ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
イオちゃんズランドから帰還したわたしは絶賛ニートになっていた。
お部屋の中で引きこもり。
毛布かぶってイオつむりになって、Vチューバーの動画を見てる。
あはは、わたしのほうが投げ銭勝ってるーとか思いながら現実逃避している。
夏休みの小学生なんてニートと大差ないよ。
ついでに言えば、大学にほとんど行かない大学生とも相違ない。
理由は、理呼子ちゃんとのアレだ。
アレって、要するに恋愛的な意味で好きってことだよな。
夏目漱石で言うところの『今夜は月が綺麗ですね』。
あいらぶゆーってやつだよな?
うあああああああああああああああああああ。
どうしよう。
こんなときの対応は?
女の子に告白されたときにどんなふうにふるまえばいい?
わたしよくわかんない。
わたしよくわかんない。
わたしよくわかんない。
わかるわけがない。
前世と今世をあわせてもこんな経験なんて初めてだ。
理呼子ちゃんの告白を受けたあと、わたしはアストロンを喰らったみたいにその場で固まってしまい、まともな会話すらできずに、テントの中にさえ帰れなかった。気づけば砂浜で朝を迎えていたんだ。
理呼子ちゃんは少し寂しそうな顔をしていたけれど――。
まともに顔を見ることすらできなかった。
わたしは逃げるように島を脱出したんだ。
唇を両の指先で押さえる。
あのときの感触を思い出す。
柔らかかった。
おっぱいとも違うあの感触。
自分のことを好きだと言ってくれることはうれしい。
理呼子ちゃんのことが嫌いなわけではない。
なのに、こんなに困惑しているのは――。
好きという状態が押しこまれたゴムボールのように感じるからだ。
ギュっと縮める。
そうしたら、反動でいつかゴムボールは元に戻る。
わたしなんて塵芥のように扱われるんじゃないか。
いまだけ、なんらかのボーナスタイムみたいな奇跡が起こってるだけで、あとはずっと下降していくだけじゃないか。
このときが最高峰であるならば、もはやここでおしまいなんじゃないか。
かわいい女の子と友達になって、きゃっきゃうふふしているのとは徹底的に違う。
だから。つまり。わたしは。
わたしは――。
怖かった。
夏休みが終わって理呼子ちゃんにもう一度会って、決定的な変化が起こるのが怖かったんだ。
わたしのつたない勘だと、おそらく友達のままでと願えば、理呼子ちゃんはそうしてくれると思う。小学生の女の子というなにもかもあやふやで砂糖菓子のように甘い年頃だ。
思春期の女の子特有の魔法の時間だと考えれば、曖昧なまま、なんとなく完結しないまま、今の関係を続けていくことも可能だろう。
答えを出さないまま。解答欄を空白のまま。物語は完結しない。
ただひたすらにあまったるい日常が続いていく。
それはそれで。
悪くない。
たとえ最善でなくとも。
たとえ後ろ向きであっても。
最悪ではないのだから。
「お姉ちゃん。いるー?」
ユアのノックする音が聞こえた。
妹は天使だが、わたしのこころには余裕がない。
ドアを開けるのも億劫なので、そのままの状態で答えることにする。
「なんですか。お姉ちゃんは忙しいんです。あとにしてください」
「お部屋に引きこもってるだけじゃない。いっしょにドラクエしようよ」
「ドラクエはひとりでも遊べるでしょう」
「お姉ちゃんといっしょに遊びたいの。教えてよいろいろ」
「ドラクエに教えることなんてないです。ググりなさい」
「ドラクエⅣのボスで勝てない敵がいるの」
「8逃げすればいいでしょう」
わたしはぞんざいに言い放つ。
――8逃げ。
ドラクエⅣにおいて『逃げる』を8回繰り返すと会心の一撃ばかり出るようになる。
おそらくドラクエⅣにおいて、もっとも有名な裏技のうちのひとつだ。
そう、いまのわたしのように、逃げまくればいつか問題は解決する。
べつに戦うことだけが解決策じゃない。
逃げるのの何が悪いんだ。戦ったら死ぬかもしれない。死なないにしろ傷つくかもしれない。
だったら逃げたっていい。
他人の痛みなんて誰にも見えないんだから、自分の痛みは自分で癒すしかない。
――逃げろ!
