ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
12月22日午後2時。
わたしは大統領車でホワイトハウスに戻り、そこで待っていたママンと鉢合わせた。
どうやら、ルナのママン――セシリアさんと世間話でもしていた模様。
娘のことでも言い合ってたのかもしれない。ちなみに娘自身がその場にいる場合、話のタネが自分のことになるので、軽く地獄の様相を呈する。
セシリアさんの腕の中にルナがいて死んだ魚の目でおとなしくしているのはそのせいだろう。
だったら逃げればいいだろうと思われるかもしれないが、母親の腕のなかから脱出しようとする娘はいない。ツンデレ的にイヤイヤしちゃうことはあるかもだけどね。
それで――、ようやくわたしが来たことに気づいたらしい。
「イオ!」
ママンが駆けだしてきて、両の手がパッと花開く。
食虫植物のような動きに、一瞬目をつむったが、すぐに顔のあたりに柔らかい感覚が押しあてられた。頭を抱き寄せられている。
「お母さま……」
「イオ。どうしてあんな無茶をするの」
あんなというのが、どれのことなのかよくわからない。
テロリストと戦ったことだろうか。
それとも大魔王宣言しちゃったこと?
あるいは、もう少しで全裸状態をお披露目しちゃったかもしれないことかな。
いずれにしろ、ママンから叱られるよりも抱きしめられることに罪悪感がうずく。
「ごめんなさい。お母さま」
それでようやく、わたしの頭は解放された。
「ほんとにもう。親を心配させる才能だけは一流ね」
「お母さまにご心配をおかけしたのは申し訳なく思います」
でも、アメリカ大統領からの要請もあったわけだしな。
テロリストを放っておいて人死にを出すのも、よろしくないでしょ。
しかも、魔法テロだからイオちゃんの印象も悪くなるかもしれんし。
でも、そのあたりの説明は大人にしてもらうほうがいいだろう。
「マリア。久しぶりだね」傍らにいたパッパが言った。
「アダム……、なぜあなたがここにいるの」
「オレは魔法を使えるからね。ルーラでひとっとびさ」
わたしが周辺のルーラを封じたせいで、パッパが向かった先は近くにある軍事基地。
そこでヘリをまわしてこちらに急行したらしい。
パッパがいた設定になっているのはハリウッドで、そこはロサンゼルス市にある。
ロサンゼルスはだいたいアメリカの西海岸あたり。
ここワシントンは東海岸あたり。
ルーラがなければ、ここまで来るのは飛行機でもかなり時間がかかるだろう。
「魔法を? 100人のリストの中にはなかったはずだわ」
ママンが当然の疑問を口にする。
どうやら、パッパが言ってたとおり、ママンはパッパがスパイであることを知らないらしい。
これはこれでひと悶着ありそうだ。
娘としては、パッパの『愛してる』という言葉を信じたいし、離婚とかに発展するのは嫌だ。
わたし、ママンもパッパも好きですから。
「それについては私が説明しよう」ロバート大統領が口を開く。
「大統領閣下……」
「簡単に言うと偽名だ。アダムには偽名で登録してもらっている」
「偽名で100名の中に入っているということですか」
「そのとおりだ。もちろん、日本がうっかり101名になったのと違い、我々は100名きっかりであるのは間違いない」
そういえばという話なんだけど11月の末くらいにいとこの好美にマホアゲルをしたら三回の制限がなく魔法が使えるようになったってことがあった。
大統領がいってるのはそのことだろう。日本は100名を越えて1名がプラスされてしまっているわけだ。
大統領が言いたいのは、日本と違って人数は遵守しているぞと言いたいのだろう。
だいたい、日本もアメリカもべつに100名のリストを一般に公開しているわけではないからな。そんなことをすれば、その人に殺到するに決まってるし、名前のリストを知っているのは両国でも一部の人だけだ。
「日本に誤情報を与えたということになるのでは」
「偽名とはいえ、本当の名前でもある。アダムには1000の名前とは言わないが、10以上の名前があるんだ」
大統領閣下は厳かに言った。
ママンは怪訝そうな顔になる。そりゃそうだろう。10以上の偽名を使う映画監督ってなんだよって話で、わたしもスパイだって聞かされてなかったら「は?」ってなってただろう。
