ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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かしこさ10000。ついでにマリアの心配。

 この世界――、すなわち現実世界におけるかしこさは、ドラクエにおけるかしこさとは異なる設定がなされている。

 

 それが知能指数と関わりがあるのか否かはわからない。

 

 なにかしらの係数に関わっていればよいが、そうでなければ将棋で勝つことはできないだろう。

 

 ただ、もしも係数のひとつとして捉えられるのならば、かしこさをあげることで無限に知能指数をあげることが可能になる。

 

 なぜなら、わたしの魔法には限界値がないからだ。

 

 そうなるかどうかは計算式と魔法の効果によるだろう。

 

 少なくともわたし以外の人間がかしこさを二倍にする通常のインテを使っても、たいした影響は見られなかった。ルナに聞いた話によると、少しだけ頭がスッとして冴えた気分になるらしい。

 

 それでわたしはどうしたかというと、いきなり極大級の魔法力をこめたりはしません。

 

 わたしは自分が凡人であることを知っている。

 

 凡人が天才になったらどうなるか。

 

 自己同一性の危機だ。いや、知らんけど。

 

 ともかく、どうなるのかわからないから、さすがに自重することにしたのだ。

 あくまで最初はほんのちょっとずつだけかしこさを上げていくことにしたのである。

 もしかしてわたし、ちょっとだけかしこくなってない?

 

「どうですか。イオ」

 

 ばあちゃんがわたしを観察するように見ていた。

 

「そうですね。特に頭がよくなった感じはしません」

 

「そうですか……」

 

 先ほどと同じように、歩と金と王だけの最弱編成でわたしを迎え撃とうとしている。

 実際に手ごたえで試してみようというのだろう。

 

 将棋というのは、二人零和有限確定完全情報ゲームである。

 

 すなわち、手番における最善手を打ち続ければ最終的には必ずどちらかが勝つ。ないしは引き分けであるということが決まっている。

 

 ばあちゃんのハンデ状況から言えば、理論上必ずわたしが勝つはずであり、先読みの手数が多ければ多いほどわたしが勝利する可能性が高まるだろう。

 

「負けました」

 

 少しだけ粘ってみたがダメだった。

 

「もう少し、インテをかけてみなさい」

 

「インテ」

 

 かしこさの値があがっていく。

 頭の中の一人部屋はどんどん拡張され、風通しがよくなっていくようだ。

 なんとなく、相手の意図することや、わたしがどのように駒を置けばよいのか先読みの幅が増えていくような感じがした。記憶力と想像力こそが知能の最たるものだ。

 

「負けました」

 

「僅少な差でしたね」

 

「インテでかしこさを積んでいけば、わずかずつですが知能指数が上がるみたいです」

 

「インテを」

 

 ばあちゃんの指示どおりにインテをかけていく。

 

 10回目くらいのインテで、ようやく最弱ハンデを乗り越えることに成功した。

 時間をかけるのももったいないので、互いに10秒以内に指すという早指しであるが、それでもだいぶん時間をかけてしまう。

 

 そろそろ、かしこさが人間的な限界値である999に達しそうだ。

 ここまでやっても、急速に頭がよくなった感じはしない。

 おそらく、計算式において知能指数は関わりがあるものの倍率は相当低いだろう。

 感覚的な話になるが、0.01もないんじゃないか?

 

 夕暮れ時が近づいてきて、焦ったわたしは少し強めにインテをかけた。

 ばあちゃんはどうやらわたしが勝つまでやらせたいらしい。さすがに晩御飯までには帰りたい。

 

 かしこさは体感では5000程度にはなっている。

 もしも0.01倍率が正しいとすれば、知能指数は150程度だ。

 かつてないほど頭が澄み切っている。

 わたしはわたしの中にある言葉の意味と捉え方が、どれだけ曖昧で未分割だったかを知る。

 

「そろそろ平手の私も負けそうですね」

 

 パチリ。

 

「おばあ様。わたしがインテを使うことについて許可は取っているのですか」

 

 パチリ。

 

「当然です」

 

 パチリ。

 

 まあ――当たり前か。

 

 ばあちゃんは、バトルジャンキーであり、孫にいきなり切りつけてくる頭おかしい一面もあるが、筋は通す人だからな。

 

 わたしに切りつけてきたのも、わたしがもし人にあだなす者であったら同じ家名を持つ者として責任をとろうとしたからだ。

 

