ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
中国式レストランというものを一言で表せば立方体という形になる。
色合いも派手派手しく赤い色とかを混ぜた注意を引く色だ。
この中にまだ見ぬライバルがいると思うと、ちょっとだけ怖くもありちょっとだけワクワクもする。なにしろここ十年間、チートといってもいい能力を得たにも関わらず、だいたいやってきたことと言えば、メラやギラ程度の初級魔法でカタがついちゃうからな。
舐めプとかそういうんじゃない。世界がわたしに追いついてないんだ。
ラリホーをどうやって回避したのかわからないけど、冷静に考えて魔法力で突破したわけじゃないだろう。そこにはおそらく智慧がある。
イオちゃんとしては、『脆弱な人間にしてはなかなかやりおる』と言いたい。
いまだに至近で爆発を喰らって目を回している隊員さんにベホマを撃って回復させ、わたしは悠然と一歩を踏み出した。
中は大衆食堂なのか、大きめな丸テーブルがある。回転する中国ではよくあるテーブルだ。
ちょうど夕飯どきだったせいか、何人かの人が倒れているが、この人たちは魔法力を持たないただの人だ。
目標は最上階にいる。おそらくこの建物は三階建てくらいだろう。
二階にあがると、そこには同じく大きめなワンフロアの中にレストランが広がっていて、そこにも同じく動く人の気配はなかった。
最上階に到着。
ここは少し様相が違った。
ちょうど昔ながらの学校の廊下のように狭い通路上になっていて、階段からは右方向とまっすぐ行く方向に分かれている。要するに□のカタチに沿うように通路が広がっていて、わたしがいるのはちょうど頂点部分の一つということだ。
「レミラーマ」
カーン。索敵領域が広がる。
「レミラーマ」
光点の動きは――。
挟み撃ちの形になるな。挟まれてるのはわたしだけど。
バフを積みまくってるわたしは特に焦る必要もなく、そのまままっすぐ通路を歩く。
内側には部屋がたくさんあって、おそらくスタッフルームとか、衣装部屋とか、リネン室とかいろいろあるのだろう。
そしてほどなくして邂逅した。
本邦において『女の子』と一口にいっても幅広い概念なのは論を待たないところであろう。
3歳児くらいから果ては19歳でも……いや下手すると30歳を越えても女の子と呼称することがあるだろうけれども、わたしと同じく外見は10歳くらい。ただ、わたしよりも発育がいいのか、足も手も伸びやかな感じだ。
おだんご頭にシニョンというか……なんだろう。例のクラゲを小さくしたみたいなやつを装備していて、中国の古典的な服――ちっちゃなチャイナドレスを着た女の子がこちらをにらんでいた。
まさかテロの仲間がこんな小さな女の子とはショックだ。
「おまえが星宮イオか」
「かわいいですね」
「は、おまえ、なにを言っているんだ?」
背後に人の気配がする。
同時攻撃をしかけようとしているのかもしれない。
「えーと……、わたしはご存じのとおり星宮イオです。あなたは?」
「敵に名前を言う馬鹿がいるか。モンモン!」
背後から急速に迫る人影。
ピオラで加速しているようだ。
わたしは振り返る。
!!
