ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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二学期のはじまり。ついでに自由研究。

 二学期になった。

 

 今年の夏休みはイオちゃんズランドに行ったくらいで、あとはほとんど魔法の実験をしていた記憶しかない。できれば夏祭りくらいには行きたかったけれど、わたしの容姿は目立つ。夜の花火なら、このはぐれメタルのような銀髪も色合いがだいぶん抑えられるとは思うけど、まともに花火鑑賞とかできるとも思えない。

 

 だったらモシャスすればいいだろって言われるかもしれないけど、それはあんまりやりたくない。たぶん、来年か再来年になれば、魔法がいまよりも広まってわたしの役割も終わり、夏祭りくらいには行けるようになるんじゃないかと思ってるんだけどどうなんだろうな。甘い目論見だろうか。

 

 魔法の実験はうまくいってる面もあればうまくいってない面もある。

 

 うまくいってるのはバラモスエビル――エビちゃんって呼んでるんだけど、彼が案外いい人? だったことだな。いつもわたしにふしぎなきのみを渡してくれる気のいいおっちゃんだ。

 

 ただなんかビクビクしてるんだよな。これはあれだ。小学生に通報されるのを恐れている中年男性みたいな感じだ。防犯ブザーに手をかけてほらほら社会的に終わっちゃうよとか言われたら誰だって怖い。わたしだって怖い。あるいは召喚主ってもしかしたらご主人さまなのかもしれないから、畏敬の念を抱かれちゃってるのかもしれないな。ふふふ。イオちゃんご主人様になるの巻。

 

 ただ、エビちゃんはいつもキョドってるし、すぐに「おなか痛い。うんこ漏れる」とか言って、すぐ元いた世界に帰ろうとするんだよな。男って年齢行くとお腹が緩くなるって聞くし、彼もそうなのかもしれない。

 けっこうデカい体型だから人間用のトイレでは難しそうだし、エビちゃんにも羞恥心がありそうだから、衆人環視のなかであんまり長くいさせると悪いかなと思って用が済んだらすぐに帰ってもらってる。

 

 できうる限りの笑顔で「毎度毎度悪いね」って言ったら、「イオ様にお慈悲を賜っている非才の身といたしましては」みたいな感じで、長い口上が始まるので、ほんとご主人様想いのいいやつだよ。

 

 そんなこんなで、ふしぎなきのみはだいぶん溜まった。一日一回くらいのペースで呼び出していたから、十個くらいだな。どうやって獲ってるのって聞いたら広大な時空の僻地をかけずりまわっていると、時々落ちていることがあるんだと。もしかしたらどこかに魔法樹みたいなものがあるのかもしれないけれど、それは結局エビちゃんも知らなかった。

 

 最後あたりはブラック会社に勤めている従業員みたいな感じで、ヘロヘロになっていたから、ベホイミをかけて、がんばれがんばれって応援してあげた。なんだか泣きそうな顔になってたけれど、優しいご主人様に想われて彼もうれしかったんだろう。

 

 ちなみに、ふしぎなきのみはクルミみたいな姿をしているんだけど、即ポリしたところ味はクソまずかった。いくらMPあげるためとはいえ、あんなのたくさんは食べたくない。政府連中は生来的にかしこさが低い人に食べさせて高等魔法を連発させたいんだろうけど――、あれを何百個も食べるのはちょっと嫌だな。

 

 あとは――。

 エビちゃんと並行して、他のモンスターも召喚してみたよ。魔王っぽいエビちゃんとわりとパーフェクトコミュニケーションとれてるっぽいんで、大丈夫だと判断されたんだろう。

 

 ステータスがあがる貴重な種を持ってるやつらは他にもいろいろいるが、上の連中が欲しがったのは、"しあわせのくつ"だ。

 

 このアイテムはドラクエをプレイしている人は知っていると思うけど、一歩歩くごとに一経験値があがるという破格のアイテムだ。つまり歩くだけでレベルアップができる。わたしの信条としてはモンスターであっても、ただそれだけを理由に殺したくはないし、できればみんな仲良くハッピーシュガーライフを送ってほしいと思っているので、モンスターを殺さずに経験値を得られる方法は悪くなかった。それでその靴は、はぐれメタルっていって、スライムを銀色にしてつぶしたようなモンスターが持っている。

 

