ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
魔法クラブの部室。
普段からわたしにベッタリのユアは子役のお仕事でおらず、ルナも"ふしぎなきのみ"をノミみたいな道具でゴリゴリ削っている。みのりさんは中学校の授業中で、理呼子ちゃんは水やり中。
つまり、みんなとノンコミュニケーション状態。でも沈黙が苦痛ではない。
いや、特になにをしているわけではないんだけど、このマッタリしているのが最高なんだ。
なにもしないという最高にぜいたくな時間の使い方。大人になったらなかなかできるものじゃない。
夏が終わり季節は秋へと移り変わろうとしている。
わたしはふわっと大きなあくびをした。
本当は、美少女で可憐なイオちゃんはあくびなんかしちゃいけないって思ってたけれど、みんなの前だったらべつにいいかなと思ってる。宗旨替えというかなんというか。ちなみに最近はメダパニもかけていません。演じる必要がなくなったからな。
それにしても眠い。
秋って春と対置的だから、なんとなく眠くなる季節だ。
フバーハで日差しや風を和らげているから問題ないとはいえ、過ごしやすい季節になってきたのは確かだし、斜めに走る日差しを浴びるとぽかぽかしてなんか眠たい。そのうち、風に冷たいものが混じり始めると、すぐに冬になるだろうけれど。
うとうとしながら視線をあげると、理呼子ちゃんが部屋の端っこにおいてある背の低いブックシェルフの上に置かれたミニ観葉植物に水をやっている。もちろん、手のひらから直接的に。
――
水がざばぁっと流れる様子から、本来は水浸しにしちゃうほどの呪文だけど、魔法力を絞って使えば、日常生活魔法に早変わりする。ジョウロや霧吹きなどを使う必要はない。ついでに言えば、生活用水も無料で使えたりするかもしれない。
ただ、理呼子ちゃんが魔法で水をやっているのは別に無精したかったからではない。
ふしぎなきのみを育てるためだ。なんとなく魔法で水やりしたほうがいいんじゃないかというのがその理由。
鉢の中からはまだ芽も出ていないけれど――。
周りを囲うように置いてある普通のミニ観葉植物は、べつにデコイにしているわけではなく、それなりに縁起ものが選ばれている。
まずは、砂漠にも生えるサボテン。
漢字で書くと覇王樹とも仙人掌とも呼ばれ、なんだかすごそうだ。
お次は生命力の強い竹のちいさいやつ。
ミリオンバンブーっていって、竹は長寿や開運にまつわるイメージだ。門松とか竹だしな。実をいうと厳密には竹じゃなくて、ドラセナって種類らしいけど、ドラセナの語源は
最後にガジュマル。マンドラゴラみたいな太い根っこが特徴的なやつで、精霊が宿るとされている。ドラクエにおいて精霊は神秘的な存在であるとともに、わりと勇者を導く神の亜種的な存在としても描かれている。ルビスという精霊にいたっては主神クラスというか……一応大地の精霊扱いだが、ドラクエの中では主役級のキャラクタだったりするしな。
ともかく、ドラクエに関わりが深そうなやつを適当にチョイスして配置しているってわけだ。
エビちゃんのおかげでストックは無限大にあるとはいえ、毎日呼ぶのも何か悪いしな。それに効率が悪いから、やっぱり量産体制ができてほしい。
魔法樹。あるいは精霊樹――できませんかねぇ。
できるとしても、相当な年月がかかりそうだけど。せめて芽だけれども出ればな。
理呼子ちゃんの優しさで、いずれは芽吹くことを願います。
「メラ焼きいも~。メラ焼きいもはいらんかね~」
少し遅れて入ってきたのはみのりさん。
手にはビニール袋。その中には宣言通り、メラで焼いた焼き芋が入っている。
「焼き芋ですか」
「そうだよ。乙女の大好物。焼き芋はスイーツなのだよ。イオちゃん」
はいと渡され、わたしは受け取る。
トラマナで防御された指先は、あちあちってなったりはしないから大丈夫だ。
アルミホイルで包まれた焼き芋を丁寧に剥いていく。
ほかほかの湯気がたち、香ばしい匂いがあたりにたちこめた。
「はい、ルナちゃんも」
「ん。すまんな」
まるで亭主関白な旦那さんみたいに、鷹揚に受け取るルナ。
トラマナを唱えるのを忘れていたのか、あちあちとなっている。
八歳児っぽい様子があいかわらずかわいらしい。
「はい。理呼子ちゃんも」