いまのわたしはそう思っていたんだ。
しかし、それは大きな間違いだった。
☆
「お姉ちゃんのうそつき」
夕方頃になって部屋を出てみると、ユアは怒っていた。
怒りでユアの顔は真っ赤に染まっている。
ついでに言えば、ゲーム画面も軒並み赤い枠で囲われている。
死亡判定――。
つまり、ドラクエのゲーム画面は全滅のまま止まっていた。
「どうしたんです?」
「お姉ちゃんが言ったとおりにしたけど、会心の一撃なんて出なかったよ」
「そんなはずは……」
あっ!
ユアがプレイしているゲーム機を見て、わたしは自分の間違いに気づいた。
8逃げという裏技はファミコンでしかできない裏技なんだ。
プレステバージョンのドラクエⅣだと8逃げにはなんの意味もない。
逃げたところで会心の一撃なんか出るはずもない。
ただひたすら敵に殴られるだけのワンサイドゲームが展開されるだけだ。
いやそれどころか――。ボスの名前はある国の王だった。
いわゆる負けイベント。
最初から勝てるはずもなかったんだ。
ユアは幼い頃特有の思いこみで、勇者サイドが負けるはずがないと思ったんだろう。
クリアレベルを遥かに越えてレベリングがされている。
8回逃げるのも相当な難易度のはずだ。
「ごめんなさい」
とっさにわたしは謝った。
ユアにおざなりな態度をとっていたのはまずかった。
「お姉ちゃんっていつもそうだよね」
ここぞとばかりにわたしを糾弾するユア。
べつにざまぁ展開ではないが、かわいらしい天使な妹に言われるとさすがにきつい。
「わたしに魔法を教えてくれるって言ったのに。あれも嘘だったんでしょ」
「違います……」
ユアに魔法を教えたいのは本当だ。
そこの気持ちに嘘はない。
でも、ダメなんだ。ルナといっしょにいろんな実験をしているけれど、まだ最大МPを拡張する方法を見つけていない。
新作ドラクエはあと数日で発売されるけれども――、それでどうなるのかはわからない。
「わたしお姉ちゃんのせいでまともに外出できなくなったんだよ」
「SPがついているのでは?」
「見られるでしょ」
「外にでればだれかにはみられますが」
「そうじゃなくて、お姉ちゃんが鈍感だから気づかないだけだよ」
「視線くらい感じますよ。魔法を使い始めたときは特にそうでした」
「化け物の妹って言われるの」
ユアは声に力をこめた。
演技の天才であるユアは、声だけで相手の感情を引き出すことができる。
わたしのように魔法を使ったハリボテとは異なる。
化け物の妹か。
まあ、わたしのことを正体不明の
どうでもいいと思ってるやつに、どう思われてもどうでもいい。
でも、ユアは?
ユアはどうなんだろう。
わたしがいろいろやらかすたびに、どんな想いを抱いていたんだろう。
「お姉ちゃんがいろいろするたびに、私は私でなくなっていくの。お姉ちゃんの妹っていうふうに見られるんだよ。いくら私ががんばっても。いくら子役の仕事をしても誰も褒めてくれない。もう子役の仕事はぜんぜん楽しくない」
「そんなことないでしょう。ユアはまぎれもない天才です。子役の仕事だってがんばっていれば、誰かは見てくれます。誰かが褒めてくれますよ」
「魔法が使えないただの子どもだよ」
「使えるようにします」
「いつ?」
「その……早急に。速やかに。遅滞なく行いますから」
ユアは空っぽの表情になっていた。
いや、わたしの言葉こそが空っぽなんだろう。
ユアにとっては嘘つきの言葉だろうから。
「お姉ちゃんだけズルいよ。ひとりだけ魔法使えて。ママのことも独り占めしている」
「お母さまは今、ユアについているのでは?」
「違う! 私といっしょにいるときもお姉ちゃんのことばかり考えてるの!」
いつのまにかユアの中に不満が溜まっていたらしい。
もし、わたしが注意深くユアの様子をみていれば、こんなふうに関係がこじれることもなかっただろうか。
思い出されるのはあのとき。
わたしがママンに業界追放宣言を受けたとき。
わたしはママンに捨てられたと思っていた。
ユアばかり愛されて、わたしは愛されていないと勘違いしていた。
だから、魔法を使った。それが最初の動機。
けれど――。
その次からは?
