ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
妹の誕生日に向けて、姉は宗旨替えをする。
要するに、モシャスによって容姿を変えて買い物に行くことにした。
それと、パッパをユアの誕生日にルーラで呼んで、直接祝ってもらう。
ルーラで行き帰りを短縮できれば、仕事の都合もつくだろうって話だ。
パッパについては、いまハリウッドやらどこかで映画をとっていて、迎えにいくにはアメリカからパスポートを取得しなければならない。まあ税関とか通るわけじゃないけどね。
ママンについては、女優の仕事は抑えぎみだから、たぶん今年は大丈夫の模様。
『買い物は遂行する』『国境も越える』
『両方』やらなくっちゃあならないってのが『お姉ちゃん』のつらいところだな。
姉妹であるからこそ、
天秤で測るように、公平でなければならない。
わたしもそういう気持ちが少しはあるよ。
妹がズルいなって感覚。わたしよりも愛されてるなって時々思ったりもする。
だから、ユアにもそういう感覚はあると思う。
実際に、誘拐されたときにそんなことを言っていたしな。
まぎれもないユアの本心だろう。
でも、お姉ちゃんはユアのことが大好きだ。
それもまた本心であり、妹のためならだいたいのことは我慢できる。
お姉ちゃんだからな。
プレゼントについてなぜ買い物が必要かというと――。
みんなはわたしに個別にプレゼントをくれる。みんなの魔法レベルはプレゼントをするには少々心もとなく、わたしのプレゼントにわたしの魔法を使うというのはわけがわからないからだ。
だから、わたしはみんなから個別のプレゼントをもらう。
あまり負担にならないようにお願いしたけれど、たぶん、ルナが自重すれば調整はつくだろう。
それで、ユアのほうだが、わたしと同じように個別のプレゼントじゃないと嫌だろう。
お姉ちゃんズルいって言うに決まっているのだ。
考えても見てほしい。ユアの誕生日が先行して、ちょっと素敵で不思議な魔法グッズをみんなでプレゼントする。そのときはうれしいだろう。でも、わたしに対してはみんなで個別のプレゼントが贈られる。量というか数も重要なんだよ。
だったら、わたしも買い物にいって、ちょっとした小物をプレゼントする。
オサレなイオちゃんは買い物も一流だ。ただ、女の子が喜びそうなものはよくわからない。
このあたりはできるだけ年が近くて常識的な理呼子ちゃんに聞くのがよいだろう。
と、その前に。
ママンを説得しなくちゃな。
ユアが眠ったあとに、こっそりママンのお部屋にお邪魔する。
わたしが買い物に行きたいというと、みるみるうちに渋い顔になった。
「ユアの誕生日プレゼントを買いに? あなたと理呼子ちゃんのふたりで?」
「そうです。おゆるしいただけませんか? モシャスもしますし」
「さらわれそうになったらどうするのよ?」
「わたしが誰かにさらわれると思いますか?」
正直、核ミサイル撃たれても大丈夫だと思うんですよね。
不良漫画みたいにご都合主義的に悪漢さんに襲われたとしても、むしろその悪漢さんをバラバラにしてしまうかもしれないほうが怖い。
「甘いものあげますよって言われたらホイホイついていっちゃいそうね」
何歳児だよ……。
ママンの評価が低すぎる件。
「さすがにわたしだってそこまで馬鹿じゃありません。それに毒物とか食べさせられても、常時回復していますから問題ないですし、キアリーで治ります」
「そういうふうに魔法があるから大丈夫って思ってるから怖いのよ。インテの件だってあるでしょう。あのとき、私はあなたを失いそうで怖かったのよ」
そう言われるとツライところだ。
あのときはご心配をおかけしました。
わたしがシュンとなっていると、ママンは溜息をついた。
「そもそも、あなたはひとりで買い物に行ったこともないじゃないの」
「それは理呼子ちゃんがいっしょについていってくれるから大丈夫だと思います」
「買い物にはお金が必要なのよ」
「知っていますよ。幼稚園児じゃないんですから」
「モシャスで金銀宝石だして、支払いしようとしたらダメなのよ」
「わかっていますって!」
「お金そのものをコピーしようとしてもダメよ 犯罪になるわ」
「お札も硬貨も構造が複雑すぎてコピーするのは難しいと思います」
「やろうとしたのね?」
「してませんよ。先ほどからお母さまのわたしに対する評価が低すぎる気がします。この頃は、きちんと会社の意向に沿って動いてきたはずです。インテについてだっておばあ様からお願いされたからじゃないですか」
「まあ……そうね」
イオちゃん、わりと世のため人のために働いている良い子なのでした。
ママンが悩みはじめた今がチャンスだ。
わたしは軽く指を汲み、うるうるとした上目遣いでママンを見つめる。
「おねがいママ」
「……っ!?」
愛娘の媚び媚びビーム。
効果は抜群だ。
って、あれ。
いつのまにやら、わたしの身体がかき抱かれている。
ギュウギュウって、結構力強い感じ。
ちょっと効きすぎた!?
