

「で、どうだったかね。星宮イオは?」

 

「は、ただの小生意気なガキでした」

 

 木林は語る。

 

 イオがどれだけゴミのような存在か。どれだけ不正のカタマリか。

 なにしろ、あれだけ世界中から注目されている存在だ。

 木林にとっては不倶戴天の敵に相違なく、それを誅することこそが正義なのである。

 

 悪口(あっこう)は乗り、彼は口汚くののしった。

 それをじっと黒田は聞いていた。

 

 数分ほど経過しただろうか。

 

 まくしたてて息もたえだえな木林は、黒田が黙っていることに気づき、ピタリと動きをとめる。

 

(なんかまずったか)

 

 木林が見上げると、黒田は満面の笑みを浮かべた。

 木林はほっとする。

 

(正解だったか)

 

 イオに詰問をしろという依頼だった以上、イオのことが憎いのだろうと考えたのである。

 

 しかし――、それは違った。

 いや正確には憎悪もあるだろう。だが、木林のような底の浅い人間に推し量れるほど黒田の闇は浅くはない。

 

 黒田はどろどろのコールタールのような笑みを浮かべたまま、

 

「おまえごとき塵芥の存在が、超常の力を使える星宮イオをそのように悪し様にののしれるとは、甚だ愉快だ。彼女の意思ひとつでお前のクビなどちぎれ飛ぶのだぞ」

 

「あ、あの……ご不快でしたでしょうか」

 

「愉快だと申しておる」

 

「す、すみません」

 

 木林はすっかり脅えて、縮こまってしまった。

 

 足腰も弱く、老人である黒田の圧倒的な精神に、先ほど脅してやろうなどと考えていたことなど忘れて、ただただこの場から逃げ出したくなってしまったのである。

 

 なにもかも見通されているような感覚に、はいつくばっていると、黒田は興味を無くしたように札束を投げた。

 

 人生を棒にふった代償はわずか百万円ほどの現金だ。

 

「それを持って去れ」

 

 木林はポカンとした表情になった。

 

 次いで、湧いてくる怒り。

 

 こんなはした金で。

 オレはクビになったんだぞ。

 腹のあたりに力がこもる。

 木林はギラギラした目で黒田をにらんだ。

 

「なんだ不満か?」

 

「もうすこしばかり融通を……」

 

「ワシは報酬にはそれに見合うだけの労務が要求されると思うておる。欲しがりは身を亡ぼす。それでもよいというのなら、おまえが求めるだけの労務を提供しよう」

 

「労務ですか……」

 

「ああそうだ。話を聞けばおまえはもう元の生活には戻れんと思え」

 

 犯罪行為だろう。

 ここが日常と非日常の分水嶺だ。

 

 だが、上を見つめて地をはいつくばってきたという想いが強い木林は、ほどなく悪魔と手を結ぶことを決意した。

 

「わかりました。黒田先生」

 

「ふむ……少しは見どころがあるようだな。若者は思い切りが良い」

 

 そして、執事然とした男につかまりながら黒田は退室しようとする。

 

 と、その直前に木林のほうに振り向いた。

 

「もうひとつだけ聞きたいことがあった」

 

「なんでしょう」

 

「星宮イオは()()()()()()()()()

 

「……は?」

 

「幸せそうだったかと聞いている」

 

「そうですね。たぶん、そうだと思います」

 

「そうか。そうか」

 

 来たときと同じく、黒田は笑いながら去っていった。

 わけがわからない木林だったが、これから自らの人生に混迷の黒雲がたちこめていることを予感し、わずかに身を震わせた。




現実の日本を舞台にして、フィクサーって成り立たないんじゃねって思ったりもします(作品全否定)。現実の日本がしょぼいんだもん……。

ところで評価と感想お待ちしております。
欲しがりは身を亡ぼすけれども欲しいものは欲しいというスタイルなのでゆるして。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。