ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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魚の夢。ついでに記者会見 in USA。

 わたしは魚だった。

 ちいさな小魚。

 アニメのようにカラフルでもなくかわいくもない。

 普通に銀色の魚。

 種類は不明。

 

 でも、魚のわたしをみている<わたし>はいったい誰だろう?

 

 魚のわたしは必死に尾びれを動かしている。

 巨大な魚に追いかけられていたからだ。

 そいつは無表情で、そもそも魚に表情なんてない。

 ただ生存本能に従ってわたしを追いかけている。

 このままだと食べられてしまう。

 誰だって食べられたくはない。

 死ぬのはいやだ!

 怖い。怖い。怖い。

 ドラマのように殺人犯に追いかけられるような気持ちでばたつかせる。

 でもダメだった。

 

――バグンっ!

 

 ほどなく魚のわたしは食べられてしまった。

 わたしは悲鳴にならない悲鳴をあげる。

 息が苦しかった。

 誰か……助けて!

 外側から見つめている<わたし>から見れば、巨大魚すらコイと同じくらいの大きさしかない。

 そいつを殴りつけて、ちいさな魚であるわたしを吐き出させようと思った。

 苦しい。早くしなきゃ。死んじゃう。

 苦しい。殴る。苦しい。早く。殴る。殴る。

 吐け。吐け。吐け。わたしを吐き出せ!

 

「だせ……」

 

 息苦しさに目覚めると、そこは昨日案内されたスイートルームの一室だった。

 いや、トラマナによって全環境対応しているわたしに息苦しいという現象が起こるはずがない。

 しかし慮外の現象が起こった原因もすぐに判明した。

 ルナに抱き着かれていた。同じベッド内にルナは眠っていてあどけない表情をさらしている。

 

 それで、わたしは食べられていた。

 キスされていたといったほうがわかりやすいか。

 だが、キスといってもそんなロマンチックなものじゃない。

 大統領のところで食べたスイーツがよっぽどおいしかったのだろう。

 夢の中でおそらく反芻したのか、何度も何度も甘噛みされた模様。

 わたしはスカラで防御力もあげているから歯がたつことはない。食べられないスイーツに業を煮やしたのか、ルナはたぶん舐めたりもしている。舌をスプーンがわりに掬い取ろうとしたのだろう。大口をあけて、わたしのほうは口を開けて寝るなんてことはしないから、そのまま閉じたまま。

 つまり、顔の感覚だけでわかるのだが……。

 あわれなくらい顔中がべたべたになっていた。

 

 あの魚の夢がなんの寓意かはわからない。

 けれど、当座のところわたしがしなければいけないことは決まっている。

 

「顔、洗いますか」

 

 木に登るお猿さんみたいに抱き着いていたルナを引きはがして、ありえないくらい広い部屋を洗面室に向かう。洗面室も豪華の一言。曇りひとつない鏡を見ると、夢見が悪かったせいか、いくぶんボーっとしている。わたしって朝がちょっぴり弱いんですよね。トラマナしててもこればっかりはどうしようもないらしい。

 水を出しっぱなしにしてルナの唾液まみれになった顔を洗うと、いくぶん意識がスッキリした。

 

 昨日、わたしは大統領と歓談したあと、黒塗りの車で一流ホテルに案内された。

 べつにルーラで我が家に帰ってもよかったんだが、そこはそれ。

 アメリカからの歓待のひとつだから、無碍に断るわけにもいかなかったんだ。

 それじゃあ、ルナの研究所でもよかったんだろうけど、アメリカ側としてはもてなしているというところを見せたかったんだろう。

 お客様であるわたしは拒まないことこそ肝要だ。

 それに、ルナがついてきてくれるって言ってたからな。

 

 用意されたのは、ホテル内でも最高級のスイートルーム。

 一泊するだけでウン百万円はしそうな超高級なお部屋だ。

 

 お部屋の中から望む眺望は、世界を支配した気分になるほど壮大なパノラマ。

 備品の類もおざなりなものではなく、品がよくて全体的に調和している。

 

 でも一番感動したのは、サービスが行き届いていることかな。

 

 みんなわたしが『星宮イオ』であることは知っているのに、ただのひとりのお客様としてしか扱われなかった。泊まっているお客もそのあたりは承知のうえなのか、デパートのときみたいにわたしに押しかけてくる様子はなかった。クラブラウンジで優雅に夜のお食事をすると、セレブのお仲間入りをした気分。ルナには何言ってんだって顔されたけど。なんというか居心地のよい空間だったな。

 

