ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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スラリン視点です。


スライムのこころ。ついでに少年のこころ。

――逃げる。

 

 命の危機を感じたときに逃げないやつは愚かだ。

 蛮勇は身を亡ぼす。

 臆病なほど生き残る。

 仕事をしくじり何度も失敗するやつが死ぬとは限らない。

 むしろ、何事も成功し一度も失敗したことがないやつが、たった一度の敗北で死ぬこともある。

 

 生と死のボーダーを分けるのは何か。

 運命の分岐線は?

 

 おそらくそれは、本能が告げる死の予感にどれだけ耳を傾けられるかだろう。

 

 思えば予兆はあった。

 ミッションの過酷さは、()()()()()()()()()()()時点で覚悟すべきだったのだ。

 

――私は想起する。

 

 命の危機を背後に感じながら。

 あの金髪の悪魔の魔手から逃れながら。

 この世界に来た時のことを思い出す。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 私がこの世界に来て、一日にも満たない間に学んだのはヒャドよりも冷たい現実である。

 

 一言で言えば、それは家畜としての生き方。

 オブラートに包んだ言い方をすれば、世の中のことを何も知らないお嬢様がたのお守りだ。

 

 わたしの雇用主であるお嬢様は、名を星宮イオという。

 白亜のような髪色と鳶色をした瞳を持つハーフで、日本語を流暢に話す。

 異世界生まれの私がなぜ日本語を知っているのかというと、私も詳しくは知らない。

 おそらく、この世界に呼ばれたときにご主人となんらかのつながりが生まれたのだろう。

 

 その際に、日本語とこの世界の知識もひとしきりインストールされたようだ。

 

 この知識は大綱的なものであり、私の意思をねじまげるものではないし、また実際の行動との間には大きな隔たりがあると言えるだろう。

 

 例えば、英語の知識は持っているとしても、それが英語を話せるのと等値になるわけではないように、私自身の発声器官というか、その動かし方が人間の言語を専門(プロパー)としているわけではないから、人語をすぐに話せるようにはならないようだ。

 

 それに、同時にいくつかの命令(コマンド)もくさびのように打ちこまれている。

 お嬢様方に逆らってはいけない、人間を傷つけてはいけないというふうにな。

 

 さながら奴隷契約というわけだ。

 しかし――、私の意識としてはあくまで対等。

 

 実質がどうであろうと、内面ではあくまで雇用契約である。

 私の扶養と命の保証を引き換えにヤドリギで一時的に休んでいるにすぎない。

 孤独を愛する私としては、誰かに飼われているというのは妥協の産物に他ならないのだ。

 

 だが、ままならない現実を受け入れるというのも、生き延びるためには必要な所作だ。

 夢を見て生きるのは子どもだけだ。大人は郷愁の中にのみ夢を見る。

 

 私はずっとそうやって生きてきた。

 同胞が草をはみ、牧歌的に生きているときも、危険に身を置いてきた。

 毒の沼地もいとわず進んだこともある。

 これでもダーティな仕事には慣れているんだ。

 

 ご主人の依頼内容はひとまずのところ、彼女の妹君の子守のようだった。

 

 妹君は、ご主人をひとまわり小さくしたような体型で同じような配色だ。

 幼いながらもこちらも流暢に日本語を話す。

 妹君の私に対する視線は誘惑に満ちていたし、幼いながらも声には媚びがあった。

 どうやら私を伴侶にするつもりらしい。

 私にその気はないが、成熟した大人の魅力に子どもが憧れの気持ちを持つというのはよくあることだ。無理もない。世界の冷酷さを知っている私に、ミルクのような甘い世界で生きてきた彼女は目新しさを感じたのだろう。

 出逢ったその日のうちに、裸の付き合いになる。

 狭い浴室のなかで無遠慮にべたべたと触られる。

 白濁した液体をかけられ、すべらかな手のひらで全身をこすられた。

 そしてベッドを共にする。

 ご主人も妹君もいっしょに、私の匂いたつような成熟した身体に抱き着いた。

 はしたないお嬢さんたちだ。

 ことわっておくが、べつに性的関係を持ったわけではない。

 身も心も成熟しきった私からみれば、彼女たちは未成熟な果実にすぎない。

 彼女たちの思考は幼すぎたし、私の思考は大人すぎた。

 ただひと夏の思い出。

 それだけだ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 しばしの休息に身体を休めていると、家に侵入する者の気配があった。

