ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
射撃場。
警察や軍隊が出てくるアメリカのドラマでは定番の、人型をした板が機械的に動くやつ。
地下の研究所には魔法の威力研究ということで、そんなところもあるようだ。
厚いプラスチックと分厚いコンクリートで囲まれた武骨な空間に、これまた兵士然とした男たちがたむろっている。たまに女の人も混ざっていたり。とりあえず、みんな筋肉が過ごそうだ。
射撃場では銃の隣でギラを撃ってる人とかいた。収束して撃つとレーザービームみたいになるギラだけど、なにもしないとギラは拡散する炎の束に過ぎない。
屈強な男たちがギラギラしていると、なんか暑苦しい。
「撃ってみるか?」
セシリアさんが何気なく言ってきた。
マジで? 男の子的感覚では興味があるぞ。
「銃、撃っていいんですか?」
「ん……、そっちか」
「そっち?」
「てっきり、ギラを撃ちたいとばかり思っていた」
「ギラですか」
結果がわかっていることほど、面白くないものもないだろう。
どうせ、なろう小説のギルド入会シーンみたいに、標的を溶かしたりしてSUGEEってなるに決まってるんだ。わたしは詳しいんだ。
それよりも銃撃ってみたくない? 健全な男の子的な魂として。
「ふむ。なにが撃ちたいんだ?」
「定番のベレッタとかコルトパイソンとか、ですかね?」
小首をかしげておねだりしてみる。
セシリアさんは表情が読みにくいんだよな。西洋人というのもあるけど、クールすぎる。
ルナのほうがまだそのあたりはわかる。
「子どもに銃を撃たせるのはな……」
「マム。イオは常時、ロケットランチャーを装備しているようなものだぞ」
ルナが援護射撃をしてくれた。
「たしかにそういわれればそうだな。こっそり撃ってみるか」
セシリアさん、話が分かる人だったわ。
デカいヘッドホンみたいなのをつけて、標的の前に立つ。
身長が足りなくて、銃を置いている台のところがギリギリ見えるくらいしかない。
いくつかの銃と弾が置かれている。
セシリアさんがその中の銃の一つをとりあげてわたしに渡してくれた。
「ベレッタはこれだ」
――ベレッタM92F。
オートマチックピストルで、よくバイオハザードとかにも登場している定番の短銃だ。
短銃とはいえ、その大きさはわたしの掌よりも大きい。
「ありがとうございます」
受け取った銃はわりと重い。
人を傷つけ命をカンタンに奪える機構。
その重さを感じてるのかもしれない。
とはいえ、わたしの魔法のほうが威力は段違いに上ではあるのだが。
少しばかり緊張感はあるけれど、男ごころ的にはワクワクもするよな。
武器って、なんというかこう……綺麗ですし。
ひとことで言えばかっこいい。
でもどう扱えばいいのかわからない。
わたしはあたふたしている。セーフティをはずして、スライドさせて撃つ。
それくらいは知識としてわかっているんだけど、イオちゃんビビってる。
ベレッタちゃんは……そう、この娘はツンデレ美少女なんだ。
人の感情を知らないツンとした美少女。触れえざる孤高の存在。
けれど、こころの奥底には深い愛情を秘めていて、誰かにそっと触れられるのを待っている。
冷たい
そんな危険で、かぐわしいほどの魅力に満ちたオンナノコなんだ。
……ほおずりしたい。でも容易に触れちゃいけない。
触りたい。でも触っちゃいけない。
アンビバレンツなこころ。
わたしは彼女に憧憬の念を抱く少年に過ぎない。
「イオ。また変なこと考えてないか?」
銃にはまったく興味がないのか、ルナはベンチに座って足をぶらぶらさせている。
頬杖ついてジト目でこちらを見ていた。
そんなにヤバかったか?
男の子だったらあれくらいフツーでしょ。
まったくルナはロマンというものがわかっていない。
「少しまごついていただけです」
「銃の使い方は知っているか」
セシリアさんがわたしの傍に寄り添うようにして立った。
「教えてください」
「いいだろう。まず――」
セシリアさんの説明は、わたしが覚えていることとあんまり変わらなかった。
ただ、30代くらいの美人なパツキンに手獲り足取り教えてもらえるとか。
わたしは優勝しているとしか言いようがない。
ルナごめんよ。
これがジャパニーズ
「イオ。おまえまた変なことを考えているな……」
ルナの言葉は無視だ。
「さて、はじめます」
わたしは標的に狙いをつける。
残念ながら命中率をあげる呪文はドラクエにはない。
けど、ギャラリーたちがニヤニヤしてしてるのを見ると、なにくそって思っちゃう。
日頃FPSで鍛えたわたしの実力を見せてあげよう。
目標をセンターに入れてスイッチ!
