ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です   作:魔法少女ベホマちゃん

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再びテロリストの襲撃。ついでにまた会議。

「どうやら、こいつらはオワコン集団のようだな……」

 

 大統領は厳しい目をしていた。

 

――オワコン。

 

 終わったコンテンツのことを縮めて、そう呼称する。

 ちょっと前に流行った言葉だ。

 いまではオワコンという言葉自体がちょっと古臭いというか、ほとんど使っている人はいないんじゃないかな。大統領の言葉の意味は、テロリストの出自と構成が今では細々とやっているだけと言いたいんだと思う。

 

 とはいえ、わたしにはよくわからない。

 漫画やアニメだとまだまだ出現度数高いからな。

 

「ルナちゃん。オワコンなんですか。()()()()って」

 

 そう、テロリストの出自はマフィアらしかった。

 正確には中国系マフィアであり、語源からすると若干意味合いが異なるらしい。

 もともとマフィアはイタリアから流れ着いた組織犯罪集団のことを指す。

 その後は、マフィアという言葉そのものが独り歩きして他民族の犯罪組織もマフィアと呼ぶようになったとか。

 

 オワコン化しているというのは、家族的な関係を核に置いた大規模なマフィアというものはことごとく廃れたかららしい。

 

「現実的には日本のヤクザと同じような感じだな」

 

「でも日本でも暴力団とかいまだにあるじゃないですか」

 

「ありはするが、組織の力は弱まっているだろう」

 

「ギャングとかとどう違うんですか?」

 

「アメリカでギャングと言えば、ほとんど不良の意味だな。子どもも入り混じってる若者集団といった感じだ。日本風にいえば半グレあたりが妥当かな」

 

「逆に大人たちで構成された犯罪者集団をマフィアと呼称すると」

 

「そうだな。マフィアないしモブと言う」

 

「モブなんだ……」

 

 モブ≒ヤクザなんだな。

 イオちゃん、またひとつかしこくなる。

 

 なお、モブたちの主張は、魔法による()()()()()()にあったらしい。

 なにが正当なのかはさっぱりよくわからないし、わたしは犯罪者の動機をグダグダ書くミステリは嫌いなんだ。ホワイダニットよりもハウダニットのほうが好きなタイプ。犯罪者たちの言い分なんて聞いていて面白くもないし、そこらへんは大人たちに任せておけばいいだろう。

 

 ただ、テロリストの攻撃がそれなりに被害を生じさせたというのも事実だ。

 しかも、魔法によってというところが重要だ。

 

 魔法が行きわたっていない状況であれば、現代科学兵器にもギリギリ拮抗できることが判明したしな。スクルトあたりを多重にかけあって、ホイミ系で回復しながら、攻撃魔法をおこなえば、少人数でも押し勝てるかもしれない。

 

 まあ、今回のSPさんたちは短銃しかなかったんでひとえには言えないんだけど、研究所の訓練で見た限りはアサルトライフルの火力でも貫通できなかったんで、かなり有力なのは確かだろう。

 

 モビルスーツがあれば10倍の国力差を覆らすことができるみたいな感じで、魔法を使える人が敵方に渡れば、結構大変そうだというのは思った。

 

「アメリカとしてはテロリストどもに対抗するため魔法枠を1000人ほどに増やしたい」

 

 大統領は息巻いている。

 アメリカって本当、百倍返し好きだよな。

 魔法を使える人を限定したのは、そもそもアメリカの意向もあったはずだ。

 そのまま行けば日本のほうが野放図に増えまくりそうだったから、アメリカも100人、日本も100人でフェアにいこうって言いだしたという流れだったはずだ。

 

「魔法テロリストを全員検挙できれば問題ないですよね?」とわたしは聞いた。

 

「それはまあそうだが」

 

「いま使える人を探索しますよ。全世界に探索魔法(レミラーマ)を極大化して放てばいいわけですし、たいした問題ではありません」

 

