ドラクエ魔法持ちのTS転生者なんだけど現実世界というのが問題です 作:魔法少女ベホマちゃん
見て! 日本魔法会議が踊っているよ。
かわいいね。
――会議は紛糾している。
日本のお偉方を集めた日本魔法会議はまさに踊っていた。
ワシントンにおける21日午後6時頃つまり日本時間で22日午前8時頃には、アメリカ側の意向で魔法を中国側に渡した犯人について炙り出すよう求められ、それから約2時間後には全員が緊急招集された。
しかし、もともと100人からなる日本魔法会議はとりあえず権力を持つもの達を集めたまとまりのないものだった。
経済界の大物や自衛隊のトップ、政治家、官僚、科学者など分野も異なれば持っているコネや権力の方向性も異なる。アメリカの場合は軍関係者に指向性を持っていたのに対して、日本はバラバラだったのである。
良いふうにとれば、幅広く意見を集める民主的な機関ではあるものの、立場がそれぞれ違うので、何も決まらないのだ。
そして、アメリカ側からは強く強く求められたにも関わらず、やはり緊急招集で全員が集まることはなく、いまも欠席者が10名近く出ている。
それで、中国側に魔法を渡した"犯人"は必ずこの欠席者のうちの誰かに違いないとして、やれ誰それが怪しいだの、これからアメリカの機嫌を損ねないためにはどうすればいいだの、議論するのに忙しい。いや、皆好き勝手に言いたいことを言っているだけで、小学生のホームルームよりひどい有様だ。
日本の現首相である大江戸三郎は深くため息をついた。
「あー、皆さま方に提案があるのだがよろしいか」
「提案?」「どのような提案ですか」「アメリカから戦争をしかけられるかもしれん瀬戸際に悠長に話し合ってる時間があるか」「左様」
会議は、なお踊っている。
「提案というのはなんのことはない。ここにいる皆でインパスをかけあい犯人ではない証明を済ませておくべきではないかということだ」
「インパスで証明ができるのですかな」「そもそも内心の良しあしを魔法なんぞに決められたくない」「質問者のほうの質問が是非弁別対象になるのだったら、質問者次第で犯人かどうかが変わるだろう」「左様」「そもそもここに来ている時点で犯人ではないことは証明されているようなものではないか」
「アメリカ側は星宮イオ嬢とその父君であるアダム・スターマン氏にこの件の監督を任せたそうだ。今回テロの被害を直接受けたのはアメリカであり、アメリカ人であるアダム氏に見ていただきたいというのが理由だ。我々は彼らの負担をできるだけ軽くし心象をよくしておくべきだと考えるがいかがかな」
「内政干渉ではないか」「そもそも魔法の発祥は我が国にあるのですぞ」「日本だけが悪者のような言い方はやめていただきたい。アメリカの可能性もあるじゃないか」「左様!」「イオちゃんここに来るんですか!?」
「あくまで心象の問題だ。インパスも無料ではない。MPにして3ほどかかる。ここにいる全員を見るだけでも星宮イオ嬢の力が必要になるだろう。そのときに犯人と思われる者を探す努力をしていたかどうかが重要になるのではないか?」
そうあくまで心象の問題。
相手に与える印象という意味で、どちらが良いかという話だ。
いまはアメリカ側はテロの怒りによって拳をふりあげている状態だ。
イオとアダムに任せたのは、まだ温情であるといえる。
それは、ユーラシア大陸にマホトラをかけて中国の動きを封じるという政治的意図を達成するため、日本人であるイオの心情をあまり逆なでしないためでもあった。
これに対して、日本側は誠意を見せなければならない。
だが――、意見の趨勢は違った。
「孫のような年頃の少女のご機嫌取りをする必要などない」「どうせアメリカ側は星宮イオにインパスさせるつもりだろう。無意味だ」「アメリカは賠償金などを求めてくるつもりではないだろうか」「左様」「陸自は反対です」
外務省や政治的機微に敏い者はともかくとして、そうでない者は単純に小学生に指図されるというだけで我慢がならないらしい。