びっくりした。
そちらも同じく女の子で、今見た女の子と寸分たがわず同じ顔をしていたからだ。
そして跳躍する人影を見たのと同時に。
「イーイー!」
その人影が声を発する。
わたしが最初に見た女の子のほうも駆け出している。
全身をバネのように使い、中国雑技団みたいな身軽な身のこなしで、飛び蹴りをかましてくる。
「トベルーラ!」
わざわざ攻撃を手で受けるつもりもない。
魔法力による不可視の念動で受け止め、女の子を空中に張りつけにする。
「な。なんだ!?」
「ただのトベルーラですよ」
そのまま背後に迫る女の子に女の子をぶつけた。
「きゅう」
チャイナドレスがめくりあがって、細い足があらわになって、なんか哀れな感じになっているけれども、女の子が団子状態になるのってなんだかいいよね……。はっ。なんだか変態っぽい思考だったぞ。
女の子ふたりが立ち上がるとやはり鏡写しのようにそっくりだ。
違うところはシニョンの色が青か桃かってくらいか。
「確か、モンモンちゃんとイーイーちゃんでしたっけ。あなたがたがしていることはアメリカという国に対する反逆行為にあたります。いいですか。国に反逆するとものすごく怒られるんですよ。ただちに抵抗をやめてください」
「だまれ」
「だまれ」
おお、これが噂にきくシンクロシニティか。
どっちがどっちなのかよくわからなくなるな。
「おまえたちこそテロリストだろ」
「おまえたちこそテロリストだろ」
「いえ、違いますが……」
「おじいさまは連れていかせない!」
「おじいさまは連れていかせない!」
「話が見えないのですが」
ふたりは同時に駆け出してくる。
もうひとり加わればジェットストリームなアタックになりそうだな。
ピオラによって人外な加速を得ているが、あくまで通常の魔法力をこめたもの。
わたしの加速領域には及ばない。
と、モンモンと呼ばれた女の子のほうがちょうどバレーのレシーブのような体勢になると、瞬時にイーイーのほうが跳躍。そしてドッキング。
なにをするのかと思ったら、「
わたしの名前ではない。魔法だ。魔法力を使って――
一瞬の超加速によって、防御が遅れたわたしはそのまま真正面から殴られることになった。
第一防御壁のスカラによって勢いは減殺され、やはり突破はできず、第二防壁のアタカンタでダメージ換算で1にも満たない衝撃が反射される。
結果として、わたしはその場で微動だにせず、イーイーのほうはゴムボールのように通路のうえをはずんだ。お尻をおさえて涙目になっている。
「モンモン。こいつなんかバリア張ってる」
「たぶんアタカンタだ」
わたしの防御力を突破する方法がないかを考えているのか。
中国娘たちは油断なくこちらをうかがっている。
「そういえば聞きたかったのですが――、わたしのラリホーをどうやって回避したんです」
「敵に教えることはない」
「
ほぼ同時に声。
でも内容はふたりで異なっていた。
ふたりが見つめあう。
「イーイー?」
「大魔王きどりのこいつの鼻っ柱を折ってやりたかったんだ……」
昼の大魔王宣言を見ていたんだろうか。
双子でもやっぱり性格は微妙に違うみたいだな。
それにしても――、
ありきたりと言えばありきたりだけど、しかし、わたしのラリホーはマホステを貫通する程度の力は込めたはず。あまり深い眠りになりすぎても呼吸が止まったりして危険らしいから、そこまで強烈な千年の眠りみたいなものではないが、いったいどうやって回避したんだろう。
「わたしのカウントにタイミングを合わせたんですか?」
ふたりはまた互いに視線を交換する。
口を開いたのはイーイーのほうだ。
「タイミングを合わせるだけで回避できるなら、みんな起きてるはずだろう」
「それもそうですね」
「
それが答えだった。
ザメハについてはもともと範囲魔法であり、ひとりが唱えるとグループ全体に効力を及ぼすことができる。
そのザメハを指向性を持たせて収束すれば――マホステを貫通する程度とはいえ、そこまで深い眠りに落とすつもりもなかったわたしの魔法を打倒しうるということなのかもしれない。
「指向性を持たせて、互いにザメハを撃ち合ったわけですね」
「そのとおりだ」
「そのとおりだ」
