ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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水着購入。ついでに野次馬。

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 そう前置きをすると、人は文章を五倍真面目に読むらしい。

 本当かよと思うのだが、実際に経験してみるとそうだった。

 

 わたしが釘付けになっているのはデパートの水着コーナーだ。

 今日は学校が終わったあと寺田さんに連れてきてもらい、水着を購入することになっている。

 

 そこの立て看板に書かれていたのが、先ほどのおっぱいについての注釈だ。

 

 水着コーナーの一角によもやま話的に看板が置かれていて、そこにそんな文章が書かれていたというわけだ。おっぱいのサイズがどうとか、それにあわせた水着とはこうとか、そういうことがしごく真面目に書かれてある。べつにエロくもなければ不真面目な話でもない。

 

 だが――。

 

 おっぱいという言葉がついてあるだけで、科学的な考察も楽しく読めるのだから不思議だ。

 

 しかし、おっぱいについての話と書かれていて五倍真面目に読むのは、たぶん男の人のほうが圧倒的に多いだろうから、ターゲットが不明確ではあるな。

 

 女の人向けの水着コーナーで男の人が立ち止まるのはけっこう勇気がいる。

 

 というか、こんなところに大人の男性が立っていたら、めっちゃ不審者だ。

 しかも、ここは成長著しい女児向けの水着コーナーだからな。

 赤ランの横っちょについている防犯ベルを鳴らすぞ。

 それとも閃光幻惑呪文(ジゴフラッシュ)がいいですか。

 現に、おっぱいのあおり文をガン見しているのは、小学生女児のわたしだけ。

 後ろのほうで控えてくれている寺田さんは、生暖かくわたしを見守ってくれている。

 

 つまり、この文章は前世を男に持つわたしのような特殊な人間しか立ち止まらないのでは。

 そんなことを思う次第です。

 

――それにしても。

 

 なんで水着なんだろうな。

 わたしの水着姿を見てみんなそんなに楽しいのだろうか。

 スクール水着で十分なのではと思わなくもない。

 それはそれで特殊な性癖層に刺さるのだろうが、やはり変態性癖の類なのかもしれない。

 理呼子ちゃんやみのりさんはそうではないらしい。

 わたしには預かり知れない女子的な感性があって、スク水もそうだが、一部の男性受けする服装とは違って、おしゃれをしたいという感覚がある。

 

 例えばそうだな。

 麦わら帽子にワンピースとか、ロリコンには刺さる服装なんだろうけど、女の子受けはあんまりよくないみたいだ。好きな男の人を落としたいとか、そういう理由で着ることもあるんだろうけど、なんか違うよねって感じで。

 

 まあ、ルナはおしゃれなんてどうでもいいって思ってそうだし、理呼子ちゃんがギャル的な趣味に走ったらわたしはギャン泣きする自信がある。魂に刻まれた先天的な感性なんだろうな。

 

 女の子ってファンタジーな生物だし……。

 いや、いまわたしもそうなんだろうけど、いまだにわからんのよ。

 

 でも、女の子的にきゃっきゃうふふな話し合いをするのは嫌いじゃない。

 むしろ好き。大好き。もっとしたい。

 

 実は今日水着を買いに来たのは、夏休みに海にでも行こうという話になったからだ。

 今世ではじめて女の子と海。それだけで優勝案件である。

 

 ただ、ここでわたし自身生まれてから十年間友達らしい友達がいなかったこともあって、スクール水着くらいしか持ってなかったんだよな。当たり前だが、旧スクではなく新スク。

 

 ルナはプール実験のときから知っていたと思うけど、何も言わなかったのはおしゃれに興味がない科学少女だから。

 

 でも、普通の感性よりのみのりさんと理呼子ちゃんは、残念そうな声を出した。

 

 せっかくプライベートで海にいくんだから、もっとおしゃれしようと。

 女の子レベルとしては生粋の女の子たちにかなうはずもないし、なるほど一理あるなと思った。

 

 というわけで――、理呼子ちゃんとみのりさんも水着を買いにきている。彼女たちも去年と今年ではなにもかも異なるらしく……、今年も買わざるを得ないらしい。

 