☆
射撃場は世界で注目の的であるイオを一目見ようとする人であふれていた。
地下で魔法の研究や訓練をおこなっている者たちがじわりじわりとゾンビのように集まってきていたのだ。
「あー、イオちゃんかわいいな」「銃を持ってるとジャパニーズアニメーションの戦闘美少女みたいだ」「背が足りなくて踏み台用意してもらってるのかわE」「小学生の料理の手伝いかよと思いマシタ」「踏み台になりたい」「おまえ……高度だな」「日本では普通だぞ。むしろご褒美といわれている」「義務教育あんよで踏まれるとかご褒美に決まってるだろ」「義務教育あんよというパワーワード」
実をいうとイオはかなり人気だった。
なにしろ――、ここに集っているのはまぎれもない戦う者たち。
生傷が絶えない職業である。
イオのベホマズンで失った手足を取り戻して帰ってきた者たちもいる。
子どもや家族が回復した者たちもいる。
地雷の撤去作業で両手両足を失っていたケニスは、いまでもあのときのことを覚えている。
国は表彰してくれる。傷病年金で一生喰うには困らない。
けれど、自分に対する周囲の視線は冷たかった。ゴミを見るような目。
壊れた機械に価値などないと言いたげな視線。妻は介護に疲れ、五歳の子どもには失敗した父親として侮蔑のまなざしを向けられる。家庭は崩壊寸前だった。すべては終わったのだ。
このまま朽ちていくのだと思っていた。
だが――、突如として優しいあたたかな光に包まれ、ケニスの欠損はたちまちのうちに回復したのである。あとから知ったのであるが、これは日本にいる少女がもたらした奇跡だった。
そして、回復した後であるからこそわかったことがある。侮蔑のまなざしとは家族のものではなく、自分自身が向けていたものである、と。すべては自滅に過ぎなかった。愛は失っていなかったのである。そのことに気づかせてくれたイオは、ケニスにとってまさしく天使だった。
「OH……TENSHI……」
思わず、ひざまづいてしまいたくなる。
全回復魔法は大方の人間にとっては幸福をもたらす天使の御業なのである。
宗教的な信仰心が強い彼等はイオを敬愛していた。
なにしろ、イオのやったことは
日本の場合、メシア的な人物が現れたとしても宗教的感覚は薄いので、こっそりと応援するというのが主流だ。SNS等を用いたリモートでの応援も多い。アメリカの場合は、気持ちを表現するのがストレートだ。
イオの射撃の腕前は、バイキルトによってブレがないことを除けば普通だったのだが、それではあまり盛り上がらないと考えて、こっそり魔法をつかって射線を修正することにした。
「命中率99%以上だしてるぞ」「あんな無茶苦茶な構えでよく当たるな」「日本人は化け物なのか」「イオちゃんの天使補正すごすぎ」「明らかに変な方向に撃ってるのにあたってる」「イオちゃん。FPSのゲーム配信だと普通だから、たぶん魔法使ってる」「魔法って……、あ、バギか」
そうバギによる射線補正だった。種を明かせば簡単だ。風の通り道を創り一本のラインを引く。吸い込まれるようにして標的に当たる。ただこれだけのことである。
イオが次に取り出したのは、コルトパイソン。
マグナムと呼ばれる大型の銃だ。
「イオちゃんマジ天使」「コルトパイソン片手で撃ってるのはビビるわ」「バイキルトで大丈夫だとはいえ、大人でも肩がはずれかねんからな」「あんな細い腕で大丈夫かよ」「天使だから大丈夫に決まってるだろ」
最後は、やっぱりみんなが見たがっている魔法を見せた。
ツイっと人差し指だけをあげて「ギラ」で撃ちぬく。
イオのためだけに用意された一メートルほどの厚さの壁――というより特殊合金のカタマリは、あっさりと融解して、マグマのようにドロドロに溶けた。ついでに貫通したギラは射撃場の一番奥の壁も灼け焦がしていた。
「すげえ」「なろう小説みたいだ」「なんだ、なろう小説って」「知らんのか」「知らん」「イオちゃんのすごさに今さら気づいてももう遅いみたいなやつだろ」「は?」「むしろこの場面だと、またわたしなんかやっちゃいましたか(きょとん?)だろ」「おまえら日本文化にたしなみすぎ」
ともかく、ギャラリーたちは沸いた。
日本よりも直接的で、パチパチと惜しみない拍手を送る。
地下の空間に雷が鳴るような大きさで響いた。
イオは照れた。
「せ、せんきゅう」
そして小さくブイサイン。
「あ。ニフラムされる」「義務教育おてて」「義務教育というワードが気に入ったらしい」「おてて民って国境越えるのな」「イオちゃん武装しないで魔法だけでよくね?」「魔法少女だから杖とか持つのがいいんじゃないか」「最終兵器イオちゃん」
☆
「そろそろ時間だな」