「なるほど、すごくおもしろい使い方ですね」
よく考えたら、わたしもギラを収束してレーザーみたいにしてたりするしな。
ザメハという形のない魔法も収束すれば強力になるのか。
この子たち、頭がいいな。
でも、かしこさが足りない。
米軍のひとりを吹っ飛ばしちゃったら、子どもとはいえ責任無しとは言えないだろうし、アメリカの法律がどうなっているのかはわからないけれど、少年鑑別所とか少年院か、あるいは刑務所とかに入れられちゃう気がする。
それはかわいそうだ。
まだギリギリ幼女といってもいい年齢だし。
さっき言ってた「おじいさま」のために、こんなことをしているのだろうし。
「もう一度きちんとお話をしませんか。わたしたちは昼のテロリストの仲間がいないかを探るためにここに来たんです」
「いきなり来て。強制的にラリホーで眠らせて」
「ルーラでどこかに連れていくやつらを信じられるか」
確かに相手から見れば、物々しい武装集団がいきなり牧歌的な観光街に乗りこんできたというような状況かもしれない。
「でもわたしの顔くらいは知ってるでしょう?」
世界のイオちゃんです。世界の! こちとら魔法の開祖やぞ。
いまでは配信登録者数が一億人を突破している。
知らない人は超田舎に住んでる人くらいじゃないか。
「おまえ自身が大魔王だと言ってたじゃないか」
「魔王、人間の敵! 排除すべき対象!」
「あ……あれはですね。ネタの一種であって本気じゃありませんよ」
やべえ。
勘違いのもとになっているのはわたしの発言のせいでした。
――
「浸透系なら」
「いけるかも」
一瞬、呆然とした隙を狙って再び中国娘たちが攻撃をしかけてくる。
速い。いや、これは短距離ルーラだ。
見える範囲であれば、ルーラによる転移は可能である。
あえて、数メートルの距離をルーラで移動しつつ、ふたりが幻惑して迫ってくる。
壁とかに、ほとんど同じ姿恰好の子が飛び回るんだもの。
ハチャメチャが押し寄せてくる。
気づくと背後と真正面。挟まれるわたし。
目の前に見えたのは――張り手のようなまっすぐな手のひら。
あれ? このカタチって漫画とかでよく見かけるような。
具体的に言うと鉄拳チンミとかそのあたりの。
わたしも古武術を少しかじったからわかる。
重心移動によって体重のちからを直接相手に伝える技。
足先から生じた勁を接触面を通じて浸透させる。
――発勁。
衝撃が波浪のように伝わった。
「ふぐ!?」
スカラ無効化。
アタカンタ無効化。
あらゆるダメージを弱体化させる闇の衣でようやく止まった。
ダメージはそれほどでもないけど、いままでの無効化とは違い、三半規管が揺らされたのか視界がグラグラする。痛いというわけじゃないけど内臓を直接こねこねされたような気持ち悪さが残った。
「やったか!?」
「馬鹿。それはフラグ」
「これがダメージを受ける感覚……痛みですか」
「あ」
「あ」
「どうやらおしおきが必要なようですね」
「待て」
「待て」
「待ちません」
「話せばわかる」
「話せばわかる」
「わかりません。トベルーラ」
ビタンと壁にふたりとも張りつけた。
蝶の標本をピン止めしたときのように、ふたりとも元気よくもがいている。
さぁてどうしましょうかねぇ。
いやこの場合どちらからというべきでしょうか。
実に楽しみです。どんな声で鳴いてくれるのか。そして相方が無様に泣き叫ぶさまを見せつけられるもう片方の顔を観察するのも素晴らしい!
とりあえず、わたしとなんとなく精神性が似通ってると思われるイーイーのほうに近づいた。
おもむろに手を伸ばし、そもそものところ露出の多い脇腹あたりに手を添えて――くすぐる。
子どもは肌が薄く、すぐに微弱な刺激でくすぐったがる。
わたしも身に覚えがありますよ。
「な、なにをする気だやめ、やめ。はははははははは」
「イーイー!? やめろ。大魔王め。やるなら私をやれ!」
健気なことを言うモンモン。
だが甘いな。
「は? なにを言ってるんです。もちろん平等ですよ」
モンモンは顔を蒼白にさせた。
逆にイーイーは紅潮させている。端麗な顔つきが歪むのを見ると、なんというか……ふふ、はしたないですが、楽しいものですね。
「大魔王……」
大魔王ですが何か?