「どういうことなの。アダム」
「オレはアメリカのスパイなんだ」
ついに言ってしまった。
ママンの目が見開かれる。
そして――。
パンっと乾いた音が室内に響いた。
「私に嘘をついていたのね!」
「嘘をついていたわけじゃない。ただ言わなかっただけさ」
「私と結婚したのもスパイ活動がしやすくなるからでしょう」
「そうじゃない。君のことは愛してる」
ひゅ~。これがアメリカ式かよ。
言葉がストレートで剛速球って感じだ。
いまさらながら、理呼子ちゃんの告白を思い出したりしてしまった。
「信じられないわ」
「オレの気持ちなら君が一番わかっているだろう。君への愛がなくなったと思わせることを一度でもしたことあるかい」
「スパイだなんて、最大の裏切りじゃない」
「信じられないなら
「たわごとはよして。あなたの愛が本当でも、あなたが私を利用していたという状況は変わらないわ。私は知らず知らず国を裏切っていたことになるじゃない! そんな愛が本当だとでも?」
インパスは内心の是非は識別可能だが、本人がそう思っているだけという可能性はあるだろう。
ママンが言いたいのは"真実の愛"みたいなことなんじゃないかと思う。
わたし、子どもなのでまだよくわかりませんが……、おそらく。
「どうもスパイの仕事に誤解があるようだが、オレの場合は世界を壊そうとする連中と戦ってきたんだ。国の機関から情報を盗むということはあまりしない。日本は――まあハッキリ言って情報セキュリティはガバガバだからスパイにとってはなんの面白みもないよ。あんなのは覚えたてのルーキーにさせておけばいい」
「そうやって誤魔化すのはやめて!」
「誤魔化してなんていない。オレは真実を話しているんだ」
「真実? 真実なんてどこにあるというの。あなたは本当の自分を隠してきたのに?」
「夫婦にだって秘密のひとつやふたつはあるだろう」
「私はあなたに秘密にしていることなんてひとつもないわ!」
「君が清廉な人だというのは知っている。でも、一般的な話をしているんだ」
「どこで統計をとったっていうのよ。勝手な印象をしゃべるのはやめて」
「君を失いたくないんだ」
「騙されてるかもしれないと思いながら付き合うなんて器用なこと、私にはできないわ」
やべえ。ママンとパッパが喧嘩している。
こんなシーン、いままでなかったぞ。パッパは家にいる時間は短くても、ママンとは電話とかでいろいろ話していた。喧嘩しているところなんて初めてみたぞ。
どうしよう。おろおろしちゃう。家族内不和という人生最大の危機に、テロリストと対峙したときよりも焦りが生まれる。
「あの……」ママンの服の端をつかんだ。「わたしも魔法が使えることを十年間ほど黙っていました。お母さまに怖がられるかなと思ってそうしてたんです。お父さまもそうなのではないでしょうか?」
「あなたの魔法とは違うでしょ」
ママンがきつくにらんでくる。
圧がすごい。
でも、夫婦円満のためにわたしは抗う。
「同じだと思いますよ。わたしの場合、お母さまに見限られたと思ってバラしたわけですけど、10年もの長い間黙っていたのは、お母さまに嫌われるかと思って怖かったからです。お母さまに好かれたかったから魔法を使うのを我慢してました」
「イオ……、あなたそうだったのね」
「はい。春先に言うべきことだったのですが、魔法のこと黙っていてごめんなさい」
わたしは頭を下げた。
「マリア。スパイのこと黙っていてすまなかった!」
すかさずパッパも同じようにする。
親子で綺麗に並ぶ形になった。
パッパは最初に謝罪すべきだったと思うんだよな。
魔法を秘密にしてきたのは、つきつめると自分の都合だ。
必死な防衛であって、そうせざるをえなかったと主張したくなる。
でも、10年も家族に重大事を秘密にされて傷つかないわけがないんだ。
ママンってかなり繊細だし、自分の都合をおしつけるばかりじゃダメなんだと気づいた。
家族を大事にするママンだからこそ、家族愛には敏感なんだろう。
「あなた……娘から演技指導を受けるとか恥ずかしくないの」
ママンは腕を組んだままだ。
「オレは恥ずかしくないな。イオちゃんはかしこい子だからな」
そう、わたし、かしこい子!
世界一かっこいいパッパに褒められるとか嬉しい!