 しかも、マホステしてても無駄という。

 ルナが雲隠れしたときに実証済みなので、テロたちに逃げ場はないのだ。

 

「なるほど、お願いする」

 

 大統領の依頼を受けて、わたしは頷いた。

 

「わかりました。探索魔法(レミラーマ)!」

 

 アクティブソナーのように探知領域を広げていく。

 

「あ……」

 

 しかし――、レミラーマは留置場の壁を突破することなく、その場で霧散した。

 

 わたしのかけたマホステは、わたしのレミラーマを無効化できるのでした。

 

 そりゃそうだよね……。

 

 みんなの生暖かい視線が痛い。

 

「外行ってきます。ついでにテロリストも殲滅してきます」

 

 そう日常生活でちょっとコンビニに寄るのとそれほど変わらない。

 わたしにとっては、テロリストの殲滅なんて片手間程度のことに過ぎないんだ。

 バラバラに散らばってたらさすがに面倒くさいけどね。

 

「イオ待ちなさい」

 

 ママンに止められた。

 

「なんでしょうか?」

 

 ママンは最後までわたしがテロリストを殲滅することに関して抵抗していた。

 自分の娘が犯罪者と関わることすら厭う親心だろう。

 でも、最後にはみんなに押し切られる形でいちおうの納得はみたはず。

 

「なにかあったら連絡すること。いいわね」

 

「わかりました!」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 留置場を外に出ると、何人かの野次馬が集まっている。

 

 警察官が押しとどめるように輪を作っていて、そこから中には入ってこないから行儀はそれなりにいいみたいだ。

 

「イオちゃんだ」「イオちゃんキター!」「英雄イオちゃん」「……」「きゃーかわいい!!」「いまはお洋服着替えてる!」「義務教育!」「ついに義務教育という言葉だけが残ったか」「はー妖精さんみたい」「イオちゃん。テロリスト怖くなかった?」

 

 いまだにセナハの効力が続いていて、みんなの言ってることがわかる。

 

 映画みたいに『テロリストにも人権を!』『大魔王イオを排斥せよ』とかプラカード掲げている人がいなくてよかったよ。

 わたしは手をひらひらと振ってから魔法を唱える。

 

探索魔法(レミラーマ)!」

 

 探知対象は魔法力を持った人間だ。

 だいたいの探知対象を思い浮かべれば、それを探り当てることができるという便利呪文だが、さすがにテロリストを探すみたいな使い方はできない。物質的な属性を特定できれば探知できるって感じ。たとえば盗聴器とか。たとえばルナのように知った人間とかだったらわかる。

 

 今度こそ全世界に探知範囲を広げる。

 マホステを貫通する強制力を伴ってアクティブソナーを広げていく。

 

 カーン! レーダーサイトに光点反応あり。

 

 って、目の前やんけ。

 

「あ、そこの人、テロリストの仲間みたいです」

 

 わたしはその人を指さした。

 どこにでもいるような普通の恰好をしていた。

 そうだよな。仲間が捕まったんならやっぱり様子を見にいきたいよな。

 除菌ができるジョイみたいに、人波がその人物を残してわっと引いた。

 

「な、なぜ……。顔は変えているのに」

 

「あー、顔変えてるんですか」

 

 テロリストだからそういうこともあるかもしれないね。

 

 モシャスのMPは8。モシャスはかなり高等なほうでかしこさ70代くらいじゃないと使えない。しかも単体魔法なので、一気に使えない。

 

 魔法力は一晩寝ないと回復しないので、このあたりを考えるとけっこう燃費が悪いような気がするな。しかも一時間程度で切れちゃうし。

 

 だいたいレミラーマの効力すら調べていない時点でお粗末だ。

 

 やっぱりマフィアがオワコンなのは間違いない。

 

「死ね。中級爆破呪文(イオラ)!」

 

 だしぬけにテロリストの仲間が呪文を唱える。

 

 しかし、呪文はむなしく響き渡った。

 