 みのりさんはこれ以上ない膨らみなのだが去年から今年も育っているのか。すごすぎる。まさに生命の進化を感じる。理呼子ちゃんも小学五年生にしては育ってきているからな。そう考えると、ノーマルなスクール水着よりセパレートタイプのほうがいいのだろう。

 

 彼女たちの水着姿をいち早く見ることができる。

 そんな理由で――ちょっとワクワクしていたり。

 いや、そんなまさか。

 イオちゃんは変態ではないので、女の子的感性ですよ。たぶん。

 ちなみにわたしはストンって感じなので、べつにどーでもいいです。

 仮におっぱいに戦闘力があれば、わたしはせいぜい戦闘力5のゴミですね。

 

「イオちゃーん。水着試着してみたんだけど見てくれるかな」

 

 みのりさんが試着ルームから顔だけ出している。

 ふらふらと近づくわたし。

 まるでご主人様に呼ばれた犬のようだ。

 逆らえるはずもない。

 

「はい。みのりさん。はい」

 

「ほら、中に入って」

 

「はい」

 

 そして、みのりさんの水着姿を目に入れる。

 ああ、神よ!

 わたしは女神様が降臨しているのを見た。

 輝く白い肌に、こぼれんばかりのメロンというかスイカみたいなお胸様。

 あなたは誰ですか。これは誰何。

 自然とほほえみを浮かべてしまうのはなぜだろう。

 

「どうかな。似合ってる?」

 

「SUGOIDEKAI」

 

「イオちゃんそれ、水着の感想じゃないよ」

 

「とてもいいと思います。煽情的になりすぎずしっかりとおっぱいをささえており、みのりさんの魅力をひきだしている素晴らしい水着です」

 

「すごい早口。加速(ピオラ)とか使ったみたい」

 

「人は本当に素晴らしいものに接したとき自然に早口になるんですよ。なぜなら、語彙が追いつこうと必死になるからです。もしも、詩人がみのりさんのたわわを表現しようとしたら、言葉が足りないことに絶望して筆を折るでしょうね」

 

「なんか知らないけど、褒めてくれてありがとうね」

 

「いえいえ」

 

「触ってみる?」

 

 え?

 

 ええ?

 

 あ。

 

 やわらかー♥

 

 

 

 ☆

 

 

 

 理呼子は焦っていた。

 

 イオがみのりに誘われるままにフラフラと試着室に入り、そのあとは、目の中にハートマークをうかべている。

 

 みのりにテンプテーションでもかけられたのだろう。

 こうなってしまっては、自分が水着をきたところで、おざなりな対応をされてしまう。

 

 だが――、理呼子には秘策があった。

 

「イオちゃん。水着選んだ?」

 

「えっとまだですね。どれがいいのかよくわからなくて」

 

「じゃあ、私が選んだのを着てみてくれる?」

 

「えっと、いいですよ」

 

 イオは少し困惑気味だったが、問題なく着てくれるようだ。

 渾身の気合で選んだ一着を手渡した。

 イオはそのまま試着室になにげなく入っていこうとする。

 

「あ、イオちゃん。わたしもいっしょに入っていい?」

 

「え、あの……」

 

「そっちのほうが時短になるから。いろいろ着てみたいしね。体育のときも着替えているし別に恥ずかしくないよね?」

 

「えっと、はい。わかりました」

 

 理呼子に気おされる形で、イオが答える。

 

 押しに弱いイオである。

 

 理呼子は何着かの水着を手に、イオといっしょに試着室に入った。

 

――計画通り。

 

「あの……水着の試着ですが、下着はつけたままなんでしょうか」

 

 イオは不安そうな声で言った。

 

「下のほうはそうだよ。他の人も試着するしね。セパレートタイプだと上のほうは直でもしかたないと思うけどね。しっかり着ないとズレたりもするし」

 

「そうなんですねぇ」

 

 じっくりと渡された水着を見つめるイオ。

 いままで着たこともない下着のような水着に、神秘的な要素でも感じているのだろう。

 そんなイオをねっとりと見つめる理呼子。

 

「さぁ、着替えよっか」

 

「はい」

 

