ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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好美の顛末。ついでに、ばあちゃんと遊ぶ。

 いとこの好美になにげなくマホアゲルをしたら、わたしの魔法覚醒処置には回数制限がないことが判明してしまった。

 

 ルナの実験が甘かったと言われればそうだろう。わたしが知らなかったのは、ルナから三回までだったと知らされたためで、わたしもみんなも固定観念に囚われていたからだ。三回だよ三回。違うのかよ。神さまぁ。

 

 これの何が問題かというと……、えっと何が問題なんだろう。

 イオちゃんの明晰な頭脳が答えを導きだすのにかかる時間は約三分です。好美はメラとかヒャドで遊んでいるので放っておくのだ。ああ、ふたつを合成しようとしないで。あぶなっ。

 

 なんとか好美を制しながら三分間かんがえた。

 

 まずは、モグリの魔法使いができちゃったことが問題だな。

 

 好美はわりと魔法に対する忌避感がないようだから、友人とかにどんどん魔法を広めちゃって、せっかくの国が管理するという計画が瓦解しかねない。

 

 ルナやみのりやママンあたりが広めた人たちはたぶん国の偉い人ポジションだろうから、たぶん厳格に制限を守っているだろう。

 

 もうひとつは――、

 

 また人がたくさん来るかもしれない。

 

 わたしを説得できれば国はどうであれ、自分だけは魔法を使えるという無理が通ってしまう。

 だったら、登下校中にでもわたしに押しかけてみたいなこともできちゃったりするわけだ。

 

 前に病気を治してほしいって人たちが来てたけど、そのときは治らなかったし、治らなかったことを広報したら徐々に数は減っていった。ザキとザオリクを同時行使しているので厳密には死んでいるかもしれなくて、本能的な恐怖も制限がかかった理由だろう。

 

 けれど、マホアゲルは違う。

 

 魔法が使えることそのものに忌避のこころを抱く人は少ないだろう。時を操ったり、生と死を操るところまでいくと、怖いって人もいるかもしれないけれど、ルーラで登校することや空を飛んだりすることを怖がる人は稀かな。

 

 だから、みんなに先んじて自分だけは魔法を使いたいって人が来る確率はかなり高いかもしれない。魔法が免許制になることは既に広報されているし、確実にメラ程度は使えるようになるけれども、ちょっとでも早く使いたいって人が出てこないとも限らない。その少数派が0.01%くらいしかいなくても、わたしのところには山ほど人が来るってわけだな。ママンはそれを恐れている。

 

 最後にひとつ。これが一番の問題かもしれないけれど……。

 わたしが故意に約束を破ったと誤解される可能性がある。

 

――わたし、悪い子になっちゃう。

 

 そう、これが一番の問題だ。魔王だと思われるのはべつにいい。人から恐れられるのも幾分か慣れた。けれど、人でなしと思われるのは嫌だ。特に身内にそう思われるのはツライ。

 

 わたしはサーっと血の気が引くのを感じた。

 

「好美さん。マホアゲルについてなんですが三回の回数制限があるんです」

 

「いとこちゃん、できたじゃん」

 

「そんな微妙にヒップホップみたいな言い回しをされましても……」

 

「マホアゲルをしてあげるってね」

 

 好美はさっきから、メラでお手玉をしていた。

 なかなかに器用だ。魔法にはイメージが大事であり、かしこさの値によって神の制限がかかっている。これは結構、かしこさの値が低そうな気がする。

 

「好美さん。魔法については厳格な縛りがあるんです。おいそれと使っちゃダメなんですよ!」

 

「いとこちゃん。容赦なく使いまくってるじゃん」

 

「それはそうなんですが……、いま、がんばって国の方とかお母さまが調整中なんですよ。お願いですから他の人にマホアゲルを使ったりしないでください」

 

「わかってるよ。私も馬鹿じゃないからね」

 

「本当でしょうか」

 

「あ、言ったなー」

 

 好美にほっぺを伸ばされる。

 そんなほほえましいことをしている場合じゃないんだが。

 

「よしみさん。やめめくだふぁい」

 

「あはは。いとこちゃん。かわいい」

 

「好美さーん!」

 

 ともかく、好美をばあちゃんのところにどうにかこうにか連れて行くことにした。

 わたしのところでとどめておいたら、何をするかわからない怖さがある。

 

 あれ、これってもしかして、わたしに対するママンのイメージと似てたりするんか?