――愚かな。
戸三郎は内心で眉をひそめる。
ひとりで話をまとめようとしてもまとまるものではない。
結局、みんなが言い争うせいで、日本魔法会議は踊るのさえやめて小学生以下の罵倒大会に至ったのである。
あ~あ。
☆
一方その頃。
なぜか双子の姉妹に懐かれてしまったイオは襲い来る睡魔と戦っていた。
もうそろそろ夜の10時になろうかというところ。
いくら魔法が使えても体力的には標準的な小学生であるイオは、夜九時を回ると猛烈に眠くなってくるのである。なにしろイオは良い子なので。
「あら。イオが眠そうだわ」
「そうね。とても眠そう」
双子の姉妹はじきに連行されていく。
いくら無罪放免になったとはいえ、そこは既定路線だ。
それまでの短い間に、イオと仲良くなるというのが最も生き残るための戦略として上の策と言えた。
彼女たち中国人はもともと日本人よりも遥かに計算高い。
商人という言葉はもともと『商』と呼ばれる国の人という意味であり、言うまでもなく商は中国に興った国のひとつである。
「ふぁ」大きなあくびをひとつ。「そろそろ兵隊さんたちがここにもやってきますから、今度は抵抗しないでくださいね」
「それは」
「もちろん」
「じゃあいいです」
イオは雑に言った。
そのままあまりにも眠そうにしていたので、姉妹たちに抱えられて椅子に座らされる。
座ったら眠気は一層襲ってきた。瞼が重く、もう少しで眠ってしまいそう。
だが、今が22日という認識のイオは時間がないと感じている。
ユアの誕生日が迫っている。それまでに中国全土を覆うように魔力吸収のマホトラをかけて、それから日本魔法会議の連中から魔法を漏らした犯人を炙り出す。
時間がない。
そう思いながらも、うつらうつらとしだすのを止められない。
小学生のボディに睡眠は必須だ。
「あらかわいいわ。ラリホーを受けたわけでもないのに」
「そうね。とても気持ちよさそう」
姉妹は微笑ましくイオを見ていた。
先ほど戦った仲ではあるものの、イオはかばってくれたのだ。
姉妹たちはイオに深く感謝していた。
「イオ、寝ちゃったの?」
「自分にザメハすればいいのにね」
そして姉妹たちは友情の証を物理的に残すよう画策する。
すなわち――頭についている観光客用の象徴――シニョンを取り外した。(実をいうと中国人にとってシニョンをつけたお団子頭はべつに普通でもなんでもなく日本人が無理やりちょんまげをつけているようなものだ)
そして、それを寝入りつつあるイオに装着しはじめた。
「よしできた」
「よしできた」
そこには左右に色違いのシニョンをつけ、お団子頭になったイオがいる。
さらさらとした銀の髪にワンポイントアクセスがつくとかわいらしい。
うさみみフードのパーカーもあわせて、より一層幼さを感じさせるファンシーな仕上がりだ。
ふたりは満足して互いに笑いあった。
当の本人は、
「すやぁ……」
完全に寝入っていた。
この娘、睡眠欲に対してクソ雑魚なめくじである。
☆
「起きなさい。イオ」
体を揺さぶられる気配がして、わたしはゆっくりと目を開けた。
目の前にはママンがいて、わたしはママンの膝をベッドにして眠っていたのだとわかった。ママンはソファのようなところに深く腰をおろしていて、そのうえにわたしがいるという構図だ。
ここは大統領官邸の一室のようだった。いつのまにか寝ちゃってたらしい。モンモンやイーイーとは友達になったんだから、安心しちゃったんだろうと思う。迂闊だと思われるだろうか。
まあイオちゃんは基本的に無敵なので、べつに敵地だろうが眠っても問題ない。ダメージを喰らったといっても闇の衣の効果でヒットポイントは常時回復しているしな。
「ねむぅです。お母さま」
感覚的にちょっとしか眠ってない感じがする。
もうちょっとだけ眠っていたい。安心感が違うのです。
ぎゅ。
「イオ……やることがあるでしょう」
ママンが困ってる。
そうか。やることあったな……。
ユーラシア大陸にマホトラをかける。