 気分も爽快。変な夢を見ちゃったけど、たぶんルナのせいだこれ。

 スイートルームだけあって、ベッドはちゃんとふたつある。

 けれど、ルナはわたしのベッドにもぐりこんできたんだ。

 初めての友達との同衾がうれしかったのだろう。

 眠くなるまで他愛のないお話をして、やがてルナのほうが先に力尽きた。

 もふりがいのある金髪をよしよししてから、わたしも眠りについたのである。

 

「起きてください。ルナちゃん」

 

 いまだベッドの中で爆睡しているルナに優しく語りかけた。

 ついでに、ツンツンっとほっぺたをつついてみる。

 子ども特有のやわらかほっぺはクセになる。

 

「そういえば、さっきのってルナのファーストキスになっちゃったんでしょうか」

 

 そうだとすると、少し悪いことをした気分だ。

 キスとかそういうレベルではなかったけれど、いちおう外形的には唇どうしの接触ではある。

 

「むにゃ……むにゃ……んー」

 

 少しねぼけまなこのルナがこちらを視認した。

 半身だけ起こし、ゾンビのようにおぼつかない手がこちらをつかむように動作する。

 

「おはようのキス」

 

「え……っと」

 

 そうか。欧米ってそんなもんだよな。

 ドラマでよくやっている親子どうしの朝の挨拶。

 友達でも同じようにするのかもしれない。

 軽いとかビッチとかそういうんじゃなくて、文化の違いだ。

 

 郷に入っては郷に従えというし、ここはルナの言うとおりにしたほうがいいだろう。

 なにしろここはアメリカなのだから!

 

 わたしは寝ぼけたままのルナのほっぺたをロックし、真正面にキスの雨を降らせた。

 こんな感じでいいんだよな?

 

 なお、理呼子ちゃんの時のようにドキドキはしない。ユアとほとんど同じ年齢なルナはわたしにとっては妹のような感覚もけっこう混ざっている。もちろん、ひとりの友人であるのは確かなのだが、やっぱりお姉ちゃんごころのほうが勝る。

 

 そして、異文化交流!

 このキスも挨拶の一種だとわかっていれば、べつに恥ずかしくもなんともないのである。

 

「な、なにするんだ。イオ」

 

 ルナが猛烈に恥ずかしがっていた。

 

 あ、あれ? おかしいな。なにか間違ったかな?

 

 もとから白い肌が、秋の夕暮れのように真っ赤に染まっている。

 

「あの、欧米式の朝の挨拶……」

 

「違うぞ。ほっぺたどうしをくっつけたり、ほっぺにキスしたりはするが……、普通は唇どうしは恋人とか夫婦とかしかしない」

 

 な、なんだってー!?

 

 ここにきて、最近は魔法的やらかしをしていないから大丈夫だと思っていたが……。

 まさかこんなところに罠があるとは。

 

「す、すみません。わたしの勘違いでルナちゃんのはじめてを奪ってしまいました」

 

「べ、べつに嫌じゃなかったぞ。イオは友達だしな。悪くはない。そう悪くは……」

 

 しりすぼみしていく声がなんだか愛らしい。

 なんだかわたしのほうも恥ずかしくなってきた。

 

「洗面室で顔を洗ってきてください。髪の毛はわたしが整えてあげますから」

 

「わかった。その前に」ルナは再びハグするような姿勢になる。「朝の挨拶の復習だ」

 

「ほっぺにちゅうでしたっけ」

 

「そうだ。マムと寝るときはいつもしてもらってるから、なんとなく締まらないんだ」

 

「わかりました」

 

 顔が近づくだけでちょっとだけドキドキする。

 ルナのまんまるおめめも少し動揺しているように見えるのは気のせいだろうか。

 今度は正確にほっぺたにキスを落とした。

 

「ん。次はイオの番」

 

 ベッドに片膝だけのっけた状態のわたしに、ルナの顔が近づいてくる。

 ほっぺに湿り気を感じる。思わず触ってしまう。嫌な感覚じゃない。

 確かにエナジーチャージになるかも。

 

 それからお姫様が使うような化粧台で、ルナのモフモフしたハチミツ色の髪の毛を整えてあげることにしました。わたしは自分でできますよ。お姉さんですからね。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 さて、今日することについておさらいしよう。

 記者会見します。以上!

