ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
引き続き魔法の実験である。
「かしこさをMPとしたのは人間の恣意だが……妙ではあるよな」
ルナが校舎裏でわずか数メートルほどであるがフワフワと浮きながら言う。
手枕にして、夏の青空を見つめながら
誰かに見とがめられる可能性もあるが、イオが使っていると言い張ればいい。
この魔法は魔法力を噴出して空を飛ぶのであるが、だいたい燃費にして1分あたりMPを1ずつ消費する程度のようだ。魔法力の噴出の多寡はスピードにもよるだろう。
空を飛ぶというのは、人間の本能に根差した悲願であるのか、みんなも思い思いの練習をしている。あまり高度をあげるのは怖いので最初は地面に近いところでゆっくりとだ。
「MPが多ければあまり魔法を使えない。MPが少なければこれもまた魔法を使えない。この結果について思うところはないか?」ルナが聞いた。
「思うところですか?」
イオはぱちくりとまばたきをした。
「そうだ。まず、神は人間側がかしこさをMPとすることを知っていたのか?」
「わかりませんが、神様も宇宙が壊れるのは嫌なんでしょう?」
「それはそうなんだが、仮に人間が全員魔法に覚醒したところでイオの魔法力の総量にはかなわないんだよな。それに魔法難度的にはMP39のユアであってもギガジャティスを使えなかったことから、考えられるのはただ一つ……」
ぷかぷかと浮いているルナがイオに近づき肩を叩いた。
「なんです?」
「おまえは神に守られているのだな、と」
「守られているですか?」
「愛されているといってもいい」
「そうなんでしょうか」
悪い気はしないイオである。たとえ、光っててよくわからない謎の存在でも、愛されていると言われればうれしい。よく考えれば自分を転生させてくれた存在であるし。
「実際に神の意図というのはわからんが――、イオ以外の人間はどうでもいいのか。それとも人間も庇護対象に入っているのかが判断の分かれ目だな」
「人間が好き勝手に魔法を使いまくらないように抑制しているんでしょう。人間も庇護対象のはずですよ」
「そうだと信じたいがな。例えば――、MPをわずか1しか消費しない
メガンテ。
この呪文については、自分を爆発させるというふうに誤解している人も多いかもしれない。
しかし、本当は自己の生命力を爆発させる呪文だ。
マダンテが、魔法力をすべて解き放つ呪文であるならば、その代わりにHPを解き放つのだ。
結果として、使用者は死ぬ。相手も死ぬ。
ドラクエ漫画のロトの紋章では消耗戦を強いられた主人公たちが追い詰められたときに、仲間のひとりがメガンテを唱える。
尊い自己犠牲の呪文なのである。
「重要施設にはスカラとかマホステを常時かけておいたほうがよさそうですね」
「それはそうだな」
ふたりを横目に、ユアがふわっと飛び上がっている。
イオに対してにこやかな顔になり手を振った。
姉に見てほしいのだろうと思い、イオは微笑みながら応答する。
もっと、飛ぶ。学園の壁を越えて飛び、既に数十メートルほどの高さにまで飛び上がった。
さすがに高度が高すぎると注意しようと思った瞬間。
「
ユアの言葉に、度肝をぬかれた。
が……何も起こらない!
