ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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いとお菓子。ついでにラナルータ。

 ぶくぶくぶくぶくぶく。

 我、深く静かに潜航す。

 

「敵潜水艦発見!」

 

「にゃ、ダメにゃあ、やめてください。みのりさん!」

 

 せっかく潜航していたのに、みのりさんに脇のわたりに手を差し入れられ、そのままプラーンと浮かせられてしまった。さっきのバイキルトがまだ効いているのかもしれない。

 

 すっぽんぽんの状態をみんなに見られるのは思いのほか恥ずかしい。

 

 わたし、こころはまだまだ男の子成分が残ってると思っていたけれど、女の子的な羞恥心が芽生えていたのだろうか。それともこれって、わたしに男心が残っているからこその羞恥心なのだろうか。

 

 ただ、わたしがトラマナで潜っていたのは、べつにわたし自身の裸が見られるのが恥ずかしいからではなくて――。いやそれもないとはいわないけど。

 

 みんなの見えてはいけないところがいろいろと見えちゃってるからだ。

 

 脳内削除しなくちゃ。削除。削除。削除。

 

「イオちゃん恥ずかしいの?」

 

 理呼子ちゃんがスッとこちらに近づいてきている。

 黒髪の美少女。

 湯気で少し上気した頬。

 ピンク色の唇。

 うるんだ瞳。

 そして、ちょっとだけ膨らみかけのお胸。

 

 ロリコンじゃないけど、なんだか背徳感がある。

 

「は、恥ずかしいです」

 

「もーう。女の子どうしだよ。べつに恥ずかしくないでしょ」

 

「女の子はもっと慎み深くあるべきだと思いましゅ」

 

「ふぅん。そういうの、今の時代じゃジェンダーバイアスっていうんだよ」

 

 そんなふうに近寄ってきたら……。あたっちゃう。

 いろいろあたっちゃうから。

 わたしがあたふたしていると、理呼子ちゃんの顔がますますにこやかになっていく。

 この娘、イオ虐を楽しんでいる……!?

 

「イオちゃん。みてみてー。お姉さんのおっぱい浮かんでるよー」

 

 今度はみのりさんだ。

 みのりさんは手を広げているのに、ふたつの膨らみはしっかりと水上に浮かんでいた。

 浮遊感与えちゃったかな。

 浮島(ラピュタ)がこんなところにもあったんだ。

 みのりさんって本当に中学生なんだろうか。

 たった十四年でここまで育て上げるなんて……。神の手。

 そう、みのりさんは神の手を持っている。

 

「みのりお姉さんって、どうやってそこまで大きく育て上げたんですか?」

 

「勝手に育っちゃった感じかなぁ」

 

 んむぅ。

 わたしも自分の胸を触ってみる。

 言うまでもないが、神の手を持っていないわたしの胸は、成長速度が遅い。

 男だったときとそれほど変わらず、胸だけで言えば、前世とそんなに変わらない。

 

「心配しないでもそのうち育つよ」

 

「そういうわけではないのですが……」

 

「そういえばイオちゃんの誕生日っていつだったかな?」

 

 え?

 これはまさか。

 まさかまさか。

 人生で初めて誕生日を聞かれましたよ。

 これはあれですね。

 お誕生日をお祝いしあうという伝説のイベントがついにわたしにも到来する。

 その絶好のチャンス。

 

「あの……わたしの誕生日はですね――」

 

「12月24日だな。覚えやすいぞ」

 

 ルナだった。絶妙のタイミングで差しこまれてしまい、わたしのセリフは宙に浮く。

 

 そりゃ、わたしの誕生日はウィキにも載ってるくらいだし、なんなら政府公認ページにも載っている。調べようと思えば調べられるけど、そうじゃなくて、仲良し度の確認なんだよお!

