ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
わたしは寝こんでいる。
過剰なインテにより体調を崩してしまったからだ。
頭痛は収まったんだけど、いまだに発熱が続いている。
ベホマかキアリーで治るかなと思ったんだけど無理でした。
うなされるほどの高熱ではなく、ぽっぽっぽってなるような微熱だ。
三日もするとだいぶん落ち着いてきたんで明日くらいには学校いけると思うけどね。
もしかしたら脳にダメージ受けたんじゃないかって思って、ちょっぴりビビってました。
どうやら、時間を巻き戻して修復する必要はなさそうです。
しかし、あの神さま――。
わたしになにを決めろっちゅーねん。
人間を亡ぼすか否かとかだったら邪神認定してやる。
わたしが決意を固めているのにもちゃんと根拠がある。
そもそも、神さまはわたしがインテを使うのを
いまは朧気にしかつかめなくなっているけれど、インテというのは神さまにアクセスする超すごいコンピュータを創り出す魔法だ。
時空の狭間――わたしという意識の数ピコセコンド"先"に、同一の意識をコピーし、位相転移によって発振させるとかなんとか、そんな理論だったような……。
うん。自分でなにを言ってるのかわからんちん。
しょうがないよね。だって、いまのわたしはかしこさ3なんだもん。
ともかく、インテは神さまに逢うための魔法だ。それでイオちゃんは魔法をほいほい使っちゃうタイプの女の子だ。もともと好奇心が豊かな子なんですね。だから、いずれは使っちゃうというのは織り込み済みだったんだろう。
あの神さま、わたしにだけは
けど……。
神さまはわたしに逢って何がしたかったんだろうな。
あのときはついロリコン認定しちゃったけど。
もう少しでわたしは小学生を拉致監禁する邪知暴虐の神さまにひどいことをされるところだった……同人誌みたいに、なんてことはないだろう。
あのままだと、わたしの自我がバラバラになっていた可能性もあるんだ。
位相転移させた意識は、いわば光そのもの。
思考を光と化して、波動の存在へと至る魔法。
言わば水の中にアイスキャンディをつっこむようなもので、自我が少しずつ宇宙に溶かされていく感じがした。宇宙と同じくらいわたしが大きければ、宇宙そのものがわたしになるんだろうけれど、残念ながら宇宙は広大だ。わたしは水の一滴に過ぎない。
もしかすると、神さまが助けてくれたのかもしれない。
結局のところ、あのとき神さまが伝えたかったのは
――決断しろ。
という一言だったのだろう。
なにをという肝心の部分はわからないんだけど、こちとら
決断っていえば――、理呼子ちゃんへのお返事もまだだしな。
理呼子ちゃんはわたしのことを好きって言ってくれた女の子。
そして、いまのわたしも女の子だったりするわけで。
それがなにかの障害になるのかと言われればどうなんだろう。
女の子どうしが好きになったりするっていうのは、ラブコメ的にはよくあることではあったけれど、実際に現実のお話として考えた場合、やっぱりマイナーな関係なのは否めない。
周りの人間にどう思われるかがそんなに重要なのかと言われれば、わたしは大事な人以外にどう思われようとあまり気にしないほうだと思う。
だったら、なんで躊躇しているのかというと、わたしは――イオちゃんは純粋にわたしではないからである。つまりは、前世と魔法の問題ね。
前世が男だったと伝えて、理呼子ちゃんがどう思うのかは未知数だ。多少怖くはあるが、おそらくべつに気にしないと答えてくれるような気がする。こちらは伝えてしまえばいいだけの話で、解決自体は容易いだろう。
もうひとつは、原理的に解決が不可能な問題。
理呼子ちゃんがわたしに惹かれたのは、わたしの魔法に惹かれたのではないかということ。
もしも、わたしが魔法を使えないただの女の子だったら、理呼子ちゃんはわたしを好きでいてくれたのだろうか。
わたしが魔法を失う時は死ぬ時だという確信がある。つまり、わたしは魔法だ。
だから、問い自体が無意味だと思っていた。
けれど、あの無窮の暗闇の中で『イオ』を唱えたとき、わずかばかり違うのではないかという疑問が生まれたんだ。
――わたしは魔法ではない。
かも……かも?