 いやまあ、記者会見だけでそんなに時間がかかるのかって話ではあるんだけど、実をいうとパレードとかパーティよりも時間がかかるんだと。

 

 日本の場合、記者会見ひとつとっても、実をいうと結構コントロールされている場面があるらしい。いくつかの新聞社については事前に打ち合わせをいれてどんな質問をするかを決めてもらう。記者クラブ制という有力・大手メディアに対する寡占的な状況が、そういった談合めいたことを可能にするわけだ。

 

 アメリカの場合は、記者クラブのような団体がないかというと、どうもそういうわけではないらしい。ホワイトハウスの記者会見室には49個しか椅子がなく、いつも同じ人が座っていたり、有力メディアが独占している状態にある。だが、目に見えない団体やサロンのような組織が下の層に無数に存在していて、日本よりもいっそう複雑だ。そのため、メディアと政府が談合するという状況は生まれにくいとかなんとか。

 

 もともと大統領選とかで舌戦を勝ち残らなければ大統領にはなれないから、記者の鋭い質問にも答えられて当然という風潮があるんだろう。

 

 じゃあ、イオちゃんはどうか。

 

 日本の場合は――プロンプターという透明な電子カンペを読みあげればよかった。

 あのときのわたしは魔法というものがほとんど知られていない状態での登場だったし、たぶん怖がられていた面もあるのだろう。

 

 今回の記者会見では、わりとイオちゃんについては知られているという状況だ。

 魔法についても積極的な政策をとろうとしているアメリカでは、わたしについて肯定的な意見が圧倒的に多い。

 

 多民族で構成されている国家だから意見はバラバラなのかなと思ったらそんなことはなく、案外、イオちゃんの人気は高かった。

 

「なぜかわかるか?」

 

 もふもふ金髪がつやつやに輝いてきたところで、ルナが口を開いた。

 

 そう、なぜなのか。

 

「わたしが子どもだからでしょうか」

 

「珍しく正解だ」

 

 多民族国家であるアメリカでは文化も歴史も異なる人たちが肩を寄せ合って生きている。そのため、より普遍的な価値観で束ねられやすい。例えば、

 

――子どもは守られなければならない。

 

 という意識。

 

 日本にもあるけれど、アメリカの場合はより強く働くようだ。

 

 グロいゲームとかでも、子どもは死ななかったりするしな。なお、日本の場合、小学生が元気よく友達に腸をひきずりだされたりするんで、そのあたりの規制は緩いのかもしれないなと思う今日このごろです。

 

「それとパワーに対する信望があるんだろうな」

 

「パワー、権力ですか?」

 

 かしこいイオちゃんは英語もわかるのである。

 

「違う。普通の"力"の意味だ」

 

 英語がわからなくても死にはしないさ……。

 

「バラバラになりやすい国民を"力"で束ねる。強いアメリカということですね」

 

「そういうことだな。最近では中国の足音が迫ってきているから、より強い力を求める傾向にある。そこにイオの魔法が出現したというわけだ。まさに救世主だな」

 

「中国にもいずれは広がると思いますけど」

 

「だろうな。ただ本質的にあの国は農民の反乱で覆ってきたことが多いから、上の連中は魔法を普及させるのを怖がるかもしれん。一般人が力を持つときに国力が増強するのが民主主義国家の利点だから、アメリカのほうが有利だろう」

 

「なるほど……。ルナちゃんはかしこいですね」

 

「感心してる場合じゃないぞ。今日の記者会見で同じことを聞かれたらどう答えるつもりだ」

 

「ラブ&ピース。みんな仲良くとか?」

 

「始まる前から不安になってきたぞ……」

 

「でも、わたしがどこかの国に肩入れしすぎるのもどうかと思うんですよね」

 

「まあな……」

 

「わたし自身、日本人だという意識が強いのでどうしても日本びいきになっちゃいますが、人類皆兄弟という意識をもって望みたいです」

 

「その意識もわりと日本的な思想だがな」

 

「そうでしょうか」

 

「だが、イオはそのくらいゆるやかな方がいいだろう」

 

 最近、ルナも優しい。

 ママンも優しいし、みんなも優しい気がする。

 

 これは……。

 まさか、人生に一度は訪れるという。

 

――モテ期というやつなのでは!?