セシリアさんがスマホで時間を確認しながら言った。
時間というのは、大統領に会う時間のことだろう。
あれから、実験とか訓練で傷を負っていた人に回復魔法かけたり、銃弾に魔法をこめようとしている場面にでくわしたり、わたしのほうでマホカンタでコーティングして、さりげなく魔法弾が成功したり、いろいろあったけど、総じて楽しかった。
イオちゃんの魔法入り銃弾はちょっと威力が高すぎて危うく研究所の壁が崩れそうになったんで、あえなくお蔵入りになってしまったけれど、まあしかたないだろう。
マホカンタをうまく構築できれば、衝撃と同時に魔法が飛び出るような仕組みもできるというのはわかったけれど、魔法力のコントロールがずば抜けてないと難しいだろうと思う。わたしの場合はチート能力でそもそも魔法のコントロールは精緻なものになっているけれど、魔法力がすさまじいから、うっかり世界を壊してしまわないようにという、神さまの優しさなのかもしれないな。
実験の結果は、今後ともがんばりましょうって感じだが、研究者さんもやっぱりわたしを褒めてくれた。エクセレント。ファンタスティック。キュート。あたりは聞き取れたな。
ギャラリーさんたちもなぜかついてきて、いっしょになって実験を見守ってくれたし。ふふ、やはりアメリカ人は褒め上手! イオちゃんはおだてられるとどこまでも登っていくぞ。
「そのまま大気圏に行かないように気をつけろ」
ルナの突っ込みが激しい。わたしってそんなにちょろく見えるのだろうか。
すっかり一体感の出てしまったギャラリーのみんなに手を振り、わたしたちはルーラで
ホワイトハウスの外形を知らない人は、たぶん日本人でも稀だろう。いくらかしこさ3のわたしでもそれくらいは知っている。
では中身はというと――、結構知らない人が多いんじゃないかな。
ふふふ。わたしは知っているぞ。ネットで前日に調べたからな。
ホワイトハウスはなんと132もの部屋を有する巨大な建物なんだ。おそらく宮殿や現代のお城といっても通じるところがある。そういえば、宮殿のような品の良さもあるしな。
中には、政務とは直接的に関係のないゲームルームやチョコレートショップ、映画館からトレーニングルーム、食堂から音楽室まであるらしい。
ちょっとしたアミューズメントパークだな。
庭園のような道を抜け建物中に入る。SPとか身体検査とかあるかなと思ったけど、そんなものはありませんでした。セシリアさんがいわゆる顔パスなのかもしれない。あるいはイオちゃんが最強すぎて、身体検査とか無駄だと思ったのか。
特に誰がついてくるでもなく、セシリアさんはどんどん歩いていく。
エレベーターに乗ったり、長いホテルのような廊下を歩いたりしたけど、きょろきょろしっぱなしでよく覚えていない。
それで、もちろん大統領がおわしますのは大統領執務室。
そこにテレビでチラチラ見かけるアメリカ大統領の姿があった。
年齢はけっこう若い。
だんだん高齢化が進んできたアメリカと日本のトップの方々だけど、インデペンデンスデイの大統領くらいの年齢だ。具体的に言えば、40代半ばくらい? 政治のトップにのぼりつめたにしては相当若いな。
この人はルナの伯父にあたるとかなんとか。
つまり、セシリアさんのお兄さんとかになるわけですね。
眼光鋭く、日本のおじいちゃんたちに比べたら、政治的にも権力的にも強そうだ。
「へ、へろー?」
わたしは精一杯の笑顔で挨拶する。
「ハジメマシテ……イオサン」
やべ。大統領は日本語使えないタイプだ。
そりゃそうだよな。日本語まで習得しているアメリカ大統領なんていたかどうか。
そりゃ少しはわかるんだろうけど……。
「
ルナがあきれたように言った。
「えっと、いいんですか?」
逆バベルの塔とかで叱られたばかりだからな。セナハについては少し慎重になっているんだ。
すると、ルナがペラペラと英語を話し、大統領がハハハとアメリカ人的な笑いをして親指を突き出した。OKサインだ。
「わかりました
マホアゲルとともに新しく作られた翻訳呪文。
念話の要領で相手の言語を翻案してくれる。
「あらためまして。初めましてイオさん」
「はじめましてロバート大統領閣下」
このままカーテシーしてもいいぞ。
とはいえ、学校の制服で来ているから、カーテシーできるほど丈は長くないがな。
たぶんパンツが見えてしまう。それはそれではしたない。
ともかくわたしは礼を失しないことを考えていた。
よくなろう小説とかで、王様に対して慇懃無礼な態度をとるタイプの主人公とかいるけれど、現実的に考えれば、わたしがいくらチートを持ってようが、礼を失する態度というのはよくないと思う。魔法がチートなので、確かに力関係ではいくらでも屈服させることはできるんだろうけど、現代社会は権力構造とかが複雑だ。わたしが人間社会に定着するためには、ひとつひとつの人間関係を大事にしていかなければならない。最近、そんなふうに思うようになりました。