「な、なぜだ。なぜ呪文が発動しない」

 

「テロリストたちがどうやって押さえつけられたのか見てなかったんですか?」

 

 ほぼ全世界で生中継されていたと思うんだけどな。

 それとも、何が起こっているのか理解できなかったのかな。

 

 魔法力による魔法力のコントロール。

 ルーラを制御できるんだから、イオラだろうがなんだろうが握りつぶすことは可能だ。

 ただ、マホステみたいに自動的にとはいかないのが問題かな。

 

「く、くそ……ルーラ!」

 

「だからそれも無駄です。重圧呪文(ベタン)!」

 

「ぐあああっ!」

 

 不可視の力に圧しつけられて、マフィアのひとりはのたうちまわる。

 ちょっとずつ重くしていくか。

 はい、100キロ。200キロ。300キロ。

 地面に突っ伏した犯人がわたしのパンツを覗きこむような恰好になる。

 ちなみに留置場に来る前に着替えてますよ。ママンがかわいらしい普段着を持ってきてくれましたからね。うさみみパーカーです。

 

「ぐへ。やめ、やめれくらさい」

 

「え、いやです」

 

「けぴっ」

 

 マフィアさんは車に轢かれたカエルみたいに地面と接吻することになったのでした。

 

 ちょっと暴力的かなと思わなくもないけど、わたしは怒っているのだ。

 

 だいたい人がたくさんいるところで、イオラをぶっぱしようとする輩に情けをかける必要があるんですかね。さすがにイオちゃんでも怒りますよ。

 

 あとのことは警察の人に任せて、わたしは(きびす)を返す。

 留置場内にとんぼ帰りです。まだみんな中にいるだろう。さっき出たばかりだからね。

 

 理由はテロリストの斥候が混ざっていたことを報告することではない。それは警察に任せていてもいいかなと思ってる。問題はこれからどうしたらいいかわからなくなったからだ。

 

 RTAで次の行き先がわからなくなるガバ行為が生ずることが稀によくある。

 だから、かしこいイオちゃんであっても仕方ないことだと思っていただこう。

 

 問題となりそうなのは主に二つ。

 

 ひとつめは市街での戦闘になりそうだということ。

 

 光点は――、西海岸のほうに集まってる。

 

 たぶん、ロサンゼルスあたりだ。パッパがいたハリウッドはロサンゼルス市の中にあるから、場所はグーグルマップで調べている。

 

 犯罪組織の巣窟なんて人里離れた秘密基地だと思ってたけれど、実際は普通に市内に紛れ込んでる感じだよな。とはいえ、マフィアっていうだけあって、それなりに家族的なつながりで組織を構成しているんじゃないだろうか。ある程度のひと塊になってクラスターを構成しているのはありがたい。こう言っては人種差別になるかもしれないけど、テロリストたちは中国系の顔立ちなんだよな。

 

 全員仲間ということでいいんだろうか。いずれにしろ、強制連行せざるをえないだろう。テロの疑いがあるということで。また市街の戦闘になるからやっぱりラリホーがいいかな。

 

 それで、もうひとつ問題になるのは中国にもすでに数百人単位で魔法を使える人がいるっぽいってことだ。テロリストと直接つながりがあるかどうかはわからないけど、これを全員捕まえるのはちょっと難しいような気がする。国境を越えないといけないし、国同士の調整が必要だ。それだとユアの誕生日には間に合わない。

 

 おそらくアメリカ側がテロリスト関係者ということで引き渡しを求めるんだろうけど、中国側は拒否するだろう。場合によってはスケープゴート的に誰かひとりふたりは引き渡されるかもしれないけど、アメリカ側は納得しないだろうな。ルナが懸念したように魔法戦争とかの可能性もある。

 

「現実世界だというのが問題なんですよね……」

 

 現実は思った以上に複雑で魔法による解決も難しいってことだ。

 当たり前だけどね。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 留置場内で報告を終えたわたし達は、いったんホワイトハウスに戻り、再び対策を練ることになった。