 イオは理呼子に背を向けて着替えだす。

 衣擦れの音が狭い試着室のなかで響く。

 イオは同級生といっしょに着替えるのが恥ずかしいのか、やや緊張した面持ちで着替えていた。

 学校の制服を脱ぎ、丁寧にたたむ。

 上の下着はやはりまだスポーツブラすら着けていない。

 

 試着室の光を浴びて、輝くような白い肌が理呼子の視覚に入る。

 

 理呼子はそのままイオを見ながら、自分も素早く着替えた。

 イオはあたふたしていて、まだ着替えることができない。

 

「イオちゃん」

 

「ひゃい!」

 

 驚いて飛び上がるイオ。

 後ろを向いていたから、急に話しかけられて驚いたのだろう。

 

「イオちゃん。着替え終わった?」

 

「いえ。それがですね。セパレートタイプの下着なんですが、上のほうはどうやってつければいいのかわからず困っています」

 

 下は海パンと同じなので、たいしたことはなかった。

 しかし、上はイオにとって未知の領域である。

 

 構造的には実のところ下着とほとんど変わりない。ヒモが肩にかかるようにして着るだけなのでてんでたいしたことはないといえた。言ってみれば、男もののタンクトップの下半分をばっさりカットしたものを着るような感じで、べつにそんなに難しいものではない。

 

 単に、女の子の下着っぽいものを自分が着るという状況に慌てふためいているだけである。

 理呼子は満面の笑みを浮かべた。

 

(慌てるイオちゃんかわいい)

 

「着せてあげようか?」

 

「あの、わたしひとりで着替えることもできないって思われたら恥ずか死んじゃいます」

 

「誰だって最初はそうだから大丈夫だよ」

 

 理呼子はイオの真正面から近づき、後ろにまわる。

 

「はい、ばんざいして」

 

「うう。ちょっと恥ずかしい言い方です」

 

 イオは手をあげた。そのまま、理呼子は水着を腕に通して着せてあげた。

 

 白銀の髪に透き通るような肌。全体的に白めの色合いなのでちょっと大人な黒っぽい水着を着せてみた。ただかわいらしさも忘れないように、胸の部分はフリル状になっている。

 

「イオちゃんかわいい!」

 

 理呼子は嬉しさを爆発させて言った。

 対象をかわいく着飾るところに喜びを覚えるのが女の子だった。

 言ってみれば、高度なお人形遊びである。

 

「う、ありがとうございます。理呼子ちゃんもかわいいですね。むしろそっちのほうがわたしは好きです……」

 

 理呼子が着ているのは、ワンピースタイプの落ち着いた水着だ。

 肩口と下のところがひらひらとしており、理呼子はスカート部分を両手で広げた。

 そして宮廷侍女のようにカーテシー。

 

 計画は最終段階に達した。

 

「ねえ、イオちゃん」ねっとりボイス。「ふたりで今着ている水着。とりかえっこしてみない」

 

「ほえ?」

 

「こっちのワンピースタイプのほうが好きなんだよね?」

 

「おへそが見えちゃうタイプよりはワンピースタイプのほうがいいかもしれません。ですが何も今着ている水着でなくても……、ワンピースタイプもたくさんあったような気が」

 

「この水着も気に入ったんだよね」

 

「水着を着ている理呼子ちゃんが好きというかなんというか」

 

 イオは照れていた。

 なにしろ、同級生と水着を交換する。

 ついさっきまで肌に密着していた水着を着ることになるのだ。

 ただでさえ同じ部屋で着替えているだけでもヤバいのに、このうえなく犯罪めいた気分になる。

 

「よく考えたら、この水着ね、イオちゃんのほうが似合うと思うんだ」

 

「そうでしょうか」

 

「そうだよ」

 

 なぜかボクシングでコーナーに獲物を追い詰めるように。

 理呼子はじわりじわりとイオに近づいていく。

 いつのまにやらイオは試着室の端のほうまで距離を詰められていた。

 

 そして、壁ドン!