魔法が楽しいから使っていた?
本当にそれだけか。
魔法で世界をひっかきまわして、それを収めようとするママンの姿を見て、わたしは
わたしはユアにどんな言葉をかけたらいいのかわからない。
わたし自身、ユアからママンを奪いたかった気持ちもないとは言えないから。
そして、沈黙していたわたしに最後通牒がなされる。
「お姉ちゃんとはもう口きかない!」
わたしはがっくりとうなだれた。
☆
妹からも絶縁され、絶賛イオつむり中である。
晩御飯まであと少しだけ時間がある。
今日もママンはいないし、寺田さんは基本的にわたしが呼ばない限りはプライベートの時間を尊重してくれる。五年間で培った心地よい距離感だ。
いまはその距離感に救われている。
本当はママンや寺田さんに相談すべきなんだろう。あるいはそうでなくても魔法クラブのみんなに電話一本かけて、どうしたらいいかアドバイスを聞いたほうがいい。
でも、できなかった。
恥ずかしかったんだ。
思えば、理呼子ちゃんへの想いに応えることができないのも同じかもしれない。
魔法で対処しようのないことには、どうしたらいいのかわからない。
経験値不足というよりわたしの性格の問題だろう。
承認欲求のカタマリのくせに、いざ本当に承認されてしまうと、それを失うのが怖くなってしまう。だから、核心に迫らないで逃げ続けたい。
つまるところ、"わたしは魔法である"という言葉でごまかし続けてきた。
魔法の力によって、多数の利益を生んで、その力でみんなにイオちゃんを認めてもらいたかったんだ。そうすれば、裸身のわたしは保持される。いざとなれば魔法のせいにしてしまえばいい。
その限界がいまになってきたということだろう。
わたしってほんと馬鹿。
狼少年は死んでしまえばいい。
嘘つきは舌を引き抜かれてしまえばいい。
わたしは鏡の前に立つ。
こんなことに意味があるとは思えないし、
あるいはこれも逃避行動なのかもしれないけれど。
「
首元がキュっと締まる感じがした。
言葉を話せなくなる。ドラクエの魔法は基本的に詠唱することによって効果が生じるので、口がきけなくなると必然的に魔法が使えなくなる。
そんな魔法をとりあえず一週間ほど自分にかけてみた。
これも自分勝手な行動だとはわかっている。
でも、わたしは
☆
当然、ママンにはめちゃくちゃ叱られた。
わたしはスマホを使って、実験したら一週間ほど禁呪状態になってしまったと告げた。
ユアはわたしにあきれているのか何も言わない。
まあこの状態も客観的にみれば試し行為だからな。
ユアからママンを奪う憎い奸計のように思われてもしょうがない。
魔法カンパニーの影響についてはほとんどないと言ってもいいだろう。
わたしだってそれなりに迷惑とか外部への影響とかは考えている。
イオちゃんはかしこさが足りないとよく言われるけど、まったく考えないわけじゃないんだ。
夏休みに入っているわたしのことを考えてくれてるのか、いわゆる発電所などの外回りの仕事は休み明けまで入っていないし、一度こめた魔法力はたとえ本体であるわたしが死のうが禁呪状態になろうがなくなることはない。
また、新作ドラクエの発売のあとには、新作魔法を実験する予定が入っているが、それまでは大掛かりな実験はないということになっている。
実質的にこの一週間、魔法を使う機会なんてないんだ。
けれど、ママンにたっぷりお説教をくらった次の日。
わたしは魔法クラブに呼び出されることになったのだった。
当然、ルーラができないので寺田さんに車で送ってもらうことになる。
いつものコンテナ型の部室で、みんな既に待っていた。
理呼子ちゃんが目に入る。
見た目はいつもと同じ。優しげな表情に慈愛のまなざし。
わたしはぎこちなく手を振る。
「おはよう。イオちゃん。大丈夫なの?」
『大丈夫です。言葉は話せませんが』
口で言うのと違い、スマホで打ち込むのは、なんというか言葉が軽い。
理呼子ちゃんには悪いけど、心構えができていないわたしにとって、ありがたいシチュエーションだった。
ルナは腕を組んでいる。
少しお怒りぎみだろうか。
「簡単に自分の魔法を封じるようなことはするなよ」