 

 大統領が豪奢な楕円形のテーブルの上で指を組んでいる。わたしの報告を聞いて、特に中国に百人単位で魔法が広まっているという話に顔をしかめた。

 

「まず、市街での戦闘になりそうだという話だが、街の中に溶けこんでいるという感じなのだろうか。レミラーマの感覚ではどうかな?」

 

「ええと、何回かレミラーマしてよければ確認できるかもしれません」

 

 全世界レミラーマは繊細な人なら、なにかが突き抜けるような感覚がするらしい。

 理呼子ちゃんがそう言ってた。

 鈍感な人は気づかないみたいだけど、テロ側が何かされたようだって気づくかもしれない。

 でもまあ、テロについては絶賛生中継されたわけだし、いまさらか。

 

「お願いする」

 

「かしこまりました。レミラーマ! レミラーマ!」

 

 脳内にあるレーダーサイトの表示をロサンゼルス市に限定する。

 スマホを取り出して、グーグルマップと照らし合わせる。ええと、これがああなってあそこがこうで。地図が読めない女の子と思われたくないのでワチャワチャする。

 ちなみにわたしのスマホは外国でも使える優れもの。一回壊れたあとに日本政府が用意してくれたワンオフもので、スパイウェアとかが入ってないのはレミラーマで確認済みだ。

 

「イオちゃん。地図の大きいのは用意したから、こっちでだいたいの場所がわかればいいよ」

 

 パッパ、でかした!

 用意してくれた地図の上に指さす……指す。

 地図はみんなが見えるようにテーブルの真ん中に置かれていて、わたしでは身長が足りん。

 

「ああ、ごめん。イオちゃんは小さいから大人用のテーブルだと身長が足りなかったか」

 

「にゃ」

 

 パッパに高い高いされる十歳児の気分がわかるか?

 答えは最高だ。パッパ好き。もっと抱いて。

 おっと、いかんいかん。はしゃいでいる場合じゃない。

 パッパに持ち上げられたまま、わたしは脳内の光点を何度も位置確認しながら地図を指さしていく。

 

 光点はまばらではなく、ひとつのエリアに集合している感じだ。

 ただそのエリアもわりと大きくて、魔法を使える人間は50人くらいはいる。

 

――チャイナタウン。

 

 そう呼ばれている場所だった。

 

「ふむ。ロスにはチャイナタウンが二つあるが、こちらだけなのだね?」と大統領。

 

「ええそうですね」

 

「華人区のほうではないのか。意外といえば意外だな」とパッパ。

 

「華人区ですか?」

 

「ああ。近年移り住んできた者たちが住んでいるのが華人区で、チャイナタウンは100年以上前に移民してきた歓楽街なんだ。比較的高齢者が住んでいる」

 

「いま魔法を持っている人がテロリストの仲間かはわかりませんよ。テロリストに魔法を渡したのはまちがいないでしょうけど」

 

「現在、管理下に置かれていない魔法を使える人間は、すべてテロと関与しているとみなす」

 

 大統領の強権発動。草生えるわこんなん。

 でも、日本にはないズンズン進めていく感じは頼もしくもあるな。

 

「じゃあ、テロの仲間ってことでもいいですけど。全員連行したほうがいいんですね?」

 

「そうしてもらえると助かる」

 

「市街に被害がでるかもしれませんが」

 

「街をまるごと眠らせてはどうだね。確かそういう事例があっただろう。ノアニールだったか」

 

 大統領がドラクエに詳しくて草生えるわ。

 

 ノアニールというのはドラクエⅢの街の名前で、そこでは街の人間全員が眠っていた。

 

「まあ比較的穏当でしょうから、それがいいんですかね。そのあとはどうしたらいいんです?」

 

「我々の部隊が同行して全員を連行しよう。イオちゃんにはラリホーのみしてもらえばいい。あとは魔法刑務所のほうにマホステ処理を頼む。そのあとのインパスでの審議はこちらで行うから大丈夫だ」