 

「にゃ!?」

 

「着替えよ?」

 

「アッハイ」

 

 ふたりして、再び水着を脱ぐ。

 脱がなければ交換できないのだから当然だ。

 しかも今回は制服に着替えなおすのはめんどいから。半裸の状態で交換する必要があった。

 

 理呼子は控えめながらも少しはある胸を右手で隠しつつ、イオに水着を渡した。

 イオは真っ赤になりながらも同じく水着を渡す。

 

「ふんふーん♪」

 

 そして――。

 ほんのりと人肌でぬくめられた水着。

 

 先ほどまでイオに密着していた水着を着て、理呼子はご満悦だった。

 彼女もわりと変態性癖の持ち主である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 さっきは理呼子ちゃんに迫られて、理呼子ちゃんのあったかな感触のする水着を着て、すごくドキドキしてしまった。いや、これはあれだ。小学生らしいかわいい戯れだ。

 

 理呼子ちゃんに変な意識はなかったに違いない。

 

 勝手にイチャイチャ成分を感じて、ドキドキしているわたしのほうが変態に違いない。

 

 落ち着けわたし。まだ慌てるような時間じゃない。

 

「イオ。遅いぞ」

 

 ルナはいつのまにか水着姿になっていた。

 今回の装いは、青ベースの水玉模様で、その上からいつものドクタースタイルを貫いている。

 膨らみはなく、わたしと同じくつるぺた体型だ。

 

 父性なのか母性なのかわからんが、ルナを見ているとこれ以上なく落ち着く。

 さきほどの変な(たかぶ)りが急速に収まっていくのを感じた。

 

「ルナちゃんはもう決めたのですか。早いですね」

 

「こんな買い物程度に時間をかけるほうがもったいない。五分で決めて五分で買う」

 

 男らしいというか子どもっぽいというか。

 いや、ルナらしい即断即決っぷりである。

 

 女の子の買い物は、どちらかというとコミュニケーションがメインなんじゃないか。

 きゃっきゃうふふというか。

 よくわからない部分も多いけど、わたしだって十年分の経験値があるから、なんとなくはわかる。何を買うかとかそういう結論部分はわりとどうでもよくて、どういう過程で買うかが重要なんじゃないか。共感して共感されて……つまり、きゃっきゃうふふして。

 

「ルナちゃんの水着かわいらしいですね」

 

「そうか。イオの水着も悪くない」

 

 たまらなくなって、とりあえずルナを撫でた。

 

 ルナもやっぱり女の子なんだなと思う今日このごろです。

 父性がはかどる!

 

 

 

 ☆

 

 

 

 寺田は眼福だった。

 

 そろそろ忘れているかもしれないのでおさらいであるが、寺田はロリコンである。

 年は20代半ばのうらわかき才気あふれる女性であるが、少女が好きな変態である。

 イオが五歳のときからマネージャーをしており、イオの激務状態にあわせて彼女も激務であった。しかし、一度もくじけず、むしろ仕事をすればするほど精神的に充実するようでもあった。

 

 なにしろ、イオは寺田の性癖からして、ドストライクであったから。

 

 そして、本日の天使たちの戯れである。

 魔法をバラすまで、孤独であったイオが友達に囲まれて笑っている。

 それだけで、寺田はうれしい気持ちになる。

 

 イオはこの年になるまで友達らしい友達がいなかった。

 五歳のころから大人っぽくふるまい。わがままらしいわがままを言ったこともない。

 

 巨大すぎる力を持つイオが、世界に遠慮をしてきた結果だろう。

 いまの奔放すぎるふるまいも、その反動だろうと寺田は考えている。

 

 それすらもかわいい。

 というのが、寺田のイオ評である。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 天使たちの時間は突如終わりを告げた。

 

 イオたち魔法クラブのメンバーは魔法の有用性から当然のようにボディガードをつけられているのだが、それはイオ達の行動をがちがちに制御するようなものではない。

 

 イオ自身が世界最強であることは、普通程度の知能を持っていれば誰にでもわかることであるし、イオの目の前で誘拐などの行動をとりうるわけがないというのはわかりきっているからだ。

 

 むしろ、ボディガードが張り切らなければならないのは、イオと他のメンバーが離れたときであり、そのときこそ手厚く守護される。

 

 いまはそうではなかった。

 

 だから――イオたちはいつのまにか大勢の野次馬的連中に囲まれていた。

 