「お、お母さま。どうしたんです」
「最近のあなた、かわいすぎよ」
「そ、そうでしょうか……」
かわいいと言われてうれしくないはずがない。
ママンに愛されてるって感じがするから。
メダパニで演技しなくなったんだけどな。さっきのは素の演技というか、表現しにくいけれど、素人演技にしか過ぎなかったはずだ。大女優のママンのおめがねにかなったのだろうか。
「できない子のほうがかわいいというのは真理ね」
「できない子!?」
解せぬ。イオちゃんはできる子でしょ!?
「まあいいわ。こういうのも経験でしょうし、あなたが買い物すら知らないまま大人になるほうが怖いかしらね」
「前世でいくらでも買い物してますよ」
「あなた本当に前世ってあったの?」
ママンにとってのわたしって……。
☆
まあいい。
結果としては上々だ。
わたしは買い物に行く権利を手に入れた。
学校が終わったあとに、理呼子ちゃんとふたりで買い物に行くんだ。
これって……、もしかしなくてもデ、デートなんじゃないか。
あれ、そう考えると少しどころか、めっちゃドキドキしてきたぞ。
「り、理呼子ちゃん。わ、わたし、その初めてなんです」
教室でわたしはきょどりながら言った。
ちなみに、ルナといっしょに行かなかったのには理由がある。
放課後、わたしが向かうのはそのまま家に帰るか魔法クラブの部室であることが多く、どこかに出かけていったりすることはない。
その間、ユアをひきつけておいてもらう必要があるけれど、みのりさんは中等部だから遅れて部室に到着するんだな。その間、ひとりにさせておくというのもよろしくない気がした。
だから、ルナにお願いしたんだ。
まあ――、ルナか理呼子ちゃんかって言われたら、理呼子ちゃんのほうが圧倒的に常識人だし、買い物のアドバイスのためには是非もなし。
「大丈夫だよ。イオちゃん。優しく教えてあげるからね。まず――、買い物をするときには、お金をもっていく必要があるんだよ。金銀財宝をモシャスで出して持っていったらダメだからね」
あれおかしいな。
そのアドバイスはどこかで聞いた気が……。
はじめてのおつかいよりも丁寧なアドバイスを聞いたあと、いよいよ買い物に向けて出発だ。
まずは、理呼子ちゃんのお家にルーラで飛ぶ。
「イオちゃん。私のお部屋にいこっ」
手をひかれ階段を駆け上る。理呼子ちゃんのお部屋は二階だからな。
それにしても、理呼子ちゃんのお家には電気もついておらず。
いまは三時くらいなんだけど、誰の気配もなかった。
「今日はね。ママもいないんだよ」
「そうなんですね」
「だから、いろいろできちゃうよ?」
ニコ。
「ゲームとかしている時間はちょっとなさそうですが」
「うん。そうだね」
ニコニコ。
なんだろう。さっきから理呼子ちゃんの笑顔が怖い。
ほんのちょっと選択肢をまちがえただけでデッドエンドに至りそうな怖さがある。
「あの……、わたしの初めての買い物手伝ってくださるんですよね?」
「いいよ。まずはモシャスだね。髪と目の色を変えたら大丈夫かな。やってみよ?」
衣装棚の扉の部分には、大きな鏡がついていて全身を映すことができる。
わたしは、理呼子ちゃんに肩を触れられて、そちらのほうに誘導された。
鏡の前に映る姿は、まあどこからどう見ても美少女なイオちゃんである。
この姿を変えるのは、断腸の思いであるがしかたない。
「
ところで――、何に変身するかであるが……。
モシャスのイメージは相当に高度なものでなければならない。
他の姿を想像することもできなくはないが、やっぱり自己のイメージのほうが通りやすい。
で――。
要するに、わたしは黒髪黒目のイオちゃんになりました。
カラスの濡れ羽っていう表現があるけれど、それに近い。刀身みたいに濡れているわけでもないのに、艶がありすぎて濡れているように見える。そして吸い込まれるような黒の瞳。