ああいかん。また発熱がぶり返してきた。
おとなしく"瞑想"して回復に努めるんだ。
「はふぅ」
小学生が風邪などで休んでいる時というのは、暇の一言に尽きる。
ずっとベッドにて体力回復に努めていると、やがて体調が上向きになってきたときに、恐ろしいほどの暇が生じてしまう。
NHKの教育番組やスマホでニュースを見て時間をつぶしたいところだけど、残念ながら
そう――わたしのおでこを冷やしているスラリンである。
今朝方、登校する前にこころ優しい天使なユアがスラリンを抱えてわたしの部屋にやってきて、スラリンをそっとおでこに乗せて行ったのである。
スラリンはプルプルしているゼリー状で、ちょっとひんやりしている。
生きてる冷えピタみたいな感じだ。わたしの余計な熱を吸い出してくれている。
しかも、ご主人様のユアの言いつけをよく守り、わたしからまったく離れようとしない。
「スラリン。あなたにはあなたの生活があるでしょう」
と言ってみても。
「ぷるぷるぷる」
と固辞された。どうやら、わたしのおでこに乗っかるのが彼の使命であるらしい。
☆
弱っているお嬢様はかわいらしい。
寺田はそんなことを思ってしまう自分に罪悪感を抱きつつも、ここ数日のイオの様子を反芻していた。もとより、イオが五歳のときからお世話をしている身の上である。
二時間ごとに見守りをし、水分補給やらお食事やら、すりおろしたリンゴを食べさせたり、アーンしたり、お着換えを手伝ったり、汗をふきふきしたりと、ぞんぶんになんというかいろいろとダメなのだが、ともかく堪能していた。
トイレのつきそいだってご褒美だったのだが(しばしば風邪で弱っていると元栓が緩くなってしまうものであるから気を付けなければならない)、残念ながらイオはそこまではしないでいいといって聞かなかった。
けれど、まあともあれ――。
寺田の上記行為は客観的に見ればかいがいしく看病をしているようにしか見えなかったし、イオの心象としてもそうである。
昔からずっと、母マリアの代わりとしていっしょにいたのであるから、まさかちっちゃな女の子に欲情する変態淑女だとは夢にも思っていない。
「ああ……お嬢さまぁん。うるんだ瞳でデザートをおねだりするご様子がかわいらしすぎます」
ついでに言えば、瑞々しい子ども特有のお肌を、清拭にかこつけてあちこち拭きまくったり、さすがに髪の毛が油っぽくなってきたんで、お風呂はやめておくにしろ髪だけは洗ったり、洗ったあと確認という意味で、後頭部あたりをすぅはぁしたり。
役得というやつであった。
20代半ばのまだまだ若い女性だからこそ許されている面は大きいだろう。
「しかし――、スラリンさんは結構強敵ですね」
寺田が大胆な行為にでようとしても、さりげなく止められる。
お昼どきに、プリンをイオの口に入りきらない絶妙な配分でスプーンにすくってアーンしたのだが、そしてもちろん因果的な必然として、とりこぼしたプリンがちょっぴりお口まわりについてしまうので、さりげなくスキンシップ的に自分のお口にて清潔を保とうとしたのだが……。
すかさず、イオの顔面にスラリンがダイブして、青いボディの中にプリンは吸収されていってしまった。
スライムは草食という設定だったはずだが、うちのスライムはなんでも食べる。
いや――、まるでイオを守る使命を帯びたナイトのようだ。
「だとすれば、私は姫君にいたずらする悪漢ですか。女だから違うわよね……」
否、悪漢そのものである。
ただ、寺田も弱ったイオを見るのはつらくもあったし、本当に弱っていたインテ直後は己の性欲を抑えて、普通に看ていたのも事実だ。
魔法を使ってとか、そういう突飛さはない。
ちなみに寺田もイオのお付きであることから魔法力を覚醒されることを許されている。
イオの妹ユアからの付与だ。結果はかしこさ40と大人としてはなかなかの低数値である。
先日のインテ事件では知能指数ともかかわりがないわけではないが、ものすごく低い倍率であることが判明している。かしこさが低いからといって知能が低いわけではない。高ければ高いほどいいのは間違いないようだが、凡人が天才に至れるほどのインテはイオ以外にはできないだろうと言われている。
「魔法が使えても、お掃除や洗濯が楽になるわけじゃありませんものね」