 ただ、はぐれメタルは何を考えているかわからないスライム顔だったし、スラリンのように人語も話さないのか話せないのか、ともかく召喚されたはぐれメタルは魔法陣から出現したあと、あっという間に逃亡して大変だったんだ。

 

 そう、はぐれメタルは逃げる。しかも超高速で。

 こいつは全モンスターの中でも破格の経験値のカタマリなんだよな。

 なので、勇者連中からは狙われる。

 なので、ものすごく臆病でこわがり。

 エビちゃんもそれっぽいけど、生存本能的なレベルでの逃走って感じだ。しかも全モンスターの中でも屈指の素早さを誇る。残像が残るぐらいのスピードで床をすべるように移動する。音速を越えるほどではないが、人間に追えるスピードじゃない。

 

 そうして自由への疾走を試みたはぐれメタルは、液体のように小さな隙間から逃げ出したので、研究所内は騒然となったんだ。最終的にはわたしが探索呪文(レミラーマ)かけて見つけたあとに、移送呪文(オクルーラ)を使って、わたしの手元に転移させて確保した。感触は液体のように見えて、わりと粘性がある感じだ。あいもかわらず、わたしに触られまくっても、いつものスライム顔は変わらない。

 

 ここで疑問なのがどこにもってるんだろうってことだ。"しあわせのくつ"の話である。はぐれメタルはスライム系なので、腕も足も持っていない。それでいて話も通じない。

 

 見つめって、裏面とかを眺めすがめつしても宝箱とかが出てくるわけでもない。

 

 そもそもエビちゃんみたいに友好的かつ平和的に譲渡を受けることができないとなると、たぶん、体内にストレージみたいなものを持ってるんだろう。

 

 倒さないといけない。そうでなければ"しあわせのくつ"は手に入らない。

 だから、"しあわせのくつ"はあきらめるほかなかった。

 ついでに言えば、あわやモンスター脱走というところだったので、いったん魔物の召喚は中止ということになったのである。まあ、エビちゃんは別だけどな。ふしぎなきのみの量産体制が整うまでは彼にがんばってもらうほかない。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「おはようございます」

 

 学園の正門を抜けていく。ここは西に位置する場所で初等部の校舎に近い。

 したがって小学生が多い。ちらほらと道行く小学生たちは夏の間にこんがりと肌を焼いていたり、あるいはそのまま無垢な白い肌をさらしていたりと様々だ。

 

 わたしはトラマナのせいもあってか白い肌のままですけどね。

 

 生徒指導の先生がしばらくぶりに立っている。

 

「おはようございます」

 

「ああ、おはよう。最近は増殖していないようだな」

 

「そのネタまだ続いていたんですね……」

 

 ちなみにモシャスだがわりと高等呪文に位置するようで、平均的な数値だとどうやら使えないらしい。そのうち何人かは使える人がでてくるかもしれないけれど、いまはまだできる人はいない。すべてがイオになるみたいな世界は永遠に訪れそうにない。

 

 それにしても学園というのはやっぱり悪くない。

 長期間の夏休みのあとだからこそよくわかる。

 何度も通ってたじゃないかって? そうじゃないんだよなぁ。

 夏休み中の学校は、やっぱりどこか異世界めいていて、どこかよそよそしい感じがした。

 いまは児童たちの息遣いがある。学校が生きているって感じがする。

 その違いかな。

 

「おはようイオちゃん」

 

「おはようございます。理呼子ちゃん」

 

 教室に入ると理呼子ちゃんがいつものように挨拶してくれる。

 あれから――、一度も変わったことはなかったけれど、さすがに忘れたってことはないだろう。

 幼稚園児のころのことすら覚えてるくらいだからな。

 理呼子ちゃんはわたしの返事を待っていてくれている状態だ。

 それとも小学生らしいファジーな概念だったんだろうか。

 仲良くしたいって気持ちはもちろんわたしにもあるけれど。

 それが恋愛的な意味かと言われると、どうにもよくわからない。

 

「どうしたのイオちゃん。変な顔して。トイレいきたいの?」

 

「いや、なんでもありません」

 

 結論がでないと、何も答えられないヘタレなのでした。

 もしかして――、わたしの精神年齢は理呼子ちゃんよりも下なのかもな。

 積み重ねた年齢が機能していないというか。むしろ……。

 

――わたしの精神年齢って低すぎ!?

