ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
会議室の丸い品の良い時計は午後六時を指している。
時間は有限だ。特にユアの誕生日まであと少ししかない。
明日はもうユアの誕生日、12月23日で日本側をインパスで吟味するという作業が待っている。ルーラとかで逃亡を図られる可能性もあるから意図は伏せてあるけど、たぶん、テロの映像が流れているからバレバレだろう。そのときはレミラーマ使って逃亡者を追跡して――みたいな流れになるかもしれないし、はっきり言っていつまで時間がかかるかわからない。
ついでに中国側に打診するというのはアメリカがやるんだろうけど、こちらの回答期限はわずか12時間後になった。回答がギリギリいっぱいに来たとして、23日の朝六時ってことになるな。
ああ~時間が、時間が足りないよ。
「さっそくチャイナタウンに行って、作戦どおりにしたいと思うんですけど」
わたしは前のめりに言った。
会議室は密室状態で窓がない。
でも、12月も末となると、およそ日本と同じ冬なのは間違いなく辺りは急速に薄暗くなっているだろう。
ユアの誕生日まであと一日しかないと考えると少し焦る。
ほんとはさっさと自分ひとりでロサンゼルスに飛び立ちたいくらいだ。
短距離ルーラで地平線の果てまで瞬間移動を繰り返せばたぶんトベルーラよりも早く着くんじゃないか。ただし、方向についてはレミラーマで都度確認することとする。
時間に追いまくられる感覚は、前世でもあまり経験がないが、受験勉強がちょうどこんな感じだろうか。なにかに急き立てられて焦りばかりが募っていく。
イオちゃんのテロリスト攻略RTAは会議だけで結構な時間を消費してしまっていて、前に進んでいる感じがしない。
「うむ。強襲部隊については準備させているところだ。魔法部隊といえども一応は現代兵器も装備しないわけにはいかないからな。装甲車等と同時にルーラで直接チャイナタウンへ向かわせよう。物理的にシャットアウトしながら魔法的にはイオちゃんがシャットアウトという感じでいかがだろうか」
「ラリホーで眠らせればよかったんじゃないですか?」
「過剰戦力だとは思うが、いちおうは事前にアナウンスをしたほうがいいだろう。いきなり眠らせるとなったら、交通事故が起こる危険もあるしな」
なるほどね……。もうさっさと強制的にバシルーラしまくればよいかとさえ思ったよ。
なお、チャイナタウン内に大きな病院はないようなので、急病患者でもいない限り、手術の最中に気を失うというようなことはないらしい。
「お願いします!」
大統領は力強く頷いてくれた。
☆
イオは既に勘違いしている。
隠れたやらかしについて語る必要があるかというと、実害がないのでそこまで必要ではないかもしれないが、実をいうとある勘違いが続いている。
イオがなにやら焦っているのは、会議室にいる皆が気づいていた。
明らかにソワソワしているのだ。
トイレに行くのを我慢しているようなソワソワっぷりだ。
妹の誕生日が近いというのはわかる。だが――、中国側の打診については相手があることであるし、残るはチャイナタウンと日本魔法会議をどうにかすることで終わりだ。
時間はまだ残されている。
なぜなら――、今日は実のところ
いまイオがいるワシントンDCと東京の時差は14時間もあるのだ。ちょうどラナルータ一回分だと思えばいい。
実のところ初日は12月20日の夜まで仮眠をとってルーラで向かったわけであるが、ワシントンに到着した時点では19日の昼だったわけである。時差に備えて仮眠をとっているのに、すっかりそのことを忘れるのはもはや神業めいているとかしこさとしか言いようがない。
その後、セシリアが気を利かせて
正確な予定は、ワシントンにおいて22日の午後1時くらいまでにはイオは父親アダムと邂逅し、23日未明には日本に帰還している予定だったのである。
スマホで日付を確認すればいいとか、時間をみればわかるだろうとか思われるかもしれない。
だが、イオのスマホの場合、日付はちっちゃく表示されていて、見てはいても認識できていない状態。かつ、AMとPMがよくわからず混同していたのである。
これがどのようなやらかしの導火線になるかならないかは神のみぞ知る。
☆
基地にはパッパが連れていってくれることになった。
もちろんルーラなので一瞬だ。
「イオちゃん。パパはここでいったん戻ることにするよ」
「え、ついてきてくださらないんですか」
「そうしたいところだけど、パパは一匹オオカミだからね。軍とはソリがあわないんだ」
「なるほど……さすがエージェント」
頭をナデナデされてから、パッパはルーラで帰っていった。
パッパは放置プレイがお好き。もっと娘にかまってくれてもいいのに。
「あれ? わたしこれからどうすればいいんでしょう」
