ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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かしこさの顛末。ついでに誕生日に向けて。

 完・全・復・活!!

 

 インテによる発熱も収まり、わたしはいつもの調子を取り戻した。

 いやあ。魔法って本当に恐ろしいですね。

 使い方を誤ると、頭痛が痛いみたいな感じになるとは。

 いままで魔法でそんなんなったことないからわからなかったよ。

 みんなが優しくて、そこに役得を感じてしまういけないイオちゃんなのでした。

 

 それはともかく――。

 

 この大魔法使いイオちゃんは、みんなに対してきちんとした魔法の知識をお伝えしなければならないだろう。何をというのは言うまでもない。()()()()()()()()だ。

 

 インテを使った実験では、かしこさを100あげてIQがひとつ上がる程度の倍率だった。

 ところが、かしこさが3しかないわたしはIQ試験では100という数値を叩きだしている。

 

 ということは、だ。

 

 かしこさという数値は少なくとも知能指数とまったく関わりがないわけではないけれども、素のIQとは別に換算されているということが言えないか?

 

 かしこさというのは、所詮は100分の1程度しか関わりがない数値。

 つまり、かしこさ3でも知能的にはまったく問題はない。

 

 そう、かしこさ3でポンコツ扱いされる云われはまったくなくなるのである。

 

 わたしは学校から帰宅すると、即座に配信を始めることにした。

 

「イオちゃんねるの時間です。弟子たちよ息災であったか?」

 

『イオちゃんのほうが息災じゃなかった件』『元気になってよかったぁー』『そろそろ寒さも厳しい季節になってきたからね』『メラであたためてほしい』『イオちゃんがメラ唱えたら地球自体が火の玉になっちゃうだろ』

 

「全世界にトラマナを唱えれば暑さ寒さも感じなくなるんですけどね。あ、もちろんやりませんよ。そんなこともできるってだけですからね」

 

『ひえっ!』『今日は百合子ちゃんはいないのか?』『抑止力不在』『星宮ママンは?』『誰もいねえぞ。オレらだけでやれるのか?』『そもそも、トラマナくらいよくね?』『砂漠だと水がよく売れる。冬場だと焼き芋がよく売れる。じゃあ、暑さ寒さを感じなくなると?』『なるほど完璧に理解した』

 

「だからまあ。この格好も実は要らないんです」

 

 いま着ているのは、インナーにけがわのマントを羽織り、下は小学生らしく元気に生足。

 でもスカートはボリュームのあるふわもこのドレスみたいな服だ。座っていると足は見えないので、視聴者にエロい目で見られることはない。かわいらしいファンシーな恰好で、理呼子ちゃんあたりは好きそうだな。まあ、わたしは外出自体ができない状況なので、何を着ていようとも関係がない。

 

 関係があるとすれば、視聴者の反応くらいだろう。

 それが楽しくもあるんだけどな。

 

『脱いで?』『いや高速で小学生に脱ぐのを強要すんなよ』『身体を観たいわ!その子の裸をみせてちょうだい!!』『今日もBANが多くなりそうだな』『イオちゃんが悪いんだよ』『イオちゃんは悪くないよ』『ふわもこ仕様かわいい』『下は毛布みたいなもこもこしたスカートだよな』『驚きの白さ!』『おみ足がみとうございます』

 

 なんか変態率高くなってない?

 だけど、かわいいって言われるのは好きだ。

 なぜなら、わたしはかわいい美少女であるし、かわいい美少女はかわいいと言われるべきだからだ。脊髄のあたりをゾクゾクとした刺激が走る。承認欲求満たされちゃう。

 

「しかたないですね。とりあえず全身を映しますんで存分に褒めてくださいね。あと、裸を見せろとか言ったやつは今度同じこと言ったらザキしますからね!」

 

 ノートパソコンのカメラの位置を調整し、わたしはその場で立ち上がる。

 くるりとまわれば、スカートも広がる。

 

『かわいい!』『やった優勝した!』『今日もイオちゃんでビール飲む』『ゆるし亭ゆるして』『小学生配信者で興奮するとか、ここはロリコンの巣窟ですね』『イオちゃんをほめまくればベホマズンが降ってくるかもしれないんだぞ!』『干ばつに苦しむわが国にコーラルレインを……』『それ津波の魔法だから。ラナリオンがおすすめ』『全力ラナリオンでノアの箱舟が必要になっても知らんぞ』『最近は、普通の配信が多くなってますね』『それはそれとしてかわいい』

 

 圧倒的物量でくりだされる"かわいい"のコメントに気を良くしたわたしは、いよいよ今回の議題である"かしこさ"の件について触れることにする。

 

「みなさんにひとつお話があります」

 

『ん?』『重大発表か?』『魔法は早くても来年だろ』『イオちゃんの真面目顔使える』『なにをどう使うんだよ』『この前のインテで悟りを得たとかそういう話?』

 

「お、インテで悟りを得たというのは近いですね。そう――かしこさについてです」

 

『かしこさがどうかしたん?』『イオちゃんのかしこさはチャームポイントだと思うな』『チャームポイントで世界が危機にさらされている件』『うん。かしこいかしこい(脳死)』

