ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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地獄の帝王。ついでにスライム。

 イオちゃんはうんこしない。

 

 いきなり汚い話になってしまい申し訳ない。

 昭和のアイドルの伝説などではなく、実際上そうなのである。

 

 なんのことやらわからないだろうから説明しよう。

 

 およそ三日前。

 

 ユアを取り戻したわたしは、ママンから姉妹仲良く抱きしめられたり叱られたり、戸三郎じいちゃんに謝罪されたり、パッパからひさしぶりに電話で連絡があったり、みんなに心配されたりいろいろあったのだが……。

 

 一番の変化は、ユアとの関係性だった。

 

 要するに、ユアが当社比三倍比でお姉ちゃん子になっていた。

 

 もうそりゃ甘々だ。

 

 ソファに座ってくると、しなだれかかってくるし。

 そのままプニプニのほっぺたをすりすりしてくるし。

 ご飯食べてると、ユアの好きなプチトマトをわたしに渡してくるし。

 お風呂ではいっしょに入ろうとしてくるし。

 スマブラでわたしをフルボッコしてくるし。

 桃鉄でわたしに恨みがあるのかってくらいフルボッコにしてくるし。

 ストリートファイターでは、舐めプされるし。

 あれ? わたしゲームでは負けてばかりじゃない?

 ともかくそんな具合で――。

 

 トイレにすらくっついてくる有様だ。

 

 わたしになついてくるのは、本当にかわいいのだが、さすがにトイレの中までついてこられるとマジで困る。前世があるとかないとか男とか女とかそういうの以前に、わたしにだって人並の羞恥心があるのだ。

 

 もしかしたら――。よっぽど怖かったのかもしれない。

 本人はいたって普通のように見えるし、ドクターに簡易的な診断をしてもらったら問題はないとお墨付きはもらったものの。

 

 あれだけの経験をすることは、人生を二回くらい経験してもきわめて珍しい。

 だって、お腹のなかに爆弾しこまれたんだぞ。ちょっと普通じゃないよな。

 わたしはべつに専門家じゃないから本当のところはわからないが、頑固なシミみたいにユアのこころに影を落として、わたしから離れるのが怖いのかもしれない。

 

 それこそ一分一秒すら離れるのを厭うように。

 

 なので、腸内のあれやこれやらをわたしは強制転移呪文(バシルーラ)でトイレに直接シュートせざるをえなかったのである。正確には下水にな。

 

 経験が活きた。

 体内のものでも識別できさえすれば強制転移させることは可能だ。

 実際に、爆弾はそうやって成層圏の外あたりに吹き飛ばしたわけだし。

 

「お姉ちゃん。ズルしてるでしょ」

 

 そもそもうんこしないのがズルなの?

 よくわからない。

 

「えー、してないですよ?」と、わたしは言う。

 

「嘘だ!」

 

「嘘じゃないですよ」

 

「じゃあ、おなか見せてよ」

 

 しかたないので、わたしはお腹をめくりあげた。

 お家の中だからこそできる所業だ。

 ユアがわたしのおへそあたりをぺたぺたと触っている。

 もみじのてのひらで遠慮なくまさぐられると少しこちょばい。

 

「んっ」

 

「うーむ。おなか張ってないですねー。これはどうしたことでしょうねー」

 

 名医のつもりなのか、お澄まし顔のユア。

 さわりさわり。絶妙なタッチでこねくりまわしている。

 おへそまわりを意味もなく指先で周回したり。

 押しこむような感じでお腹をギュっギュってやられたり。

 なんか……なんか。あっ。

 お腹のあたりが熱くなって、変な気持ちよさがあるような。

 

「くすぐったいですよ。ユア」

 

 抗議の声をあげるが、もう遅い。

 ユアの検分は容赦なくおこなわれていく。

 ソファに押し倒されて、さらにまさぐられる。

 

「お姉ちゃん。やっぱりお腹のなかバシルーラしてるでしょ」

 

「く、くく……んぅ……あっ。ちょっとユア……や、やめ」

 

 このままではお姉ちゃんはイケナイ扉を開いちゃいそうです。

 

 お姉ちゃんには威厳が必要だ。

 妹にいいようになぶられる姉などあってはならない。

 わたしも小柄だが、ユアも同じように小柄だ。

 つまりは年齢による体格差で押し勝てる。

 

 負けるわけにはいかない。

 そりゃ!

 わたしは気合を入れて、ユアを反対に押し倒す。

 

「お姉ちゃん……」

 

 わたしの手はユアの腕をおさえこんでいる。

 抵抗はない。

 とび色をした双眸がわたしをじっと見つめている。

 しばしあって、そっと、視線をそらした。

 なぜかしおらしくなっている。

 

 あれ?