 お嬢様がたは、既にやすらかな寝息をたてて寝入っている。

 フロアのなかにはもうひとり人間の気配があったが、おそらくお嬢様方の使用人だろう。

 直接対面はしていないが、私を部屋の中に残して、お嬢様方が食事をしにいっているから、こいつに危険性はないと判断している。

 

 だが――侵入者は不明だ。

 危険か安全か、確認すべき方法がない。

 

 起きているのは私だけだった。

 命の危機を回避できるのも私だけだろう。

 

 玄関口からなにやら声が聞こえてくる。

 内容までは聞き取れないが、油断している間の抜けた声だ。

 毛布の中に身をひそめ、わずかな時間で計算する。

 

――敵か味方か。

 

 味方であると考えてなにもしないのは間抜けの所業だ。

 命は紙よりも軽く、死はすぐ隣にダース単位で用意されている。

 死神の訪問は、新聞や宗教の勧誘よりも多いと考えるべきだ。

 

 いざとなれば、ご主人を守らなければならない。

 人間を害してはいけないという命令もあるが、ご主人の身の安全が第一だ。

 襲ってくるのが人間であったとしても、これを身を挺して撃退しなければならない。

 しかも、できるだけ傷つけず、命も奪わずにな。

 心優しいご主人は、できるだけ人死にを出したくないらしい。

 温めたミルクよりも甘い話だが、ミッションを課せられた側としてはタフな話だ。

 だが、拒否することもできない。

 それが私の仕事だからだ。

 

 ガチャリ。

 扉が開く。足音。ちかづいてくる……。

 私は毛布の下に身を潜めている。

 

 臓器のない私に心臓が早鐘を打つという表現は似つかわしくないだろうが、緊張感はいや増していった。ベッドの前で足音が止まる。

 

 お嬢様方の寝顔でも確認しているのだろうか。

 殺意のようなものはまったく感じない。

 今はまだ飛び出すタイミングじゃないだろう。

 

 もしも、凶刃を突き立てようとしたら、私の生存本能が働くだろう。

 いままで、無数の命の危機を救ってきた天然のアラートだ。一度も裏切られたことはない。

 

 が――。

 

 逆に言えば、それこそが油断であった。

 殺意なき行動には私の危機管理アラートは無力であるのだ。

 

 唐突にめくりあげられる毛布。

 そいつと目があった。

 

――女?

 

 そう、女だった。

 

 暗殺者が女という線も考えられなくはないが、私の姿に驚いているようじゃ三流以下だ。

 だが、こちらも結果として固まっていた。

 驚きではなく、観察のためだ。

 まとっている雰囲気は剣呑とはしていない。

 驚きに固まってはいるが、取り立てて凄腕の暗殺者のようなオーラはなかった。

 

 それにしても――悪くない。

 

 大人の色香を放つ成熟した女で顔も私好みだ。

 顔立ちは日本人そのものだが、どこかお嬢様方と似通っているから血縁者だろう。

 雰囲気はどこか冷たい印象を受ける。だが隠しきれない初心さのようなものも残している。

 身を硬くしているのは、世の中から自分の幼さを守る所作なのだろう。

 つまり、まだ守るべき幼さを残しているということでもある。

 

『夜遊びはやけどするぜ。お嬢さん』

 

「きゃ……」

 

『ん?』

 

「きゃあああああああああああああああああああああ!」

 

 生娘のような金切り声が響いた。

 やれやれうるさいお嬢さんだ。

 

 

 

 それから使用人の女と面通ししたり、犬のエサを喰わせられたりもしたが、ご主人からマリアに抱き着くよう命じられたのはよかった。

 

 マリアは華奢ながらもメリハリのきいた大人の身体をしており、柔らかな肌で包まれている。

 

「あなたって柔らかいのね」

 

『お嬢さんほどじゃないさ』

 

 既に私の魅力にメロメロのようだ。

 一見するとクールな彼女だが、実のところ甘えたがりなのだろう。

 ご主人たちの母親であることから、伴侶がいるだろうに、私と肌をあわせるのに躊躇がない。

 まだ見ぬ旦那さんに申し訳なさを感じるが――、放っておくのが悪いというのが私の考えだ。

 

 家族の身の安全を護るのは、男の役目だろう。

 

 いまではジェンダーフリーといって、雄雌の役割はゆらいでいるらしいが、ご主人の深層心理はどうやら男は女を護るものという考えが世界樹のように根をおろしている。

 