 インテについて知能指数が上がるということになれば、社会にとっては有益だろうか。

 それは考え方次第だろうと思う。全人類がのび太くんになれば世界が滅ぶとドラえもんは言うが、全人類が出木杉くんになったらどうだろう。滅ぶか繁栄するか。

 滅ぼす力も増すが、守ろうとする力も同じく増すことになる。

 例えば国民全員がウィザード級の腕前を持つハッカーになったとして、攻めるほうも守るほうも同程度の頭の良さであれば、世界を壊すには至らない。

 

 あるいは――頭がよいという状態が恒常的に続くのであれば、最終的な局面として遺伝的淘汰によって破壊より融和を選ぶだろうという予感もある。あるいは理解の極致とは自己の崩壊なのだろうか。白と黒。魔王と勇者。果たしてどちらが優勢なのか。

 

「それで――」

 

 パチリ。

 

 わたしは"詰めろ"をかけながら口を開く。

 詰めろというのは何もしなければあと一手で詰む状態のことだ。

 この状態になれば、相手は受けにまわるか、わたしの玉を詰ませるほかない。

 

「わたしはいったい"誰"と戦えばいいのです?」

 

「……」

 

 どうやらわたしが勝つまでは教えるつもりはないらしい。

 

 パチリ。

 

 逃げる王。追うわたし。

 

 10秒将棋では考える暇もない。

 なんのことはない一手がばあちゃんの敗着となった。

 ばあちゃんは静かに一礼した。

 

「負けました」

 

 ようやくの勝利だった。

 わたしも一礼し、失礼にならない程度にゆっくりと息を吐く。

 知能指数の上昇による記憶力と想像力の上昇は、わたしに深い洞察をもたらした。

 

 いまのわたしならランダムに並べられた100個以上の数値をフラッシュ暗算のように見せられても、ひとつもまちがえることなく覚えることができるだろう。

 

 満足感。

 あるいは、優越感(スペリオリティ・コンプレックス)

 いままでのわたしは両手両足を縛られ、ズタ袋を頭にかぶせられているようなものだった。

 このような息苦しさの中で凡人は生きている。そしてそのことに気づいてすらいない。

 人間とは生来的に不自由な生き物なのだ。

 

 わたしは90%以上の確率で、祖母が戦わせたい相手を予測していた。

 

「将棋AIと戦わせたいのですか?」

 

「そのとおりです」

 

 やはり予測したとおりだった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 イオの祖母――星宮飛鳥が求めたのはAIに対する人類の勝利である。

 

 2030年の現代において、人間の棋士はもはやAIにはまったく歯が立たなくなっている。

 

 単純に読みの深さが違うためだ。人間の限界値が6億手だとすれば、AIは10億、20億手先を平気で読んでくる。それに人間は数時間の対局の中で必ず疲弊する。対局が終わった後に、棋士がつっぷすように倒れこんでいるなんてことも珍しくはない。疲れないAIのほうが圧倒的に有利なのである。

 

 ともかく人は機械に勝てない。

 その非情な現実に対して、いまのトレンドは共存共栄というスタンスが最も多い。

 要は、AIを上手に利用して、いままで発見されていない指し筋や攻略法を見つけましょうねという考え方だ。ツールはツールとして、べつに張り合う必要はないという考え方である。

 

 しかしながら、人間とは可能性の獣。

 そして、無類の負けずぎらいであった。

 

 でなければ、ここまで文明を発展させ、他の獣たちを追いやることもなかっただろう。

 陸を駆ける獣に嫉妬し自動車を生み出し、空を自由に飛び回る鳥に嫉妬し飛行機を生み出したのが人類である。自ら生み出したAIに勝たんとするのは、盛大なマッチポンプではあるものの人間の本性であるといえる。

 

「私の将棋の先生は、最後までAIに勝負を挑みました」

 

 お茶をすすりつつ、飛鳥は言った。

 

「最後まで……、その先生はお亡くなりに?」

 

「いえ、まだご存命ですよ。ただ棋力というものはどうしても落ちていくものです。いまはご引退なされています」

 

 加齢により、頭の回転や集中力がどうしても低下していく。

 一概には言えないが、棋力というのは、山なりのカーブを描くものなのである。

 

「その先生におばあ様が頼まれたというわけですね」

 

「直接的にそうしてほしいと言われたわけではありません。ただ、あなたのことをほのめかしながら希望を見せてほしいとおっしゃられました」

 