 

 精神年齢って実際のところ15歳くらいから変わってないみたいな話も聞くし、身体に引っ張られてみたいなTS的設定もよく聞くし、実際のところどうなんだろう。脳みそが若くなっているせいか、いろんな物事を柔軟に受け取れてる感じはするんだけどな。脳みそにスライム詰まってるんじゃないかって言われることもあるし。スライム柔らかいし。

 

 それからしばらくすると、ルナが眠たそうにあくびをしながら登校してきた。

 モンスター脱走未遂事件については、それなりに大ごとになったらしく、各方面への報告などやるべきことが満載だったようだ。

 もちろん並行して、ふしぎなきのみの増産方法を探っている。

 

「ルナちゃん、眠そうですね。覚醒呪文(ザメハ)しましょうか」

 

「頼む。ついでに、ベホイミもかけてくれ」

 

 なんだか、無理やりドーピングしているような気分になるけれども、魔法に副作用はないはずだ。ルナはわたしのザメハでシャキっとして、ベホイミで体力も回復した。

 

「助かった」

 

「いいえ」

 

 実をいうとルナ自身も魔法を使えるのであるが、クラスのみんなには内緒である。

 

 まあ……、ルナの容姿は知られているし、やってることもバレバレだから、いわゆる公然の秘密なんだがな。ちなみにマホアゲルの効力自体についてはすでに正式に発表済み。法律の公布と施行に向けて、さまざまな準備が進められている。――らしい。

 

「みなさん。おはようございます」

 

 約一か月ぶりにあった担任の安藤先生は、やっぱり色白でひょろ長いままだった。

 文学青年が、どこかでウェーイってはしゃいでいるイメージはないもんな。

 それでみんなには、定例であるところの言葉を投げかける。

 

「夏休みの宿題を提出してください」

 

 ちなみにぽんこつと呼ばれているわたしだが、夏休みの宿題に疎漏はない。

 

 小学生の課題なんて、夏休みの友とかいうちょっとだけ分厚いドリルに過ぎないし、コツコツやっていれば誰でも解ける。いくらわたしが魔法で忙しいからといって、子役の仕事と無数の習い事でデスマーチしていた頃に比べればずいぶん楽だし問題ない。

 

 読書感想文も、あらすじを九割くらい引用しておもしろかったです(小並感)とでも書いていれば大丈夫だ。

 

 あとは自由研究。

 

 これは、みんなバラバラだな。図画工作をしている子もいれば、絵日記を提出している子もいる。定番はあさがおの観察だろうか。

 

 これは物が大きいのもあるから、みんな先生の教壇にひとりひとり持っていく。他人に預けて壊れたりしたら、責任問題が生ずるからな。

 

 だからこちらのほうは時間がかかるみたいだ。

 みんなが作品を渡すまでの間、ちょっとした自由時間ができたようで、少しざわつきが大きくなる。先生もそこは許容しているようで、特に注意もしない。

 

 わたしも友人と雑談する。

 

「理呼子ちゃんは何を持ってきたんです」

 

「私はスイーツの研究かな」

 

 もちろん、食べるほうの研究ではなく作るのほうの研究だ。

 見せてもらったノートにはシュークリームやクッキー、チーズケーキなどのスイーツが並んでいる。結構な作成費用がかかったんじゃないだろうか。それにカロリーも……。

 

 見た感じ細身の身体だし、小学生は横の成長よりも縦の成長のほうが早いから大丈夫だとは思うが、ちょっぴり心配だ。

 

「イオちゃんに食べてもらおうと思って。イオちゃん甘いの好きでしょ」

 

「人並みにはですね」

 

 女の子って甘いのが好きという言説があるが――、答えは是であるとわたしは思う。

 

 ちなみにモシャスで甘味は出せなくはないけれど、べつのものを変化させて食べるのって結構勇気がいるし、わたし自身のイメージ力が足りなければおいしいものではなくなってしまう。ハラヘラズもわたしの魔法力を変換しているんだろうけど、これもねえ……なんか合成肉みたいなもので、べつに悪くはないんだけど、わたしがわたし自身を食べてるみたいで、なんかちょっと嫌なんだ。気分的な問題なんだけどね。

 

 たぶん、理呼子ちゃんはそこらの微妙な心理状態を読み取ってくれたんだろう。

 わざわざわたしのために、スイーツを研究して作ってくれるみたいだ。

 ほんと天使(結婚しよ)。

 

「ルナちゃんのほうは何を提出するんです」

 

「まあ、わたしも普通に日記だな」

 

 後ろの席にいるルナも自由帳をひらひらと見せる。

 

 受け取って中をパラパラとめくる。

 

 そこにはスクショした画面とか、謎のプログラミング言語ぽい計算式が数ページにわたれて書かれていた。次に現れたのはなんらかの記述。たぶんドイツ語だろうか。その隣は英語っぽい。併記しているから、たぶんいっしょのことが書かれているのか?