 

「ルナちゃんひどいです」

 

「なにがだ?」

 

「わたしの誕生日を教えて、お返しにわたしが皆さんの誕生日を知るいい機会だったのに」

 

 涙がでちゃう。だって女の子だもん。

 

「ふむそうか。すまなかったな」

 

 ルナは犬かきでこっちに近づいてきた。

 金髪幼女にヨシヨシされる。ちくしょう。これ以上言いつのれねえ。

 真っ白いほっぺたがピンク色に染まっていて、くりくりとした瞳は天使そのもの。

 粗暴な口調も、かわいさ満点だ。

 

「イオはみんなの誕生日を祝いたいんだな」

 

「そうです」

 

「お姉さんが気を利かせたつもりだったんだよー」

 

「む。みのり」

 

 みのりさんに捕獲されるルナ。

 ルナはちっちゃいから、中学生でもカンタンにお持ち帰りできるサイズだ。

 ルナは多少いやがってるようだが、自分の発言を悪いと思ったのかされるがままだ。

 そのまま、みのりさんのおっぱいを枕にリラックスしている。

 少しだけうらやましい。

 

「じゃあ、あらためて聞くね。イオちゃんの誕生日はいつかな?」

 

「12月24日です。みのりお姉さんはいつですか?」

 

「9月27日だね」

 

「ルナちゃんは?」

 

「3月3日だぞ」

 

「理呼子ちゃんは?」

 

「えーっと……」

 

「ん?」

 

 理呼子ちゃんだけ言い淀んでるな。

 なにか言いにくい理由でもあるんだろうか。

 誰かと被っていたとか?

 いやしかし、被っていたからなんだというのか。あえて言えば、小学生だと休みのときにお祝いするのはちょっとだけ難しいかもしれないってくらいか?

 

 理呼子ちゃんはやがて観念したかのように、ふぅっとため息をついた。

 

「……明日だったりして」

 

「えええっ!? なんで教えてくれなかったんですか」

 

「もしかして、イオちゃんってお誕生日をお祝いしない派なのかなって思ってたの」

 

「どうしてそうなるんです」

 

「だって、いままで一度もそういうことしてないし」

 

「まあ、そうですけど」

 

 そうだけど、それはわたしがぼっちだと勝手に思いこんでいたからだ。

 理呼子ちゃんと今のような関係だったら、絶対にお祝いしまくってる。

 

「ふぅん。理呼子ちゃんもようやく11歳か。おめでとー」

 

「みのりさんに言われると、なんだか煽られてるみたい」

 

「そんなことないよ。同じ魔法クラブ(イオちゃんを囲う会)の仲間じゃない」

 

 あれ、なんか変な副音声が聞こえたんですけど。

 

「そうですね。同じ魔法クラブ(イオちゃんを愛でる会)の仲間ですもんね」

 

「イオちゃんは私のおっぱいが好きだけどね」

 

「イオちゃんに最初に目をつけたのは私ですけどね」

 

 うふふふふふと笑いあうふたりが怖い。

 桃色空間なはずなのに。

 

「理呼子が誕生日なら、何かプレゼントしないとな」

 

 どどめ色をした空気を切り裂いたのはある意味空気の読めないルナだ。

 確かにそうだよ。

 理呼子ちゃんの誕生日が明日なら、何かプレゼントを用意しなきゃ。

 

 わたしは理呼子ちゃんに救われている。

 いままでも何度も、優しい言葉をかけてもらっている。

 だから感謝の気持ちを形にしたいんだ!

 

「ん。どうしたのイオちゃん」

 

「おい、イオ……」

 

 ギュ。

 

 底のほうに落ちていた丸っこい小さな石を何気なく握り締める。

 

 大好き。そんな無意識の言葉が呪文になって飛び出した。

 

変化呪文(モシャス)……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()になって。

 

 もちろん、イメージ通りにブリリアントカットされていて、キラキラと光り輝いている。

 

「おっきいね」と、みのりさんはなんでもないように言った。

 

「時価百億円くらいだろうな」と、ルナも同じく淡泊だ。

 

「イオちゃん……」

 

「あの、これ……わたしからのお誕生日プレゼントです! 受け取ってください」

 

 プロポーズするような気持ちで、頭をさげるわたし。

 ラグビーボールみたいなダイヤモンドはわりと重い。

 ついでに言えば、たちあがっているので、これがわたしの全裸全開だ。

 

 さあ、答えはいかに――。

 

「受け取れないよ」

 

 ガーン。

 

 悲報。イオちゃん受け取り拒否される。

 

「イオちゃん。これ理呼子ちゃんが持って帰ったらご家族さんが卒倒するとおもうよ」

 

 みのりさんがたしなめるように言う。

 まあ確かにそうかもしれない。でも――、わたしの感謝の気持ちは本当だ。

 このダイヤのようにキラキラと輝いていると信じたい。

 だって、理呼子ちゃんがいなければ今のわたしはいなかったと思えるから。

 

――生まれてきてくれてありがとうって。

 