 そのまま目をつむって、キス顔になってるんですけど。

 なにこれなにこれ?

 ユアちゃん。姉妹百合は高度すぎませんかね?

 お姉ちゃんは、ユアのこと好きだけど、そういう関係は先進的すぎるよ。

 

 そのとき、ふと思い出す。

 理呼子ちゃんとのアレやコレやらを。

 あのときもよくわからないまま事態は推移してしまった。

 答えはいまじゃなくていいって言われたけど、そのまま放置してるのはまずいよな。

 

 ユアの誘拐事件のせいで吹っ飛んでいたけど、答えを出さなきゃいけないことだ。

 女の子を待たせるなんて最低なことだからな。

 

 夏休みの宿題――多すぎる件。

 

 とりあえず。ユアについてはピンっと軽くデコピンした。

 

「なにしてるんですか。ユア」

 

「えー。ユアはお姉ちゃんと結婚したいだけなのに」

 

 かわいいこと言ってくれるな。

 ユアとずっといっしょに暮らすのは悪い選択じゃないけどな。

 

「残念ながら、姉妹で結婚はできないんですよ」

 

「できるみたいだよ」

 

 なんでもないように言うユア。

 マジか?

 

「冗談で言ってます?」

 

「あんね。日本はまだできないんだけど、外国ではパートナーシップ制度って言ってね。姉妹でもちゃんと結婚できる国があるんだって、2027年くらいに成立したんだってさー」

 

 いつのまにやら未来は到来していました。

 

 この世界、ときどき忘れそうになるけれど、わたしが死んだときから10年経過しているんですよね。世界はどんどん進んでるなぁ。

 

「ともかく、お姉ちゃんはユアと結婚する気はありませんよ」

 

「んー。じゃあさ。もしもユアが10年後もお姉ちゃんと結婚したいって言ったらどうする?」

 

 小悪魔チックな双眸で見つめてくる。

 

 十年後といったら、ユアは17歳。わたしは20歳か。

 

 それくらい経ったら、さすがにユアもお姉ちゃん離れしているだろ。

 

「しかたありませんね。そのときも同じ気持ちなら、わたしも腹をくくりましょう」

 

「やった! お姉ちゃん大好き」

 

 ユアが抱き着いてくる。この甘えん坊さんめ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ところで――。

 と、前置きをしよう。

 

 あのユア誘拐事件について、大変痛ましい損害があったことを覚えているだろうか。

 

 そう、長年の相棒、スマホちゃんである。

 

 わたしが五歳のときくらいから持たせられており、八歳のときに新しい機種に交換し、そろそろ変えどきかなーと思っていたハイエンド機種である。小学生のうちからスマホと思わなくもないけど、防犯グッズとしても必要性は高いんだよな。

 

 柔らかそうな室内靴だったのに容赦なくぶっ壊されてるところからみると、あの山上って人、結構な達人だったんだろうな。ちなみにわたしやユアの靴はあとから回収してくれてましたよ。

 

 それはさておき。

 

 そのスマホちゃんだけど、わたしに誘拐犯一味からかかってきたのは、ちょっと問題があるということになった。あれはユアが持ってるスマホから電話番号を探りだしたんだろうけど、どこまでその番号が広がっているかわからなかったんだ。

 

 なので、スマホちゃんについては、新規のまったく新しい番号での契約しなおしということになった。ただ、スマホショップにわたしが行くっていうのも問題があるらしく、国を通じて代行的にすごいスマホがもらえるらしい。というか、戸三郎じいちゃんにねだったらくれた。

 

 しかしながら――というかなんというか。

 わたしの電話番号についてはトップシークレットなので用意するのにしばらく時間がかかるらしい。なので、いまのわたしはスマホを持っていない。

 

 夏休み。

 外にでかけるのもダメ。

 ドラクエの新作はあと三日後。

 みんなとも連絡はとれない。

 

「寂しいですね」

 

 自室でぽつりとつぶやく。

 いままで――それこそ前世から今世まで、わたしは基本的にぼっちだったんだよな。

 ぼっち耐性というのは、その年月が積みあがれば積みあがるほど強くなっていくものだと思う。

 身を硬く硬くしていくような感じだな。こじらせとも言うが。

 

 けれど、ここ最近はずっと誰かといっしょにいた。

 

 もちろん、今もユアや寺田さんやママンはいっしょにいることが多いし、完全にひとりきりというわけではないんだけど。

 

 特にここ三日間は、ユアがべったりだった。

 反孤独ともいえる体制が整えられてしまったのである。

 