 ご主人の性別は女なので奇妙な話ではあるのだが私も同意だ。ご主人の考え方に感化されたのか、それともご主人に同調しうるものがたまたま私だったのかはわからない。

 

 ともかく、大人は寂しさを埋める術を知っている。

 マリアもまた倫理や道徳よりも本能のレベルで、手触りと暖かさを求めているのだ。

 

 偽りの家族であっても――、暖かさは本物だ。

 

 死がすぐ隣にある世界に生きていた私にとって、つかの間の安らぎだった。

 

 しばらく、ここにいてもいいと思うぐらいには。

 

 だが、すぐに思い知ることになる。

 

 この世界もまた、死は思った以上に生に隣接している、と。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 私がこの世界に来て、二日ほど経過した頃だった。

 

 ご主人はどうやら通っている学校なるところに私をつれていくつもりらしく、初っ端から暗くて狭いところにおしつぶされるように入れられた。

 

 他の人間にできるだけ見られないようにするためだろう。

 

 インストール済みの知識によれば、人物情報のような細かいものはわからないが、世の中の情勢のようなものはわかる。つまり、この世界の常識というやつだな。

 

 そこで、わたしの今の知識によれば、世界でご主人はかなり特異な存在らしい。

 魔法は普及しておらず、一部に偏在している。星宮イオという小さな身体に世界がまるごと入りこむほどの膨大な魔法力が込められているのだ。

 

 そして、私という存在も。

 どうやらこの世界にはスライムという種族はいないらしい。

 ただの新種であれば、そこまで騒がれることもないだろうが、この世界では、私が住んでいた世界は『ゲーム』という仮想空間として規定されている。

 

 つまりは、私は世界で初めての幻想生命体であり、人間にとって未知なる危険が存在するということだ。特に異類恐怖症を患っている人間という種族にとって、私という異物は排除対象になりやすい。

 

 やれやれ。タフな状況だが、しかたない。

 与えられた環境を喚いてみたところで現実は変わらない。

 現実を受け入れず逃避するのは三流がやることだ。

 しかし逆説的な話だが、現実を受け入れてしまい何もかもあきらめるのは二流がすることだ。

 

 矛盾していると思うか。

 

 一流は――。

 

 過酷な現実を受け入れ、そのうえであがくものだ。

 

「解剖する――」

 

 金髪の悪魔の悪魔的提案を聞いて、私は瞬間的に逃亡を選んだ。

 ご主人がなんら有用な反論を述べられなかったからである。

 

 話を聞く限り、キラーマシンについてもおかしな論理だと思わないのか。

 

 私の視点だとご主人は反論するための手札は持っている。

 ただ、その使い方がわからないのだ。

 

 天文学的な数値の組み合わせというが、人間だって電子パルスと炭素ユニットの連結体にすぎないではないか。ご主人はゲーデルの言説とチューリングテストについて知識としては知っていたが、どうやら完全に無意識の底に沈んでいたらしい。

 

 あの金髪の悪魔は、ご主人のかしこさを勘案して、己の欲望を実現させようとしたのだ。

 ご主人よりも幼げな容姿だが、狡猾なことこのうえない。

 

 それで――、私は逃げている。

 ここの構造はうすぼんやりとしかわからない。

 そもそもどこに逃げればよいのかわからない。

 私という存在が衆目に晒された場合にどのような影響を生むのかはわからない。

 生死を扱う実験については忌避傾向にあるものの、人間には人間という存在を特別視し、それ以外の存在を軽く見る傾向がある。

 

 魔法という大義のために私の生存権をおびやかしてもよいと世論は判断するかもしれない。

 人間の良心に賭けてみるのは、少々分が悪い。

 

 だが、いずれにしろ時間の問題だろう。

 今は混乱しているせいかあそこにいた誰も気づいていない様子だが、レミラーマを使うかリリルーラを使うことで、私は簡単に捕まってしまう。

 虜囚となれば、逃げだした分、扱いがひどくなるのは目に見えている。

 

 未来に希望はあるのか。

 ご主人や金髪の悪魔が有用な魔法に気づくのに、残りは数分もないかもしれない。

 目前に迫った死の影に、私は内心の焦りを大きくする。

 

 一分でも一秒でもあがいてやる。

 

 と――。

 

 焦った私は目の前に誰かいるのも認識できず衝突してしまった。

 

 ぽふん。

 

 私の身体は人間の子どもよりもずいぶん軽い。

 だが、衝突スピードはそれなりだったせいか、相手は転んでしまった。

 

「あ、いてっ」

 