ドヤ顔が止まら……。
ダメだ。まだ笑うな。
こらえるんだ。
し……しかし。
「イオ、調子のらないの」
何も言ってないのに表情だけで判断された、だと……。
「でもお母さま、お父さまがお母さまを愛してらっしゃるのは本当ですよ」
左手でママンの手を握る。
「インパスでもかけたの?」
「そうではなく――、インパスよりも高感度な娘センサーがあるからです」
「なによそれ」
あ、ママンが笑った。
ようやく弛緩した雰囲気になって一安心です。
わたしは残った手でパッパとつなぎ、三人でひとかまりにギュっとした。
まるでアメリカのホームドラマみたいだぜ。
☆
12月22日午後3時。
時間は無情に過ぎていく。
イオちゃん一行は会議室みたいなところに詰められて、今後の予定を話し合うことになった。
やるべきことを列挙する。
・テロリストたちが逃げないように留置場などに魔法遮断処置。
・テロリストから本来的なセナハを使って情報を聞き出す。
・テロリストの巣窟(すくつではない)を探索し殲滅する。
・魔法を使える者が増えないか濃厚接触者を調査。
・日本とアメリカの両国で魔法漏れをした者が誰かをインパスで調査する。
・同人に対して永久マホトーン処置。
こんな感じか。
ついでに言えば、わたしの予定としては12月23日の遅くとも午後7時くらいまでにはお家に帰って、ユアの誕生日パーティをおこないたい。
やることが……。
やることが多い……!!
ただ、テロリストの殲滅も探索もさっさとやらないとどんどん魔法が広がってしまうのは確かだ。魔法の広がり具合については、おそらくテロリストではない普通の人にも広まっていく可能性はあるだろう。グレーゾーンな人たちがいるはずだからな。そうなるとその人たちにマホトーンまでかけるべきかという問題がある。
マホトーンは言葉自体をしゃべることができなくなるのが問題なのよね。
あれは詠唱を封じることで魔法を封じているから。
わたしがうまい具合に調整できれば、言葉はしゃべることができて魔法だけ封じるみたいなことができるようになるかもしれないけれど、今のところは難しいみたいだ。
例えば、テロリストの自白を得たいという場合にマホトーンをかけながらだとなかなか難しい。
建物自体にマホステを張り、ルーラを封じておく必要があるだろう。魔法自体はそれでも使えるが、収容時には通常のマホトーンをかけておけばよいらしい。わたしが目の前にいるときははっきり言ってどんな魔法が使えても無駄。油断しなければ魔法の発現自体をつぶせるしな。
それで会議は比較的スムーズに進んだんだけど、紛糾したのは、やっぱりテロリストを退治するということについてだ。
これについても、わたしがでかけていって殲滅したほうが手っ取り早い。
ピオラの重ね掛けで音速の何倍ものスピードで飛んでいけばいい。
広範囲にラリホーマをかけて、マホトーンで魔法封印して、ルーラで連れてくればいい。
周りに味方がいないほうがはっきり言って楽だ。
「急いでとりかからないとユアの誕生日に間に合いませんよ」
「どこの世界にテロリストを殲滅する小学生がいるのよ!」
「ここにいますが」
「イ~~~~~~オ~~~~~~!」
むに。
お餅みたいにほっぺたを伸ばされる。
「でもですね。わたし以外がおこなうと先ほどみたいに大なり小なり被害がでるんですよ。わたしならパパっとやって終わりです。三分クッキングより簡単です」
「それはそうかもしれないけれど……」
「イオちゃんがそう言ってるんだから、子どもの言葉を信じるべきじゃないかな」とパッパ。
パッパは話がわかるわ。
ママンは人の話を聞かないからな。
「あなたは黙ってて!」
ダメでした。
「とりあえず、テロリストがどこの出自かを調べたらどうだ?」ルナがつまらなさそうに言った。「それで規模や危険性も少しはわかるだろう。どちらにしても象にふみつぶされるのが蟻かダンゴムシくらいの違いしかないだろうがな」
「わたしも賛成だ。とりあえず今のところテロリストどもにはマホトーンとラリホーの処置をしているが、いつまでも眠らせておくわけにもいかないしな」
ロバート大統領の常識的な発言。
「私はイオをテロリストに引き合わせることにも反対です! イオに悪影響があるかもしれません。この子すぐに影響を受けるかしこさ3なんですよ。みなさんおわかりでしょう」
「「「「確かに」」」」
じゃねえよ!