「魔法というブーストを使う点について問題はないのですか? わたし自身にはこだわりはないですが、勝負事の純粋さを失わせてしまうような気がしますけど」

 

「見果てぬ夢なのですよ。あるいは――既に終わった夢なのです。ただもう一度だけ人間が機械に勝つところを見てみたい。だから、多少のズルには目をつむる。そういう感覚なのでしょう」

 

「……おばあ様が望むのならかまいませんよ」

 

 イオのこころはまだ人類の傍にあった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 翌日、学校にて。

 理呼子はイオの様子がいつもと異なることに気づいた。

 いや、正確にはメダパニをかけていた頃のように超然とした感覚だ。

 なにかしらのヴェールに覆われたような。

 イオがイオでありながらも何か別の存在であるかのような印象を受けた。

 

「ねえ、イオちゃん」

 

「なんでしょうか。理呼子ちゃん」

 

「今日なにかイオちゃん変だよ? 魔法で何かした?」

 

「インテによって、かしこさを10000ほどあげています」

 

「10000って……」

 

 ありえない数値を突然告げられ、理呼子は戸惑った様子を見せた。

 

「たいしたことではありません。知能指数で言えばおそらくかしこさが100あがってようやく1上がる程度の倍率です。いまのわたしは200程度の知能しかございませんから」

 

「知能指数が200っていうのもかなりすごいと思うんだけど」

 

「ルナちゃんといっしょですよ」

 

 茫洋とした涼やかな金の瞳に見つめられると、理呼子は何もかもが見透かされているように感じてしまう。本能的な、()()()()()()に対する恐怖がひきずりだされていくようだった。

 

 ルナと同程度といっても、ルナの場合は人間味がある。年相応に子どもっぽいところを多々含んでいるし、特に人間関係に至っては上手に構築することがあまりうまくない。偏才的な天才であって、知能という数値を機械や自分の興味のあることに極振りしているタイプ。

 

 だが、今のイオの姿は人間離れどころか少々浮世離れしていた。

 

「一週間後に将棋の大会があるだろう」

 

 後ろの席で眠そうにしていたルナがイオの代わりに説明した。

 ルナは当然、いまのイオの状態を知っている。この状態が危険ではないかと言われれば、確かに危険ではあるかもしれないが、そもそものび太くんと出木杉くんのどちらの状態が適切かといった程度の違いしかないと考えている。いずれにしろ、イオは世界を滅亡させるスイッチをダース単位で握っているのだから。

 

「イオちゃん大丈夫?」

 

「わたしはむしろ今までの状態のほうが不自由だったと思いますよ。物事が理解(わか)るというのがこんなにも自由なことだとは思いませんでした。理呼子ちゃんにもかけてあげましょうか」

 

「うーん。わたしはいいよ」

 

「ともかく、政府連中も魔法の効率的な使い方を模索しているんだろう」とルナは言う。

 

「効率的というか国力を上げる方法を考えているのでしょう」イオが言い換える。

 

「そうだな。国力をあげるという意味では、国民ひとりひとりが天才になればいい」

 

「イオちゃんの魔法には際限がないんだよね。ほどほどにしておいたほうがいいと思うけどな」

 

 理呼子は常識的な考えを披露した。

 いまはIQ平均値が100程度の世界が既にできあがっているのである。

 もしもIQ平均値が200程度の世界ができれば……。

 そのときは世界そのものが変革の時を迎えるだろう。魔法が存在する時点で、相当な変革はもたらされるはずだが、人類総天才化は、それ以上のものになるかもしれない。

 

 インテは単体魔法であるが、インテラという複数を対象にした範囲魔法も存在するのである。

 

「イオちゃんの魔法には制限がかかってないんだよね」

 

「そのとおりです。神によるフールプルーフが働いていません」

 

「際限なく頭をよくできるの?」

 

「物理的な限界はあるかもしれません。頭を使うと糖分を必要とするでしょう。頭のクロック数をあげると摂取しなければいけないエネルギー量が多くなっていきます。また、熱量的な問題もあるでしょう。計算しすぎたパソコンが熱くなるように、脳が沸騰するということも考えられますから」

 

 ただし――と、イオは反証を108ほど思い浮かべる。

 