 

 日記じゃないような……なんだろうコレ。

 

「この計算式はいったいなんですか?」

 

「ん。かしこさと使える魔法についての一考察だな。ダモーレを使えば一発ではあるんだが、ハプロやらIQやら、遺伝子的な疾患の有無。口蓋や頭蓋のカタチなど……まあもろもろのデータを分析して事前にかしこさを算出できないか考えてみたんだ」

 

「へえ……それになんの意味が?」

 

「理論立てて考えるためだ。魔法といってもなんらかの根拠があるはずだろう。超ヒモが躍っているのか、なんらかの粒子が量子力学的なふるまいをしているのかは知らんがな」

 

「その結果がこの計算式なんですね」

 

「そうだ。的中率はだいたい68%前後くらいかな。まだまだだがデータ量が多くなれば精度も上がっていくだろう。それに従いかしこさがどうやって定められているのかもわかってくるだろう」

 

「ふぅん……」

 

 すごいんだろうけど、よくわからないというのが正直な感想だ。

 

 そもそも計算式なのにUSBとか使っちゃダメなんだろうか。

 

 デジタルなのかアナログなのかよくわからないぞ。

 

「前もってメールでプログラムを送ったら、紙で作り直すように言われてな。メンドウくさかったけど、ちゃんとやったんだぞ」

 

「えらいです」

 

 少しはさみで斬り損ねたのか、斜めってたりするのがご愛敬だ。

 なんかそういうところに八歳児要素を感じるわ。ほほえまー。

 

「ちなみに後ろのほうにある記述はなんなんです?」

 

「ん? さっき言ったとおりだぞ。イオ観察日記だ」

 

 そっちかい。

 まあ、ルナがわたしを観察するのは仕事みたいなものだし。特に驚きはないけれど。

 

「秘密のお話とかは大丈夫なんですか」

 

「もちろん、そういうのは省略している。せいぜい身長、体重、体温。その日食べたものが何か。その日身体のどこから洗ったのか。下着の色。この程度だな」

 

「ちょっと、なんで下着の色まで知ってるんですか」

 

「おまえのマネージャーが教えてくれたぞ」

 

「寺田さん……。いやそもそもなんで下着の色を知る必要があるんです」

 

「下着の色も精神状態に関係あるかもしれんだろうが。例えば、イオはまだ生理がきていないらしいが、そろそろ時期的には生理がきてもおかしくない」

 

「うう……ルナちゃん」

 

 なんかものすごい恥ずかしいことを言われている気がする。

 ルナ自身は淡々と、ごく真面目に科学的な考察をしているのかもしれないが。

 わたしとしては女の子要素をつまびらかに説明されているようで、恥ずかしい。

 クラスのみんなも聞き耳を立ててるかもしれないじゃないか。

 

「イオちゃんの下着……生理……」

 

 ほら、田中ぁ!

 

「ルナちゃん、自重してください」

 

「しかし……うーむ。わかった。それはいいとしてだ。ともかくイオの精神状態が不安定になったりして、うっかりマダンテとかが怖いからな。ないとは思うが念のためというやつだ」

 

「生理がきてもホイミで回復しますもん……」

 

「それもよくないかもしれんしなぁ。そもそも生理というのはだな――」

 

 こんなところで保健の授業を聞くことになるとは。

 わたしだってわかっちゃいるんだ。

 だてに女の子として10年間生きてきたわけじゃない。

 

 ただ覚悟が足りない。

 実際にその身に起こらない限り、むしろ想像の中の不安は膨らんでいくばかり。

 痛いのは嫌だし。ダメージを受けたくないのは人情だ。

 

 たとえそれが必要な生理現象であっても。

 