とりあえず待つしかないか。
わたしは端っこにあるベンチに腰掛けて準備が整うのを待つ。
もうあたりは真っ暗で、野球場のような科学の光があたりを照らし出している。
だだっぴろい運動場みたいな広さのところに装甲車がずらりと並べられている。キャタピラがついてないから戦車じゃないのはわかるけど、タイヤの大きさはトラック並みでかなりごつい。灰色っぽい都市型迷彩と銃座が軍用っぽさの象徴でわりと好き。ほら、イオちゃんって男の子っぽいところありますからね。
今回、ルーラを使ってこの装甲車ごとチャイナタウンまで行くことになる。ルーラは乗り物もいっしょに移動できるから便利だよな。輸送という意味だけでもかなり便利だ。逆に言えば、トラックの運転手さんとか、タンカーとかの意義が失わせてしまう可能性もあるけれど、こればかりは時代の流れなのかなぁ。千歯扱き問題が懐かしい。
思考を巡らせていると、筋肉モリモリのマッチョマンが近づいてきた。
確かSPさんのひとりで、地下闘技場で魔法の訓練もしていた人だ。
「ジョンだ。魔法部隊の隊長も勤めている」
ゴリラみたいな人だった。
筋肉がピクピクして別の生き物みたいに動いている。
ちょっぴりあこがれちゃうな。
いまは無き――いや元からなかったけど、筋肉というのはいいものだ。
がっしりと握手。
「星宮イオです。今回はよろしくお願いいたします」
「おてて」
「え?」
「今回の作戦行動について説明したい」
「あ、はい」
聞き間違いだろうか。
「どうした。何か問題があるか?」
「あ、いえ大丈夫です」
問題があるとすれば、なぜか握手ポーズのままなことだろうか。
ジト目で見てると、名残惜しそうに手を離してくれた。
「今回の作戦目標は魔法行使者を捕まえることと、都市に被害を出さないことにある。イオちゃんにはルーラで逃げ出さないようにしてもらいつつ、セナハを使って宣告、のちにラリホーを使ってほしい。その後の魔法力保持者の選別は我々で行うから大丈夫だ。ただ疎漏がないようにレミラーマでの確認は三分ごとにしてほしい」
「わかりました」
マホトラとかで吸いだしてから魔法行使できないようにしたほうがいいんじゃないかなとも思ったけど、まあいっか。わたしのラリホーを防げる人間はたぶんいないだろうしな。
今回の作戦行動は総勢1000名程度で行うらしい。魔法部隊そのものは50名程度しかいないから、混成部隊ということになる。
チャイナタウンっていっても小さな区画っていった感じで、そのうち50名ほどがターゲットだから、なんとも大仰なことだと思う。それとも妥当な線なのかな。そのあたりは素人考えだからよくわからないけどね。
☆
夜だったのが突然夕暮れ時になる。
わたしは装甲車の中から外の様子を見ている。
「あれ、夕方です?」
「三時間ほど時差があるからな」
ジョンさんが教えてくれた。
ワシントンとロサンゼルスでは時差があるわけか。
一国内で時差があるとか、アメリカはデカいな。
ジョンさんたちのルーラで向かった先はチャイナタウンの目と鼻の先にある刑務所だった。
公的な場所で、突然車が現れてもなんとかなる場所といったらそこか基地ぐらいしかないわけですね。でも基地は若干遠かったので刑務所から発進していくということになったらしい。
装甲車は都市戦闘に特化しているのか、見た目のごつさとは裏腹にほとんど音がでない仕様のようだ。びっくりするほどスイスイ進む。それでチャイナタウンの周りをすぐさま覆いはじめた。
チャイナタウンは街という名前は冠していてもそこまで広くはない。
せいぜい400平米ほどのスペースに中華系のお店がひしめきあっている。
日本に比べて道幅が広く、行き交う車は何事かとこちらを見ているようだった。
まあお昼の事件は遠いワシントンで起こったことだから、なかなか結びつかないのかもな。
すぐに軍関係者が迂回するように行って、物理的封鎖は五分もかからずに終わった。
その間にもレミラーマは連続してかけているけど動きはなし。
そろそろラリホー前のご注意の時間だ。
「
再度、チャイナタウンに向けてセナハを放つ。
この魔法は念話の要領で拡声することが可能になる。
「星宮イオです。皆さんはー、えー完全に包囲されています。皆さんの中に魔法を使える人が紛れ込んでいます。テロ関係者もいるかもしれないということで連行の必要があります。テロリストの仲間だとしたら国のお母さんは泣いていると思いますよ」
夕暮れの中で――、わたしは銃座のところ、装甲車の天井部に登り宣言をしている。
正直どんなふうに言えばいいのかよくわからなかったので、立てこもり犯を説得する刑事ドラマを参考にしてみた。
でも冷静に考えたらこれからラリホーするのに若干違う感じだな。
「えー、いまから三分間だけ待ちます」
こんな感じか?