 そこにきて――。

 

 わたしと結婚するとか言い出したユアは、言質をとって満足したらしくようやくわたしを解放してくれた。

 

 それで久方ぶりの孤独を享受したのだが。

 

 ()()()()()()()()

 

 いままで培ってきた孤独耐性ともいえるものが、ほんの数か月の人とのふれあいでいつのまにかゆるゆるに溶けていたのである。

 

 それで、いつもより何倍も何十倍も孤独を感じる。

 

「うう、さみしいです」

 

 弱音を吐くイオちゃんである。

 しかたないから、隣の部屋にいるユアを訪ねよう。

 

 今はママンも仕事だし、寺田さんも買い物に行ってていないんだ。

 

 さっきようやく解放されたのに、すぐに捕まりにいくあたり、わたしのメンタルは豆腐以下である。

 

「ユア、いいですか」

 

「お姉ちゃん。いいよ」

 

 ユアの部屋はわたしの部屋とつくりはほとんど変わらない。

 部屋の大きさも同じくらいだ。

 趣味的なところで言えば、わたしの部屋は漫画とかが少々多めに置かれているくらいか。

 対して、ユアの部屋は小学生低学年の女児らしく、ぬいぐるみとかが多めだ。

 いま、ユアはベッドで強そうなエビのぬいぐるみを抱えていた。

 あー、やっぱりうちの妹は一番かわいいな。

 

 ベッドをポンポンされて、座るよう促された。

 わたしはベッドの端に座る。

 ユアがベッド中央から、わたしの隣にすり寄ってきた。

 

 まんまるのおめめがこちらに向けられる。

 じんわりと放射するような敬愛の視線に、思わずお姉ちゃんは(たか)ぶってしまう。

 性的な興奮じゃないぞ。

 

「ユア。お姉ちゃんに何かしてほしいことはありませんか?」

 

 わたしは居住まいを正して言った。

 

 孤独を癒すという裏目的は自覚しているのだが、姉としてはそんな生っちょろい心理を読み取られるわけにもいかない。

 

 姉としての矜持が建前を伝えさせる。

 

――ユアを慰撫すること。

 

 事件の傷跡が残らないように、ケアすること。

 

 それが表向きの理由だ。

 

 ユアは強そうなエビぐるみを抱えながら、小首をかしげた。

 

「どうしたの急に」

 

「お姉ちゃんはですね。心配になったんです。あの事件は怖かったでしょう」

 

「べつにそうでもなかったよ」

 

「泣いていたじゃありませんか」

 

「それはそうだけど、あれ演技だよ」

 

「は?」

 

「誘拐犯も人の子だから、ああしとけばあまりひどいことにはならないかなって思ったの」

 

 うちの妹が天才すぎる件。

 い、いや、これはあれだ。ふかしってやつだ。

 

「泣いていたのが演技だというんですか」

 

「そうだよ」

 

「お腹のなかに爆弾ですよ?」

 

「さすがに嫌だったのは本当だけどね」

 

「そうですか……」

 

 と、納得しかけたのもつかの間。

 よくよく考えれば、その理屈はおかしいことに気づく。

 

「なぜ、お姉ちゃんにベッタリだったんです?」

 

「お姉ちゃんがヒーローみたいに思えてかっこよかったの」

 

 ヒロインではなくヒーローという言い方に、思わず口角があがりそうになる。

 最愛の妹から、ヒーロー扱いされる()()()()()

 うれしい。これはクリティカルにうれしい!

 

「ヒーローですか。でへへ……」

 

「お姉ちゃんって本当にちょろいよね。他の人にとられそうでちょっと心配」

 

「ん?」

 

「あ、こっちの話。それでね、あのときお姉ちゃんと通じ合えた気がしたの」

 

 あのとき――。

 マホリーのときのことだろう。

 ユアの口を通じて、わたしはマホリーを使うことができた。

 姉妹だから遺伝子的に似通ってる部分もあるから使えたと考えることもできるが、たぶん、それ以上にあのときこころが通じ合えた。だからこそ、奇跡は起こったのだろう。

 

「お姉ちゃんって怖がりだよね」と、ユアはしみじみ言う。

 

「そうでしょうか?」

 

「それに、さみしがりやだよね」

 

「まあそれは……」

 

 いまがまさに絶賛さみしがり中なのでなんとも言えない。

 

 どんな魔法でもこころのキズは癒せない。メダパニで塗りつぶしてしまえばいいかもしれないけど、それじゃ根本的な解決はしない。

 

 なんとなくだけどわかってしまった。

 