 

 

 

 ☆

 

 

 

「話はわかりました」

 

 あいもかわらず、うちのばあちゃんはお美しかった。

 畳の上に、静かに気配を消して座り、瞳を閉じたまま、わたしの弁明を聞いてくれた。

 隣に座っている好美も、ばあちゃんの前ではさすがにおとなしい。

 

 閉じられていた(まぶた)がゆっくりと開く。

 長いまつ毛が花開くように押し広げられていく。

 視線に射すくめられるとは、このことを言うのだろう。

 わたしがよこしまなことを考えていないか、見極めてようとしているのだと思う。

 

「軽々に魔法を使ったという過失はあるものの、故意がないというのなら、イオを責めるのも筋違いというものでしょう。マリアには私から言っておきます」

 

「お母さまは責められたりしないですよね?」

 

「マリアだけの責任でもありません。魔法の取り扱いについては多くの方々が少しずつ責任を分担しているのです。会社とは――国とは――そういうものです」

 

 わたしは黙って頭を下げるほかない。

 自分のためにたくさんの人が動いてくれている。

 

「それと、好美」

 

「はい」

 

「あなたの魔法力はどの程度なのか、イオに調べてもらいなさい」

 

「あ、はーい」

 

 閲覧呪文(ダモーレ)をしろってことか。

 好美と視線をあわせる。他人のステータスを勝手に覗き見るのは失礼にあたるだろうけれども、この場合はやむを得ない。速やかに呪文を唱える。

 

「29ですね」

 

 ひっくいな。いままで百人近くの人のステータスを見てきたけど、現代人の平均値は100程度だよ。IQに近い数値だから誤解されそうだけど、必ずしも知的水準ではないのはまちがいない。

 

「えー、29って少なくない? うちの高校だと赤点だよ」

 

 好美は不満げな顔を隠そうともしない。そうだよな。かしこさが低いとこころにクるものがあるよな。わたしにも経験があるからわかるわ。ここはフォローをしておこう。

 

「逆に使える魔法は増えるんですよ。可能性は無限大です」

 

「そうか、伸びしろがあるってことなんだ」

 

 好美が一転、うれしそうな顔になる。

 

「そういうことです」

 

「ねえねえ。いとこちゃん。ふしぎなきのみって持ってる?」

 

「ええ……」

 

 持ってるけど。

 持ってるけど、それは一番ヤバいパターンなのでは?

 極大魔法は、地形が変わったりするレベルだからな。

 それをポンポン撃てたりすると、地球が壊れちゃう。

 

「好美。イオを強請るのはやめなさい」

 

「はーい」

 

 好美は世渡りがうまい。

 ばあちゃんに逆らうこともなく、すぐに素直に答えた。

 でも、この調子だとカンタンに魔法を使いそうだな。

 案外、怒られないようにこの場で言いつくろってる可能性もある。

 

「好美さん。魔法を使うのはわたしがどうこう言える立場にないですが、魔法を使えることがバレますと、誘拐や人だかりができたりする可能性があります」

 

「それはちょっと嫌かもねー。友達とファミレスで駄弁ったりもできなくなっちゃう?」

 

「その可能性もありますね。あと少しで魔法が一般公開されます。それまで魔法をお使いになるのは控えたほうがいいと思いますよ」

 

 好美は微妙な顔になっていた。

 魔法は使いたい。けれど、日常生活は送りたいという両方の願いを叶える方法はない。

 現実世界は異世界みたいにシンプルにできてないんだよ。

 なろう小説みたいに、魔法が使えてすごいすごいってだけにはならないんだ。

 わたしも使ってみて初めて知ったことなんですけどね。

 

「えー。レムオルとかモシャスで変装すればなんとかならないかな」

 

「なんとかなる可能性は高いですが……、好美さんが通ってらっしゃる高校ではひとりだけ魔法が使えることになるんですから、人の口を介して必ず噂になりますよ」

 

「だったら、みんなに一斉にマホアゲルして私以外も使えるようにしたらいいんじゃないかな」

 

「それだと、社会に混乱が広がるわけです」

 

「じゃあ、謎の追加魔法戦士がひとり増えたことにすればいいんじゃないかな」

 

 そのとき殺気にも似た視線が降りてくる。

 言うまでもなく、ばあちゃんだ。

 

「好美。あまり我儘を言うものではありません」

 

「わかりましたー」

 

 この変わり身の早さは忍者か。

 そう思えるくらい、好美はすぐに態度を改めた。

 

「好美には魔法が一般公開されるまで魔法の使用を禁じます」

 

「ええー!」好美が顔を曇らせる。「寒くなってきたらルーラ登校しようと思ってたのに!」

 

 その気持ちめっちゃわかる。

 わたしも冬のお布団には魔性の魅力があることは知ってる。

 これからもう少しすれば、朝起きるのがつらくなってくるはずだ。

 そんなときにルーラ登校なら、秒で到着する。

 遅刻の心配がほとんどなくなるはずで、それまでベッドで惰眠をむさぼることができる。

 その魅力的提案をあきらめざるをえないというのはツライだろう。

 