『大丈夫です。ついうっかり百年封印ということにはなっていませんから』
「イオならそのついうっかりがありそうで怖いんだ」
ごもっとも。
「みのりお姉さんも心配したんだよ。いままで使えていた身体の機能が使えなくなるってつらいでしょう。お姉さんが癒してあげるからおいで」
手を広げてウェルカムモードになるみのりさん。
んん。理呼子ちゃんの前だときまずくてとてもじゃないができないぞ。
「あれれ。今日はお姉さんの胸に飛びこんでくれないのかな?」
迷ってると、理呼子ちゃんが立ち上がって、トンって背中を押してくれた。
みのりさんのおっぱいにダイブ。やわらかー。
でも、どうして。
沈黙のわたしに対して、理呼子ちゃんも何も言ってくれない。
女の子の気持ちってよくわかんにゃい。
でも、理呼子ちゃんはまだ小学生なのに、なぜかその表情にバブみを感じる。
母性っておっぱいにだけ宿るんじゃないんだね。
「ともかく集まってもらったのは、みのりのおっぱいを堪能させるためじゃない」
ルナがその場を取り仕切って言った。
ドンとテーブルを叩くが、ちょっと痛かったのか涙目になっていた。
すまない。今日はホイミができないんだ。
「イオの魔法を復活させたい」
『一週間後くらいには、なにごともせずにマホトーンの効果は切れますよ』
その間に、覚悟を決めるつもりだ。
いろんな覚悟を。
だが、ルナは時間効率第一主義者だ。
「音速遅いわ。その間に、イオにしか対処できないことが起こったらどうするつもりだ。地震とか津波とか巨大な隕石が地球に衝突しそうになるとか異世界からの侵略戦争が勃発するとか、いろいろ考えられるぞ!」
『そんな都合の悪いことが起こるわけないじゃないですか』
「魔法が出現して既に常識なんてものはゆらいでいるんだ。何が起こっても不思議じゃない」
『まあそういわれればそうですが』
「ともかく実験だ。いまの状態で魔法が使えるかどうか。マホトーンを解除できるか調べよう」
『わかりました』
まあ、ルナの実験につきあうのはべつに嫌いじゃない。
ルナの目指すところは、魔法の普及であり、そこに邪悪な意思はない。
わたしのこころの原理的な瑕疵なんて、ルナのキラキラとした好奇心の前では、価値なんてまったく無いに等しいだろう。
ルナはノートパソコンとわたしのスマホを繋いだ。
「いままでイオが使った魔法はできるだけ記録している」
『そうなんですね』
「いちおう、イオの声であれば魔法が使えるのか試してみたんだ。無理だったがな」
『MPがありませんからね』
「そうだな。では――、イオ自身ならどうだ?」
『わかりませんね』
「マホトーンの効果が単純に口を塞ぐものであれば、発音を代替させることによって魔法が使えるのではないかと考えたんだ」
わたしのために考えてくれたんだろう。
おそらく普通の時にも、万が一喉をやられたりして、魔法が使えなくなるというシチュエーションをいまさらながら考えたのかもしれない。
魔法が使えない今も全環境対応型イオちゃんではある。ちょっぴりのバイキルト+リホイミ+リザオラル+アタカンタ+フバーハ+トラマナ+スカラは既に積んでいる。おいそれとは死なないと思うけど、可能性をゼロに近づける努力はいつだってすべきだろうからな。
わたしは音声ボタンをオンにする。
右手をかざして。
――
その瞬間、あたりは光に包まれた。
なんというか……。
ものすごくあっけない謹慎状態の解除である。
みんな気まずいようななんとも言えない空気になってしまっている。
というか、わたしが一番きまずいわ。
魔法はわたしにそれ自身を使わせたいのではないだろうか。
いままで魔法とはわたしという認識だったけれど、はじめて得体の知れない別の存在に思えた。
考えすぎか。
ただ、マホトーンを解除する呪文。マホリーについては一度も使ったことがないんだよな。
自分自身にかけるなんて想定もしてなかったし、普通は時間経過で自然と治るんだ。
「大丈夫そうだな」
『そうですね。ですが、マホリーについては』
そこまで打ったときだった。
突然、スマホが鳴り響いた。
黒い画面に現れる非通知の文字。
わたしの電話番号は、ほとんど国家レベルのシークレット情報のはずだ。