「うれしいはうれしいんだよ。でもこのサイズだとちょっと困っちゃうかなぁ」

 

「すみません。気持ちが膨らみすぎたみたいです」

 

 しょんぼり。

 

 ついでに、モシャスでダイヤは石に再び戻す。

 

 わたしって先走りすぎなのかなぁ。いつも最善を尽くしているつもりなのに、なぜか決まって最悪な結果が生じてしまう。そんなポンコツ属性を持っている人、時々いるよね。

 

 そう、わたしです。

 

 そんなふうに落ち込んでいると、

 

「イオ、私の誕生日はオリハルコンを出してくれ。ブルーメタルでもいいぞ」

 

 ルナがしたり顔で言った。

 この娘はこの娘で、たくましすぎるだろ。

 ちなみにオリハルコンもブルーメタルもドラクエ世界のファンタジー金属だ。どういう性質かはわからないが、魔王でも切り裂ける最高クラスの材質なのはまちがいない。

 これはこれで生み出せば世界が変わるだろう。とはいえ、わたしはそれらの金属の分子構造を知ってるわけじゃないし、たぶん出せないと思うけどね。

 

 しかし――、どうしよう。

 誕生日プレゼント。

 

 言うまでもないが、後日渡すなんて無粋な真似はしたくない。

 前世と今世、あわせて初めての友達に誕生日プレゼントを渡すチャンスなんだ。

 絶対に逃したくない。

 

 あ、ちなみに父と母と妹は別カウントね。さすがにそっちはやってるわ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 夜。わたしはこっそりとみんなが寝ているテントを抜け出した。

 みんなよく寝入っている。昼間、あれだけ運動したからだろう。

 コイバナとかするのかなと思っていたけれど、そんなこともなかったな。

 なお、みんなパジャマ姿でかわいらしい。

 

 わたしも眠いんだけど今は我慢だ。

 

「ルーラ!」

 

 転移呪文で向かった先はもちろん自宅。

 向かった理由は理呼子ちゃんへのプレゼントを考えるためだ。

 やはり――兼ね合いというか、程度問題というか。

 いろいろと考える必要がある。

 

 リビングへの扉を開けると、妹のユアがゲームをしていた。

 ドラクエⅢをいまさらながらプレイしている。

 ソファにちょこんと座っている姿がかわいらしい。

 最近、ユアとはまともに話してないような気がする。

 ユアは子役で忙しそうだし、わたしは魔法で忙しいからな。

 

「あ、お姉ちゃん。おかえり。早かったね?」

 

「少し用事で戻ってきました。お母さまは?」

 

「ママはまだ仕事だよ。あの、お姉ちゃん。いっしょにゲームしよ?」

 

「もう夜も遅いですよ。ゲームもほどほどにしなさい」

 

「夏休みだもーん」

 

「目の下にクマができてるじゃないですか」

 

「できてないもん」

 

 七歳児でクマができてるって相当じゃないか。

 

「魔法で眠らせますよ」

 

 右の手をくるくると蝶のように舞わせる。

 まあ、昏睡させるのは最終手段だ。

 ユアも相当疲れているのだろう。

 ユアがかわらいらしいほどに、怒りにも似た感情が湧く。

 はやく寝なさいって叱りたくなる。

 

「ねえ。お姉ちゃん」

 

「なんです?」

 

「わたしに魔法はいつ教えてくれるの?」

 

「それはですね……」

 

「わたしも魔法使えるようになるのかなぁ」

 

「なりますよ。レベルが上がれば」

 

「どうやってレベルあげればいいのかわかんないもん」

 

「子役のお仕事をがんばればいいんですよ」

 

「だからがんばってるよ、ユア」

 

「わかっていますよ。でも勇者にも休養は必要でしょう?」

 

 いまの状況では、わたし以外に魔法は使えない。

 ユアは魔法を使いたがっているようだった。

 わたしの言葉は半ば嘘になるかもしれない。

 

「それより――」

 

 わたしはユアとの話を打ち切るために、さらに言葉を重ねた。

 詐言めいた言葉を吐き続けるのがつらかったからだ。

 それに、いまは理呼子ちゃんのことが心の中心にあった。

 

「寺田さんはどこにいます?」

 

「自室にいると思うけど」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

「あ――、お姉ちゃん」

 

 ユアが少し寂しそうにしていたけれど、わたしは一瞥して部屋を出た。

 

 魔法については、わたし自身もレベルアップしたいんだ。

 