 少年だった。

 どうやらご主人と同じく初等部の生徒のようだ。

 同じ制服を着ている。

 

『すまない。少年』

 

「うわ。なんだこいつ」

 

 少年はぶしつけに私の身体に触った。男に触られる趣味は私にはない。

 だが……。やむをえまい。ぶつかった責任が私にはある。

 自分の行為の責任をとるのが大人だ。

 

「スライムじゃん。またイオのやつかよ」

 

 どうやらご主人の知り合いらしい。

 複雑な表情をしているので、単純に好意を抱いているわけでもないようだ。

 だが、自分自身も気づいていない淡い恋心のようなものはあるのかもしれない。

 私は抱きかかえられ、そのまま少年と視線を交差する。

 

「おまえ、イオのところから逃げ出してきたんだろ。オレが拾ってやればあいつ喜ぶかな」

 

『悪くない考えだな』

 

「それとも……こいつのことをSNSで拡散したら、あいつ困るかな」

 

『困りはするだろうが、お前はそれでいいのか』

 

 人には両面性がある。

 子どもであってもそれは変わらない。

 天使のような悪魔の笑顔の場合もありうるし、逆もまたしかりだ。

 大切なのは見極めること。

 

 どうやら迷っているようだ。

 

 量子力学的なゆらぎが彼の内在で起こっているのだろう。

 私は彼に賭けてみることにした。

 

 あといくばくもしないうちに、どうあがいても私は捉えられるに違いない。

 であれば、初めて出会った人間のオスに、私は身を預けることにしたのだ。

 

 狩猟を行ってきた男の遺伝子は、常に死と隣り合わせだった。

 男であるということは、"全体"に回収されずに残る孤独な自我があるということ。

 だからこそ、いのちの限りを知る優しさを知っているのだ。

 

 

 彼の選択は――。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 スラリンが出会った少年の名は、村澄たける。

 この学園の校長の孫である。

 

 彼は既に二回ほどやらかしており、2アウトの状態だった。

 

 いずれも子どもがしたことであるということと、イオの心理的な状況を加味して、ギリギリのところで見逃されていたのであるが、3アウトはさすがに退学になるだろう。

 

 スライムを全世界に広めるのも当然アウトだ。

 

 彼はすでにスマホをとりあげられており、イオに接近することは許されていなかったが、SNSに投稿するのはべつに難しいことではない。

 

 彼にも何人かの悪友はおり、そいつらに流してもらえばいい。

 

 夏休みの補習という名の罰。それはたけるだけでなく、たけるに付き従った二名も従犯的扱いを受けていたのである。そのことに恨みもある。

 

 だが、イオの様々なやらかしを少し距離を離して見ていると、イオがずいぶんと手加減してくれてたようにも思うのだ。

 

 あのとき、イオは自分のことを優しくないと言ったけれど。

 たけるがいま在校できているという事実はゆるぎないものだ。

 なぜなのか――。

 考えなかったわけではない。

 

 たけるは、スラリンをじっと見つめる。

 

「ぴきー」

 

 スライムが細い声で鳴いている。

 たけるの腕の中にいるスライムは、なにかに脅えているようだった。

 それで、唐突なひらめきのように、彼の考えは固まった。

 

――彼は選択した。

 

「どうしたんだよおまえ。心配すんなって。オレがなんとかしてやるからよ」

 

 スライムがじっと見つめる。

 

 たけるは笑った。

 

 憑き物が落ちたような顔つきだった。

 

 あるいは少しだけ男らしくなった顔と評してもよいだろうか。

 

 たけるが向かった先はイオがいる魔法クラブのコンテナである。

 

 接近禁止を受けているから、本当は誰かにこっそり預けたほうがいいのかもしれないが、いまのまま一抱えもある青い物体が誰にも見られずにいるというのは難しい。

 

 結局、彼にはその方法しか残されていなかったのである。

 

 たけるは覚悟を決めて、コンテナに向かう。

 

「うわっ」

 

 ほどなくして、急にたけるの目の前の空間が揺らいだ。

 出現したのはイオとルナ。そして、魔法クラブの面々である。

 

「村澄たける、またおまえか」

 

 ルナが敵意のある表情を向けた。

 

 ルナ自身はたけると直接相対したわけではないが、すべての情報は知っている。

 彼の悪性もやらかしたことも。

 

「そのスライムをどうするつもりだ」と、ルナは語気鋭く言う。

 