「イオが出産するとき――、痛みのあまりマダンテしたりするなよ」

 

「しません!」

 

 ルナは心配性だ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ところでイオの自由研究はなんだ?」

 

「あ、それ私も気になる」

 

「ふふふ、しかたないですね。みなさんにだけ特別にお見せしましょう」

 

 実を言うと、わたしも自由研究の対象は観察日記だ。

 

 物を作るより明らかに簡単だし、毎日コツコツするのはべつに嫌いじゃないしな。

 ちゃんとマメにやっていれば終わるというのが良い。ディモールト良い。

 ドラクエだって十分に装備とレベルを整えてからクリアするタイプだしな。

 RTAするときは違うけれども。遊びつくしてからの話だ。

 

 もちろん、やらかしなど存在しない。

 

 スラリン観察日記とか書いているんだろうと思ったそこのあなた。違います!

 わたしはそんなに馬鹿じゃない。かしこさは低いけれども、知能指数は平均値だし記憶力だって並程度はあるつもりだ。

 

 スラリンはいまだ秘匿された存在。真実は藪の中にある。

 

 確かにもうほぼバレてるけれども、ルナが魔法を使えるようになったのと同じく、公然の秘密ってやつだ。いずれはバラしていく必要があるんだろうけれども、いまはまだそのときじゃない。

 

 だからわたしは昔の相棒に出張ってもらうことにした。

 

 魔法クラブの部室の裏手にはちょうどいい日陰ポイントがたくさんあって、長年の勘でそいつに出会うことに成功するのは容易かったんだ。

 

「だ……ダンゴムシ観察日記」

 

「す、すごくその……個性的だね」

 

「幼稚舎のころからお世話になっていましたからね」

 

「今日はメラであぶってみましたとかじゃないよな」

 

 ルナが確認するように聞いた。

 

「なんですかそのサイコパスじみた残酷絵日記。ちゃんとした観察ですよ!」

 

「でも幼稚舎のころはそんな感じだったよね」

 

 理呼子ちゃんが容赦なく思い出にメスをいれてくる!

 

「あのですね。この観察日記はちゃんとしたいのちの絵日記なんですよ」

 

「ザキとザオリクで生と死を観察……」

 

「ちーがーいーまーす!」

 

 確かにしてたけど。確かにしてたけど。

 わたしだっていつまでも子どもじゃないんだ。

 

「どれ見せてみろ」

 

 ルナに言われるがままダンゴムシ観察日記を渡す。

 ぱらぱらと高速で読んでいく。ああ、そんな速読しないで。もっと味わって読んで。

 

「ふむ……、今日は丸くなっただとか、今日は動きがよかったとか。もうちょっと表現にバリエーションとか欲しい気もするが、なんというか悪くはないと思うぞ」

 

 おお、天才児に認められた。

 

「どこらへんがよかったですか」

 

「そうだな……。ダンゴムシに対する愛情は感じられたような気がする」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただ――」

 

「ただ?」

 

「最後から2ページ前にダンゴムシAにふしぎなきのみを与えてみたとか書かれているんだが。これはいったいどういうことだろうな」

 

 う……そんなこと書いていたか?

 マンネリを防ぐためになにかネタはないかと思っていたが、ダンゴムシは難易度が高かった。

 イベントが起こらない闇の大学生時代に匹敵するくらい何も起こらねえ。昆虫学者みたいにつぶさに観察する能力があれば違ったんだろうが、そういう能力も存在しない。

 

 だから、つい。

 

「えっと……その、おいしくなかったので」

 

 くだいたきのみをパラパラと虫籠のなかに入れてみたんだ。

 

「消せ」

 

「あの……ただのくるみだと思われるのでは?」

 

「イオちゃん。失敗したらちゃんと謝ろ? ダンゴムシさんも突然魔法が使えたりしたら困ると思うよ」

 

 理呼子ちゃんに言われてしまった。

 

「ごめんなさい」

 

 みんな聞こえているだろうけど空気を読んで聞かないふりをしてくれている。

 わたしは"ふしぎなきのみ"を"おおきなくるみ"に書き換えて提出したのでした。

 

 後日――、ダンゴムシAにダモーレしてみたら、MPが1/1となっていた。

 これってトリビアになりますかね?




二学期の立ち上がりはゆっくりです。
エビちゃんは搾取され続けます。
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