 

 まあ兵隊さんが同行してくれると心強いな。

 

「わかりました。でもテロリストと関係がなかった人はどうするんです」

 

 中にはそういう人だっているかもしれない。

 ただ魔法をもらっただけの善良な市民というか。

 トリアージは可能だろう。インパスを信じるなら。

 

「善良な市民であれば合衆国憲法と法律にのっとり、その人権は最大限保障される」

 

 テロリストには人権がないって言ってたわりには穏当だな。

 

「具体的には?」

 

「魔法に関する法律は未整備の状態だ。構成要件に該当しない以上、魔法を使えるだけでは犯罪者とはならない。とはいえ、社会的混乱を招かないようにするために、魔法を使用するのは禁止させてもらうことになるだろう」

 

「約束を破ったら?」

 

「テロリストとみなす」

 

 大統領はテロリストがお好き。

 というか、法的には破防法みたいな法律がたぶんアメリカにもあるんだろう。

 魔法についての法律はなくとも、なんらかの法律にはひっかかるということなのかもしれない。

 そのあたりは現実での事情ってやつだ。

 

「法整備が済んだら、善良なその人たちが魔法を使うのは許されるのですよね?」

 

「そのとおりだとも」

 

「安心しました」

 

 魔法を使えるってだけで排斥されたら、わたしも排斥されてるみたいだしな。

 そう思っての言葉だったのだが――。

 

「うちの娘は優しいな」

 

 パッパに撫でられた。

 

 にゃ、にゃぁ。だめ。それ撫でポだから。

 娘を撫でまわすだけで一日が終わっちゃうやつだから。

 

 ふぅ。パッパは他の国で浮気してないよね。娘としてはちょっと心配です。

 

 ともあれ魔法についての私見だが――。

 

 魔法が一般市民に広がるというのは、わたしが存在するためにみんなが尽力してくれることだから一番重要なところだと思っている。それに魔法が広がっていくのはわたし自身が拡大していくような感覚なんだ。

 

 アメリカや日本の利害によって、この国には渡すとか渡さないとか決められていくのは、ちょっぴり嫌だったんだよ。でも外国人を受け入れている以上はいずれどこの国にも広がっていくものだろうし、遅かれ早かれの話なのかなとも思う。

 

 テロとか戦争が起こらないようにするために根回しと調整がものすごく必要なんだろうけど、国側にはわたしという絶対のアドバンテージがあるのだから、いずれテロは淘汰されるだろう。魔法戦争はそもそも可能性として低いんじゃないかな。極論、わたしが味方についたほうが勝つわけだし。

 

「中国については……」

 

 大統領が言葉を止めた。無数の思念を巡らしているのだろう。

 

 こちらはたぶん日本が広めたんだろうなって感じがする。なんだかんだいって日本と中国の関係はアメリカよりも歴史が長いわけだしな。

 

 明日の朝一で日本魔法会議とかいう謎の機関の連中を集めてもらうことになったんだけど、そこで誰かがバラしたって判明したらそれもひと悶着なりそうだ。

 

「日本のほうの処理は明日確定してからの話だが……我々(アメリカ)としては、中国での魔法の拡大をなんとかしたい」

 

 大統領はそちらを憂慮しているようだ。

 

 おそらくアメリカ側がテロリスト関係者ということで引き渡しを求めたいのだろうけど、中国側は拒否するだろう。場合によってはスケープゴート的に誰かひとりふたりは引き渡されるかもしれないけど、アメリカ側は納得しないだろうな。

 

「セシリア。何かいい案はないか」

 

 大統領はセシリアさんに聞いた。セシリアさんはルナを膝の上に乗っけている。

 すごくほのぼのする光景だけど、国家の大事を決めている姿がシュールだ。

 セシリアさんはわずかに顎に手を当てて、それから言った。

 