ユアは残念そうな顔になって降りてくる。
「ダメみたい」
「ダメみたいじゃないですよ。なにしてるんです!」
「えっと、魔法でテロとかが起こらないか心配だったんだよね?」
「それはそうですが……」
「死んじゃっても生き返らせてくれるなら試してもいいかなって」
「危ないことはやめてください」
ちょっと前にお腹のなかに爆弾をしこまれたのである。
なぜ自分から爆発しにいくのか。コレガワカラナイ。
「魔法が危なかったら、最初から使わないほうがいいってことにならない?」
「魔法にもいろいろあるでしょう。比較的危なくないやつとか」
「いろいろあるからこそ試さないと危ないよ。だってこれから誰が使うのかわかんなくなっていくだろうし。なにげなく自爆したいなって思う人だって出てくるかも」
「うーむ……どうしましょう。ユアに反論できません!」
イオは周りに助けを求めた。
ユアも案外やっちゃう子であった。これはもはや血筋なのかもしれない。
かしこさもイオを除けば一番低いところであるし。
「まあ……私としては最終的には試してみるべきことだったと思うぞ。研究所の大人たちはダモーレした感じ軒並みかしこさが100以上だっただろ。つまり、もしマホアゲルをしたところでメガンテはもとより初級魔法程度しか使えないってことだ。これは魔法という装置のフールプルーフを試行するためにも必要な措置といえる」
ルナの考えには微妙な
「フールプルーフ?」とイオ。
「馬鹿が使っても大事にならないってことだ」
「あー、ルナちゃん。ユアのこと馬鹿にしているでしょ」ユアが怒る。
「当たり前だ。おまえたち姉妹はいったい何を考えているんだ。もう少し自分の扱っている力がどういうものなのか正確に判断しようと努めるべきではないか?」
「ルナちゃん。自分が魔法使えないときは結構いろいろお姉ちゃんにさせてたみたいだけど、いざ自分ができるようになったら、急に慎重派になったよね?」
「実際にできるとなったら、いろいろと考えなければならないだろう」
「
「自己犠牲ってわけか……。私はそういう考えは嫌いだがな。もっと自分を大切にしろ」
ぶっきらぼうだが、優しい言葉をかけるルナ。
ユアもルナの真意がわかったのか何も言わなくなる。
「お姉さん、びっくりしちゃったよ。若い子は勢いがあっていいねぇ」
みのりだった。
空気を読んで絶妙なタイミングで割り込んでくる。
みのりは、ユアを捕まえるとギュっと抱きしめる。
だいたいこれでイオの場合はいちころである。
イオはおっぱいさえ与えておけばおとなしくなる。究極のちょろさだ。
だが、姉妹であってもユアの場合は当然違う。
ユアはその場から逃れようとジタバタした。
「む。ユアちゃんには効かないか」
「おっぱいお化け……」
ぼそりと呟かれた言葉に一瞬たじろいだが、みのりはその場でひざまずいて視線を合わせた。
「ユアちゃんはお姉ちゃんのために、いろいろしたかったんだよね」
「うん……そうだよ」
「ユアちゃんが二番目に魔法をうまく使えるもんね」
「うん」
「でも、ユアちゃんが魔法で失敗したら、イオちゃんも心配すると思うな」
「心配しましたよ。本当に……」
イオも追随する。
「ううっ……うん……わかった。ごめんなさい」
「ユアちゃんは謝れてえらいね」
ヨシヨシするみのり。
こうして、ユアはあっさりと陥落した。
イオはやっぱりおっぱいの力は偉大だなと思うのであった。
☆
みんなして、部室の中に戻ってきた。
ヒャドのかき氷を食べて、人心地つく。
「ユアのことは置いておくとしても、魔法の普及にはシビアなコントロールが必要なのは確かだな。魔法が誰でも気軽に使えるというのはイオのためにも必須だが――、逆に誰でも気軽にという状況が人類を滅ぼしかねない」
「フールプルーフの思想からすると、大丈夫そうじゃないですか」
なにしろ神の抑制である。
無条件に信じるわけにはいかないが、MPと使える魔法の幅の逆相関関係だけでもかなりのところ抑制できるだろう。
「確かに魔法はなんらかの抑制が働いているようだが――、悪意のあるやつは弾いておきたいな。わざわざ自分から敵に塩を送る必要もないだろう」
「マホアゲルの前に
理呼子が提案する。
インパスは対象の害意を判断する魔法だ。最近ではスラリンに対してインパスを使っている。
害意があるなら赤、害意がないなら青く光る呪文で、これ以上ない選別方法になる。ただ、そのときだけたまたま腹をたてていたとか、心のなかの10%程度嫌いだったとかの場合にどうなるのかはわからない。ビッグデータが必要であろう。
「悪くはないかもしれんな。ただ、家族や親族間で処置がなされるだろうから、インパスをわざわざ使うかと言われるとどうにもな……」