あえて、仕事的に便利になった面はというと、ルーラくらいだろうか。ただこれも人に見られると問題だ。いまのところ寺田は世間的にはそれほど多くの人に知られていない。イオが知った仲ではまともに買い物ができる数少ない人物なのである。なので、マリアには必要なときとお家以外では極力魔法を使わないようにお願いされている。
気兼ねなく魔法が使える世界が到来すればいい。
べつに自分のことではない。
イオがもっと世間になじんでいくことを、寺田は願っていた。
☆
暇は怪物さえも殺すという言葉がある。
ついに耐え切れなくなったわたしはスラリンを拝み倒し、ちょっとだけ――ちょっとだけスマホを弄るのを許してもらった。
「暇で暇で死んじゃいそうなんです」
『しかたないお嬢さんだ。だが覚えておけ。死を恐れないのと、死にたいというのは違う』
そう言ってるように聞こえた。
いや「ぷるぷる」とか「ぴきー」とか言ってるだけだけどね。
なんか時折かっこいいんだよな。気のせいだろうか。
ダンディズム溢れるスライムさんである。
ひとまず、スラリンにおでこから降りてもらい、ベッドの中から腕だけ出して、ポチリポチリ。
動画とかゲームとかは疲れるんで――。
孤独のスペースから社会へとアクセスする。
『ものすごく暇なう』
そうまさしく先ほどまでやっていたことを少々大々的にやるに過ぎない。
少々大々的ってなんだか稀によくあるみたいな感じだけど。
すぐにリツイートが何件もつく。
わたしのフォロワーはエグいことになっているからな。
『@io_chan なうって……』
『@io_chan なうなヤングだからね。しかたないね』
『@io_chan イオちゃんインテのしすぎでぶっ倒れたって聞いたけど大丈夫なの?』
『問題ないです。ものすごく優しくて完璧なおねーさんが看病してくれてます』
『@io_chan OH……ジャパニーズおねロリ』
『@io_chan えっちなおねえさんに看病されてえな』
『@io_chan むしろイオちゃんにお医者さんごっこ』
『@io_chan イオちゃんに看病されておぎゃりたい』
『なんか面白い話題ないですかなう』
『@io_chan イオちゃんは今看病され中。つまりパジャマ姿!』
『@io_chan パジャマ姿を投稿すれば、超ウルトラ爆速でいいねがつくよ』
『@io_chan 目元を隠すとエロく見えるという研究結果があるが、私はマスクをつけた姿になぜか卑猥なものを感じてしまうのである。ただの布に興奮する変態なのではないかと悩んだ。しかしついこの間、神のように天啓が降りてきた。口は内臓の入り口に近しいのだ。口を下半身と見立てれば答えは明らかである。マスクとはパン』
『@io_chan すっげえ変態がいやがる』
『@io_chan マスク=パンツ説』
『@io_chan そもそもイオちゃんはべつに風邪ひいたわけじゃないし、看病されるときにマスクつけてるかっていうと違うわな』
『@io_chan インテで超知能を得た感じがどんなだったのか聞きたいです』
『@io_chan イオちゃんAIに勝てそうだったしな』
『将棋は勝てそうだったかなと思います。最後のあたりは意識が混濁しててよくわからなくなっちゃってましたけど』
『@io_chan 危ない感じはしたよ。神さまっぽくなってたというか』
『@io_chan "つ"が付くまでは神の子と言われてな。ここのつまでは神の子だよ。イオちゃんは十歳だけど、誤差だよ誤差』
『@io_chan 意識が混濁するのか。こえーな』
『@io_chan 宇宙的ハーモニー。コスモスが見えちゃったり?』
『@io_chan みんな星になってしまえばいいのよ』
『@io_chan 社畜のオレにイオちゃんの悟りで救いをもたらしてくだされ』
『@io_chan うっせぇわ!』
『残念ながら悟りの境地は言葉にした瞬間にこぼれていくようなものです。あのときはたぶん高次元の言語で概念を取り扱ってましたから』
『@io_chan そもそも魔法自体が高次元な言語だったりして』
『@io_chan イオちゃんになら支配されてもいいかも』
『@io_chan 市民よ。幸福は義務です。byイオちゃん』