 

「また、変なこと考えているな。まあイオらしいが」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 イオはホテルの朝食を優雅にとり、それから部屋に戻ってルナとみっちりシミュレーションをおこなった。ルナはイオ答えに別段添削を入れることもなく、致命的なところだけは指摘するにとどめた。

 

 ともかくわからなくなったら、話を振ってもいいことになっている。べつに議論しにきているわけでもなければ、論戦をするためにきたのでもないのだからというのがその理由だ。

 

 午後の食事を軽くとり、ふたりはホワイトハウスへルーラで向かう。

 向かう先は大統領執務室。

 そこでルナの母親――セシリアと、現アメリカ大統領のロバートが待っていた。

 

「よく眠れたかね?」

 

「はい。ロバートおじさま。最高なお部屋でした。ありがとうございます」

 

「それはよかった。今日の記者会見はあくまでわたしへの質問が主なものになる。イオちゃんへの時間はそこまで長いものではないので、緊張しないでくれたまえ」

 

「わかりました」

 

 ホワイトハウスの記者会見室へ歩いて向かう。

 日本の迎賓するところと違い、記者会見室はホワイトハウスにしては案外に狭い。

 49しかない椅子に座る者たちでなく、その隙間にも記者たちはひしめきあっている。

 

 そして演壇はあくまでひとつだ。

 

 なので、イオは大統領の横で、高級そうだけれどもあまり空間を占有しない椅子にちょこんと腰かけることになった。なお、セシリアもルナも裏方で待機中である。

 

 まずは大統領に続いて、イオが記者たちの前に姿を現す。

 一斉にカメラを構えるが、その前に一瞬止まってほうっとため息をついた。

 

 イオの姿に見惚れたからだ。

 

 イオが着ているのはこの日のために用意された、卒業式で着るようなフォーマルな一品だ。

 アメリカ側がプレゼントしてくれたもので、ウン百万円はするかなりの高級品だった。

 

 いつもの制服も良いとこのお嬢様学校を彷彿とさせるものであるが、今回着ている服もまた高級感と育ちの良さを感じさせるものである。中身がかしこさの足りない少女であることを除けば百点満点である。

 

 ロバート大統領はイオに着席するように促し、イオは記者に一礼して綺麗に着席する。

 メダパニを使わなくてもこの程度ならギリギリ可能である。

 

 演壇に立ったロバート大統領が静かに始める。

 

「記者の皆様にまずはお願いをひとつしたい。本日お招きした我々アメリカの同盟国。日本の小さな天使はまだ英語を習う途上にあるらしい。イオ嬢に我々の意図がより正確に伝わるよう彼女が魔法を使うことを許してはくれないだろうか。異議のある者は挙手してほしい。その者には魔法をかけないし、いかなる権利も侵害されないことを約束しよう」

 

 記者たちはざわつかなかった。

 

 これは談合ですらなく、織り込み済みだったからだ。

 通訳を介してのやりとりよりも、よりイオの本心に迫ることができるほうが記者たちにとっても都合がよかったのである。

 

 しばらく待っても挙手する者はいなかった。

 

「よろしい。では――、イオちゃん」

 

「はい。翻訳呪文(セナハ)!」

 

 イオは記者会見室全員にセナハをかけた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 イオは緊張した面持ちで隣にいるロバート大統領の演説を聞いていた。

 演説のあとは質問応答であり、これも無難に答えている。

 正直なところ、記者たちの興味は大統領にはない。大統領が魔法を有益に使うことや日本との同盟関係をさらなる強化をすること、日本のメラ式永久火力発電等の輸入などにも話は及んだが、それらも実のところすべて前座に過ぎなかった。

 

 アメリカの国民の興味は見目麗しいアメリカ人とのハーフであるイオに注がれているのは明らかだったのである。

 

 ロバートは暴走しないように防波堤になるように努めたが、人の好奇心を押しとどめることはできない。自由を愛する国民性ゆえに。

 

「それでは星宮イオ嬢への質問に移りたいと思う」

 

 イオは立ち上がり、大統領のもとへ向かう。

 大人と子どもの身長差があるが、しっかりと握手した。

 カメラのフラッシュがたかれる。おそらく今日の夕刊の一面トップになるだろう。

 もしかすると日本でも。

 

 ロバートは脇に立ち、イオが演壇の中心に立つ。

 すぐに質問の挙手があがった。

 

――イオさんは、アメリカに移住するお考えはありますか?

 

「いまのところはありません」

 

――アメリカと日本は同盟関係にありますが、その関係についてはどのようにお考えですか?

 

「政治のお話はまだよくわからないところがありますが、このかわいらしい服――、とても有名なパリのタイユールを呼んでくださり、大統領閣下からプレゼントされたものなんです。それにルナちゃん――、ルナさんと友人関係を結べました。どちらも同盟関係に因果の端緒があると考えれば、わたしにとって肯定すべきものだと捉えております」

 

――魔法については、敵性国家にも広めるつもりでしょうか。

 

「敵か味方かは見方によって変わりますので、わたしが決めることではないと思います」

 

――魔法によってテロや戦争が起こる可能性についてはどのようにお考えですか?