これはわたしの意思ひとつだからわりと簡単だ。マホトラは単体魔法だけど、ユーラシア大陸はひとつだからたぶんOKだ。それいったら地球もひとつだから、だいたいの単体魔法はかけられそうだけどな。怒られそうだからしないけど。
日本に帰って誰が犯人か突き止める。
こっちのほうが時間がかかるかもな。
最後にこれが一番大事なんだけどユアの誕生日を祝う。
時間が足りないんだった。
しかたないにゃぁ。
「ザメハ。ベホマ」
わたしは一気に覚醒する。ついでに体力を回復する。
シャキっとなるこの魔法、眠くなった人たちに随時かけまくったらどうなるんだろうね。
いつか死んじゃうんだろうか。ブラック企業ご用達魔法とかにならないことを願うばかりだ。
「お母さま。いま何時です?」
「いまは朝の5時よ。だいぶん早い時間だけど予定が詰まっているの」
いまは23日の5時か。
ママンは普通はわたしがダウンしていたら無理に起こすとかはしないほうだ。
でもいまは違うらしい。
そりゃそうだな。
国の大事だ。寝ている暇はないだろう。
イオちゃんが動かないせいで、第三次世界大戦が起こりましたとか目も当てられん。
「お父さまは?」
「あの人、どこに行ってるのかしらね」
パッパは自由人だからな。
いままでフラリとどこかにいなくなることはよくあった。
たぶんスパイ活動にいそしんでいたんだろうけど……。
娘をほっぽり出してどこにいってるんだろうか。わたし寂しかとです。
わたしはあたふたと部屋の中にあった化粧台で身なりを整える。
ママンは何時間もわたしを抱いていてくれたんだな。
いくら十歳児の体重でも重かったろうに。
あれ、なんだこのシニョン。
イオちゃんの髪の毛にはあの中国娘たちが装備していたミニクラゲみたいなのが頭の両端についていたのでした。うーむ。記憶にないけどあの子たちがつけてくれたのか。
しかし……それにしてもである。
シニョンを装備するのはいいにしても、なんだか髪の毛がべたついている気がする。
いつもつやつやで煌めくような髪も少しだけくすんでいるようだ。
イオちゃんは無類の綺麗好きなのでこれは困ったぞ。
「
わたしはニフラムを使って目に見えないほどの汚れを消しとばす。
これってもしかしてお風呂要らずの魔法なのか。
だとしてもお風呂には入りたいけれどな。
服の皺をととのえて身支度は完了だ。いや、ママンにも同じようにかけよう。
「お母さま。ザメハ。ベホマ。ニフラム」
覚醒し体力回復し綺麗になるママン。
同意はとりつけなくてもこの程度は包括合意済みだよな。
「ありがとうイオ。日本魔法会議のほうが終わらなくて困っているらしいわ。最後に大統領にご挨拶してからすぐに日本に飛ぶわよ。準備はいいかしら」
「かしこまりました。わたしは大丈夫ですよ」
もうユアの誕生日に突入しているんだ。
早くしないと。
「日本時間で言えば、時差が14時間あるからちょうど午後7時頃ね」
「え?」
時差って14時間もあるの?
しかも、午後7時って。
ユアの誕生日予定時間が23日の午後7時だから、もう過ぎているのか。
ヤバい……。
「イオ、どうしたの。そんなにおめめぐるぐるして」
「お母さま。わたし寝てる場合じゃなかったんですね。ユアの誕生日が……誕生日が!」
こうなったら時を戻すしかない。
あの魔法はみんなの記憶を戻すわけではないけど、メダパニを使ってみんなの記憶を混乱させればバレないだろう。それしかない。
「お母さま。ごめんなさい。サンズ・オブ――むぐ」
ママンに口を塞がれた。
ドラクエでも古典的な呪文封じの技だけど、ママンを押しのけることはできない。
実質的にわたしに対して完璧な魔法封印方法である。
「むぐぅ……」
もう言わないよと視線で訴えてみるとようやく手をどけてくれた。
「イオ。どういうことなのか説明しなさい!」
「あの、ユアの誕生日会が23日の午後7時に始まるので。もう時間切れかと思いまして……」
「いまは日本時間でいえば22日の午後7時よ!」
な、なんだってー!?