偶然かかってきたという線もなくはないが……。
嫌な予感がする。
みんな、わたしの挙動を見つめている。
ルナがこくりと頷いた。
わたしは通話ボタンをタップする。
「こんにちわ。イオさん」
この声、どこかで聞いたことがあるな。
どこだったか思い出せそうで思い出せない微妙な感じの記憶だ。
そういや、わたし今話せないんだけどどうすればいいんだろう。
「覚えていらっしゃいますか?」
「……」
「おいなんかいえよ」
すぐにメッキがはがれて、男はぞんざいな口調になる。
「……」
「まあいい。察していると思うが、お前の大事な妹を預かっている。所定の場所までひとりで来い。もしこなければわかっているな」
「……」
「言っておくがレミラーマを使って探っても無駄だ。いくらおまえが早くても一度訪れた場所にしか瞬間移動できないルーラでは、妹を救うことはできない」
大事な人がさらわれるというシチュエーション。
はっきり言えば、そんなのはファンタジーかドラマの中だけの出来事だった。
SPもついているはずだし、おいそれとさらえないはずだろ。
それに――。
なぜ、という疑問が湧いた。
確かにわたしは一部の人間に化け物扱いされているし、一部の人間に嫌われている。
けれど、妹をさらう理由がわからない。
わたしに何かさせたいのだろうか。
例えば政敵の暗殺とか。
けれど、政敵を殺す理由って、何か自分が成し遂げたいことがあるからだろう。
殺したいから殺すのではなくて、サイコパスでない限り、なにかしら理由があるはずだ。
「代わりにしゃべっていいか」
「ルナ・スカーレットか。イオはどうした?」
「ちょっと小用中だ」
「あいもかわらず下半身が緩いガキだな」
「イオに何をさせる気だ」
「それはお前が知ることではない」
「お前は単なる使いっパシリってことか」
「ノーコメントだ」
「はっきり言うが、イオを脅そうとしても無駄だぞ。妹がたとえ死んだとしてもザオリクで生き返らせればいいわけだからな」
「苦しめて殺されるとしてもか?」
は?
なにを言いやがったこいつ。
あんな天使のユアを苦しめて殺す?
おまえが死ね。
目の前にいたらザキを放っていただろう。温厚なイオちゃんもさすがに怒りますよ。
「記憶はメダパニで改鋳すればいい」
「いやそれはちょっとどうかと……」
わたしもそう思います。
ルナがさりげなく外道なことを言うから、先方も戸惑っている。
わりとまともなところも残っているのか?
人さらいに同情は禁物だけど。
「ともかくだ。テロ行為にはつきあえない。さっさと星宮ユアを解放しろ。そうでなければ、おまえもおまえの親玉も破滅するぞ」
「オレはもう破滅している。もうこの道しかねえんだよ!」
「思い出したぞ。ミサイルのときの記者会見にいたやつだな。確か名前は木林だったか」
「だからどうした」
「木林、少し考えてみろ。イオについてはだいたいのことはできるといってもいいだろう。いまはまだできないこともあるが、それも新作魔法の開発でじょじょにできることを広げていく予定だ」
「なにがいいたい」
「おまえが何を求めているかはわからないが、イオの魔法でできることが増えれば、おのずと包摂されるのではないか? 例えばおまえが貧困にあえいでいるとか、なんらかの能力が足りなくて自分のやりたいことができないとか、あるいは誰かに虐げられているとか、そういったことはすべて魔法で解消できるかもしれない」
「できねえよ」
それが木林の回答だった。
ルナの断固とした態度は、たぶん正しいんだろう。
魔法は結果を最善にする。ザオリクをつかえば生き返るし、メダパニを使えば精神的な瑕も奥深くに沈めてしまえるかもしれない。
だが、過程だけは否定できない。
わたしはルナの肩をポンポンと叩く。
「ん。そうか……」
「なんだ?」
「イオはおまえについていくそうだ」
魔法の力が封印されているとはいえ、大部分は使えるんだ。
ユアを傷つけないで救出できる可能性があるとしたら、わたししかいない。
それに逃げるのはそろそろやめにしたい。
姉は妹を助けるものなんだよ。
ちょっぴりシリアスモード。
でもそんなに長続きはしない模様。