どこからどうみても深窓の令嬢だ。
「イオちゃんかわいい!」
「ありがとうございます」
「りぼんつけていい?」
「えっと、はいどうぞ」
「ツインテールにするね」
手慣れた感じでリボンをつけられ、ツインテールにされてしまった。
魔法少女の変身姿もツインテールだし、理呼子ちゃんってツインテールが好きなのかな。
「理呼子ちゃんはどのように変身してるんです」
「わたしは髪を伸ばす感じかな」
理呼子ちゃんはおかっぱなんだけど、髪の長さは肩口もないくらいだ。
「
理呼子ちゃんも変化の魔法を詠唱する。
ボフンと煙とともに現れたのは、腰のあたりまで髪を伸ばした理呼子ちゃんだ。
そして、テーブルのところから眼鏡を取り出し装着。
あ――。かわいい。
いつもの理呼子ちゃんよりちょっとだけ大人な印象を抱かせる。
これで、本でも胸のあたりに抱いて、しずしずと歩いていたら文学少女と言われることまちがいなしだ。髪と目元だけで、かなり違って見えるんだな。
まあ、それはわたしもなんだろうけど。
「理呼子ちゃん。おしとやかな感じに見えます」
「えへへ。ありがとう。これで大丈夫かな」
理呼子ちゃんのモシャスは通常のモシャスだから効果時間は一時間ほどだ。
それと、服まで変えるのは難しいらしい。
わたしのほうもイメージ力が足りないと、なかなか他の服に変えるのは難しかったからな。
いまも着ている服は小学生の制服だが――、まあこれはコートを上から着るし、外行きとしてはフォーマルな恰好だから大丈夫だろう。
「服はどうしたらいいかな?」理呼子ちゃんが聞く。
そういや、夏に水着を交換して着るということをしているが、あれは恥ずかしかったな。
理呼子ちゃんのいい匂いが少しだけしたし……。
理呼子ちゃんが普段着ている服なら余計にいい匂いがしそう。
「あ、あの……早く魔法クラブに帰らないとユアに怪しまれますし、すぐに出発しましょう」
「あ、そうだね。いいよ」
☆
向かう先は近くにあるショッピングモールだ。
もちろん、歩いていくのはとてつもなく時間がかかるし、放課後の時間を超過してしまう恐れがある。モシャスの上から、
ショッピングモールまでは飛翔時間にして約五分程度。
屋上の駐車スペースに到着。
物陰で誰もいないことを確認してから透明化を解除した。
さっきからつないだままの手。
「いこっか」
「はい」
理呼子ちゃんはわたしと手をつないだまま先に行く。
手を離すタイミングを失ったみたいだが、べつに悪い気分ではないし、理呼子ちゃんがエスコートしてくれているんだろうと思う。
わたしの手がべたつかないか。それだけが心配だ。
「あー、見て見て。あの子たちかわいい」「ほんとだ。手つないでるー」「デートかな」「小学生だけで大丈夫かな」「親御さんもどこかにはいるだろ」「今日は一日ラッキーな日だ」「あれ? どこかで見たような……」「百合の匂いがする」「あの子たちの間に挟まりてぇ」「ガイア……おまえだったのか」
モール内に入ったら、家族連れも多く、子どもたちもそれなりにいる。
だから、小学生が歩いていても、いきなり補導されたりはしない。
ただ誤算だったのは、なぜか目立っていることだった。
「理呼子ちゃん。わたしたち見られてませんか?」
「うーん。イオちゃんがかわいすぎるからね」
「配色変えたのにバレませんよね」
「大丈夫だとは思うけど、買い物は早めに済ませたほうがいいかもね」
実をいうと、今日のわたしはノリでプレゼントを決めようと思っている。
ママンからはなんと諭吉さんを一枚いただいてきた。
もしかして、今世で初めて万札に触ったんじゃねって思って、ちょっと感動した。