セナハは使用者の声は離れたところまで届くけど、使われた対象の声が届くわけじゃない。
いまも独り言をつぶやいているみたいで、ちょっとむなしい。
「三分後にラリホーを放ちます。運転中の方、火を扱ってる方、危険物を取り扱ってる方、入浴中の方、トランプタワーを創ってる方はただちに手を止めて安全を確保してください。あと……えーっと、そうですね、カップ麺を食べようとしてる方はあきらめてください。伸びて冷めたカップ麺はもうあきらめるしかないのです。ちなみにルーラは封じてますので無意味ですよ」
これぐらい言えばわかるよな。
わたしはお風呂の入浴タイムのように、ゆっくりと1からカウントしていく。
いくらわたしがかしこさ3でも、3分間が180秒であることぐらいは知っている。
もちろん、わたしが知っていることはみんなも知っているはずだ。
90秒ほど経過したとき、
「ちょ、ちょっとまってくれー」
ん? 中から装甲車に向かって駆け出してくる人がひとりいた。
若干こぶとりの男で、汗をかきながらこちらに駆け出してきている。
両手を挙げて万歳の姿勢だが、魔法を使えるとしたら、その姿勢でも危険だ。
「とまれ! とまらなければ撃つぞ!」
兵隊さんのひとりが当然の警告を放つ。
警告をしてくれるだけまだマシとすら言える。
男はすぐに止まった。
目の前の男にインパスが撃たれる。青。つまりテロの仲間ではない。
とりあえずテロの仲間ではないが――あまりにも迂闊だろう。
誤射されるとは思わなかったのだろうか。
もしかしてだけど、イオちゃんがいるから大丈夫とか思われてないよね。
「現在、軍行動中だ。不用意な行動は危険だというのがわからないのか」
「すいません。すいません。ここで眠っちまったら駐車料金が高くなっちゃうじゃないですか。向こうの通りに停めてるんですよ」
「そんなことかよ!」
男はメチャメチャ怒られていたがあたりまえだ。
アクシデントはあったものの、軽薄なやつはただひとりだった。
チャイナタウンから音が消えた。車の音、火を使う者。
人の息遣いさえもひっそりとしている。
「180……三分経ちましたので呪文を唱えます。では、ラリホー!」
街の中が眠りに包まれた……はず。
さすがに目のまえにいないのに睡眠状態に入ったかどうかはわからない。
ただマホステをかけても貫通する程度には魔法力をこめました。
「突撃せよ。行け。行け。行け!」
周りを覆っている以外の兵隊さんたちがチャイナタウンの中に突入していく。
ジョンさんは腕を組んでわたしの隣にいる。
先ほどからわたしの顔とか胸とか足とかをチラチラ見ているような。
筋肉達磨といってもいい集団の中で、わたしみたいな子どもは物珍しいんだろうな。
「そういえば魔法が使えなくてもテロの仲間っていうことはありえますよね」
「ありえるな」
「インパスとかかけるんですか?」
「作戦行動の中には対象エリア内にいる人物にインパスを行うことも含まれている。そのためにはおそらくイオちゃんのマホアゲルが必要になる。魔力覚醒ではなく通常の魔力供与のマホアゲルだ」
「そんなに人多いんですか」
「およそ2000人程度が住民だが、行き交っていた人も含めるともっといるだろう」
「なるほど」
まあテロとの関連可能性が高ければ、やむを得ないところなのかな。
人権的には多少問題がありそうな気がするけど。
ジョンさんの言ったとおり、魔法力が尽きた部隊の人はわたしのところに戻ってきた。
「MPが尽きました」
「
銃座のところの一段高いところから、わたしは魔法をかける。
「ありがとう。さすがオレたちの守護天使だぜ」