 でも、ばあちゃんも鬼じゃないんだ。

 既に魔法バレして身バレまでしちゃってるわたしとは違い、好美はまだ世間的にバレていない。

 それに高校生といっても、まだ子どもだ。庇護の対象である。

 好美を守るためには、魔法を禁止せざるをえないのだろう。

 

「よいですか! 好美」

 

「わかりましたよーっと……。じゃあ、せめていとこちゃんにトラマナをかけてもらおうかな。寒さ熱さに適応できるんでしょ」

 

 この子、転んでもただでは起きないな。

 

 ちなみに魔法クラブのみんなには既にトラマナとスカラとアタカンタの防御三点セットを張っている。ある意味マグマの中も突き進み、銃撃も跳ね返しちゃうという人外仕様になっちゃうせいか、理呼子ちゃんの親御さんは、あの火災事件があるまで強固に反対してたんだよな。あのときまでは完全に一般人のくくりだったからだろう。

 

「トラマナをかける場合、即座にバレるということはないかもしれませんが、例えば、みんなが寒くて震えてるときにひとりだけ薄着で平然としているとかいうことがあるわけです。必然的に魔法バレの可能性が高まりますので、あまりお勧めはできません」

 

 どんな環境にも適応してしまうということは、人間の環境適応能力を越えるということだ。

 自然と人外ムーブをしてしまう。

 

「いとこちゃんが全世界にトラマナ使ったら面白いことになりそうだね」

 

「好美―――」ばあちゃんがギロってにらんだ。やべえ。

 

「なんてね。冗談だよ。冗談。言ってみただけだから。よく考えたら寒い寒いと思う情緒が日本人には必要なんだよねぇ。おこたが天国になるのは冬の寒さのおかげだし」

 

 それは、そうかもしれないな。便利で完璧な環境がいつもいいとは限らないんだ。

 人間って不思議なもので、不便さを楽しむところがあったりする。これもある意味で不幸になる権利のひとつかもしれない。あそこまで極端ではなくとも、人にそういった側面があることは否定できない。魔法が一般化したらもう一度解除するか継続するかみんなに聞いてみたほうがいいかもしれないな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 好美が退室して、ばあちゃんと二人きり。

 和室の中で、静かな時が流れる。

 いまはばあちゃんが、わたしのためにお茶をたててくれている。

 所作のひとつひとつが美しい。

 見ているだけで癒される。

 

――茶道。

 

 日本において芸の域まで高められた、茶をたて茶をふるまう行為。

 そのこころは、あらゆる身分や地位をとりはらって、ひとりの個人として相対することにあるという。いや、わたしも習い事のひとつとして触りの部分は習ったことがあるんだけど、神髄までは至れませんでした。単なるにわかです。

 

 ともかく、静かである。

 ばあちゃんの視線をはずれているので威圧感もない。

 

 茶筅(ちゃせん)でなじませていく音すらもこころを穏やかにしていく。

 

 シャシャシャシャシャ。

 

 円運動を描いていた茶筅の動きがとまり、スッとひきぬかれる。

 

 深い緑色をしたお茶の入った茶碗がわたしの目の前にそっと置かれる。

 

 わたしは一礼し、茶碗をわずかに回して飲んだ。

 

 あんまり苦くない。ばあちゃんが小学生の舌にあわせてくれたんだろう。

 

 ちなみに、お茶については三回で飲み干すのが通例といわれている。

 

 1、2、3、ダーっ! ズズっ。

 

 最後に飲み干したことがわかるように音をたてるのがマナーだったはずだ。

 

「おいしかったです」

 

 小学生並みの感想を言った。

 

 お茶の極意は和敬清寂といわれているが、超カンタンに言えば相手を敬い己を偽らないってことだと思う。堅苦しいことを抜きにすれば小学生は小学生らしくこころを素直に表現すればいい。

 

 それに本当の茶道の場面ではないからな。あくまでお家での出来事。

 ばあちゃんは身内だし。厳しくても本質的には孫には甘い。たぶん。

 

「イオ。先ほどの好美に対する応対は良かったと思います。他者を恤えるこころが身についてきましたね」

 

「ありがとうございます」

 

 ばあちゃんに褒められると面映いな。

 

 その後も他愛のない会話が続く。小学校生活は楽しいかとか、友達とはたくさん遊んでいるかとか、ごくごく普通の孫と祖母の会話だ。

 

 いきなり刀を持ちだしてきて孫に切りかかってきたりはしない。

 