「ありがとうございます。みのりさん」
うん。理呼子ちゃんは掌にヒャドの冷気を薄く張ったな。
理呼子ちゃんの場合、トラマナでもよかったんだろうけど、あれでも数秒ほどで適温になるはずだ。みんなも真似してヒャドの冷気で思い思いに冷やしてから食べ始めた。
「うん。甘いですね」
わたしは小学生並みの感想を述べる。実際においしかったら語彙は減少していく傾向にあるよな。カニを食べるときとか無言になるし。
「おいしい」とか「うまい」とか言いながら、もぐもぐしている。
「秋っていろんなものがおいしい季節だから、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね」
みのりさんがお腹のあたりに手をあてて、つまむ動作をした。
うーん。わたしとしては栄養はそちらではなく、もう少し上部のほうに行ってると思うのだが。
ぷにんぷにんしてるキングスライムのような物体のほうに、エネルギーの偏りが見られますぞ。
「イオちゃん。そんなことないからね」
「え、いや、その……なんで思ってることわかるんです?」
「視線がやらしいからわかるよ」
「いやらしくないですよ。小学生らしい無垢なまなざしですよ!」
「かわいいのはわかるけど、無垢なのは疑問かなぁ~」
「こんなにも純粋なまなざしなのに……」
「じゃあ、私と視線を合わせてみて」
「わかりました」
ジッと見つめる。みのりさんの顔――。
じーーーーーーーーーーーーーーー。
なんだろう。この間は。
そして不意に感じる引力。ああっ!? なんだこの感触は。
視線が誘導される。みのりさんの顔の下にあるお胸様に惹きつけられる。
ダメだ。どうしようもない。
チラっ。
「ほらやっぱり」
「純粋に好きなだけなんです」
「まあ部分的にでも好かれるのは悪くないけどね」
「はい……えっちですみません」
でも、みのりさんのことは部分的にではなく全体的に好きだ。
みのりさんは中学生の女の子で、小学生と中学生の間には断絶ともいうべき壁があるように思う。小学校は本当に子どもって感じだけど、中学生は少しだけ大人って感じだ。
だから、みのりさんと友達になれたのは奇跡みたいなもので――。
いや、そういう逃げ口上をかまえるのはよくないな。
わたしみたいな陰キャにみのりさんみたいなかわいくておっぱいの大きな女の子が関わってくれるだけで宝くじの一等賞が当たるよりも貴重な体験と思わなければならない。
そんなことを考えるのも、みのりさんの誕生日が近いからだ。理呼子ちゃんに引き続き、家族以外の女の子にプレゼントを贈るイベント。正直なところ、うれしい……うれしい……。
全力で『礼』だ。
――贈らさせていただきありがとうございます。
と、感謝の念を持たねばならない
なにを贈るべきだろう。
「そういえば、秋っていえばさ。いろいろな言い方もあるよね」
みのりさんが玄妙なことを言う。
「スポーツの秋とか、芸術の秋とかのことですか?」
「そうだよ。そろそろ運動会の季節だよね」
「確かにそうですね」
「摂取したエネルギーは運動で発散しなきゃね。魔法を使って痩せられればよかったんだけど、どうも単に疲れるだけみたいだし」
「もしも魔法が普通の物理的エネルギーだったら、イオは宇宙並みにブクブク太ることになる」
ルナが恐ろしいことを言う。
魔法が脂肪だったら、わたしの脂肪は720兆みたいなことになるわけで、生きていけるわけがない。わたしはスラリとした小柄な体型ですよ。将来もスレンダー美少女になる予定です。おっぱいはまあ……べつにいいです。自分のはそんなに興味がないし。
「魔法は体型とは関係ないですからね。モシャスを使えば別でしょうが、バイキルトでは筋肉は増えたように見えませんし」
「イオちゃん。運動会で魔法使っちゃダメだよ」
みのりさんが諭すように言った。
「もちろんですとも」
わたしはポンと胸を叩いて答えた。さすがにわたしも例の忍者的な番組サ〇ケのときみたいに、ピオラやバイキルトで無双するつもりはない。
小学校の運動会で無双してドヤ顔するとか、なろう小説の主人公じゃないんだからさ……。
「でも、魔法が普及すればオリンピックの不正とかどう防止するんでしょうね」
「ダモーレを使えばいいだろう。スタートとゴール時のMPの差で不正したかどうかがわかる」