「中国側に打診するのはどうだ」

 

「テロリストの仲間を引き渡せということか。拒否するだろう」

 

「拒否するにしろ理由は述べるだろう。魔法を否認するという可能性もあるが、イオがレミラーマした結果、その国にいると言えば大半は信じるに違いない。その場合は嘘をついたということで制裁を加えることができる。魔法使いの存在は認諾しつつ引き渡しを拒否した場合は国際的な非難は免れんだろう。テロの可能性があるのに引き渡さないということになるわけだからな。その場合は制裁を加える大義名分ができる」

 

「なるほどな。だが制裁とは?」

 

「イオがさきほど留置場で言ってたとおり――魔力吸収呪文(マホトラ)をかければいい。()()()()()()()()()にな」

 

 セシリアさんがクールでこわっ。

 

 大統領は膝を打った。

 

「その手があったか。マホトラを受けて虚脱状態になるかどうかはわからんが、そうなればしめたものだ。中国側はたまらずテロどもを引き渡してくるだろう。虚脱状態にならずとも実質魔法を封じられるようなものだから、同じくテロどもをイケニエに捧げる可能性が高い!」

 

 なるほど完璧な作戦っすねー。

 わたしが全部やるってことに目をつぶればよぉ。

 

 ルナはつまらなさそうに目をつむっているし、ママンは何も言わない。

 パッパはうーんと唸っている。

 

 テロの引き渡しについては必要なんだと思う。

 そこには正当性があるって気がするが、制裁を加えるという発想はどうなんだろうな。

 

 単にアメリカのプライドの問題に過ぎないんじゃないか。

 ナンバーワンじゃないと気が済まないって話ってゆーかさ。

 中国でもどこの国でも魔法は広がっていくだろうし、そもそもわたしがいるいないだけの話なんじゃないか。一般人が使える魔法は比較的常識内に収まるような感じだし。

 

 べつに先行して中国で広まってもいいじゃないか、とすら思う。

 もちろん、テロが再び起こる可能性は高まるだろうけど。それは広げる以上、当然にでてくる可能性なんじゃないか。

 

「あのー。わたし国境を越えるのは気が進まない感じなんですけど~」

 

「それなら宇宙まで行けばいい。宇宙については国際条約上誰の領土でもない」

 

 大統領閣下のよどみない言葉に、何ともいえない気分だ。

 

 そうしろっていうならそうするけどさ。

 

 ママンを見てみる。

 

「お母さま。日本としてはどうなんでしょう。わたしはそこまでしたほうがいいんでしょうか」

 

「正直……、わたしにはわからないわ。テロについては引き渡しの請求はしたほうがいいと思うけれども、制裁装置にイオがなるのは反対ね」

 

「であれば、日本の連中が明日集まるときに、ついでに聞いてみてほしい」と大統領。

 

 日本はたぶんアメリカに追従するだろう。

 戸三郎じいちゃんも首相という立場があるから、みんなの意見を無視できない。

 

 ママンの心労はつのるばかりというかなんというか。

 今も胃のあたりをぎゅっと抑えている。

 

「ホイミ……」

 

 ふわりとかけて、

 

「わたしとしてはどちらでもいいですよ。マホトラで恨まれることになるかもしれませんけど、テロリストの可能性があるならば引き渡してほしいというのはわかりますし、正当性もあると思います」

 

「政治は難しいのよ、イオ」

 

「確かに難しいですけどね。ただ、インパスをしてテロとの関与がなければちゃんと国には返してあげてほしいです」

 

 わたしは大統領に向けて言った。

 チャイナタウンとそこは同じ公平さが求められると思う。

 

「そうしよう」

 

 大統領が約束してくれたので会議は終わった。

 

 ちょうど時間は午後六時を指していた。




利害調整がメチャクチャシビアな感じです。あんまり苛烈になりすぎないように書いてるつもりですが、コメディ時空線にはあるものの現実路線ですから、結構調整が難しい感じがします。









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