 どうやら、ようやくイオちゃんが絶対無敵であることを悟ったらしい。バトルジャンキーなばあちゃんも嫌いじゃないんだけどね。ドラゴンボールみたいに高速戦闘をしたいなら、それでもいいと思っていた。ピオラとトベルーラを使ったら、ばあちゃんは結構強いだろうからな。まさに魔法剣士ってやつだ。

 

「イオ。おまえは将棋はできるのですか?」

 

 だしぬけにばあちゃんが言った。

 なんだよ。孫と遊びたい年頃かよ。そういってくれればそうしたのにぃ。えへへ。

 なんか、ばあちゃんがかわいく思えて、胸がときめいてしまう。

 

「駒の配置とか動き程度なら覚えておりますよ。一局打ちますか」

 

 わたしは身を乗り出して言った。

 

「ええ。ぜひお願いするわ」

 

 おつきの人が足のついたゴツイ将棋盤を持ってくる。歴史のある一品って感じだ。

 わりと重そうだ。バイキルトつきのイオちゃんが手伝おうとしたら遠慮されてしまった。

 他人の仕事を奪うのはよくないってね。まあわかります。

 

 将棋盤を置いたあとは、すぐにおつきの人は奥に引っ込んでしまったので、またふたりきりだ。

 将棋盤の上に駒を置いていく。パチリパチリという音が案外好きだ。

 ばあちゃんもわたしもこのときばかりは積み木遊びをしている子どもみたいに一心になって駒を置いた。ばあちゃんも偉い人のうちのひとりなんだろうけど、駒を置くのを誰かに手伝ってもらったりはしない。そこが将棋のいいところかもしれないな。

 

 要するに個人と個人の対話はまだ続いているってことだ。

 それと、わたしのやさしさという数値の見極めも続いているのかもしれない。

 

「まずは平手で打ちましょう」

 

「わかりました」

 

 平手というのは、要するにハンデなしだ。

 ちなみにわたしの実力だが、いちおう前世が大学生だからな。

 まあそれなりだと思いますよ。異世界にいったら無双できるレベルかも。

 なにも知らない小学生相手には無双できる自信がありますね。

 

「負けました」

 

 あれ?

 

 時間が飛んだぞ。

 まったく何もさせてもらえなかった感というか。

 すでにレベル差が激しすぎて相手の強さがわからない。

 ラスダン前のモンスターに、旅立ちの村で会ってしまったようなそんな感じだ。

 

「あの……おばあ様。手加減というものは」

 

「私は手加減というものが苦手なのですが、わかりました」

 

 既に再び並び終えていた将棋盤の上に、ばあちゃんが手をあわせる。

 そして、押し開くようにして、余計な駒を盤外に落とした。

 

 歩と金と王以外のすべて。

 これ以上のハンデはない。

 ばあちゃん。わたしを侮りすぎ! 

 小学生に負けることを一生悔やむがよい!

 

「ま、負けました」

 

 くすん。くすん。どうして負けちゃうの。

 金と歩しかないのに。

 最初の駒をとられてからはあっという間だった。

 もしかして、わたしの知能ってたいしたことないのでは……。

 かしこさと知能指数は関係ないって研究結果がでているけど。

 やっぱりわたしってクソ雑魚なんじゃ……。

 

 そんなふうに落ち込んでいると、

 

「確か、かしこさの上がる魔法がありましたね」

 

 ばあちゃんが目をつむっていた。

 何かを考えているみたいだ。

 

「ええ……ありますが」

 

「その魔法を使えば、知能指数があがるのですか?」

 

「試したことがないのでわかりません」

 

 フールというかしこさを下げるほうは試したことあるけどな。

 かしこさの値が低ければ、使える魔法が増えるってことがわかったんで、あらかじめフールを使えばどうだろうという話になったんだ。まあ結果はダメだったけど。

 

 逆にインテという魔法がある。この魔法はかしこさを上げる。かしこさを上げると魔法の威力があがるという効果があるが、知能があがるかどうかはわからない。

 

 正直なところ今まで使う必要を感じなかったんだよな。

 イオちゃんは素の状態で小学生のテストなんてほぼ満点状態だったわけです。

 もともと、のび太くんみたいに最終的に落伍することが目に見えていたから、天才ブーストするのは戒めていたわけです。イオちゃんかしこい!

 

「試してもらえますか」

 

「わかりました。インテ!」

 

 それが、理解のはじまり。

 あらゆる物事の、その本質的了解の始まりだった。




一か月くらい前に、インテ使ったらどうなるのって感想をいただいた結果がようやく書けそうです。評価と感想による応援をいただければ幸いです。

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