「スタート前に使ってたら?」
「ダモーレで最大MPであることを確認するか。インパスとかでも可能なんじゃないか。不正をしてやろうというのは大会に対する害意に相当するだろう」
「なるほど……」
「ついでに言えば、魔法が普及すれば魔法を使った大会も開かれるだろう」
「マホリンピックですね」
なんかのスレッドでそんなことが書かれていた記憶がある。
おもしろい言い方もあるもんだなと思ったけど、実際、ハリポタな感じで空を飛びまわってボールをとりあう遊びとか、水中の中でドッジボールみたいなサッカーみたいなことをしたりとか、いろいろできそうだよな。
純粋に人間の肉体のみでおこなう運動も悪くないし、魔法を使った運動も悪くない。
まあ、わたしの場合は、みんなが自転車なのにひとりだけロケットエンジン積んでるようなもので、マホリンピックでぶっちぎり優勝なのは見えているから参加すら拒まれるだろうけどな。
「みなさんは魔法は使わないんですか」
「うーん。そろそろデモンストレーション第二弾として使ってもいいとは思うんだがな。やはり、運動会で使うのはチートすぎるだろう。本来的な意味でのズルということだ」
「私もそう思うよ。みんなが全員魔法を使えるようになったら、魔法ありの競技があってもいいと思うけど」
ルナも理呼子ちゃんも使わない派か。
「私は中学生ではひとりだから、魔法を使ったら目立ちすぎるかな」
「一躍ヒロインになれますね」
「いやだよぉ。なんかわたし、ネットでおっぱいちゃんとか呼ばれてるらしいし」
「それはまあしかたないことかと」
大変稀有なものをお持ちですので。
おっぱい認証されちゃってもしかたないのだ。
「ともかく、私は使えないね。使う気もないし。基本は実力勝負が好きなんだよ」
「魔法も実力のうちだがな」とルナ。
「己の肉体で勝負するの」
「己の肉体……」
それって、すごくエッチな言葉に聞こえる。
ごくり……。勝負……。ごくり。
「イオちゃんってむっつりスケベだよね」
「そ、そんなことありませんよ。わたしは清純派です」
「じゃあもう、おっぱいは要らない?」
「要るに決まってるじゃないですか!」
「即答すぎるよ。でもまあ、どうぞ」
うわーい。
みのりさんの膝上に座り、背中をおっぱいに預ける。
はぁ……明日死んでもいいわ。
賢者タイムに入ったわたしは、わずかばかり冷静になった。
「運動会と言えば侵入者は大丈夫なんですかね」
父兄も参加する運動会。
当然、見知らぬ侵入者も侵入しやすい。
「チケット制にするつもりだ」ルナが言った。
「チケット制ですか。アイドルの握手会みたいな?」
「それに近いが……。事前に来る家族の人数を知らせてもらい住所登録されてるところにチケットを送る。チケットにはバーコードが印字されていて、入り口で検査するというような感じだ」
「でも、それだとチケット売られちゃいません?」
どっちが悪意かという話もあるけど、例えば転売厨がいたとして、家族は百人ですとか申告して、侵入したいやつに売りさばくとか。もちろん、それは極端すぎる例だけどありえない話ではない。
「バーコードを通すときに、本人確認すればいいだろ。血縁三親等までにしろとか。人数は生徒ひとりあたり五人までにするとか、いろいろやり方はある」
「あらかじめご家族・ご親族のデータ登録しておくんですね」
「そういうことだ」
大仰なことだけど、誘拐とかの可能性もあるからな。
それぐらいはしておいたほうがいいんだろうな。
ちなみに運動会はみのりさんの誕生日の後にある。
早急に協議すべきなのは、みのりさんへの誕生日プレゼントについてだ。
☆
闇の中――。
そこには四人の影がある。
と、そこに突如スポットライトのような光が灯った。
そこに指をくみ顎のあたりに乗せたイオが悠然と呟いた。
「諸君。みのりさんが授業を受けている一時間くらいの間に決めておきたい」
誕生日プレゼント。
なにが良いかという話し合いである。
もっとも――、各人が贈るということも考えられたのだが、そもそもユアは七歳児だし、みのりと付き合いだしたのもごく最近だ。ここはイオとセットにして贈るというのが常道に思われた。
ルナは八歳児ではあるが、大人に混じって仕事をしているため、ここは独立してプレゼントを贈ること自体はやぶさかではない。ただ、日本人の一般的感覚があるかといわれると甚だこころもとない。