「閣下と呼ばれると少しばかり大仰だね。ルナの友達なのだから、ロバートおじさんと呼んでもらってもいいんだよ」
「では、ロバートおじさまとお呼びしますね」
「ああ、ところで、立ち話もなんだからお茶でも飲みながら少しお話をしよう」
「はい」
「ロバート。あまり政治的な話を持ちこむなよ」
セシリアさんが釘を刺すように言った。
ああ、まあそうなるな。
ロバート大統領にとってみれば、今回の話は渡りに船といったところだろうか。
わたしの魔法はマホアゲルによって魔法が伝播したあとも、なお有用だ。
魔法力が大きければたいていのことはなんとかなるし、さっきみたいに魔法銃の可能性とかも出てきてしまうわけでして。
わたしの気分次第で、技術革新とかが持たらされると考えているんだろう。
でも、わたしは日本人だし、ママンの言うことを聞く素直な良い子だ。
アメリカにとっては手袋ごしに背中を掻くような、もどかしさがあるのだと思う。
明日からの予定について打ち合わせを行う。めちゃくちゃおいしいショートケーキを食べながら、お茶をのみながら、人をダメにするタイプのふかふかな椅子に座りながら、話を聞く。
わたしでも理解できるくらい話は簡単だ。
やることは、まあパレードとパーティくらいだからな。
どっちもわたしはお飾りというかなんというか、ただつったっていればいいみたいだし、トイレとか休憩のタイミングとか、大事なのはそれくらいだな。みんな忘れてるかもしれないけど、イオちゃんはトイレ休憩を必要としなくなっているので、べつにずっと座ってるくらいなら余裕ですけどね。
打ち合わせが終わったあと。
ロバート大統領は雑談をしはじめる。
「ところでイオちゃんは留学とかには興味ないかね?」
「留学ですか。いえ、わたしはあんまり……」
「ルナも日本の文化に触れて、成長著しいようでね」
ロバート大統領がルナを見る。
ルナはケーキを口の横につけながらリスのように口を膨らませていた。
それ二個目ですからね。太りますよ。
「ごほん。ともかく、成長していると感じてるよ。異文化に触れるというのはとてもいいことだ。そう思わないかい」
「そうですね。わたしもルナちゃんと友達になれてよかったと思います」
「君がアメリカに留学してくれた暁には、我が国は最大級の補助金をだそう」
「わたし小学生なんですけど……」
「もちろん、いますぐじゃないさ。留学といえば大学くらいからが多いかな」
「えっと、わたし英語がしゃべれませんので」
「英語は習っているんだろう」
「まあ、ほどほどには」
なぜか日本人は小学校から大学生に至るまでみっちり英語を勉強しても話せるようにならないという逆スキルを持っている人が多いように思う。
もちろん、わたしもそのうちのひとりだ。
「セナハを使ってくれてかまわないよ」
ロバート大統領は軽い調子で言った。
「え? どういうことです」
「ハーバードでもマサチューセッツでもかまわない。イオちゃんが行くところではセナハを大学に通う全員にかけてもらってもかまわないというふうにしよう。セナハは複数対象にかけることができるんだろう?」
「できますけど、それって逆バベルの塔になっちゃうんじゃ」
「入学の際に同意をとれば問題ないよ。在籍の人たちも含めてね」
「お母さまが心配しちゃいますし……」
「それこそルーラで自宅から通えばいいじゃないか」
「ま、まあそうですね」
「ロバート!」セシリアさんが強い声を出す。「あまり無理強いするな」
「うーむ……無理強いというか提案をしているんだ」
「ルナの友達になってくれただけで僥倖だと思え。友情は大人のこざかしさや打算では買えん」
セシリアさんの言葉に、ロバート大統領は沈黙した。
わたしをとりこもうと必死なのはわかるけれども。
いまはまだ日本にいたいな。みんなと離れたくない。ルーラで距離的な問題は縮まったと思うけど、所属というのはこころの問題でもある。
ルナとのつながりはアメリカという国そのものとのつながりでもある。
国と人との関係なんて大きすぎるし、外国と自分を結びつける紐帯は、そこの国の誰かと友達になることだろう。
まあ留学したら友達が増えるってことは考えられるけどね。
「すまなかった。少々強引だったようだ」
「いえ。大丈夫です」
ロバート大統領はすぐに謝罪してくれて、話は本当に他愛のない雑談に移った。
展開が亀モードですね。ちょっとスピードアップしようかな……。