ママンがわたしを守ってくれてるのは嬉しい。
でも、それだと間に合わないんだよ! ユアの誕生日に。
正直なところテロリストなんて、冷めたフライドポテトや焼き肉で最後まで焦げ残ったピーマン並みにどうでもいい存在だ。
でも、ユアは誕生日がわたしの日――12月24日にズレたら烈火のごとく怒るぞ。
いや怒ってるというふうには直接的には言わないかもしれないが、今回は約束しているからな。その日でパーティをするって調整している。
お姉ちゃんは妹に誕生日を譲ることができるんだよ。
妹想いのイオちゃんなんです。
その証拠にテロリストの基地をひとつやふたつ破壊するのはやぶさかではないし、なんならテロ殲滅RTAしてもいい。
「お願いです。お母さま。決して危険なことはしませんから」
「アダム。あなたのほうでなんとかできないの?」
「正直イオちゃんに手伝ってもらったほうが話は早いだろうな」
基本的に会議では、ママンの孤軍奮闘だった。
なにしろテロをどうにかしないといけないのは国家的な要請なわけで、一番効率的になんとかできるのがわたしなのだから、わたしが出動するのは当然の成り行きだ。
結局のところ会議の結論としては、わたしがどうにかすることになりました。
今日中に終わればいいなぁ。
☆
テロ殲滅RTAにいそしむイオちゃんは、まずは留置場に向かった。
留置場といっても、実質的には日本における刑務所と同じぐらいの広さがある。
厳重なセキュリティと灰色をした鉄格子。
実に冷たい空間といった印象。
そこではテロリストたちがラリホーで眠らされていてベッドに寝かせられている。
監視の必要がないほどの狭い部屋で個室のようだ。
「そういえば――。マホステもいいんですけど、
歩きながら、わたしは思いついたことを口にした。
「うーむ。床とかにかけておけば常時魔法力が吸収されるというわけか。冷静に考えたらマホステを壁にかけられるなら、それもありかもしれんな」
ルナがなぜかついてきていた。
というか、全員でぞろそろついてきている感じだ。
「マホトラのほうが魔法を使えなくなるのなら、そちらのほうがいいかもしれません。どうでしょうか? ロバートおじさま」
「私としてはどちらでもかまわないよ。ただ、マホトラをする場合、イオちゃんのMPは大丈夫なのかな。それとMPを吸われることによる疲労感があると刑務官たちが大変そうだね」
ロバート大統領の許可は出たが、問題があるようだ。
ひとつめのわたしのMPについては問題にならないな。
吸収スピードが死ぬほど早ければ問題だろうが、720兆が枯渇するとは考えられない。
疲労感については――どうなんだろうな。
「そのあたりは後で考えればいいだろう」とルナ。
「そういえばそうでした」
時間がないのだ。
わたしたちが向かった先は、リーダー格がいる部屋だった。
「とりあえずこの留置場にマホステをかけますね」
特に反論はなく大統領が頷いたので、わたしは呪文を唱えた。
ルーラやそのほかの呪文を封じる結界の役目を果たす。
ただ、中での魔法は禁じられないので注意が必要だ。
「
男は頭を振って上半身を起こした。
わたしを視界に入れて、恐怖に顔が歪む。
「メラ!」
「無駄!」
冷静に考えれば魔法力の効果射程範囲も広げられるんだよな。
だから、ちょっと直接手づかみする必要はなかったわ。
メラが発動せずに男は焦っている。
「ち、ちくしょう。なんなんだ。この化け物は……」
「すみません。ちょっとお話していただきたいことがございまして」
「なにも話すことはない!」
「いや、セナハがありますし、本来的には強制的に自白させる呪文ですよ」
「人権はどうした!? そんなことが許されてたまるか」
「と、いってますけど?」
いちおう、大統領に聞く。
わたし、良い子なので大人の言うことをちゃんと聞けるのだ。
大統領はわたしに対してにっこりとほほ笑み、それからテロリストに対して厳しい顔をした。
「テロリストに人権はない!」
大統領が言い切ってて、草生えるわこんなん。
ていうか、人権国家なのに大丈夫なのかしら。
「大丈夫だ。誰も聞いていないし、テロリストはほとんどの場合……まあ口をきけなくなる」
言い濁したけど、まあそうなるな。
あれだけ被害を出しておいて、出所できる可能性はほとんどないだろう。
「じゃあ、セナハしまーす」
「やめろおおおおおおおおっ!」
わたしの魔法力に逆らえるはずもない。
どんなに叫んだところで抵抗は無意味だ。
とりあえず、男は話した。
べつに拷問したわけじゃないからいいよねって思う。
そもそも暴力でどうこうしようとしておいて、自分は暴力を受けたくないというのは我儘なんだよな。人権がないというのは言い過ぎにしろ、覚悟が欲しいというか。
いざとなったら、慌てふためくのは悪にしろ美学が足りないというか。
それで、出自とテロの構成を聞いたあと、大統領はなるほどと頷いた。
「どうやら、こいつらはオワコン集団のようだな……」
久しぶりにオワコンという言葉を聞いたよ。
オワコンという言葉がオワコン説。あると思います。
昨日は自由時間がとれたんですが、逆に他のことをしてしまい遅れてしまいました。すまない……すまない……。やはり習慣づけてたほうがよさそうです。