 男も女もない。若者も老人もない。

 つまり、人のごった煮状態。

 

 イオの姿を一目見ようと集まった人数は、狭いデパート内のさらに狭い水着コーナーを圧迫するほどであった。

 

 ボブをはじめとしたボディガードは交通整理をしようと努めたが、津波のように押し寄せる人波には何の効も奏しなかった。

 

 寺田はイオの姿を探した。

 

 そして――いた。

 

 イオは水着姿で飛翔していた。

 

 前列にいた者たちから一斉にスマホのカメラが向けられる。

 

「イオちゃんのみじゅぎ姿……」「イオちゃんこっち向いてー」「ベホマを……ベホマをわが髪にかけて……」「うっせ、禿」「肩こりが治らんのよ」「なんだなんだすげえ混雑しているな」「星宮イオが来てるんだってよ」「え、マジで」「聖女イオ様ぁ。足ぺろぉ」「物売るってレベルじゃねーぞ!」

 

 大混雑。

 

 イオのいまの状態を考えれば、せめてモシャスを使った変装程度はすべきだったかもしれない。

 

 ただ、いままでこういった民間の場所に訪れたことはなかったのだ。予想はできても実際にそうなるかは未知数だった。もし人が集まりだしたとしても、水着を買う程度、そんなに時間がかかるはずもない。人が集まる前に撤収は可能だろうと考えていたのだ。

 

 それに――。

 

 普通の暮らしをさせたいという星宮マリアの意向を汲んだ結果、ありのままの自然体で励むことになったのである。

 

 はっきり言えば、それはもはや不可能なことであった。

 

「みなさま。落ち着いてください」

 

 イオが落ち着かせようとする。

 しかし、天使のように飛びまわると逆効果だ。

 

 配信動画では見たことのある魔法だが、生で見たことは無い者がほとんどで、自分の目で直接魔法を見て、人々は興奮している。

 

「すげえマジで飛んでる」「もっと魔法使って~」「病気の治療をお願いいたします……」「拙者、モシャスでイオちゃんにTSしたいのだが」「奇遇だなオレもだよ」「あとでモシャスックスするか」「そして同時に魔法が切れると」「おいやめろ」

 

 混雑が極限に達した。

 このままでは転んだ拍子に人に踏まれ、骨折などをする人が出てくるかもしれない。

 

 イオは五歳くらいの女の子が人に押されてよろけるのを見た。

 

 踏まれる。

 

 そう思った瞬間。

 

飛翔呪文(トベルーラ)!」

 

 イオは魔法で女の子を浮かせる。

 女の子は驚きに一瞬目を見開いていたが、すぐに楽しそうにキャッキャと笑った。

 イオは惨事が起こらなかったことにほっとする。

 だが、このままではいずれ同じようなことが起こりかねない。

 

「みなさん。動かないでください。密です。危険です!」

 

 しかし、ひとつの生き物のようにうごめく人の群れに対して、ただの言葉はあまりにも無力だ。

 

 人に向けて魔法を撃ってはいけないということは、さすがにかしこさ3であっても学び終えたイオであるが、この時ばかりは魔法を使わざるをえないと判断した。

 

捕獲呪文(クモノ)!」

 

 イオが放ったのは足元にとりもちがかかったかのように動けなくなる呪文である。

 おそらく語源は蜘蛛の糸にからまった獲物の様子から。

 その名のとおり、人々は足をあげることすらできず、手だけをじたばたと動かしている。

 

「なんだこれ」「うお。うごけねえ」「イオちゃんの魔法すげー」「みんな落ち着け」「いや拙者は落ちついてござるが」「イオちゃんテロリストも楽勝で殲滅できそう」

 

 さすがに動きができなくなれば、いずれ落ち着いてくる。

 そのあとは順番に魔法を解除して帰ってもらった。

 

 その際に、握手やいっしょに撮影や、魔法による治療を求められたため、結局帰宅できたのは二時間も経過したあとになってだった。

 

 ちなみにこの日のデパートの売り上げは3倍にも膨れあがったらしい。

五倍真面目に読んでいただけましたでしょうか

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  • 胸より足のほうが……
  • 百合描写のほうが……
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