「魔法処置施設みたいなところを作って、そこだけでしか魔法供与できないってことにするのはどう? 免許制みたいな感じで」とみのり。
「なるほど、ついでに魔法覚醒者を登録しておくってわけだな。登録していない魔法使いが現れた場合は、罰則を科すこともできるし一石二鳥かもしれん」
「それでも、モグリの魔法使いはでてくるかもしれないけど、よっぽど悪質なやつはイオちゃんに永久マホトーンしてもらったらいいんだよ」と理呼子。
「それも闇マホリー師とか出てくるかもしれんがな。だいぶん抑止力にはなるかもしれんな」
「魔法のエリートを集めた魔法警備隊を結成したらいいんだよ」とユア。
「なんらかの警察組織は必要かもな。あまりやりすぎると強権的だと言われそうだが」
その後も意見はぞろぞろと出てくる。
だいたいの形が固まったところで、ルナがレポートにまとめて星宮マリアに提出するのだ。
もちろん、大人たちは大人たちで考えているし、検討に検討を重ねたうえでの魔法の普及ということになっていくだろうが――、そのスピードは案外速いかもしれない。
イオは魔法が広がるのは悪い気がしない。
ルナにも前に言われたことがあるが、チート能力を誰もが使えるようになったとして惜しくないのかというと、まったくそんなことはない。
神によって、イオのMPは全人類が魔法を使えたとしても非常識なことになっているが、その根本的な思想は今も昔も変わらない。魔法でちょっぴり便利になって、できることが増えたらいいな程度のものだ。
その過程で誰かに感謝されるのなら嬉しかったし、逆に人類を救ってやろうなんてことも考えていない。人類を救うのはみんなでやればいい。友人たちが魔法について真剣に議論するのを見て、イオは肩の荷が下りたように感じたのだ。いくら前世があると思っても、天才少女たちに比べれば、あくまで一般人の感覚。それも孤独のうちに過ごしてきた経験値はあまり役に立たない。
世界とか社会とか言われてもよくわからないのだ。
だから、イオの願いはどこまでいっても個人的で素朴なものである。
「ねえ。みなさん」
不意にイオは唇を開いた。
みんなが一斉にイオを見る。
「みんなで編隊飛行してみませんか」
「トベルーラを使ってか?」
「そうです。もちろん、許可をとってですけどできませんでしょうか」
「ちょっと待ってろ。聞いてみる」
ルナがスマホでマリアに電話をかけ、マリアから戸三郎。関係各位に聞く。
それだけで一時間ほどかかってしまったが、結論としては可能ということだった。
魔法にもデモンストレーションが必要になる。
イオのイメージ向上と同じ論理で、魔法をみんなが使える世界というのをイメージさせる。
それは希望にあふれた未来であると思い描けなければならない。
だから大人たちにとっても悪くない提案だったのである。
それに実をいうと、魔法がイオ以外にも使えたという報に大人たちは沸いていた。
子どもたちのあげた実績にご褒美が必要だという考えもあったのかもしれない。
☆
「ねえ。イオちゃん」
みのりが恥ずかしそうに顔を紅く染めていた。
「ん。なんです?」
「この服は中学生にはちょっと……」
みのりがいま装着している服は、イオがモシャスで変化させた魔法少女のそれであった。イオが普段変身している魔法少女服の色違いで、イオがピンクだとすれば色は紫を基調としている。
イオの魔法少女服はもともとは理呼子がデザインしたものであり、フリルとかリボンが多量に含まれたファンシーなものである。当然、いまみのりが着ているのも同じようなものである。
ただ一点異なるところがある。なんだかやたらと胸が強調されているデザインだ。妄想の中で中学生男子あたりがするであろうエロい魔法少女の服装であった。
なんだか清純派AVみたいな矛盾した概念を内包している。もちろん、イオの趣味だった。
イオは鼻息を荒くした。
「とてもよく似合ってると思います」
「中学生にもなって魔法少女の恰好するのは、お姉さん恥ずかしいかな」
「大丈夫ですよ。私もやったんですからね……」
魔法少女姿は配信のときのノーマルな服装だ。
それだけでなく、水着姿やらスパッツやらいろいろと世間にお披露目しちゃっている。
「お姉さん。同調圧力はよくないと思うな」
「案外やってみると気持ちいいものですよ」
「そうかなぁ……、あと、この服装だと悪堕ちした魔法少女みたいになってない?」
「みのりさんのお胸様はどこからどう見ても正義そのものです!」
「イオちゃんみたいにかわいい小学生ならいいと思うんだけどね」
「背格好を小学生程度に変えたほうがいいってことですか」