 ふがいないお姉ちゃんでごめんよう。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「寺田さん。いまいいですか」

 

 コンコンと寺田さんのお部屋をノックする。

 すぐにお部屋の中から寺田さんは出てきた。

 

「はい。どうしました。お嬢様」

 

「あの、わたしの友達が明日お誕生日なんです。だからお誕生日ケーキを作りたいんですが」

 

「なるほどですね。少々お待ちください」

 

 さすができる女史。寺田さんは違うぜ。

 あっという間にわたしの意図を理解してエプロン姿で出てきた。

 

 寺田さんの部屋からリビングに戻ると、ユアの姿は既になかった。

 とりあえず寝たのかな。

 

 もう夜の11時近くだし、子どもはおねむの時間だ。

 わたしはまだ大丈夫ですよ。

 

覚醒呪文(ザメハ)

 

 眠気覚ましの呪文を唱え、すっきりさせる。

 

「お嬢様も眠たいのでしたら、少しソファで横になられては?」

 

「大丈夫です。時間がないので手短にお願いいたします」

 

「どのようなケーキをイメージしているのでしょうか」

 

「そうですね。ズバリ言うとお菓子の家です」

 

「ヘンゼルとグレーテルのようなですか?」

 

「そうです。そんな感じです」

 

「お嬢様のご学友でありましたら、きっと喜ぶと思いますよ」

 

 ヨシっ。完璧な寺田さんのお墨付きがもらえたんだ。

 これならいけるな。

 

「材料とかございますでしょうか」

 

「お嬢さまがたにおいしいものを食べていただくため、備蓄は万全ですよ」

 

 さすが寺田さんである。

 うちの胃袋は寺田さんが握っているからな。

 

 取り出したるは、ウエハースと板チョコ。その他もろもろトッピング。

 

「こちらで、壁と屋根を作るのはどうでしょうか」

 

「うーん。それだとボリュームがスカスカじゃないですか」

 

「中にもお詰めすれば……」

 

「例えば、普通のスポンジケーキのような感じでガワをそういうふうに家風にするのは?」

 

「生地が一晩くらい寝かせないとダメなので、お時間が足りないと思います。市販の生地を朝一で買ってくるという方法もございますが」

 

「明日の朝にサプライズプレゼントしたいのです」

 

「しかし――お時間が」

 

 うーん。さすがの寺田さんもどうしようもないようだ。

 生地を作るには寝かせるという流れが必要。

 

 一晩寝かせる――。

 

 あ。

 

昼夜逆転呪文(ラナルータ)があります」

 

「その呪文は、世界ごと昼夜逆転してしまう呪文ではなかったですか?」

 

 寺田さんは世界への影響を危惧しているようだ。

 

 確かに昼夜逆転ということになれば、地球の自転がものすごいことになって、世界中が大混乱に見舞われるだろう。

 

 でも、たかがといったらなんだがMP12程度の消費で、そんな大規模な魔法ができるだろうか。メラ六発分だぞ。答えは否。

 

 わたしの魔法的感覚から導かれた回答だと、

 

――対象をピンポイントで時空間転移させる。

 

 ということになる。

 

 これはこれですごいことだと思うが、要するに一時的に対象を他の空間に隔離し、主観時間ゼロで客観時間が経過するみたいな感じだと思うんだよ。

 

 つまり他者からすれば、昼にラナルータを唱えた勇者の姿はかき消えたように見えて、夜に急に出現するという感じだ。

 

「それだとラナルータをかけても、朝方までケーキの生地がかき消えるだけですよね?」

 

「ええ、ですから逆転の発想です。生地にマジックバリアをかけて、ラナルータの影響を受けないようにします。それから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです」

 

 パッパッとやればバレないんじゃないかな。

 

「お嬢様。かわいらしい考えですけどおやめください」

 

「え、ダメなんですか?」

 

「ダメです。例えば、瞬間的に昼夜を切り替えてラナルータがバレなかったとしても、地球の公転作用的には一日分のズレが生じることになりますよね。お嬢様の力が宇宙まで及ばなかった場合ですが」

 

「太陽系くらいまでなら大丈夫そうですけど」

 

「宇宙の理を動かしてまでケーキの生地を作りたいのですね……」

 

 なんとも言えない表情をされてしまった。

 そっか。ダメなのか……。

 

「えっと、やめときます」

 

「それがよろしいかと」

 

 うーん。じゃあどうしたらいいんだろうな。

 