 

「そのかしこさですが100あげても、知能指数は1くらいしか上がらないんです。つまり、かしこさの数値は知能指数と()()()()()()()()()んですよ!」

 

『ほぉん。で?』『ごめん、イオちゃんが何言いたいのかよくわからない』『またポンコツかわいいアピールしてるの?』『かしこさ3でイオ虐すんなってことじゃ』『イオちゃんかしこいかしこい!(必死)』

 

「わからないんですか? かしこさは素のIQとは関係がないんですよ!」

 

『素のIQと関係あるかもしれんやん』『関係あるかもしれないし関係ないかもしれない』『やっぱ、イオちゃんかしこさ3を気にしてたんやね』『かしこさよりもかわいさで勝負しろ!』『知能指数とかしこさの値は関係あるんでしょ?』『なぜ数値的影響があるのに、かしこさの数値は関係ないと言い切れるのか』『これはポンコツじゃな』

 

「むむむ」

 

 わたしはただ、かしこさの数値は低いと頭が悪いみたいに思われるのが嫌だっただけだ。

 係数はメチャクチャで、知能指数とのつながりは薄い。これはまちがいないはず!

 

『白いのが赤い』『紅白でめでたい』『紅白で愛でたい』『お正月にはまだ早いよイオちゃん』『イオ虐係数が上がっています。世界が滅びるぞ!』『知能指数の影響は薄いかもしれんけど、やっぱりポンコツ度が高いとかしこさ低くなるんじゃね?』『知能指数-ポンコツ度=かしこさ』『ポンコツ度は判断能力と言い換えてもよいかもしれないな』『とりあえずゲームしようよ』

 

 みんな、ルナの考察のひとつ。

 アルテリオス計算式によるかしこさに毒されすぎている。

 そもそも、アルテリオス計算式かどうかすらわからないのにな。

 

『仮に計算式が不明でも、イオちゃんがポンコツなのは確定的に明らか』

 

 うっせぇわ!

 

 

 

 ☆

 

 

 

 季節は冬。12月に入り、いよいよ寒さも増している。

 学園の制服では寒さ対策は不十分なので、コートやダウンジャケットを着せている親も多い。

 中には貼るカイロとかを使ってる子もいるかもしれない。

 わたしの場合、配信のときにも述べたとおり、トラマナによって全環境対応型イオちゃんになっているため、本当はノースリーブを着ようが、キャミソールを着ようが、裸レミーラで走ろうが、身体的にはなんの問題もない。

 

 ただ、服装というのは社会的な立ち位置を規定するものである。

 冬には冬のドレスコードがある。

 みんなが寒さに凍えているときに、ひとりだけ薄着で堂々としていたら悪目立ちする。

 だから、当たり前にわたしもコートを着ている。

 

 ルーラで突然出現する時点で、どうなのかって話はあるけどね。

 

「おはようございます。先生」

 

「ああ、おはよう。将棋大会は惜しかったな」

 

 生活指導の先生も観てたんだな。

 七番勝負のうち。最初を落として、あとは三連勝していたんだが、あのあと気絶してしまったわたしは不戦敗ってことになってしまったわけで、残念ながら電脳戦はAIの勝利ということになってしまった。あのときは確か零手目で勝っていたんだけど、実証しようがないしな。

 

 インテはもうしないとママンに約束したんで、わたしがAIに将棋で勝つことは二度とないだろう。

 

 学園の中に入り教室へ。

 

 理呼子ちゃんとルナが出迎えてくれた。

 

「おはようございます。理呼子ちゃん。ルナちゃん」

 

「おはよう。イオちゃん」

 

「うむ」

 

 いよいよ12月が近づいてきて、わたしは二人に相談したいことがあった。

 それはユアの誕生日についてである。

 

 ユアの誕生日は12月23日で、わたしの誕生日の一日前にあたる。

 この一日のズレがいろいろな悲劇をいままでに生み出してきている。

 

 ママンはクッソ忙しい大女優だし、パッパはさすがに娘の誕生日くらいは帰ってくると信じたいけれど、これまた自分の映画に忙しい。

 

 つまり、両親が奇跡のように休日をとれたとしても、一日だけってことが多いんだよな。

 

 これにより何が起こるかというと、()()()()()()()()()という悲劇が訪れる。

 

 例えば、12月23日に日程が決まれば、わたしのほうは本当の誕生日には祝われず、そのままスルーされてしまうんだ。逆もまた然り。もしも12月24日に日程が決まれば、ユアの誕生日はスルーされる。が、ユアはこれを嫌がるんだよな。天使なユアもまだ7歳の小さな子どもに過ぎないんだ。自分の誕生日を正式に祝われない感じがして嫌なんだろう。その気持ちはわたしもわかる。

 

 加えて事態をややこしくしているのは西洋のイベント――そう、クリスマスである。

 