「違うよ。小学生でこんなはしたない服を着ていたらそれはそれで危ない子だよ。これじゃ、編隊飛行じゃなくて変態飛行だよ」
「じゃあどうすればいいんですか」
「もっとおとなしめな服にしてよ」
「みのりさん、これデモンストレーションなんですって」
イオはにっこりと笑って伝えた。
「ん? だから」
「ベースの服はいっしょにしておく必要があるんですよ。そのほうが見栄えがいいですし」
「私だけ絶対浮いているって~」
「大丈夫です。みんな
実際のところ、トベルーラで飛ぶのだから当然だ。無慈悲。
「みんな準備できたか?」
ルナは黄色。
「できてるよー」
ユアは白。
「問題ないよ」
理呼子は緑色。
パンツの色のことではない。服のベース色の話である。
それぞれベースとなる色は異なるものの、みんな小学生らしく魔法少女の服装がよく似合っている。
ただ、少し恥ずかしいのは実のところみのりだけではなく理呼子もだった。理呼子はかわいいのを見るのは好きだったが自分で着るのはちょっと恥ずかしかった。はっきり言えば、プリキュアの対象年齢はせいぜい小学校低学年程度であり、そろそろ卒業どころかなと思っている。
けれど、イオに着せておいて、自分は着ないというのもズルいと思い言い出せない。言ってみれば、かわいい服をかわいい女の子に着せるというのは、別腹だったのだ。
ルナは外国出身のせいもあってか、自分が着ている服がプリキュアみたいな感じなのはわかっていたが、日本の少女はこういうのが好きなのかと考えていた。かわいいとかかわいくないとかはよくわからないし、あまり興味もない。
ユアはこういう服を着ることにあまり頓着はしない。そもそも姉であるイオが同じ服を着ているのに恥ずかしさを感じる意味がない。
かくして、魔法クラブは魔法少女戦隊へと変貌を遂げた。
イオ以外の各人は目元を隠す仮面を装着することが義務づけられている。
イオの場合はもはや意味がないので、最初から丸出しである。
ルナも本当は必要ないのだが、プライバシーへの配慮だろうという判断だ。
「さて、いきましょう。ユアの魔法力からすると30分くらいが限度ですかね」
「そうだろうな」
全員が一斉に
あまりスピードは出しすぎない。高度にも注意。イオが初めに魔法を世の中に示したときとは異なり、いろいろな制約がついている。
けれど、今は傍らに友達がいた。
イオがすぐ隣を見ると、理呼子がほほ笑む。
目元が仮面で隠れていても、その優しさは隠すことができない。
その日――。
都内某所のスクランブル交差点では、なぜか慌ただしく交通整理がされていた。
たまたまそこを通りかかった一般人が人の山にぶつかる。
「なんだなんだ。いったい何があるんだ?」
「これから三分後くらいに政府関係のデモンストレーションが一分ほどあるんだと」
隣にいた知り合いでもなんでもない人が教えてくれた。
「へえ。わざわざそれだけのために交通止めるとか国も暇だな」
そして急にざわめきが大きくなる。
「え、なに空に」「人影?」「またイオちゃん?」「いや五人いるぞ」「どういうこと?」
五人の人影のうちひとりはイオだ。
いつもと同じピンク色の魔法少女服を着て、にこやかに手を振っている。
滞空するように狭い空の中をくるくると飛び回り、徐々に高度を落としている。
「あ、イオちゃんだ」「イオちゃーん!」「あれ、でも残り四人なんなん?」「小学生くらいかな」「すげーおっぱい」「金髪がルナちゃんで、銀髪のショートボブがユアちゃんかな」「おっぱいさんは誰なんだよ」「ご学友ではないな」
やがて、編隊飛行をしていた彼女たちはバラバラに散開しはじめる。
――終わりか?
そう思ったのもつかの間。
五人少女たちは、それぞれ空の向こうへ飛びたちながら、指先を後方へ向けた。
「イオ!」
ドパン! ドパン!
置きみやげとばかりに、
誰もが理解した。
彼女たちは魔法を使っている、と。
そして敏いもの達は、先日発売された新作ドラクエのマホアゲルが成功したと悟った。
観客の間に、じわじわと感動が広がっていく。最初は緩やかに次第に強く。
「魔法が広がるぞ」「オレも使えるようになるのかな」「おっぱいさんが誰なのか気になる」「撮影できた? おまえ」「オレも30にして魔法少女になる日が来たか」
この国に。この世界に。
祝砲はすでに撃ち放たれている。
魔法は産声をあげている。
まるで嵐のように沸いた。本当に嵐のように。
魔法の普及については、免許制あたりが妥当だと思ってるんですがどうでしょうかね。
作者の力量的にはかなりシビアなところに手を突っ込んでおりますんで、皆さまのお力をください。
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