 まずは、エネルギーの問題だが、モシャスを唱えてMPを直接糖分に変換すればどうだろう。

 さらに、熱量の問題はトラマナによって解決可能だろう。

 最終的には脳という物理的な容量の問題になるが、そもそも720兆の超魔法力がイオの身体のどこに詰まっているかはわからない。魔法が物理を無視するなら、魂的ななにかがあったとしてもおかしくはない。最終的には物理的な存在から精神的な存在へと相転移するのではないか。

 

 しかしながら――、そういったこともすべて理呼子に伝えることはやめておくことにした。

 理呼子が心配していることに気づいたからである。理呼子の心配は純粋なイオに対するものと、知能に対する恐れが未分化のままブレンドされている。

 

 仮に口論になった場合、感情的な趨勢で敗北する可能性があるだろう。

 人間は論理よりも感情を優先する者が多数派であるからである。

 

 理呼子のことは友人として大切であるが、それよりも今は自分の内にある言葉を解析するのに忙しい。いままでバラバラに結びついていた言葉がより強固に、意味的なつながりを持って結びなおされていく。世界を理解していく。

 

 魔法による知能の底上げがどこまでいけるのかはわからない。

 

 最終的には、あらゆる限界素因がボトルネックとなって、安定状態(プラトー)へと達するのか。それとも、際限なく――正確には魔法力の限り――誰も到達したことのない知能へと至るのか。到達したところで何が見えるのか。

 

 200程度のIQではまだわからない。

 

 イオの本性たる純粋な好奇心は、満たされるときをじっと待っていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 星宮マリアは娘の様子が妙なことに気づいていた。

 

 もちろん、原因ははっきりしている。インテによる知能指数の上昇だ。

 イオの受け答えは明晰になったし、元から魔法のことを除けば案外しっかりしたところもあったので、そこは問題にならないのだが、どことは言えないが不安な気持ちが押し寄せてくる。

 

「イオ。あなた――最近、ゲームをしていないわね」

 

「お母さま。わたしはゲームを遊んでいないわけではないのです」

 

「どういうこと?」

 

「ゲームとはパターン認識です。そして現実も同じくパターン認識です。この意味は、すべての物事はゲシュタルト、すなわち統一的な像として引きなおすことができます」

 

「まったく意味がわからないわ」

 

「大丈夫です。お母さまはわたしの言葉を理解できます」

 

 イオは完璧に調律された見る者すべてを魅了する笑顔を見せた。

 

 メダパニのときのように、自己を混乱させてメソッド演技を引き起こすのではなく、社会的な役割や人間の精神を物理的に解剖した真正のメソッド演技である。

 

 実の娘でありながら、マリアは思わずドキっとしてしまった。

 思わず顔を歪ませるマリア。

 イオはそんなマリアを冷静に観察しながら言葉を続ける。

 

「要するに、わたしは現実世界にいながらにして、ゲームを味わうことができるのです。アクセスする領域はなんであれ、いずれの領域へもたどり着けます。数学も美術も科学も音楽もゲームも現実も、パターンが見て取れるのですから、パターンからパターンへ移ることも可能です」

 

「あなた、少しおかしいわよ」

 

「はい。そうおっしゃられると思ってました」

 

「……もう少しわかりやすく言ってちょうだい」

 

 マリアは娘を理解しようと必死だった。

 なにしろ、元からかなりわかりにくい娘なのだ。

 いまはスイングバイして、宇宙の彼方に飛んでいってしまいそうな思考をしている。

 

「音楽を例にとりましたら――、バッハのG線上のアリアは完璧で美しいゲシュタルトを描いています。いまのわたしには最初の音から次の音に至る理由がわかるのです」

 

「だから、実際にプレイする必要はないと?」

 

「そうですね。既存のゲームは既に特徴的なパターンを抑えてしまっていますから」

 

「要するにいま持ってるゲームは飽きたってこと?」

 

「そう捉えてもらってもかまいません」

 

「わかったわよ。新しいゲームを買ってあげるわ。何がいいの?」

 

「将棋のゲームとかよさそうですね」

 

 テンション高く笑顔を見せるイオに、マリアは短く呻く。

 

「この状態、早く終わってほしいわ……」

 

 電脳将棋大会まであと一日。マリアは自分の胃が持つのかわからなかった。

 とりあえず、なにかを察したらしいイオがすかさずホイミをかけてくれたのだが、それもまた胃が荒れる原因だったりするのだ。




人類総天才化計画に問題はあるかと言われれば、全員が底上げされたほうがいいような気もしますし、何かが変わってしまいそうな怖さもありますね。
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