 たけるはルナではなく、隣のイオをちらりと見た。

 イオの視線は冷めたものだった。

 たけるが数か月前にイオに向けた暴言の数々を考えるとやむを得ないところである。

 しかし、彼は彼の中の善意が伝わらないことにイライラした。

 

「べつにどうもしねえよ」

 

「じゃあ返せ」

 

 ルナが左手を突き出す。

 

 しかし、ルナのその言葉を聞いた途端。

 スラリンはぷるぷると震えた。

 

「なんか脅えてるみたいだぜ。おまえなんかしたんじゃねえか?」

 

「お前には関係ないことだ。イオにはかかわるなと言われなかったか?」

 

「知らねーよ。こいつはオレが拾ったんだよ」

 

「そんな理屈が通るわけないだろう。魔法は国が管轄している。お前個人の問題じゃない。場合によっては校長も罰を受けることになるんだぞ。わかったらさっさと帰れ」

 

 理屈としては当然そうなる。

 だが、理屈というより感情が収まらない。

 たけるは覚悟を持ってコンテナに向かっていた。

 だから、いっそわかってもらえないなら退学にすらなってもいいと思ったのだ。

 

「あの。たける君」イオが口を開いた。「その子、ルナちゃんにいろいろされそうになって少し脅えてるんだと思います。たける君はその子が怖がってると思ってかばってくれたんですよね」

 

 イオに言われて、たけるの顔は怒りとも羞恥ともつかずに赤く染まった。

 

「ちげーよ!」

 

 自分の優しさを指摘されるのは、しかも気になる女の子から直接伝えられるのは、さすがに今のたけるには厳しすぎた。

 

 言葉には棘がでて、心にもないことを口走ってしまう。

 

「いいか。こいつは学園内でオレが拾ったんだ。だからオレのもんなんだよ。どうせ魔法で無理やり取り上げるんだろ。だったらそうしろよ。バーカ!」

 

 イオは哀しげな表情になった。

 しかし、今のたけるには失望の顔にしか見えない。

 ズキリと心が痛む。

 

 と、その時。

 

「ぴきー!」

 

 腕のなかにいるスライムが大声で鳴いた。

 まるで大人が少年の弱虫をしかりつけているようだった。

 誰もがその場で固まる。

 スライムが口を開く。開いては閉じ。

 人間のそれより何倍も大きな裂けきった口を開き、ゆっくりと試すように音を出す。

 

 否――、声を出す。

 

「ぷるぷる……この子……悪い子じゃないよ」

 

「しゃべったあああああああああああああああああああ!」

 

 全員がびっくりしていた。

 犬猫ほどの知能しかないと思われていたスライムが発話できたのである。

 

「おまえしゃべれたのかよ」

 

「ぷるぷる……すなおな気持ちになって」

 

「オレは素直だよ」

 

「たける君はいい子だよ」

 

「いい子なんかじゃねぇよ」

 

「ボクを返してくれるんでしょ。ご主人さまのところに」

 

「おまえ、いいのかよ」

 

 ルナにひどいことをされそうになったと聞いて、とっさに返したくなくなったのは事実だ。

 イオもこころを同じくしていたら、返すのはしのびない。

 ふとした寂しさを――あるいは孤独を共有しあった仲だ。

 ほんの数分ほどの出逢いではあったけれども、こころは既に通じ合っている。

 

「ご主人さまはやさしいよ。たける君も知ってるでしょ」

 

「……ああ」

 

 たけるはそのままスラリンを抱えてイオに近づく。

 

「ほらよ」

 

「ありがとうございます」

 

 幼いながらも美貌うるわしく優しく微笑んでいる。

 

 まるで聖女か女神のような。

 

 誰にも認められてこなかった彼が、初めて誰かに許されたようで。

 

 なぜか、目元から温かいものが流れ落ちそうだった。

 

 スラリンは普段から笑んでいる口元をさらに広げて見せた。

 

 言葉に出さずともわかる気がする。

 

――やったな。相棒。

 

 そう言ってるように見えて。




もうそろそろいいかなと思ったので、ログインユーザー以外の方も感想を書けるように戻しました。

感想・評価お待ちしております。

わたし自身は運対報告とかはしない主義なんですが、前回は運対がメチャクチャ多かったような気がしますんで、なんというかヒートアップしすぎない程度にご指摘いただければ幸いです。

厳しめの感想も評価もいただいたものは大切に、作品の方向性や次回の糧にしていきたいと考えております。

作品になかなか反映されないというのは作者の実力の問題です。
長い目で見守っていただければ幸いです。

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