わたしはここに来て初めて勘違いに気づいたのだった。
ママン。許して。ママン。
当然、許されなかった。
わたしの出発はさらに一時間ほど遅れることになったのである。
☆
日本時間12月22日午後8時。
会議は長く続きすぎて、お通夜のような状況であった。
しかし、終わるわけにもいかなかった。
テロについては全世界に生中継されているためか、いまここに日本魔法会議が集まっている理由については、日本国民中が知っていることになる。
日本側の調査と報告が終わらなければ、アメリカ側にぶったたかれるのはわかりきっている。
人気取り商売の政治家連中でなくても、最悪戦争に発展しかねないので帰れないのだ。
結果、お年を召した方々は居眠りをして、他にはタブレットをいじってワニ動画を見たり、ソシャゲしていたり、オンライン競馬をしていたりと、ともかく会議は踊ることすらやめていた。
戸三郎が何度目かになる深いため息をつく。
朝10時に始まった会議はもう10時間以上続いていることになる。
そのなかで進展したことといえば、10名ほど来なかった者を強く呼びつけ、そのうち7名ほどは実際に来たことだった。
インパスを互いに掛け合ったりもしたが、ここにいる者はみんな青色に発色した。
いちおう犯人ではないということらしい。
残り3名は病欠を理由に断っているが、実際に見にいったわけではないから詳細は不明だ。
なお、イオのいとこである好美については中国につてがないので、この場には呼ばれていない。交友関係についてすでに共有情報として把握されているし、そもそもイオのいとこという立場からして、不可侵めいたところが若干あったりするのだ。
もはや言葉は尽きた。
「幼子頼みとは情けない……」
戸三郎首相は呻くように言った。
それは自嘲の意味も込めていた。
ぼんやりとだだ広い会議室の真ん中を見つめる。
と、そのとき。
唐突に光のエフェクトが舞うのを確認した。
ようやくイベントが始まるようだ。
ルーラによって会議室に出現したのは、星宮イオと星宮マリアのふたりだった。
星宮マリアは今も世界に通用する女優のひとりだ。美しい相貌に少しキツめの釣りあがった目。細い体躯。密かに眼福と思っていた者は多い。
しかし、イオはそれすら越えたこの世のものとは思われぬ美貌を有している。
どちらかと言えば、いつもはぽやんとしている表情もザメハでシャキっとしている今は母親ゆずりの冷たい表情だ。実のところ母親からみっちりお説教をうけたことで、ちょっとだけ機嫌が悪いというだけのことだったが、そんなことは知るよしもない。
ただ黙っていれば、イオは色合い的にクールに見える超美少女である。
いままでイオを否定的に見ていた者も、いまこの場においては苦しい状況から救い出してくれる救世主だ。長時間の会議でゾンビ状態になった者たちから熱い視線が注がれる。
「星宮イオです。到着しました」
「わたしの孫と結婚してほしいな」「後方じじい気取りはやめろ」「しかし麗しい」「ん。あのシニョンはなんだ」「中国娘風味……我々は責められているのでは?」「許してイオちゃん」
「あ、これですか。わたしのお友達からいただいたものですよ。縁あって仲良くなったんです。こんなことがなかったら友達になることもなかったでしょうし、よかったですよ」
にこやかに笑顔をおくるイオ。
それがよろしくなかった。
周りの人間には怪しく光る金色の瞳が激しい怒りを内包しているように見えなくもなかったり。
イオからすれば友達が増えて単純にうれしかっただけなのだが。
――おまえらが中国と手を結ぶから、わたしが動くことになったんやぞ。
そういわれているようで、自分自身が罪を犯したわけではないが、その場にいる面々は顔色が悪くなった。
「そ、その、マリアさん。イオさんもお疲れ様だったね。誰か椅子を……椅子を用意しないか」
いつもはマリアに対して当たりが強いのに、いまは媚びまくっていた。
100人の中でも若手が椅子を準備して、イオ達は座った。
「戸三郎おじいちゃん。こちらにいらっしゃるみなさまはお疲れのご様子ですけど、いつから会議を初めていらっしゃるんですか」
「10時間程度だよ」
「ええ、すごく長いですね……それはお疲れ様でした。皆さまにベホマズンしても?」
皆は戦慄した。
体力が回復したら、ブラック企業のように無限に働かせるつもりなのだ。
「イオ、そんなことより早く終わらせてあげなさい」
「そうですね。えっと、わたしのお父さまは何か用事があって遅れるそうです。なので、わたしのほうでは、皆さまのインパスで検分することと――、魔法を漏らした者に対する対処はどうするかを聞いてくるよう求められています」