「中におつめするお菓子を考えたらいいですよ。大事なのは気持ちです。足りないなと思ったら次回に活かせばいいんです。お嬢様の気持ちはきっと伝わりますよ」

 

「ありがとうございます。寺田さん」

 

 そんなわけで、寺田さんはテキパキと作業をしていく。

 まるで魔法のようなスピードでお菓子の家は組み立てられていったのだった。

 わたしも、生クリームで雪っぽくしたり、家をデコるのをがんばりました。

 九割くらいは作ってもらっちゃったけど、大事なのは気持ちだよね。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 二日目の朝。

 理呼子の誕生日当日。

 

 その日、理呼子は疲れていたのか。

 いつもより深い眠りに落ちていた。

 

「理呼子ちゃん」

 

「んぅ……」

 

「起きてください。理呼子ちゃん」

 

 理呼子がうっすらと目を開けるとイオが先に起きていた。

 

「おはよ。イオちゃん」

 

「おはようございます。理呼子ちゃん。11歳のお誕生日おめでとうございます」

 

「ん。ありがとう」

 

「あの、お誕生日プレゼントを用意したんです」

 

「え?」

 

「こちらに来てください」

 

 イオの声にみんな起きたのか、ねぼけ眼で外にでる。

 

 そこにはお菓子の家が建っていた。

 

「うわすごい!」

 

 誰が口にした言葉だったか。

 

 既に何回か行っている変化呪文(モシャス)による対象拡大である。

 

 砂浜に建てられたお菓子の家は、破邪呪文(マホカトール)の円陣に覆われていて、ウイルスや虫を寄せつけないようにしている。

 

「わたしのためにつくってくれたの?」

 

「はい」

 

 感極まって、理呼子はイオに抱き着いた。

 お菓子が大きいのがうれしかったのではなく、なによりイオの気持ちがうれしかったからだ。

 イオらしい子どもっぽい発想で、そのまんまお菓子の家を作り出すという発想もおもしろかったけれど。誰も迷惑していないのなら魔法は楽しい。

 

 ラナルータを回避した寺田のファインプレーである。

 

「昨日、長いトイレだなと思っていたらコレを作りに帰っていたのか」

 

 ルナが腕を組み、お菓子の家を見上げた。

 本当の家のような大きさがある。

 

「これ全部たべられるの?」とみのり。

 

 女の子らしく甘いものは嫌いではない。

 むしろ朝っぱらから甘いものを食べてもいいぐらいには好きだ。

 

「もちろんです。理呼子ちゃんがよろしければ、みなさんで食べましょう」

 

「うん。いっしょに食べよ」

 

 そういうわけで、朝からケーキバイキングにあいなったのだった。

 はしゃぐ乙女たちを止めるものはいない。いつだって、スイーツは別腹なのだ。

 

「中も入れるのか。ツーバイフォー建築だな」

 

 ルナがきょろきょろしている。

 

「むしろ壁とかを食べちゃったら崩壊しちゃいますよ」

 

「イオちゃん。はい。あーん」

 

「みのりさ……んぐ」

 

 クッションみたいなデカさになったマシュマロだった。

 溶かしたチョコレートで全体的に覆われており、ココナッツファインとカラフルチョコが振りかけられている。

 

「べとべとになっちゃいます」

 

 イオの鼻とほっぺたがチョコでべとべとになる。

 

「お姉さんが綺麗にしてあげるね」

 

 言うと、みのりはペロンっとイオのほっぺたを一舐めした。

 

「にゃ、にゃにをするんです」

 

「みのりさん。わたしのイオちゃんにひどいことしないでください」

 

 理呼子キレた。

 自分の誕生日なのに、ちゃっかり楽しんでいるみのりに嫉妬の火を燃やした。

 このお菓子の家は私へのプレゼントなのだ。

 イオも含めて――。

 

「だってしょうがないよね。顔を拭くものないし」

 

 みのりは悪びれない。

 イオは恥ずかしさのあまり固まっている。

 けれどうれしいのか、顔はにやけきっていて美少女が台無しだった。

 

「私もイオちゃんを綺麗にします!」

 

 理呼子はイオのほっぺたに向かって突進した。

 ほとんどトビウオのような感じに飛びついている。

 ぺろっと舐めるのではなく、これはキスに等しい。

 

「にゃあ。理呼子ちゃんも。なにするんです」

 