理呼子は一般人だ。小学生らしくお小遣いはもらっているものの、中学生が満足するようなプレゼントを贈れるかよくわからなかった。
イオについては――魔法という特大級の力があるせいか、ついついそちらに頼りがちなところがある。また、一般的なプレゼントを買いに行くのはちょっと難しいかもしれない。モシャスで変化すれば可能だろうが、それはあまり好きではない。いざとなればするつもりだが、最終手段にしておきたい。
つまり、みんなそれぞれ欠けた部分が存在していた。だからこそ話し合いに意味があった。
「みのりさんってピアニストなんだよね。なんかピアノにまつわるグッズを贈るのがいいんじゃないかな?」
ユアが言った。
あまり接したことがないがゆえに、わりといい線をついている。
「確かにそのとおりです。さすユアですね」イオが褒める。
「えへへ。かしこい妹ですいませんねー」
ユアもお調子者である。わりと似たもの姉妹なのだ。
「みんなでひとつのものを贈ったほうがいいのかな」
理呼子として最初にその点を決めるべきだと思っていた。
みんながバラバラに贈る場合、一般小学生である理呼子は資金的に厳しくなってくる。
イオやルナがありあまる財力で、スタインウェイのピアノとかを贈っているのに、自分ひとりだけかわいらしいペンシルを贈りましただと恰好がつかない。あるいはイオも理呼子に遠慮して出し渋ってしまうだろう。
まあ――もともと程度という問題はある。もしもスタインウェイのピアノを贈るとかなったら、寄贈とかそういうレベルだ。個人に贈るにはあまりにも高額すぎる。
やりすぎというのは、どんな場合でもたいていよくない。たとえ、イオやルナが国家的なプロジェクトにかかわっており、秒速で億を稼げるとしてもである。
理呼子はそのあたりを一般的な感覚に落とし込めたらと思っている。みのりも一般人なのだから、一番感性的に近いのは理呼子のはずなのだ。
「みんなでひとつのものでいいだろう。理呼子の時は時間がなくて後からお祝い金を100万円ほど贈ろうとしたのだが、すげなく断られてしまったのでな……。やはりタイミングというものはあるのだ」
「タイミングの問題じゃないよ、ルナちゃん……」
「ともかく、ひとり一個だと浮いてしまう可能性があるからな。みんなでひとつのほうがいいだろう。理呼子のときもみんなでお祝いしたという感じで考えたい」
あのときはイオがひとりでがんばってしまったが、お祝い自体はみんなでした。
その、みんなでしたというところに着目して、理呼子のときと同じようにみんなでひとつのお祝いをするというふうに考えるというのが、ルナの考えだった。
みんな同じというのは、個人主義のルナにとっては異端の考えではある。あるいは幼稚とも。
ただ、ルナも日本式の考え方にわずかばかり感化されてきたということであろう。
「さすがルナちゃんですね。みのりさんのことだけでなく理呼子ちゃんのことも考えるとは」
「ルナちゃんありがとうね」理呼子も感謝を述べた。
ルナが少しばかりほっぺたを赤くする。照れているようだ。
「ねえ、お姉ちゃん」ユアが言った。「理呼子ちゃんには何を贈ったの?」
「あれ? そういえばユアは知らないんでしたっけ。巨大なケーキです」
「魔法を使って大きくしたの?」
「そうですけど? 厳密にはお菓子の家を作りました」
「えー、ズルい。ユアにも作ってよ」
「べつにいいですけど、建てる場所がないですしね。イオちゃんズランドは接収されてしまいましたし、どこかほかの無人島をお借りするしかないですね。いますぐ作るのは難しそうですね」
ぷくう。お餅のようにユアのほっぺたが膨らんでいく。
「ユアちゃん。わたしのときは、時間がなくてケーキの生地がなかったんだって、いっぱい準備すれば、ケーキの家とか、ユアちゃんが好きなお菓子の家をつくってもらえるよ」
理呼子がお姉さん的発言をする。
「うん。そうするね」
すぐにはじけるような笑顔になるのだった。ちなみにユアの誕生日は12月23日。イオの一日違いである。
「あのさ~」再びユアが口を開いた。「魔法でプレゼントしたんなら同じように魔法でプレゼントがいいんじゃないかな」
「道理だな」ルナが同意する。