――ほんのちょっとだけお仕置きタイム。
少女たちの嬌声が響き渡り、わたしも愉悦に嗤う。
実に乙な時間でございました。
くてっとしている二人を見下ろし、わたしは完勝の余韻に浸っていた。
いや、こんなことをしている場合じゃないな。
「さて、お二人ともお話を聞いてくれる気分になりましたか」
「ひっ」
「ひっ」
ビクビクしているふたりをみると再び嗜虐欲が湧いてくる。
思わずにやけそうになる口元をおさえ、ぐっと堪える。
いけないいけない。
イオちゃんは優しい子なので、女の子を凌辱する趣味はないのです。
☆
抵抗する気をなくしたふたりは、とある一室に通してくれた。
中にはキィキィと音の鳴る高齢者が使うベッド兼椅子が置いてあり、いまどきどこを探してもなかなか見つからないテープレコーダーのラジカセから小さく中華風の音楽が流れている。
そこに白髪のおじいさんが眠っていた。
年のころは80歳はいってるだろうか。髭もじゃでよくわからない。
「ザメハ」
収束ザメハをモンモンが放ち、おじいさんは目を覚ます。
孫娘ふたりの姿を目に入れ、相好を崩すおじいさん。
だが、そこに異物のわたしがまぎれこんでいたことで、すぐに真面目な顔つきになった。双子の姉妹が何かしたことをすぐに悟ったのだろう。
「この子たちが何かしましたかな。星宮イオさん」
「米軍に対してイオラを少々」
少々ってレベルじゃねーけどな。バッチリぶっとばされてたし。髪はアフロみたいにボンバーヘッドになっていた。ベホマで治ったけどなかったことにはできないだろう。
「なんということを……おまえたち」
双子の姉妹はシュンとうなだれていた。
それからいろいろ話を聞いた。
おじいさんの名前はファン・ターレンと言うらしかった。
ターレンは先生とか父上とか、要するに目上の人に対する言葉であり、チャイナタウンの長老的存在として慕われていたらしい。
そして元マフィアのドンだったりする。壁ドンとか黙れドンではなくね。
優しそうな爺ちゃんだけど、昔は怖かったのかな。
とはいえ、いまは引退しているのでマフィアとの関係は切ったらしく、ただ昔からの縁で華人区の連中に魔法を渡したらしい。
「彼等はオールドチャイナの復権を狙ったのでしょう。私も止めたのですが……」
――オールドチャイナ。
いま現在あるところのチャイナタウンは行政から強制退去を命じられてオールドチャイナタウンからいわばニューチャイナタウンに居を移したところにある。
まあそれはそれで中国にも利もあれば害もあって、調整の結果そうなったんだろうけれども、怨みもあったというのが実情らしい。
テロの人もなんかそんなことを言ってたしな。テロの理由なんてと聞き流してたけど、底流には民族的な紛争というか人種的な差別というか、まあ少なくとも権力抗争はあったのだろうなと思う。
それは人間のサガだからべつにいいんだけど、わたしとして気になるのは双子の姉妹のことだ。
「あなた方がテロと直接的な関係がないのはインパスで明らかになると思いますが、イーイーとモンモンはやっちゃいましたからね。どうしたらいいでしょうか。いや、どうしたいです?」
「わたしがやったのよ」
イーイーのほうが泣き出しそうな顔になりながら言った。
寝ているフリをして、兵隊さんのうち一人が階段を登ってきたときに不意打ちでとっさにイオラを喰らわせたらしい。
「いえ、わたしがやったの」
今度はモンモンが胸に手をあてて、我こそが犯人であると主張する。
「ちがうわ」
「ちがうってなによ」
「うそをつくなって言ってるの」
「うそじゃないわ」
「うそつき」
「うそつき」
ふたりしていがみあう。
双子のうちどちらかが犯人であるという場合、犯人の特定ができなければ無罪ということもあるらしいが、罪を逃れるためというよりはお互いにかばってるんだろうな。
世界一カワイイ妹がいるわたしにも、その気持ちわかります。
ただ――。
「かばっても無駄ですよ。インパスをかければすぐにバレますから」
指先からインパスを放つと、イーイーのほうが青。
この場合は嘘をついているのはどちらかという問いかけだったので、イーイーが犯人ということになる。
「……孫のやったことは私の責任です。この子たちの両親は早世し今は私しかおらんのですよ」
ファン・ターレンは昏い顔をして言った。
確かに親がいないなら親族の監督責任というのはあると思うけど――。
「とりあえず、一番偉い人にかけあってみますね」
実はわたしのスマホには大統領の電話番号を登録しているんですよね。
偉い人の電話番号を知っていると、自分もVIPな気分になるから不思議だ。
陰謀論って翻弄される側にとっては楽しくもなんともないけど、する側にとっては結構楽しかったりするから不思議。