 

「可能性はあると思います。魔法による死傷は魔法によって癒すことができますが、そのとき感じた痛みは治すことができません。大統領閣下がおっしゃられたように、なんらかの警察組織を新たに設けたほうがよいのではと考えています」

 

――魔法による死傷が生じた場合は、イオさんの責任になるとお考えなのでしょうか。

 

「一部はそうでしょう。ですが他者の行動の責任をすべてとるべきだと考えるのもおかしなことではないでしょうか」

 

――テロや戦争で死亡した人間がでた場合には生き返らせるのですか。

 

「国家から要請を受けて判断します」

 

 ここまでは淀みの無い答えだった。

 政治のことは基本的には大人が判断することであるし、イオは個人的な感想しか言っていない。

 厄介な質問は次に来た。

 

――モンスターを召喚したという噂がありますが真偽のほどは?

 

 日本ではなぁなぁのまま済ませてきた質問である。

 

「えーっとあくまで噂ですしね」

 

――それは否定するということですか?

 

「それはですね。まあその……記憶にございませんとしか」

 

――記憶にないって、そんなわけないでしょう! 自分に是非弁別呪文(インパス)をつかってみてください。

 

 そんなことをしたら真っ赤なイオができあがるに違いなかった。

 

 なにしろ()()()()()なので。

 

 記者に詰められ、イオは助けを求める。視線の先にいるのは大統領しかいない。

 

 大統領はにっこり笑った。

 

「イオ嬢が記憶にないといっているんだ。これ以上の質問は恫喝にあたるのではないかね」

 

――しかし、自身が清廉潔白ならインパスできるでしょう?

 

「その考えには慎重になる必要がある。一見正しそうに見えるが果たしてそうだろうか」

 

――どういう意味です?

 

「石を投げるなら罪なき者が投げよという言葉もある。まずは君にインパスをかけてもらい、なにも不正をしたことがないと宣言してもらうのはどうかね」

 

――横暴だ。

 

 記者は見るからにうろたえていた。

 大統領の記者会見に出ることができるというのは一流であることのステータスである。

 その地位にのぼりつめるために、いくらかの不正に手を染めた者もいる。

 質問した記者はそのうちのひとりだった。

 

「そう横暴なのだ。記者会見や何か大切な会談の際に、インパスを前提とする社会が本当によいのかという問題がある。我々はまだ魔法に慣れていない。慎重に議論すべき問題だ」

 

 記者は黙るしかなかった。

 

 大統領の手腕にイオは惚れこんでしまう。

 

 そして、その後の質問は若干緩やかなものになり、イオもリラックスして受けることができた。

 

 そろそろ質問の終わりが近づいてきている。

 

――イオさんのステータスについて、セナハを受けた状態ではどのように見えるか知りたいのですが。

 

「ああ、なるほどです」

 

 セナハをした状態で、英語を書いても読めるようになったりはしない。

 だが、ステータスが表示される閲覧呪文(ダモーレ)ならどうだろうか。

 将来、外国の子とパーティを組んだときに困らないといいなぁみたいな妄想。

 

 ここで、イオは自分のステータスがいまどのような状態になっているか、大変残念なことにまったく()()()()()()()()()状態だった。

 

 かしこさばかりに目が向いていたせいか、あるいはセナハについての質問だったせいか。

 

 地獄の帝王を倒したことで、レベル11に上がり、MPが72兆から720兆にあがったことを、うっかり忘れていたのである。

 

 不穏な雰囲気を感じ、ルナが飛び出してくる。

 だが一足遅い。

 

閲覧呪文(ダモーレ)!」

 

――え、レベル11?

 

――あがってますね。

 

――魔法力の桁がひとつ違う。

 

――レベルアップはこの世界の動物を倒してもダメだって書いているが。

 

――じゃあ、どうやってレベルアップしたんだ。

 

――イオちゃん。真っ赤でした。

 

「にゃあああああああああああああ! 忘れてたぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 閲覧呪文(ダモーレ)によって速やかに自爆がなされたあと、モンスター召喚の件は死んだ魚の目をしたイオによって洗いざらい吐き出されることになった。

 

 ちなみにアメリカの匿名掲示板やSNSでは『Wisdom 3 lol』がトレンド入りした。

 lolは草という意味である。




ナニカを考えていたらナニカが抜け落ちる。
これはな誰でもそうなるんや。しかたないんや。

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