 ユアのことを心配してたけど、実際にユア以上にショックを受けていたのはわたしのほうだったんだ。あんな高密度の悪意を受けて、何も感じないはずがない。

 

「大丈夫だよ。お姉ちゃん。心配しないで」

 

 いつのまにやら指と指がからんでいた。

 

 さみしい気持ちが薄れていく。

 

「お姉ちゃん。わたしのお願い聞いてくれる?」

 

「いいですよ」

 

「もう一度魔法を使いたいな」

 

 その言葉はもう一度通じ合いたいと言ってるようだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 さて、今回のやらかしであるが――。

 

 イオはあのときのマホリーを奇跡のような産物だと考えていた。

 人のこころが通じ合うというのは奇跡の産物に違いなく、ある意味イオの考えはまちがっていない。だからといったら言い訳になるだろうが、イオはユアがマホリーをもう一度使いたいのだとたいした根拠もなく思いこんでしまったのである。

 

 マホトーンがかかっていない状態でのマホトーン解除の呪文は意味がない。

 

 だが、そんな論理など、愛の理の前では無意味だ。

 

 イオはそう考える。

 

 いやむしろ、ふたりが通じ合ってるからこそ、()()()()()()()()()

 

 魔法の意味が無意味であればあるほど、ふたりの絆は純化される。

 

 気持ちをたしかめあうことができる。

 

 マホリー最高!

 

 と、お姉ちゃんごころを爆発させ、内心のハイテンションは限界化していた。

 

 残念ながら、ユアのこころはまったく別のところにあり、子どもらしく思いっきり魔法を使えるようになったらな程度にしか考えてない。

 

 いや、わずかながら重なってる部分もあるといったほうが正確だろうか。

 

 少なくとも、ユアはユアで、トラウマになるほどではないものの傷ついていたし――。

 

 母親から捨てられたかもしれないという"さみしさ"は実際にはそうでなかったとしてもカンタンに癒えるものはなかったので。

 

 つまるところ、イオの意図――ユアを慰撫すること――を正確に見抜いたうえで、その要望を叶えるために唱える魔法は決まっていた。

 

 モンスターや精霊を異界から呼び寄せる魔法。

 

「しょうかん!」

 

 召喚魔法。

 

 どちらかといえば、ファイナルファンタジーのほうが召喚魔法は有名だろうが、ドラクエにもきちんと存在する。特技という見解もあるようだが、召喚のプロセスに魔法が関わっていないとは考えにくいので、ここでは魔法とする。

 

 この召喚魔法は一時的にモンスターや精霊を仲間にすることができる。

 

 ユアはこの魔法を使ってかわいらしいモンスターをペットにしたかった。

 

 しかし、問題となるのは、ユアとイオのこころの一致具合である。さみしさを埋めたいという無意識レベルでは一致していたものの、さすがのイオもそろそろ魔法を許可なく使うのはマズイのかなと思い始めていたし、事前に詳しく聞いていれば、こんな事態にはならなかっただろう。

 

 部屋の床に青白い複雑な文様の魔法陣が現れた。

 

「え、あの、それって」

 

 まばゆいばかりの光があふれだし――。

 

 そこからタケノコのようになにかが出てこようとしていた。

 

 巨大な二本のつの。

 

 異様にして威容。

 

 すさまじいまでのプレッシャーがあたりに満ちる。

 

 三つ目が見つめ。

 

 甲殻類を思わせるような……、エビあたりをカラっと揚げたような。

 

 そんな姿が徐々にあらわになっていく。

 

「グゴゴゴゴ……。誰だ? わが眠りを さまたげる者は? わが名はエスタ……」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 帰ってください!!」

 

 みなまで言わせない。

 

 イオは魔法陣から出てきそうになってるソレを足蹴にした。

 

 ゲシゲシと力をこめて蹴りまくる。

 バイキルトとベタンを重複させた超重圧の足蹴である。

 

「ちょ、おま、やめ……我を……ほろぼさないで」

 

「帰れぇぇぇぇぇぇ!」

 

 必死だった。

 

 当たり前だ。

 

 全容は明らかではないが、おそらく出てこようとしているものは地獄の帝王と呼ばれるもの。

 

 いくら召喚魔法が仲間モンスターを呼び出すものとはいえ、何が起こるかはわからない。

 

 それにサイズからしても、部屋の中に出現するには少々大きすぎる。

 

 お部屋をぶちやぶって、そのままタワマンの窓からご近所さんにお披露目しちゃったら、あとでたっぷり叱られることは間違いないのだ。

 

 イオは飛び上がり、ムーンサルトのようなひねりこみを加える。

 そのまま、落下スピードをあげて、対象物を――。

 

 魔法陣側に叩き返した!