 クリスマスというのは、日本人の、とりわけ子どもにとってはサンタさんからプレゼントをもらえるくらいの意味合いしかないと思うけれども、言うまでもないけど、キリスト教徒にとっては超重要な宗教的儀式として祝われているんだよな。なんだか数日ズレてるんじゃねって説もあるらしいけど。

 

 ともかく、クリスマスを家族で祝うというのは、存在を認め合う大事な儀式なんだそうだ。

 場合によっては誕生日よりもな。

 

 だから、パッパはよくクリスマスイブに帰ってくる。わたしの誕生日に。

 ユアはスルーされる。厳密にはスルーというか一日遅れになるわけだが、当然ユアは怒る。

 

 イオちゃんはお姉ちゃんなので、べつに前日に祝われてもいいんだが、こればっかりは仕事の都合なので、わたしの意思がどうこうという問題じゃない。

 

 けれど、しばらくの間、ユアがしょんぼりしているのを見ると、お姉ちゃんとしてはいたたまれない気持ちになるのである。

 

 なにが言いたいかというと、

 

「パパさんに12月23日に帰ってきてほしいの?」

 

 理呼子ちゃんが言う。

 

「そうです。お父さまはお忙しく、帰ってきてくださるとしても一日くらいなんですよね」

 

「つまりルーラに迎えにいきたいってことでいいのか?」ルナが言った。

 

 話が早くて助かる。

 そう――、パッパはあまり還ってこないものだから、魔法覚醒処置からハブられちゃってるんだよな。時間的な問題はルーラを使えばなんとか捻出できるだろ。

 

 わたしは頷く。

 

「そのとおりです。お父さまはアメリカにいらっしゃるのでわたしが迎えにいっていいかをお聞きしてほしいんです。アメリカの大統領に」

 

 ルーラで越境していいかという話については相手国の承諾があればOKだろう。国連のような機関で、イオちゃんはどの国に行ってもOKとかなれば便利だろうけど、たぶんそうはならないんじゃないかな。言ってみれば、町内会で決まったから、Aさんのお宅にご訪問していいですかって話で、Aさんからしたら勝手に決められたら嫌だろう。やはり、Aさんのお宅にお邪魔するときはAさんの意思を聞かなくちゃいけない。

 

 地球会議みたいな強制力とか団結力とかのある機関があれば別なんだろうけどね。

 あるいはイオちゃんの自由な国境越えに関する議定書とか。

 

 ともあれ――アメリカのことはルナに任せたほうが早い。

 確か、大統領の親類だったはずだ。

 

「いいぞ。滞在期間は5分でいいか?」

 

「ええ、お願いします」

 

 ビザも発行されるらしい。それともジョークなんだろうか。

 アメリカ式の冗談はよくわからん。

 

「ねえ。イオちゃん」理呼子ちゃんが声をあげた。「誕生日お祝いさせてくれる?」

 

「あ……」

 

 思わず、声が漏れてしまった。

 

 そう、クリスマス近くの誕生日にはもう一つ弊害がある。

 クリスマスはご家庭で祝うので、友達のお誕生日とバッティングしちゃうことが多いということ。それと、学校が冬休みに入ってしまうということだ。

 

 小学生にとっては――、しかも都内中から集まってきているお嬢様、お坊ちゃまのための学校だから、友人宅に行くというのも、結構な時間と手間がかかったりする。

 

 それらを乗り越えてお祝いしたいという気持ち。

 

 わたし、初めて友人にお祝いされちゃう。お誕生日おめでとうされちゃう。

 うれしい。うれしい。

 

「も、もちろんです。理呼子ちゃんがお嫌でなければですけど」

 

「招待状を書くのがマナーだぞ」

 

 ルナがまさかマナーの話を持ち出してくるとは……。

 招待状か。確かに趣深いところではあるけど、招待状を出したのに来なかったとか怖くはあるよな。まあ、魔法クラブのみんなが来てくれないってことはたぶんないと思うけど。

 

「えっと、じゃあ招待状を書きますね」

 

「ああ。アメリカの威信をかけて、最高のプレゼントを用意してもらおう」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「ねえ。ユアちゃんのほうは誕生日プレゼントどうするの?」

 

 理呼子ちゃんに言われて、ハッとした。

 いまのわたしは外に出て普通に買い物をするというのが非常に難しい状態だ。

 魔法を使って何かを作ってもいいけれど……、わたしの魔法をわたしのプレゼントに使用するのは変だし、さっきルナが言ったとおり、今回は個別のプレゼントになるだろう。

 

 つまり、みんなユアには個別にプレゼントを渡す。

 じゃあ、わたしは?

 わたしだけ魔法で創ったプレゼントを渡すのか。

 まあ、わたしなんてそれくらいしか特技がないともいえるんだけど……。

 

「今回ばかりはモシャスで変身して買いに行かなくてはならないかもしれません」

 

 モシャスで自分の容姿を変えたくないってのはあるんだけど、四の五のいってられない。

 主義主張の前に、わたしはユアのお姉ちゃんなのだから。

 お姉ちゃんは妹様のために尽くすのです。




今回はちょっと短めです。
みなさんからいただいたネタをうまい具合に組み込めないか検討中……。

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