「イオちゃんが悪いんだよ。ガードが低すぎるから」

 

「お姉さんとしては、ガードゆるゆるのイオちゃんのほうが好きだなぁ」

 

 みのりと理呼子から両の頬にちゅっちゅ攻撃を受けて、イオは果てしなく溶けていく。

 

 ルナは黙々とお菓子の家をひとり食べ続けた。

 

「甘いな……」

 

 実際、そうなのである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、いつのまにか最終日の夜である。

 

 あれからも洞窟の探検したり、集落跡地をまわったり、みのりさんにはお化けが出るって脅されたり、灯台にいったり、また露天風呂にいったり。ダイオウイカを本当に捕まえてみたり、クッソまずかったり、でも、ぜんぶぜんぶ――本当に楽しかった。

 

 楽しすぎて、胸がいっぱいになるほど切ない感じ。わかりますかね?

 これが郷愁というものなのかもしれない。

 

 明日の朝は、この島を元の場所に返して、また日常が始まる。

 わたしの日常なんて発電所を回したり原発を除染したりと、わりと非日常的だけどな。

 

 星を見上げている。

 空気が澄んでいるのか、空が高い。

 星がたくさん瞬いている。

 宇宙の先には何があるんだろう。

 冒険心がうずく。

 

 砂浜には波の音。

 そこに人影が被さった。

 

「イオちゃん。隣座ってもいい?」

 

 理呼子ちゃんだった。

 

「いいですよ」

 

 そのままふたりして波を見つめる。

 暗い夜の海。

 ほとんど何も見えない。ただ波の音だけが聞こえる。

 

「あの、お誕生日プレゼントありがとう。本当にうれしかったんだよ」

 

「喜んでいただけたなら幸いです」

 

「あのね……それでね」

 

 理呼子ちゃんは顔を伏せた。夜闇のせいで表情があまり見えない。

 

 なんだろう。

 

 一瞬、理呼子ちゃんの目の奥に星のような輝きが宿ったように見えた。

 

「私は、イオちゃんのことが好き」

 

「わたしも好きですよ?」

 

「ううん。そうじゃないよ」

 

 よくわからない。

 手の先に感覚があって見つめると、理呼子ちゃんの指先がいつのまにか触れていた。

 吸いつくような感覚にドキドキしてくる。

 

「みのりさんはピアノが弾けなくなってたんだよね」

 

「そうですね。交通事故に逢われたらしいです」

 

「それをイオちゃんが治してくれた」

 

「そうです」

 

「だから感謝してるんだと思う。年下の女の子がこんなにかわいらしくて、しかも自分を助けてくれて、いろいろとかまってあげたいって気持ちがあるんじゃないかな」

 

「んぅ……。そうかもしれません」

 

 みのりさんはよく自分のことをお姉さんって言うからな。

 ひとりっこらしいし、妹が欲しかったとかかも。

 妹は最強の存在だからな。実際にできてから実感したことだけど。

 めちゃくちゃかわいらしくてかまい倒したくなる。

 

「ルナちゃんもイオちゃんのことが好きだけど、たぶん友達として好きなんだと思うよ。ルナちゃんは日本に来る前は仕事してたんだって。だから友達らしい友達もいなかったんだよ。初めての友達がイオちゃんだったの」

 

「そうなんですね。確かにそんなことを言ってたような」

 

 理呼子ちゃんはいったい何が言いたいんだろう。

 かしこさが足りないせいか、よくわからない。

 

「私は、イオちゃんのことが好き」

 

 先ほどと寸分たがわぬ言葉だったけれど、心臓がドキンとひと跳ねした。

 

「それって――」

 

 刹那。

 

 唇に淡い感触が重ねあわされる。

 

 これって。これって!?

 言葉の意味を考える。

 行為の意味を考える。

 けれど、わたしの経験値は圧倒的に足りず、何かを言おうとしても言葉は空転するばかり。

 理呼子ちゃんはそんなわたしの混乱も見透かして天使のように赦してくれた。

 

「今はこたえなくてもいいよ。でも知っていてほしかったの」

 

「……」

 

「私は、イオちゃんのことが大好きだから」

 

 その言葉は魔法よりも魔法だった。

 

 使ったわけでもないのに、ラナルータが発動したかのよう。

 気づくと、わたしは朝の世界にいたのである。




今回は百合百合してましたが、
次回からは若干のシリアスモードになるかも?
これが本当のゆりもどし(HHEM村)。
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