 

「我を……1ターンで倒すとは……」

 

 気づけば、あたりは静まり返っていた。

 床を這うように描いてあった魔法陣はいつのまにか消えており、地獄の帝王の姿もない。

 おそらく魔界に帰ったのだろう。

 

「ハァ……ハァ……焦りました」

 

 夏場のエアコンの効いた部屋だというのに、イオの汗は止まらない。

 

「お姉ちゃん。ごめんなさい」

 

「いえ。わたしが悪かったんです。ちゃんと確認すればよかったですね」

 

 イオはユアの頭をポンポンと撫でた。

 

 そして、きょろきょろを周りを見渡した。

 

 異常がないことを確認すると、手で笠を作ってそっとユアに語り掛ける。

 

「いま、あったことは内緒でお願いします」

 

 見事なまでの隠ぺい工作である。

 

「んー。ママもなにかあったら報告しろって言ってたよ。わたしも謝るから、お姉ちゃんもいっしょに謝って」

 

「そうはいってもですね。アレはヤバい気がします」

 

「えー、でもお姉ちゃんが一方的に蹂躙してたよね?」

 

「まあ、そうですが」

 

 存在自体からくるヤバさというものがある。

 

 もしもイオの制御をはずれ、イオ以外でなんとかしようとすれば米軍でも難しいかもしれない。

 

「じゃあさ」ユアは小悪魔的に交渉する。「もっとかわいらしいの出してよ」

 

「ええ……」イオは嫌な顔になった。「それはそれで怒られるような気がします。ルナにもしょうかんやジュエルボーンは試すなって言われてましたし」

 

 当たり前である。

 

 この世界にモンスターを出現させるという意味は魔法を使うよりも別種の恐れを生じさせた。

 

 それは生態系を壊すとかそういうことではなく、人類の敵になりうるものがすぐ近くに存在するということになるからだ。可能性としては極小とはいえ、人類滅亡の危機に発展しかねない。

 

 イオも恐ろしい魔王ではあるものの、一応は人間なので、それに比べたらマシといえた。

 

「さっきのこと黙ってるからぁ」

 

 甘えた声。

 

 イオはぶんぶんと頭を振った。

 

「ダメです。モンスターは本当にヤバいんですって」

 

「大丈夫だよ。スライムと友達になりたいなぁ。みんなかわいいって言ってくれるよ」

 

「そうでしょうか」

 

「そうだよ。わたしもいっしょに怒られるからぁ。お姉ちゃんおねがーい」

 

「スライムは確かに……ほしいです」

 

 イオのこころは揺れた。

 スライムは確かに抱きしめてみたい。おっぱいと同じような感覚なのか、それともそれ以上に柔らかいのか。夏場の今はウォーターベッドみたいで気持ちいいかもしれない。

 

 頭をずっぽりうずめてみたら……。

 

「ンンンーーーーっ!!!」

 

 と、快楽のるつぼ。

 

 それにべつにイオに限った話ではなく、スライムはドラクエでも屈指の最愛されモンスターだ。

 群青色をした色合いと、しずくのようなフォルム。

 西欧のファンタジーではドロドロした形だったのを、キュートな容姿にしてしまった。

 

 また、レベルをあげなければスライムは最弱なのだ。

 世界の脅威とはなりえない。

 

 地獄のやらかしと、スライムのようなかわいらしいやらかし。

 どちらが怒られないか。

 

 イオはかしこさ3の頭で必死に考える。

 

 それで――。

 

「わかりました」

 

 イオは折れた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ただいま帰ったわよ」

 

 星宮マリアが家に帰ってみると、愛娘たちが駆け寄ってくる様子はない。

 疲れて眠ったのかしらと思い、手前のユアの部屋を覗きこむ。

 

「ん。いないわね」

 

 少し嫌な予感がした。

 三日前にユアが誘拐されたときは、心臓がつぶされるような思いがしたのだ。

 焦りながら、イオの部屋を覗きこむ。

 

 いた。

 ほっとした安心感から脱力する。

 

 ふたりはイオのベッドで仲良く眠っていた。

 思わず抱き着きたくなるほどのほほえましさである。

 

 かかっている薄手の毛布を掛けなおすため近づく。

 

 その毛布になにやら盛り上がりがモゾモゾと動いている。

 

 先ほどよりも嫌な予感が数倍くらい膨れ上がり、マリアはおそるおそる毛布をどけた。

 

「ぴき?」

 

 目と目があう瞬間。

 

 その後、どうなったのかは想像にお任せしよう。




日常回ってやつです。
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