本当の金持ちはキャッシュレスなんだよな。ついでに言えば、小学生とかだとおつかいでもない限り、子どもがお金を使う場面っていうのはなかなか来ない。
なお、小学生の誕生日プレゼントで一万円って多すぎという意見もあるかもしれないが、一般家庭に収まるであろう理呼子ちゃんも、ブルーレイディスクを棚いっぱいに揃えられる程度にはお金持ちだからな。どれくらいのラインって聞いたら、それくらいなら大丈夫ってことらしい。
それに妹へのプレゼントだ。家庭内のお金の循環なので、わたしのユアへのプレゼントは少しばかり高くてもかまわんだろう。
「なにか決めてるの?」理呼子ちゃんが歩きながら聞いた。
「方向性としては決まってるんですけどね」
「どんな感じ?」
「女の子が喜ぶようなものです」
わたしが思い浮かぶのは、具体的にはぬいぐるみとか、イミテーション系のアクセサリーとか、お洋服とか、甘いものだ。
「ユアちゃんはどんなのが好きなのかな」
「ぬいぐるみとかは好きそうですね。部屋のなかに多いですし」
「じゃあ、ぬいぐるみを買うの?」
「んー。最近はスラリンがいるからぬいぐるみは要らないかもですね。妹がよく懐いています」
「スラリンがユアちゃんに懐いているんじゃなくて、ユアちゃんがスラリンに懐いているの?」
「そうですよ」
さりげないダンディさを誇る彼に、ユアもわたしもメロメロだ。
我が家には父性が足りない。
「じゃあ、お洋服とかかな?」
「子役の仕事でいくらでもかわいい服は着れますからね。あんまり興味なさげなんですよね」
「アクセサリとか?」
「悪くはないかもしれません」
とはいえ、大人がつけているようなのはアウトだろう。
お子様的には似合わないし――。なにより面白くない。
イミテーションアクセサリの対象年齢は中学生から高校生くらいな気もするし、そもそも偽物をつけても楽しいのかと言われると、わからんな。
ユアの精神ってお姉ちゃん視点で見ても謎が多い。
なんに興味があるのかよくわからない。
なんでもそつなくこなすからな……。
あえて言えば、魔法に対しては興味があるようだったけど。
「おもちゃみたいなのはダメなのかな」
「ユアはけっこう精神年齢高そうなんですよね。ほら、姉が精神年齢高めですから」
「うん。そうだね」
ニコニコニコ。
どうしよう。理呼子ちゃんが優しげな顔をするたびになぜか悲しい。
ふたりして、いろいろなお店を巡ってみる。
「あ、これ」
そのうち、理呼子ちゃんが声をあげた。
見てみると『イオちゃんが召喚したスライム』なる商品が売られていた。
ゴム製なのか、柔らかい素材でできた拳くらいの大きさのスライムだ。
ノーマルスライムとみかん色をしたスライムベスタイプがあるらしい。
「押すと、ピキーって鳴くんだって」
「わたしっていつのまにか商標登録されちゃってたんですね」
でも、魔法カンパニーの商品じゃないようだ。
魔法製品でもないし、そもそも魔法カンパニーが売ってるのは魔法を利用した電気とかそういうのが多いからな。
こういう玩具にまでは手を出していない。つまりは――違法っぽいのかなんなのかちょっとよくわからない商品ではある。下請けの業者さんとかが創っているんだろうか。
「気になるの?」
「ええ……まあ」
特にスライムベスのほうだけど、ちょっとかわいらしい。
橙色をした魅惑のボディ。
連続で押すとぷるぷるぷると鳴くのも魅力。
「イオちゃんが欲しいんじゃないの?」
「まあ、そういうこともなきにしもあらずですが――、ユアならわたしの気持ちがわかってくれるはずです」
そういうわけで、わたしはスライムベスの玩具をお買い上げしたのでした。
ちなみに税込で1000円でした。
☆
一方そのころ。
ルナはユアと部室にいた。