「まあそれはいいかもしれないけど、魔法だとイオちゃんひとりの力になっちゃわないかな」
理呼子は懸念を述べた。
「みんなの合作的なものにしたほうがいいってことですよね……」
「できれば、その……なんというか常識的なやつがいいと思うよ。あ、お菓子のお家がダメだったとかそういうんじゃなくてね」
「みんなでひとつ。魔法のちから。あまりおおげさにならない。うーん」
「それとピアノに関するものだよ、お姉ちゃん」
「そうでした。ひとつ入力するとひとつ忘れちゃいますよね。ははは……」
「お姉ちゃん。セリフ覚えるの苦手だもんね」
「うう。ユアが厳しいです」
「厳しくないよ。普通だよ」
そんなわけで、軽めのイオ虐がなされつつ会議は終息するのであった。
☆
後日――。
みのりが小走りに中等部を横切り初等部のエリアへ。
そこからさらに西のはずれに行けば、魔法クラブの部室だ。
「ごめーん。遅くなったよー」
開かなかった。
「あれ? だれもいないのかな。そんなはずないと思うけど」
「マホステ」
扉の中からちいさくイオの声が聞こえてきた。
みのりは魔法のバリアに包まれた。
「イオちゃんどうしたの?」
ガチャリ。
突然、鍵が開く音がした。
他愛ないいたずらにほほえみながら、みのりがドアを開け放つ。
「もー、イオちゃん……ったら」
そこには闇。
まったき暗黒の空間が広がっていた。
ドアの先には黒一色の空間で塗りつぶされている。
「え?」
当然の反応をし、みのりは背後を見た。
後ろには普通の光景が広がっている。
再び視線を闇に戻す。まるで吸い込まれてしまいそうな底なしの黒。
本能的な恐怖を抱くみのり。
状況的には、魔法実験の何かで失敗したのか。
それとも異次元との扉がつながってしまったのか。
実はこの空間――闇属性の魔法ドルマの応用である。
ドルマを部屋の中いっぱいまで広げて、マホカンタで壁を覆った。
一応は攻撃魔法なので、マホステで防御させてダメージを与えないようにしている。
「こっちにおいでよ」
ユアの声であった。
どうやらいたずらが続いているだけのようだ。
みのりは安心し、もう一歩踏み出した。
瞬間――。パっと広がる光の世界。
ドルマの解除によって、日の光があたりを照らし出す。
「おめでとうございます。みのりさん」
クラッカーの音が鳴り響き、ついで拍手が広がった。
「えー、ありがとう!」
「これ、みんなで考えたプレゼントです」
イオが代表してプレゼントを渡してきた。
小さな紙袋に入っている。なんだろう。
「開けていい?」
「もちろんです」
そこに入っていたのは――。どこにでも売ってありそうな電子カイロだ。
「これから先、寒くなっていくと指先が動かなくなるって聞きました」
「うわぁ。ありがとう」
普通である。
だが、この普通さは――理呼子の努力によって成り立っていた。
握ってみると既に暖かい。
え、既に?
なぜ充電前なのに暖かいのか。
その答えはすぐにわかる。
「その電子カイロは
「充電が不要って、イオちゃんの魔法で?」
「無論そうだが」
「中にメラが入っているとか?」
みのりが思い描くのは火力発電所での出来事だ。
今もずっとメラゾーマが燃え続けている。仮に外郭をマホカンタかマホステで覆えば可能ではあるかもしれない。
「メラでもよかったんだが汎用性がないからな。ライデインによる魔法電池を完成させたんだ。使用年数は理論上一万と二千年ほど。世界に売り出すといろいろと問題が生じそうなのでまだ売れそうにないがな」
「へ、へえ……」
ぜんぜん普通じゃなかった。
しかし、ライデインが内包されているとか、いつか壊れてバチバチなりそうで考えると怖い。
「もちろん魔法電池の外郭はアストロンで覆っているから破壊は不可能だ。耐用年数はアストロンが切れる一万二千年後。もちろん、同時にライデインも切れるから安全性はバッチリ。どうだすごいだろう」
ルナがエビのように胸をそらす。
どうやら実験ができてご満悦のようである。
「じゃあ、これずっと使えるの?」
「そうです」
イオは満面の笑みを浮かべていた。
みのりも微笑みを返す。
手元から伝わるじんわりとした温かさ。
みんなの優しい想いが伝わってくる。
そしてそれは一万と二千年の長きにわたり消えることはないのだ。
おそらく友情は永遠に――。
一番がんばったのは理呼子かもしれない