「インパスは既に互いにかけてみたのだが、この中にはおらんようだった」
戸三郎がイオを見やりながら説明する。
イオはこくりと頷いた。
「そうですね。アメリカ側はわたしに調べてほしいみたいでしたよ」
「イオちゃんの手をわずらわせる必要は……」「左様」「もうインパスしているからいいじゃないか」「ああ……大丈夫だ」「左様」「陸自は反対する!」「時間がもったいない」
皆は口々にわめきたてる。
インパスは是非弁別をおこなう呪文なので、もしイオがうっかり犯罪行為全般を問うた場合、若干の悪事に手を染めたこともなきにしもあらずなのであった。
それで赤認定後に汚物は消毒とばかりにニフラムで消し飛ばされるのが怖かったのである。
「あ、お時間はとらせませんよ。インパスは確かに単独魔法ですが……ほらこのとおり」
魔法力をひとつひとつの指先にこめて、インパスの魔法が十個灯る。
しかも、それだけに終わらない。
そのままインパスの魔法を空中に固定させて、同じように排出。
たった十回唱えるだけで100個分のインパスができてしまった。
「な……単発魔法とかもほぼ関係ないのか」「アメリカ側からの情報だと物にこめたりするのも可能らしいな」「ああ……ロト紋でマジックアローとかあったしな。可能なのだろう」「だったら、永続モシャスを杖などにこめれば変化の杖ができるのか」「美少女に変身してみたいのう」
会議は再び踊り始める。
イオは出した魔法をどうしてよいかわからず困惑の表情を浮かべた。
「お母さま。どうしたらいいですか」
「やってしまいなさい」
星宮マリアもいつもの冷たい会議の意趣返しがしたかったようだ。
「わかりました」
インパスの魔法は会議室の全員に寸分の狂いなくぶちあたり全員が青という結果になった。
この点は余計なことを考えずに、今回の魔法漏れに関わったかどうかという是非弁別を選択したイオのファインプレイである。無罪というお墨付きをもらって会議室の中に弛緩した空気が流れる。
「そろそろ所用が……」「会議は終わりにしますか」「うむ。それがよかろう」「左様」「ここにいる人間は無罪ということは、残りの三人のうちの誰かということだろうしな」
何人かは帰りたいオーラを発していた。
「まってください。魔法を漏らした人はどうするつもりなんです?」
「マホトーンでもかければどうだ」「アメリカに引き渡すとか?」「しかし法律上は魔法を漏らしたらいかんという法はないぞ」「テロリストに直接渡したわけでもあるまいしな」「左様」
「10時間も話していて、それすら決めてなかったんですか?」
イオは呆れた。
「うむ……なかなか方向性がまとまらずにな。利害の調整が難しかったのだ」
「そうなんですね」
会議室のあちこちから反論の声が上がる。
「犯人が確定してから決めたらよかろう」「左様」「アメリカ側が犯人かもしれんしな」「左様」「イオちゃんに変化の杖を創ってもらいたいのう」「ぴちぴちギャルにでも変身するつもりか」
「アメリカ側はもう調査を済ませましたよ。全員漏らしていないとのことでした」
アメリカは仕事が早かった。
日本側はともかく意思決定がいろいろと遅いのだ。
遅いことを美学としている節もある。慎重という言葉に言い換えて。
「アメリカのやり方とは異なるんだ」「わが国の手法はより民主的なんだよイオちゃん」「左様」「犯人がみつかってからでも遅くないよ」「そもそも誰が犯人を捕まえにいくんだ」「そこから決めないとな」
「お母さま。皆さん、そうおっしゃってますけど……」
イオとしてはどちらかといえばスッキリした状態で誕生日を迎えたいが、べつに日本の決定に異議を挟むつもりもない。
ボールを振られたマリアは眉を寄せた。
愛娘からのスルーパスながら、この決定は非常に重い。
日本の決定が遅れれば遅れるほど、アメリカの心象はよくないものになるだろう。
「いいかげんにしてほしい」「われわれは犯人ではないのだからいいではないか」「そうだそうだ」「左様」「時間は有限なのだよ」「そこにいるイオ嬢以外にとってはな」「変化の杖……」
だが――。
マリアの苦悩は一分ほどで終わりを告げた。
「犯人がわかればいいんだな?」
アダム・スターマンの登場である。
彼は会議室のドアを蹴とばすようにして現れた。
ロープで縛られ、さるぐつわをかまされた男が会議室の中央に転がされる。
「お父さま!」
「イオちゃん。パパが犯人を捕まえてきたよ」
「さすがお父様です!」
イオは目の中にハートマークを浮かべていた。
次くらいで一応の決着かな。長かった。
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