ルナは部室に置かれてあるふしぎなきのみを摂取したダンゴムシAの様子を調べ――、特に変わりがないのを確かめたあと、再び部屋の隅にそっと置いた。
次に部室の中のふしぎなきのみを植えた鉢を見てみる。
まだなんの変化もない。
「ふむ……今のところなんの変化もないか」
ルナがちらりとユアを見てみる。
ユアはソファにだらしなく背をあずけ、ほとんど眠るような体勢で漫画を読んでいた。
ドラゴンクエストのモンスター使いの漫画だ。
さきほど、ルナはイオたちが来ない理由をユアに伝えた。
ちょっと野暮用でという、微妙に曖昧な伝え方だ。
ルナは嘘を言うことくらいは当たり前にできるかと思われたが、実をいうとそこまで融通の利く性格ではない。サプライズプレゼントというのは、話としてはわかるが、そんな面倒くさいことをするくらいなら、さっさとすべてをつまびらかに明らかにしろというようなタイプである。
「なあ、ユア」
「なぁに。ルナちゃん」
「お前の誕生日が近いな」
おっと、いきなりセンシティブ。
ルナは核心に触れてしまいそうになる。
「そうだけど?」
ユアは特になにごともないふうに言った。
「おまえの誕生日は何がほしい?」
直球勝負のルナである。
イオもそういうふうに直球で聞いたほうが話としては早いかもしれない。
ただこれはルナの性格と幼さだからこそできることでもある。
ユアはにっこり笑った。
「え、プレゼントくれるの?」
天使の微笑み。子役の能力を最大限に発揮した真正のメソッド演技。
まるで砂漠で乾いた人が水を与えられたときに感じた気持ちを表現したような。
すさまじい聖性を感じさせる笑みであった。
「お、おう。ユアは私の友達だからな」
「私も?」
そのニュアンスは、イオのオマケでないのかという意味だ。
ルナにとっては魔法を使えるイオが一番であり、ユアのことは妹であるという意味しかないのではないかと聞きたかった。
ルナは持ち前の頭脳で、ユアの言葉を了解し返答する。
「ユアも友達だぞ」
「ありがとう」
今度は本当にうれしそうに笑うユア。
ルナとユアは年が近く、一番近しい友達になれる気がする。
親友という存在に。
「で、なにが欲しいんだ?」
「んー」
ユアは右斜め上方向を見つめながら考える。
ルナから見ても、ユアは不思議な感性を持っている。
なにがほしいという興味の層がものすごく狭いか、ほとんど無いように思えるのだ。
例えばルナの場合、知的好奇心を満たすものが欲しい。
欲望というのはその人の本性に根差しているものであり、それが無い人間は存在しない。
だから、ユアにも隠された本性が、必ず存在するはず。
結論はたっぷり二十秒ほどかけてから出た。
「お金かなぁ?」
「お金か……。お金だと負担が大きい理呼子が困るだろう。わたしなら百万ドルくらいはポンとあげられるが」
ルナは少し考える。
ユアの思考を読んでみる。
約三秒ほどの思考のあと、ルナは思考を打ち切った。
よくわからないというのが結論だ。
だがわからなければ聞いてみればいい。
幸いにもルナもユアも口をきけるのだし、考える頭も持っている。
「お金は交換価値だが、交換する何か自体を求めているわけではないということか」
「そうだね」
「つまりこういうことか。ユアはみんなの想いは受け取りたい。だが対象物として何か欲しいものがあるわけではないと」
「そんな感じかもね」
「ふむ……考えてみよう」
ルナは椅子に背を預ける。
結局、どんなプレゼントでもみんなからもらえる想いはうれしいと言いたいのだろう。
とてつもなく即物的なように見えて、奥底にある欲しいものは――結局。
ふと、ルナの脳裏にイオの顔が思い浮かんだ。
思考過程や考え方は異なるものの、どこか似た者姉妹なのだろう。
そう考えて、ルナは少しわらった。
百合の波動を喰らえ!