『@io_chan インテで普通人ががんばってもかしこさを倍にするのが限度だからなぁ』
『@io_chan イオちゃんが誰かに過剰なインテをかけてもその人廃人になるだけなんじゃ』
『インテはお母さまに禁止されたので、これからは使わないですよ』
『@io_chan まあそれがいいよ。日本人だけ頭よくしても不公平だし』
『@io_chan 国力増強という意味ではこれ以上ない一手だと思うがな』
『@io_chan イオちゃんがインテラを日本人限定でちょっと優秀レベルにひきあげるくらいなら悪くないと思うんだがな』
『@io_chan かしこさが上がったイオちゃんなんてイオちゃんじゃない』
『@io_chan 母親に禁止されたのならしょうがないだろ。そもそも魔法カンパニーの社長だぞ。社長に社員は逆らえないんだ。オレは詳しいんだ』
インテの利用法については、まだ未練があるみたいだった。
確かに将棋AIに勝つほどの判断能力はなくても、ちょっとだけ頭がよくなる程度に抑えきれれば悪くはない。
ただ、全世界というよりは日本に限定して撃ってほしいという人が案外多いみたいだ。
まあ、全人類の頭がよくなっても相対的には何も変わらないからなぁ。経済的格差を縮めようという努力をみんながする程度に頭がよくなるのかもしれないけれど。
魔法というアタッチメントを使ってそれを成すというのが良いのかはまた別の話。
☆
「イオお嬢様。ご学友の方々がお見えになられましたよ」
また再びおとなしくしていたら、寺田さんの声が聞こえた。
「お通ししてください」
人生初。
親類以外からお見舞いを受けるイオちゃんです。
ヤバい。すごくうれしい。熱があがる。ぽっぽする。
やってきたのは、もちろん魔法クラブの面々だ。
「イオ、大丈夫か?」
あの、人間にまったく興味がなかったルナが心配そうにわたしを見ている。
もしかすると、インテに対する最終的判断の大きな役割を果たしたのがルナだからかもしれない。魔法実験の主任だからな。インテについては異常を感知したらすぐにとりやめろとは言われていたけれど、その取りやめるかどうかの判断がわたしにかかっているのだからしかたない。
ルナは神のフールプルーフを信じすぎてしまったのだろう。
「イオちゃん。今日までやった授業の内容をまとめてきたよ」
理呼子ちゃんがあいかわらず女神様のように優しい。
「ありがとうございます」
中をのぞいてみると、色鉛筆でカラフルに塗られたかわいらしい授業ノートだ。
女の子らしい筆致で、見ていてかわいいなと思った。
まるで理呼子ちゃん自身を体現したかのようだ。
「お借りしてもよろしいのですか」
「うん。いままでの分だけを一冊に書き写しているから大丈夫だよ」
ジーンとする。
ほんと優しいな。
「イオちゃん。定番のメロン買ってきたよ!」
みのりさんは籠に入った大きなメロンを見せる。
ああ、おっぱいとメロンの見極めが難しい。どっちがどっちだろう。
確かめてみないと。
「あはは。イオちゃんが触りたがってるのわかるよ。そろそろ補給が切れてきたのかな」
「そ、そんな、えっちなこと考えてないですよ」
「じゃあ、要らないのかなー?」
「要ります!」
「じゃあ……おいっしょっと」
みのりさんはベッドの上に身を横たえた。そしてわたしを横抱き。
顔の側面あたりに柔らかい感覚が押し寄せてくる。
なんという質量体なのだろう。
豊満経営によって野放図に育ち切った魅惑の果実。
これはもうメロン狩りしなくちゃいけない。
「みのりお姉さん! 私のお姉ちゃんを堕落させちゃダメ!」
ユアが乗っかってくる。
「あ、みのりさんもユアちゃんもズルい」
理呼子ちゃんも。
「これが空気を読むということなのか?」
ルナも。
もう何がなにやら……。
みんなに抱き着かれて、わたしはミツバチに群がられるスズメバチの気分を味わったのでした。
熱があがって、学校への復帰は一日伸びました。
ここまで書いてきてですが魔法的なネタとしてはほぼ尽きた感はあります。
いやまあまだいろいろあるよという方がいらっしゃれば教えてください。
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