・
「ロバートおじさま」
ロバートのもとにイオから電話がかかってきた。
もちろん、超ウルトラVIPからの電話といってよく、ロバートは若干の緊張を覚えている。
しかし、それをおくびにも出さないのは、さすが一国のトップだけのことはあった。
彼は作戦室の椅子に座り、チャイナタウンの作戦について逐次報告を受けている。
なので、おおよそのあらましについては理解しているが、さすがにレストラン内での戦闘の様子まではわからない。
「イオちゃん。魔法使いから反撃があったと聞いたが大丈夫かい」
「あ、それは大丈夫です。鎮圧しました」
めちゃくちゃカンタンそうに答えるイオだった。
やはり大魔王に心配など無用なのだ。
「それはよかった」
「それでですね……、ロバートおじさまにちょっとだけお願いがあるんですけどぉ……」
いまだかつてないほど猫撫で声なイオ。
熟練の勘から、ロバートは嫌な予感がした。
だいたい女性が甘えた声をだしてきたときは、譲歩するつもりのない最大限のお願いごとが待っているのである。大魔王であればなおのこと……。
だが、これからユーラシア大陸全土にマホトラをかけたり、いろいろな便宜を図ってもらう都合上、イオのお願いを無碍にすることもまたできないのである。
「なんだろうね。できるだけのことはさせてもらうつもりだが」
「あのですね。イオラを撃った子なんですが、悪気はなかったみたいなんです」
「イオちゃんが言うのだから、悪気はなかったというのは本当なのだろうね。だが――」
「テロリストでもないみたいなんです。怖い大人の人が急にやってきたからとっさに反撃しちゃったみたいなんですよ。まだ10歳の、わたしと同じ年齢の女の子なんです」
「反撃ではないな。最初はちゃんとイオちゃんが宣告してたわけだろう。それに対して攻撃を加えたとなれば純然たる先制攻撃だよ」
ロバートは必死に反論した。
なにしろ、米軍に攻撃が加えられたのだ。
これをなかったことにしては軍規に関わる。
たとえ、イオの言うことでも。
「なんかマホトラするのが面倒くさくなってきちゃったなぁ……」
ぼそりとイオがつぶやいた。
ロバートが冷や汗を垂らす。なんだかんだ言っても中国を封じこめてアメリカが魔法先進国になるという戦略は、イオを要にしているのである。
ツーンな感じのイオはメスガキ具合が半端なかった。
「私はどうすればいいのかね。いや、どうしてほしいんだい?」
「ロバートおじさまにとってはものすごく簡単なことですよ」
簡単といわれるお願いほど簡単なことではない。
汗がだらだらとこめかみあたりから流れてくる。
イオはゆっくりと子どもに言い聞かせるように言葉を吐いてくる。
「イオラが
――全力で見逃してください。
それが大魔王イオのご命令だったのである。
ロバートは苦渋のうえ決断した。決して屈したのではない。大統領としての判断だ。
たかがテロでもない子どもひとりの暴発と国家をあげた戦略に疎漏がでるかもしれない可能性。
比べるべくもなかった。
イオラを喰らってしまった隊員には名誉の負傷ということで後に勲章が贈られたという。
対外的には作戦行動中の不幸な事故、ガス爆発から他の隊員をかばったということになった。
・
「どうやらなんとかなりそうですよ」
ほっとひといきイオちゃんです。
正直なところ強権を使っちゃった感じがする。
これであとから、大統領になにかしてって言われてもしなくちゃいけない感がでてくる。
この心理的な力動が政治ってやつなのかもしれないな。
でも後悔はしていない。
「ありがとうイオ」
「ありがとうイオ」
イーイーとモンモンにダブルで抱き着かれる。
若干のマッチポンプ気味な現象ではあるんだけど、悪い気分ではない。
中国では確か女の子のことをにゃんにゃんって言うんだけど、にゃんにゃんたちとにゃんにゃんしたいのは誰だって思うことだろう。
わたしだってにゃんにゃんしたいにゃん。
まだ十歳とはいえ、なんだか日本人よりも成長速度が速いのか、かわいいっていうより美人って感じだし、髪の毛のボリュームが雲のように巻きあがってるし。
なんだか大人成分が多めな感じだ。
そんなふたりにぴったりくっつかれると、肌が吸いつくようでなんとなく気持ちいい。
女の子の甘い匂いがしてくる。
ふわぁ。にゃーん。
「イオは篭絡したほうが簡単ね。モンモン」
「そのようね。イーイー」
なんだかふたりにいろいろ言われてる気がするけれど、わたしは元気です。
そんなわけで、そろそろ日本に帰る時間が近づいてまいりました。
ようやくテロの話は終わります。あんまりシリアスっぽく書いてるイメージはないですが、やっぱり政治の話は重い感じですかねー。日本に帰ったらまたゆるーくやる感じかな。おそらくですが。