ゴツイ男の人がそんなことを言いながら帰っていく様を見ると、なんとも面はゆい。
☆
レミラーマ。マホアゲル。レミラーマ。マホアゲル。時折レミラーマ。
わたしは先ほどから魔力タンクになっている。軍の人たちもがんばってくれているんだろうし、全員をルーラで連行するわけにもいかないのだろうから、しょうがないところなんだろうけど。ちょっぴり飽きてきた。ちなみにレミラーマに動きがない時点で、ルーラ封じは切っている。みんなが基地に連行するときはルーラを使ってるからね。
作戦行動から既に三十分。あらかたルーラで連行し終わって、住民のほとんどは青だということが判明した。つまりは、テロとは無関係ってことね。魔法を使える者についても実のところ青がでているんだけど、インパスが完璧な呪文かどうかは帰納法的にしか知りえないからな。連行しないという選択肢はないわけよ。
つまり、内心で自分が関わりがないと思っていた場合はどうなのかとか、10%くらいは悪いなと思っていても90%は自分は悪くないと思っていた場合はどうなのかとか、そういう場合の色合いが不明だ。
なぜなら、なんで青になったり赤になったりするかは魔法だからの一言で済ませられるから。
「インパスは住民たちの80%以上は終わりました。魔法行使者の連行は残り7名程度です」
「予定どおりだな」
そろそろこちらも夕闇が濃くなってきた。
夜の気配が近づき、空には青いカーテンがかかる。
夜の静謐さ。音のない世界。筋肉がきしむ音は聞こえるけどね。
あ、一番星見つけた。
そんなふうに油断していたのが悪かったのだろうか。
――ドォォォォォォォォォォォォォン!
という大きな音が、静かな世界に突如"音"を取り戻させた。
驚いてそちらを見る。
わたしの目の前の通りにあるレストランの高層階の窓が吹っ飛び、中から魔法部隊の隊員のひとりが人形のように落ちていくのが見えた。
「あれは
いくら筋肉のカタマリのような兵隊さんでも至近でイオラを喰らえば、ボロ雑巾よりもひどい状態になるのは想像に難くない。マホステとかで固めておくべきだったのだろうが、あれは維持するのにわりと魔法力を喰うらしい。インパスとレミラーマでローラー作戦をおこなうために、マホステはしなかったのだろう。
地面をバウンドするように転がった兵隊さんは同じ隊員の仲間にホイミをかけられ上半身を起こした。大事には至らなかったらしい。
魔法力勝負なら数で勝るこちらが有利か。
いや――。
考えるべきはそこじゃない。
どうしてラリホーが効かなかったのか。そこを考えるべきだ。
わたしの無限ともいえる魔法力をこめた貫通力を持つラリホーが効かなかった。
ということはつまり、相手はもしかしてわたしを上回る魔法力を持つってことか。
720兆を越えるわたしよりも大きい魔法力だと。
そんなことがありえるのか……。
「レミラーマ」
光点を見ると、そこには3人ほど固まっているみたいだ。
詳密に見れば、2人ほど移動している。
廊下の前を行ったりきたり――。警戒している感じか。
ルーラ封じの結界を再び張ってみたが、もしも魔法力がわたしを上回っていればこれも無意味かもしれない。だが、それならなぜさっさとルーラしないかという点が問題になる。
「いってみるしかありませんか」
「オレたちに任せておいてくれないか」
ジョンさんはそう言うが。
「いえ。魔法のことはわたしに一任してください」
銃座から二メートルほどの距離をふわりと着地し、わたしはいまだ窓のところがくすぶっているレストランを見上げる。
待ってろ、わたしの
裏話をすると、実は時差について忘れていたのは作者なのだった……(´・ω・`)許せカツオ。